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中国オルタナティブ農業ネットワーク訪問・補足編

中国の有機農業が抱える問題について

昨年11月、中国・北京市と山東省の計4ヶ所を訪問し、中国におけるオルタナティブ農業ネットワークの一端を見学する機会を得た。今回は紙数の都合もあり、補足編として、下記の翻訳資料を紹介する。

【解説】以下に紹介するのは、王一鳴「農夫市集共同設立者:中国で有機農業をするのは、なぜこんなに難しいのか?」である。王一鳴は農業ジャーナリストで、ネットメディア『我的农场』(https://zhuanlan.zhihu.com/myfarm)編集長とのことだ。もともと、中国のオルタナティブ農業ネットワークについて考える中で、現状の課題や問題点を指摘する文章を探していたが、当方の能力不足もあって、なかなか面白そうなものが見つからず、唯一ひっかかったのがこの文章だった。

前回に触れたように、中国における下からのオルタナティブ農業の模索の多くは「新農民」や都市住民によるところが大きく、安定した販売ルートの形成が難しい。その一方で、巷のスーパーやショッピングモールでは、必ずしも素性が確かでない商業的な有機農産品が販売され、ときに品質や安全にかかわる問題を引き起こしている。

日本の場合、有機農業の形成過程で大きな役割を発揮したのは消費者運動だった。しかし、中国では、消費者の運動に関する動静を聞く機会は少ない。小毛驢市民農園では、販売はほとんど自らの組織した会員が対象で、宣伝を兼ねて北京有機農夫市集の定期市に出展、ごく一部は日本の楽天市場に相当する「淘宝網」などネット市場経由という形態である。ほかの有機農場もだいたい同じような形態だという。

北京有機農夫市集には部分的にそうした機能はあるものの、基本的には小売り中心である。消費者組織があれば、生産者としては予め一定の販売量が確保でき、社区支持農業や有機農業の市場形成にも役立つ。それなのに、なぜ消費者組織がないのか。少なくとも大々的に現れていないのか。訪問の際、何人かの人にこの点を尋ねたが、はっきりした答えを聞くことはなかった。その中で「なるほど」と思ったのが、「中国では何であれ民間で“組織”をつくるのは難しいのです」という指摘だ。

中国と日本、近いようで遠くもある、遠く感じる部分の一つである。      

(山口協:研究所代表)

農夫市集共同設立者:中国で有機農業をするのは、なぜこんなに難しいのか?

王一鳴

今年の早い時期、『三聯生活周刊』の発行した「有機農業のペテン」(訳註1)という一文がソーシャルメディアで広い関心を呼び、グリーンピースや国内の著名な有機農業者たちを含め、有機農業事業に関心と熱愛を持つ多くの人々の弁解と論争を引き起こした。けれども、人々が最も関心を持つ問題は、「有機農産物は安全な農産物なのか?」だった。

2015年末、天津市消費者協会が発表した2015年の野菜比較試験報告書が示すところでは、有機認証と緑色食品(訳註2)認証を持つ野菜のサンプルは、種目別の残留農薬検出率が意外にも一般野菜のサンプルよりも高く、13種類の有機認証野菜のサンプルの中で9種類にクロロタロニル(訳註3)の種目別残留農薬を検出し、7割近くを占めた。このほか『新京報』の調査報道によれば、北京郊外の有機認証を持つ野菜生産基地でも化学農薬を使う現象があり、有機認証のコンサルティング機構は極端な場合、化学農薬を使用した情況下で検出を免れる「農薬残留回避指導サービス」を提供することもあるという。「有機農業のペテン」の中でも、米国の有機農場が化学合成農薬を不正使用している割合は25%にも達すると指摘している。

では、中国の有機農業にはどうしてこうした混乱状況が現れるのか、有機農業は中国でどのような厳しい問題に遭遇したか? 我々は元北京有機農夫市集の共同創設者で北京六里地健康食品の創設者・金家澍を独占取材した。

有機農業はビジネスとして可能か?

