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リレーエッセイ:ホップ、ステップ、選挙

身が持たないといえば、友人の奥さんが睡眠不足で悩んでるらしい。友人はもうじき定年退職を迎えようとしている公務員で、奥さんは、誰恥じることのない由緒正しき専業主婦である。子育てもとっくに終わった中年夫婦の二人暮らし。家事といってもさほど大した量もない。昼寝も夜寝も朝寝も全日寝もし放題。なのに何故か睡眠不足らしいのである。

先日その友人宅での食事会に招かれた折り、その話題になり、久し振りに爆笑してしまった。我が愛しき専業主婦の話によると、なかなか眠られず睡眠不足が続いたのは、「人生始めてこれで二回目なんやわ」なのだそうだ。「一回目は初めて宝くじを買ってから当選発表日まで全然寝られへんかった」のだそうだ。「毎晩一等賞当たったら何に使うて、誰に配分して、やっぱり貯金もしとかなあかんし…。お父さんにあげたらパチンコで使ってしまうやろし、正春が私立入ったら教育費高なるし、住宅ローン返した方が得やろか? そんなこんなん考えてたら寝られへんようになってしもたんやわ」なのだそうだ。

これが第一回目。第二回目といえば「今月初めにのりピーが失踪した時、あぁこの子もやってるなとピンときたんやわ。ほんなら逮捕状やろ。私の勘て凄いなと思って、いろいろ推理しだしたんやわ。逃走経路とか入手先とか…」なのだそうだ。この分だと日本に麻薬Gメンは必要ないかもしれない。「でもあの子は今回は許したらあかん。ちゃんと罰を受けな本人のためにもあかんし、第一子供が可哀想やわ。無理してでも実刑無理やろか?」意味不明だが、裁判員制度も必要なさそうだ。「のりピーでか〜るく寝付かれへんかったんやんか。でもな問題はこのあとやねん。わかる?」わからん、全然わからんけど相手の話術の巧みさか、なんだか段々好奇心が出だした自分が恥ずかしい。

「のりピー事件が大体終わってきたやんか」。ホンマかいな?「で、そのあと世界陸上あって、ボルトやんかぁ。夜中やろ。やっぱりボルトやな。あっこれ美味しいでぇ。ヨーカドーの惣菜売り場、安いし。お父さん立ったついでにワイン持ってきてぇ、よつ葉の。ゲイもパウエルもあかんと思っててん」。ずーっとスポーツ興味ないて言ってましたやん。しかしながら、ボルトのおかげですべての種目をLIVEでみたのだそうだ。というわけで世界陸上の放送期間中、彼女は夏のベルリンに滞在していた。「ほんで選挙やんかぁ。なぁ民主党なんぼほどいくと思う?」無事に日本に帰国されましたか。「私なぁ。今回は民主党勝たせたいねん。300いくやろか? どない思う? 幸福実現党て、あれはあれやで」

意思疎通のためには脈絡だの論理だのの近代兵器は全く不必要である。愛と忍耐があればコミュニケーションは成立する。はじめは会話に関わっていた旦那さんも犬と遊びだした。それから幾時かの真空が過ぎた。要するに、彼女の人生二回目の睡眠不足は、のりピー、ボルト、由紀夫の三段飛びのせいだとのたまうのであった。げに恐ろしきはマスコミュニケーション。(北野要:某産直センター)


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