タイトル
HOME過去号67号

市民環境研究所から:政権交代で地方の崩壊は防げるか

今月の最大イベントは民主党による政権交代実現だから、それに言及しなければと思うが、まだまだ実態が分からないので先送りにさせていただく。しかし、この政権の命運を左右するのは、地方社会の崩壊をくい止める政策が実行できるかどうかにあるだろう。弱小私立大学に勤務していると、過疎化におののく地方そのもののようであり、政治が適切な対応策を採らなければ、弱い組織はどの分野でも死滅していくだろう。

鳥取にある小さな大学の学長職の友人を訪ねて、「スーパーはくと」に乗って出かけてきた。姫路を通過し、中国山脈を横断する列車からの風景は、まさに日本の農山村の原風景である。田舎育ちの身には心和む景色を飽かずに眺めていると、列車は鳥取駅に到着した。改札を出ると街は駅前商店街へ続く。決して現代的とは言えない佇まいであるが、県庁所在地の市の中心街だから、さぞかし賑わっているだろうと足を向けて驚いた。4割近くの商店がシャッターを下ろしている。

鳥取市の住民は何処で買い物をするのかと友人に質問すると、郊外の量販店だという。そこまで買い物に出かけるので、どの家にも2〜3台の車があるそうな。大きい資本だけが勢力を伸ばし、地場産業や地場店舗は廃業へと追い込まれている。量販店をすべて否定するわけではないが、地場の商いも残しながらの商業政策はないのだろうか。八百屋や雑貨屋が町中から消えてゆく。それぞれの街にはそれぞれの必要性があって、それぞれ特有の佇まいをした商店があったのだが、近所の店はなくなり、車を運転できない老人家庭では、買い物は過酷な労働になってきている。

地域を大切になどと、地域という単語は頻繁に使われるが、地域社会が崩壊している現実に対して、鳩山内閣がどのような政策を展開するか見物である。大学とて同じである。全国に約800近くの大学があり、その4分の1はいつ倒産してもおかしくない状況にある。関西では、関関同立産近甲龍以外はどこが潰れてもおかしくないと言われている。いわゆる、名門校とかブランド校と呼ばれる大学以外は厳しい状況にある。高校生もその親もブランド志向がますます顕著になってきているのも影響しているが、もうひとつ見逃してはならないのは、東京や関西などの大手の大学が、全学の学生数の増加を意図して、定員の2割以上の人数を入学させていることである。

大手大学の2割は、地方の小さな大学の定員に相当する。大都市で大学数が多いのは頷けるが、全進学者を大都市に持っては行けないのだから、地方の事情を反映した大学を存続させることで地域社会への貢献が可能となる。ところが、大手大学が定員をはるかに越える学生を囲い込んでいけば、地方の大学は倒壊してしまう。また、定員以上の入学生を受け入れた大手大学がまっとうな教育をしているとは思えない。いくつかの大学で非常勤講師を務め、このことを痛感した。それぞれが適切な教育ができる規模を学生定員と決めているなら、定員は守られるべきである。

大手量販店や大手大学の存在を良しとしないわけではないが、社会全体として、小売店や地方大学などが地域社会にとって必要だろう。そのためには、新政権は、適切な規制を作成し、地方、地域の存続を考えねばと思う。(石田紀郎)


200×40バナー
©2002 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.