金家澍は2010年に北京有機農夫市集のグループに参加し、市集の専任ボランティアとなった、中国の有機農産物の定期市販売モデルにおける最初の探索者・実践者であり、有機農夫市集に同伴して最初期の消費者を教育し、知名度を高める苦難に満ちた道程を歩いた後、2013年に金家澍は農夫市集を離れることを選択し、有機農業のビジネスとしての可能性を探求しようとした。

「有機農夫市集は生産者指向であり、主に生産者による製品の販売を支援するものだが、現在の私のモデルは消費者指向であり、消費者がさらに豊富な種類の、選択可能な余地のさらに大きい安全な農産物を獲得するのを支援するもので、これによって地元の製品しかなく、品目選択が単一という農夫市集の制限を打破します。」

しかし、公益的な性質を持つ農夫市集からビジネスの世界に入って、金家澍はとても大きな圧力を感じている。

「中国の有機農業がビジネスとして非常に難しいのは、主に市場の発育がほとんど成熟しておらず、生産者の社会的な信用力が不足し、製品の価格も高すぎて消費者が受け入れられないからです。」

有機農産物の価格は通常の農産物の2~3倍だ。どうしてこんなに価格が高いのか?

金家澍はこう指摘する。「いくつかの原因があります。まず、有機農業の経営に携わる者に農業生産の専門知識、技術水準が不足しており、生産量が通常の農業に比べて低いことです。次に、有機農場主の多くが非農民で、農村で土地を借りるのに膨大なコストを支払わなければなりません。米を例にとれば、米一斤ごとに必要な借地コストは3元です。しかし最も重要なのは、販売ルートが少なく、収穫した生産物が売れず、現実にはコストを押し上げるので、値段を上げるしかないのです。」

有機農産品=安全農産品?

有機生産者の社会的な信用力はどうして高まりにくいのか? どうして“有機農産物”にも安全性の問題が存在するのか?

「仮に最も厳格な有機評価基準に基づくなら、大都市周辺の空気、土壌、水の環境は有機農業の生産条件に達しているとは言えません。また、農場が雇った労働者が規則違反の作業をする現象があります。その他、有機農業資材の業界の混乱状況もとても深刻です」。金家澍はこう漏らす。「私と取り引きのある有機農産物供給業者は有機認証の証明書を持っていますが、私たちが彼の製品に対して検査した時に残留農薬を発見しました。これはなぜなのか? 調査を経て、ようやく彼が購入していた「有機農薬」の中に化学農薬が混入していたことを発見しましたが、このような「有機農薬」は薬効が高いためよく売れるのです。昨年の上半期、上海の検査機関でも有機農薬の鉱物油の中に化学農薬を検出しました。有機農業資材の業界はとても乱れており、肥料だろうが種子だろうが、さらには農薬だろうが、すべて有機ではない可能性もあります」。

有機とは何か? 有機は安全なのか? 

国際的に、有機農業は環境に優しく、入念に耕作された農業生産方式であり、それ故、有機農業の認証については、農業生産の過程に対する認証であり、完成品に対する検査基準ではない。国際有機農業運動連盟(IFOAM)はかつて次のように指摘した。「有機農業の健康属性は単に消費者の健康に限定され得ず、さらに土壌、植物、動物と生態系の健康に対する有機農業の積極的な役割、ならびに直接農業生産活動に従事する農民の健康という重要な意味を理解するべきである」。

こうした考えに従って、我が国の『有機製品国家基準』(訳註4)の中では、有機認証の各項目の基準に関して、いずれも生産、加工、販売における各項目の投入品を対象に基準を承認するものであり、最終的な完成品に対する検査基準ではない。金家澍が自らの製品に対する検査で参考にしているのは緑色食品に対する国家の検査基準、および安全な食品に対する欧州連合(EU)の検査基準である。

「中国が毎年有機安全農産物の名目を掲げて売り捌く農産物はとても多いですが、しかし大多数は本当の有機ではありません。ただ全体で言えば、有機農法を使って生産された農産物の安全性はまだ通常の農産物より高いです」。金家澍はこれに対して次のような感慨を示す。「中国では、有機農産物は安全な農産物の代名詞になりました。これは私たちの農業産業の悲哀です」。

