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アソシ研リレーエッセイ

「地域一番店」の現実に晒されて

 この1年くらい、仕事で毎週広島へ出かけています。仕事なので観光地へ足を運ぶことなどありませんが、一度だけ原爆ドームを見に行きました。普通の市街地にポツンと見えてくる「広島県産業奨励館」と呼ばれていた建物には原子爆弾の爪痕がはっきりと残っていました。このユネスコの世界遺産(文化遺産)には外国人も多く来ていましたが、みんな真剣な表情で見入っていたのを覚えています。最近、アメリカの大統領が広島を訪問するという報道がありました。「歴史的な出来事」だそうです。「過半数のアメリカの国民は原爆を広島や長崎に投下したことで、あの戦争を早く終わらせることができたと本気で信じているからオバマは決して謝罪しないだろう」という報道でした。「核兵器根絶」のスピーチでノーベル平和賞をもらった大統領が広島に来るわけですから、何かそれなりのことは喋ると思いますが、それにしてもアメリカ国民はそんなことを本気で信じているのでしょうか。戦時中とはいえ、大量破壊兵器によって多く民間人が犠牲になったことは歴史的な事実です。まったく、亡くなった人に失礼な話だと思います。

 今年はアメリカの大統領選挙の年です。マスコミ報道では、共和党の候補ドナルド・トランプばかりが大きく取り上げられています。まるでこの男だけが問題かのような報道ですが、こんな奴を支持する共和党員も相当なものだと思います。それでは、現在の民主党やオバマ政権はどうなのでしょうか。日本のマスコミではほとんど報道されていませんが、歴代の政権、そして現政権、特に国務長官時代のヒラリー・クリントンが中南米各国に対して政権の転覆を狙って、ずっと介入してきたという話があります。「マスコミに載らない海外記事(中南米)」というサイトで、こんな記事を読みました。 ― ワシントンは、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領、ボリビアのエボ・モラレス大統領、エクアドルのラファエル・コレア大統領と、ブラジルのジルマ・ルセフ大統領を失脚させ、起訴しようとしている。ワシントンは、アルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル大統領を追い出すのに成功し、今や彼女を起訴しようとしている。ブラジルの改革主義政党に対する攻撃の締めくくりとして、ワシントンは、ルセフの前任者、ルーラ・ダ・シルヴァに汚名を着せて、告訴する犯罪を画策している。

 1980年代、世界でもっとも早い時期に「新自由主義経済」の犠牲になった中南米のほとんどの国が「反米政権」となりました。アメリカの陰謀説を全て鵜呑みにするわけではありませんが、それらの国々の政権が次々と転覆して多国籍企業などアメリカ資本に有利な状況が生まれているのは事実です。これは単なる偶然でしょうか。

 「2016春よつ葉交流会」の基調講演をお願いした水野和夫さんが、こんなことを言っていました。 ― BRICsが台頭して「中心」となれば、従来の先進国のなかに「周辺」ができる。米国ではリーマンショックの前に登場したサブプライム層、日本では労働の規制緩和の名のもとに創り出された「非正規」社員、ユーロ圏では南欧の若年層が「周辺化」していった。20世紀末以降、先進国で格差問題が深刻化しているが、それ以前は途上国全体が数世紀にわたって「周辺化」していたのである。資本主義は全員を豊かにするシステムではない。それがグローバリゼーションで白日のもとに晒されたのだった。

 当然、「帝国(アメリカ)」としては世界の「地域一番店」の座を譲る気など毛頭ないわけで、みんなで生き残っていこうとする世界中の「アソシエーション」にとっては、今後も資本主義(地域一番店)の厳しい現実に晒されていくわけです。

(関西よつ葉連絡会事務局 田中昭彦)

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