総会の様子
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地域アソシエーション研究所 第15回総会

ともにオルタナティブの模索を!

代表主任のごあいさつと研究所の役割について

去る11月18日(金)、茨木市のよつ葉ビルで当研究所の第15回総会を開催しました。当日は各所から40名近くのご参加をいただきました。今回の総会で新たに研究所の代表となりましたので、改めてごあいさつ申し上げます。

●再び研究所へ

2002年の研究所設立から、今年で15年が経過しました。私は2005年から参加しています。それ以前は、当研究所とも縁が深い田畑稔さんが編集長を務めておられる季報『唯物論研究』の編集に携わり、各種の社会運動にも出入りするという生活を続けていました。そうした関係から、いわば「類は友を呼ぶ」ような具合で参加したわけです。

研究所では8年ほど専従として実務を担当し、対象領域の選定や機関誌の構成、研究会の運営など、基本的な活動内容を確立すべく模索をしてきました。この点については、一定の範型を作ることができたと思います。その一方で、一種のマンネリ感を抱くようになったのも事実です。

そんな中、2013年には関西よつ葉連絡会の生鮮農産物を扱う「㈱よつば農産」に転職します。農産では京都・大阪の地元農家グループから出荷される「地場野菜」を担当し、検品や各種出荷の段取り、部分的ながら農家側との作付け調整作業にも携わりました。未経験の仕事で思うに任せず、農産物の動向に翻弄される毎日でしたが、現場の実情を知ったことで、これまでの自らに欠けていた点を自覚できたことは大きな収穫だったと思います(とはいえ、とても修正できたとは言えませんが)。

また農産での仕事は、消費の段階だけでなく、生産や加工、流通を含む関係全体の中で物事を捉え、社会を考えるという、関西よつ葉グループの思想的な背景を再確認することでもありました。これまで観念的に理解していた事柄を、生産と消費の中間点で否応なく捉え返さざるを得なくなったことで、よつ葉グループが目指す方向性の意義とともに、その困難さについて気づかされました。

総会の様子

●大きく変わる世界の構図

さて、久しぶりに研究所に腰を据え、世界を見回してみると、この間のさまざまな変化を改めて感じます。

例えば、アメリカによる覇権の衰退。研究所設立の前年に生じたイラク戦争に見られるように、かつては「世界の警察官」どころか、アメリカの秩序を世界に浸透させるという傲慢さを剥き出しにしていましたが、それは最後の徒花だったのかも知れません。振り返れば、それは金=ドル交換停止、ベトナム戦争での敗北など1970年代中盤に端を発する長期的な流れと考えられます。

もちろん覇権の衰退は、アメリカの反省とは何ら関係ありません。むしろ、これまで以上に世界全体を顧みず、さらに独善的に振る舞う可能性が高いと言えますが、「東西冷戦」から「パックス・アメリカーナ」「一超多極」と推移してきた世界の構図が変化することは確かでしょう。

アメリカによる覇権の衰退は、一方では中国やロシアを役者として地域的な覇権を目指す動きを活性化させるでしょう。また、これまで一つの極をなすと見られていたヨーロッパ連合(EU)も含め、地域的な覇権の外縁では、逆にさまざまな不協和音が拡大する可能性があります。

これまでアメリカと結びつくことで東アジアにおける一定の立場を確保してきた日本にとって、こうした変化は自らの方向性を問い直すものとならざるを得ないでしょう。現状では、安倍政権に見られるように、経済的にはグローバル資本の支配に身を委ねて新自由主義を推進しつつ、政治的には国家主義を軸にして国内を再編成しようとする流れが勢いを得ています。こうした流れに対抗する軸をどう形成するのか、当面の大きな課題です。

●求められるオルタナティブ

それにしても、ここ数年、新自由主義のグローバル化がもたらす格差・分断がますます深まり、それに伴って特権階層に対する批判や政治に対する不信が拡大しつづけています。こうした状況は、一面では「1%対99%」という形で指摘されます。つまり、資本主義の本質的な矛盾を背景にしているわけです。しかし、基底にある構造としてはともかく、そうした矛盾は必ずしもその通りに現れず、移民排斥やナショナリズムといった社会風潮の拡大、さらにはそれを掲げた政治勢力の拡大として現れがちです。

かつて、こうした国境を持たない資本の横暴に対しては、労働者の国境を越えた連帯によって対峙し、政策的に資本を規制し、死滅に追い込むというオルタナティブ(別の選択肢)が存在していました。現在も決してなくなった訳ではありませんが、実際の求心力としては(とくに日本では)極めて劣勢な位置に置かれています。ナショナリズムがそうであるように、歴史的な反省なしに過去を再演しようとしても不可能でしょう。

とはいえ、それに代わるオルタナティブがあるかと言えば、困難なのが実際です。もちろん、その模索は世界各地で行われています。私たちもその一つでしょう。そうした模索のいずれもが具体性に富み、固有の意義を持っていますが、決して孤立したものではなく、間違いなく質的な共通性を含んでいるはずです。ただ、それらが普遍的な形象を持っているかと言えば、残念ながらそうは言えないのが実際です(普遍的でなければならないというわけではありませんが)。

いずれにせよ、好むと好まざるとに関わらず、私たちはこうした状況下にあります。当研究所もまた、その中で多種多様に展開されている具体的な実践に学びながら、オルタナティブを模索するための土俵づくりや材料の提供に向け、さらに力を尽くしていきたいと考えています。

●来期の活動方針

さて、総会では来期の活動方針として、次の8点を提起しました。

①研究機能の強化・充実に向けた取り組み、②研究会活動の活性化、充実にむけた取り組み、③「地域と国家を考える」講演学習会を企画する、④訪問・参加に積極的に取り組む、⑤引き続きフールドワークに取り組む、⑥関西よつ葉連絡会の諸活動に積極的にかかわる、⑦機関誌類の定期発行をすすめる、⑧長期的な財政問題について検討を開始する

以下、かいつまんで要点を記します。

①は、専従メンバーが2人になることを受け、研究所の軸となる「協同」「連帯」「アソシエーション」といったテーマについて理論や実践をめぐって継続的に検討し、機関誌に公表していくことを想定しています。この積み重ねの上で、1~2年後に研究会を組織したいと思います。

②では、新たにこれまでとはやや違った分野で研究会の組織化に取り組みたいと考えています。哲学史や概論ではなく、「幸福」「思想」「自由」など事柄に即して議論する「哲学講座」、添削を中心に論理的な文章の書き方を紹介する「文章講座」、文学作品を中心にしたざっくばらんに語り合う場としての「読書会」を予定し、これまで以上にさまざまな人々との接点を広げていくつもりです。

また、前期に提案しながら具体化できなかった、「よつ葉の地場野菜」の取り組みを分析、研究する研究会の組織化については、ようやく共同して研究会を組織していける協力者が見えてきたので、早急に具体化したいと考えます。

さらに、既存の「農研究会」「食と未来・食べもの研究会」の継続はもちろん、10年ほど続いてこのほど解散した「グローバリゼーション研究会」を踏まえ、別の切り口から世界のありようを考える研究会を新たに企画したいと思います。

③では、これまで2014年「ウクライナの現実」、2015年「中東の民主革命以降」、2016年「EUの崩壊」という形で継続してきました。2017年は「『帝国』概念の再考-中国の国家と地域」と題して、現代中国を理解する上でも重要と考えられる中華帝国の歴史と地域支配をテーマに行う予定です。

以上、会員および関係者の皆様には、改めて旧に倍するご協力、ご意見、ご批判をお願いいたします。

(山口 協:研究所代表)

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