CSAとPGSが中国で出会う苦境

これに対して、一部の有機農業関係者はCSA(社区支持農業)とPGS(参加型保障システム)などのモデルを通じて生産者に対する消費者の信用不足、および販売ルートの不足という問題の解決を試みている。この2種類のモデルも現在の国際有機農業の領域で比較的主流の生産経営モデルである。

しかし、金家澍はこの2種類のモデルは中国では、同じように普及させるのは難しいと考える。

「CSAとPGSの核心は、一つは消費者の生産への参加であり、一つは生産と販売の双方によるリスクの共同負担です」。金家澍はこう直言する。「まず、消費者は往々にして口先だけの積極参加でしかなく、私たちが会員の農場見学を組織すると、毎週応募するのはすべてほぼ同じ人だと発見しました。生産に対する参加に積極的な消費者が少なすぎました。」

「リスクの共同負担はさらに困難です。これが意味しているのは、私が今年あなたに1万元を渡したとして、結果として各種の原因のために何も生産できなかったなら、この1万元はなくなるということです。どれほどの消費者が受け入れられるでしょうか?」

「『収穫を分かち合う』かのように心配なく販売し、さらに利益を上げている農場が何軒あるでしょうか? 業界内でもとてもまじめで有名な「天福園」「徳潤屋」(訳註5)は、始めてから十数年しても未だに損失を出しているではないですか」。結局、売上げ不振の問題に帰ってくる。「農民に生産方式を転換してもらい、これまで以上に安全な農産物を提供するのは、技術の上ではそれほど難しくないとしても、難しいのはこれらの安全な農産物に対して、あるべき価値をどのように実現するかということなのです」。

「これこそ私が有機農業のビジネスを試みた初発の動機です」と金家澍は言う。「先に少数の人を助けて販売上、商業上の価値を得ることができれば、その後にほかの農民に生産の仕方を転換してもらうことができます。最近、私たちはこうした一群の人々の改造に努めています。とても難しいですが」。

「いかにして販売を実現するかが有機農業の最大の弱点であり、消費者こそが最大のカギです。だから、私は実際の店鋪を維持し続け、お客さんに頻度の高い体験の機会を与え、彼らと向かい合い触れあってやりとりし、ゆっくりと影響を与えます。私たちは拡大を進めますが、どの地域も最終的に30~40軒の取り引き先にとどまってしまい、懸念を抱いている1人の消費者に受け入れてもらえるまで2~3ヶ月の時間が必要です」。しかし、金家澍はまだ続けている。「こうした有機業者たちを支えているのは、多くは個人の追求と信念です。私は彼らの抱える最も肝心で最も難しい問題の解決を助けられるよう望んでいますが、なんと言っても市場はとても大きいです。ゆっくり落ち着いて拡げ、増やしますよ」。          

(訳:山口協)

【原文】王一鸣「农夫市集联合创始人:在中国做有机农业,为啥这么难」 https://zhuanlan.zhihu.com/p/20811767

訳註

(1)袁越「有机农业�­局」『三联生活周刊』2016年第3期

http://www.lifeweek.com.cn/2016/0118/47139.shtml

巷に溢れている「有機」と銘打った農産品の多くには技術水準の低いものや偽装が少なくないこと、有機と非有機の間に栄養価や食味などの面で有意な違いはないことなどを指摘する内容。

(2)中国の農産物は大きく、①一般食品、②無公害食品、③緑色食品、④有機食品、と四分類される。④に近いほど安全基準が厳しくなり、②~④には認証制度がある。緑色食品(農産物)は、A級と AA 級に分けられ、前者は栽培過程で特定の化学肥料や農薬を規定量使ったもの、後者は栽培過程で化学肥料や農薬を一切使用しないもの、という違いがある。日本でいう「省農薬、減農薬」に相当する。認証機関は中国農業部傘下の中国緑色食品発展センター。

(3)日本の農薬商品名では「ダコニール」。

(4)『中华人民共和国国家标准 GB/T 19630.1~19630.4-2005 有机产品』。日本語訳は農水省HPに一部掲載されている。

http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/chuugoku_yuuki1.pdf

http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/chuugoku_yuuki2.pdf

(5)北京市北部郊外にある「徳潤屋生態農場」。

http://www.bjchano.com/


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