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市民環境研究所から:イビツな野菜を低く見るイビツな社会

今夏の天候は、生活実感として異常である。とくに、7月中旬から下旬にかけての曇天続きは、家庭菜園の栽培者としても被害甚大であった。まして、専業農家の被害はいかばかりかと心配である。例年の2〜3割も少ない日照時間は、当然にも農作物の生育を害する。1993年の東北地方での米の凶作とその後のタイ米の緊急輸入を思い出す。まだ、今年の米の作況指数は発表されていないが、たぶん低い価だろう。ただ、米よりも前に、今年は野菜の市場価格が高騰している。

8月20日付けの『朝日新聞』夕刊によれば、キュウリは平年価格38円から58円に、同じくニンジンが158円から198円に、レタスが198円から248円に、といった具合である。そのほか、ジャガイモ、タマネギ、ダイコンなどなど、ほとんどの野菜が高騰している。この機に、各スーパーでは、客を引きつけるために野菜の値引きを目玉にした集客戦略を展開しているという。

一方、この高騰を受けて、農水省は「曲がったキュウリ」「ヒビが入ったキャベツ」「小ぶりの大根」など、形や大きさが規格を満たさず、通常出荷されない「規格外」の野菜を市場に出すよう、生産者への要請を検討。この指導に応じて出荷された「規格外農産物」の販売コーナーが超人気だという。この特別指導がないときにはこんな野菜達は何処で処分されていたのだろうか。そう、田畑に捨てられていたのである。

日本の農産物がきびしい出荷規格で選別され、市場に出されていることは、よく知られている。たとえば群馬県の場合、キュウリの出荷規格では長さが22〜26pで重さが120〜150gのものをA規格としているが、大それだけでなく、曲がり具合が1.5p以内でないとA規格に入れてもらえない。曲がりが1.5p以上で3.0p以内の品物は「無印」という等級の低い規格になる。かくして、キュウリの値段が決められていく。もちろん、A規格の方が高値がつく。

20年以上も前の話になるが、高知県の仁淀川近くのハウス栽培農家で農薬中毒の調査をしていた頃のことを思い出した。この地域は、日本のハウス栽培農業のさきがけである。当時は、主にキュウリ、メロン、スイカ、米茄子などを栽培していた。1ハウスに数千本の苗が植えられ、栽培農家はメロン御殿、キュウリ御殿と呼ばれる立派な家を建てるほど羽振りが良かった。もちろん、多くの農薬被害が発生していたが、それはともかく、キュウリ農家の中には、キュウリ栽培から撤退したいと愚痴をこぼす例もあった。なぜかと言えば、規格がきびしすぎるからだという。昼寝している間にキュウリが育ちすぎ、規格外で安値にされてしまう。だから、昼寝もできず、まして外出などもっての外、とのことである。

規格外の品物を集めた販売店には大勢のお客が集まり、安値で売られるが故に大人気である。天候不順による農産物の生産量低下と品不足への対応は当然議論されるべきだが、マスメディアも農水省も、品不足と規格の関係を話題にしようとしない。規格を厳格にすることで、誰が得をして誰が損をしているかこそ議論されるべきなのに。この不作を契機に、曲がったキュウリを大いに食べて、いびつな規格について大いに議論しよう。(石田紀郎)


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