ネパー ル・タライ平原の村から(54)
動 物供養を考える

地元の自然を崇拝する160軒あるプンマガルコミュニティー。彼らが、タライ平原を横断するマハバーラト山脈でもっとも高い2つの山、デヴチュリ・ ヴァルチュリの山の土着神に感謝するこの季節。自分達で出資しあって建てた、デヴチュリ・ヴァルチュリ神寺院で、動物供犠が9番目の月に当たるプース 月、満月の10日に行われました。西暦では、12月25日、クリスマスでしたが、全く無関係とのことです。

この日のために準備された、重量のある雄ヤギ(去勢ヤギではいけない)の頭に聖水の滴がかけられ、それを振り払う動作をするのを待ちます。これはヤ ギ自らが、人間に捌かれる準備があることを意味するそうです。準備が整い、1人が脚を抑え、もう1人が首に掛けた縄を固定し、ヤギを静止させます。周 囲は注視して見守る人もいれば、目を背ける人もいます。
寄合いで選ばれた青年が長い山刀を持ち構え、周囲に沈黙と緊張が走ります。しかし、ヤギはすぐに動きます。何度かためらい、ようやく一瞬静止した瞬 間、山刀が振り降ろされました。苦しめず、一振りで首を落とすことが重要とされています。青年は成功を力強く喜び、周囲も盛り上ります。すぐに後ろ脚 を引きずられ、境内を一周し、血が神様に捧げられました。
その後、各個人が持ち寄った雄ヤギや出産経験がない雌ヤギ11匹、地鶏33匹、食用としてのつがいのハト6匹の首が次々と切られ、同じように境内を 一周し、血が捧げられました。祭り用のヤギは、寺院脇で火に炙って、毛をむしり、捌いて調理されます。皆で祝い共食され、一日中演奏と踊りが続きま す。各家が屠った家畜は、それぞれの家に持帰り、売らずに身近な親族や近所の人に分配したり、招いたりして食されます。
少数民族プンマガルは、土地を手放し農業しなくなった人、家畜を飼わなくなった人も多々います。祭りと農業との結びつきが薄らぐ中、毎年、みな集 まって、日本語でいうところの、"いただきます"の意味を体感する行事は、大切に続けられています。
(藤井牧人)