ネパー ル・タライ平原の村から(50)
三ちゃ ん農業

田植えをしながら、水田風景や稲作の変容を実感したアサール月(6月中旬〜7月中旬)。7月11日付カンティプル紙に、田植え機の技術指導をする写 真と共に、極西部ネパールの各郡における農業の荒廃。年寄りと主婦だけが村に残り、働き手が作物の収穫を待たず、借金をしてでも海外出稼ぎを望むと言 う記事が記載されてありました。

平野部に位置するカンチャンプル郡ガイルナディ村では昨年、作付けされた稲が病虫ニカメイチュウの大量発生でほとんど収穫できなかった。インドのバ ザールで入手した検査もされてない安価なハイブリット系の種を蒔いたことに起因するとのこと。今年は農業開発事務所から、このハイブリット種は蒔かな いよう指示されてあるが、既に農家は、インドで安価な種籾を入手することに慣れてしまい、自分達で種籾を保存しなくなったため、植える種が手元にない とのこと。同じく平野部で、穀倉地帯として名高いカイラリ郡では、田植えが雨不足で大幅に遅れている。また、インドから輸入される化学肥料と種籾が不 足したため、個々の農家が直接、インドへ買付けに行っているとのこと。ただし、モーターで地下水を汲む管井戸ポンプが多いカイラリ郡では、米の収量は 上昇し、近代的農業が普及しているとのこと。
※ネパール/インド国境は、オープンボーダーで両国民、査証なしで自由に往来できます。
記事は最後に、低収量の粗放的農業が続き、近代化学農業の導入が遅れている。利益にならない伝統的農業に変化がない限り、若者は海外出稼ぎの列で順 番待ちをすることになると言う結論でした。
ネパールも、じいちゃん、ばあちゃん、かあちゃんによる三ちゃん農業の時代へと突き進んでいることが記事から伺えます。一方で海外から、高収量で効 率的な農業技術を導入すべきだ。農薬・化学肥料は使ってはダメと言う声も良く聞かれるようになりました。僕が暮らす中西部ナワルパラシ郡では、牛耕の 減少、ハイブリット種の導入や農薬・化学肥料の普及が見られます。田植えに来ていた女性の一人が言いました。「そのうち、田植えも機械がするような時 が来る」。それは、暗い農業から解放されると言う意味でしょうか?それとも仕事を失なうと言う意味でしょうか。両方の意味でしょうか?と考えてしまい ます。とにかく、改善すべきは単に遅れた農業、という結論とは異なる、新しい主張を探さなければと思うのです。
(藤井牧人)