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講演紹介:諸富徹氏講演会「エネルギー・環境問題の現状と未来」

はじめに

この間、地球温暖化問題に注目が集まる中、「温室効果ガスを出さないクリーンエネルギー」との巧言を弄し、原子力発電のさらなる推進が目論まれている。こうした動きを的確に批判するためには、エネルギーや環境問題の現状と将来について一定の了解が欠かせない。そんな問題意識から、6月18日、関西よつ葉連絡会・研修部会と原発・エネルギーを考えるよつ葉の会の共催で、諸富徹氏(京都大学、環境経済学)にお越しいただき、お話を伺った。以下、講演の概要と参加者の感想を掲載する。文責は研究所事務局にある。

地球温暖化の現状を巡って

現時点では、温暖化について100%解明されてはいませんが、判明したデータについては、率直に公表されるようになりました。それをまとめたのが『気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第四次評価報告書』(2007年)です。これは、国連傘下の専門機関であるIPCCによって発行され、地球温暖化の原因や影響などについて、現時点で最も広範にデータを集約し、分析したものだと言えます。私の話も、これを下敷きにしています。

まず、温暖化の原因では、化石燃料を燃やして出るCO2(二酸化炭素)が最大の原因とされています。大気中のCO2の濃度を歴史的に観測したデータを見ると、産業革命前と比べ、2005年には3倍近くの濃度になっている。人類史の中で、わずか200年の間に急激にCO2の濃度が上がっている。その結果、温室効果ガスが傘のように地球を覆い、宇宙に向けて熱が放射されにくくなり、熱がこもって温度が上昇するわけです。1850年から2000年にかけて、世界の平均気温は基本的に右肩上がりで、とくに第二次大戦後に先進国が再び経済発展を始め、CO2の排出量が増えた1950年頃から、最近になればなるほど急上昇しています。

では、温度が上がるとどうなるか。地球上の氷が溶けやすくなります。その結果、海水面が上昇して、たとえばツバルのように海抜の低い南洋の島々は沈没の危機に瀕している。あるいは、スイスのアルプスでも、1941年の写真と2004年の写真を比べると、明らかに氷河が溶けている。北極の海氷面積も、この100年間では、10年あたり2.7%の割合で減っています。

さて、今年は12月にデンマークのコペンハーゲンで温暖化問題の国際会議が開かれ、そこで2013年から2020年に向けて、世界全体で削減すべきCO2の排出割合が決められる予定です。その際のベースになるのが、温度上昇が今後どう進展していくのかという、科学者による傾向予測、つまり、現時点の状況から考えて、将来はだいたいこうなるだろうという予測です。環境省では、これを六つのシナリオとして紹介しています。いずれも、このままでは世界の平均気温は必ず上昇するという内容ですが、ただし、私たちが今後どんな生活をするかで、上昇の度合いが変わってきます。最善のシナリオは、2度から2.4度の上昇。私たちが生活や経済、産業のあり方を変えていけば到達可能とのことです。最悪は6度上昇。平均で6度といえば、場所によっては10度くらいになるところもあるわけで、かなり破滅的な事態が起きると想像されます。

もちろん、目指すべきは最善のシナリオです。3度上昇も何とか許容の範囲内でしょう。しかし、それ以上の温度上昇が起きてしまえば、気候条件は激変します。たとえば、今まで日本で獲れていた作物が獲れなくなる。現に、作物の北限は今でも北上し続けているようです。ヨーロッパでも、ワイン葡萄の適地がどんどん山の上に移っている。すでに起きている変化が、一層激しくなるわけです。そこで、もし2度〜2.4度の上昇に抑えようとすると、私たちは2050年に、温室効果ガスをどれほど減らさないといけないのか。実は、世界全体で50〜85%、3度上昇で抑える場合でも30〜60%、と言われています。これでも楽観的なシナリオだそうですが、実は、世界全体で50%を合意しても、先進国はそれ以上に削減が求められます。というのも、中国やインドなど、これから成長を迎える途上国は、そう簡単に排出量を削減できないからです。それを含めて世界で半減しようとすれば、たとえば日本は80%以上を覚悟する必要があるかもしれません。

環境と経済の関係について

とすれば、経済への影響について懸念が生じてくるはずです。「先進国で80%減なんて不可能、温暖化で破滅する前に、経済的に破滅してしまう」といった意見も出てくるでしょう。現在、日本政府が排出量削減の中期目標を策定しようとしており、いくつかの数値が取り沙汰されています。これに対して財界は最近、先手を打つ形で、主要五紙に全面広告を出しました。基本的な主張は、CO2を減らすには大きなコスト必要だ、各家庭でも大変な負担になる、だから削減目標を低くしたほうがいい、というものです。

ここで、環境と経済の関係を考える上で重要な「スターン報告」を紹介しましょう。これは、かつて世界銀行の上級副総裁を務めたイギリスの経済学者ニコラス・スターンが、2006年10月に作成した報告書です。このまま温暖化が進んだ場合どれほどの被害が生じるか、それを貨幣換算するとどれくらいになるか計算しています。この中でスターンは、もし5〜6度の上昇を許した場合、世界の年間GDP(国内総生産)の損失は平均で5%から10%ほどになると結論づけました。これは相当に大きな規模であり、そうならないためには温室効果ガスの排出を削減しなくてはなりません。もちろん、削減する場合にも、やはりコストがかかります。ところがスターン報告によれば、減らすコストはそれほどでもなく、世界の年間GDPの1%を費やせば、温度の上昇を3度あたりに抑えられるとのことです。これも決して小さくありませんが、昨年の世界金融危機では1%どころか、日本のGDPは一時的に12%くらい急減したわけで、それを考えれば耐えられないこともない。つまり、温暖化は徐々に進行するため、すぐに実感しないけれども、もし対策をとらずに上昇を許した場合、実は甚大な被害がある。対策のためのコストは被害に比べて意外に小さい、ということですね。

もちろん、コストの負担によって失業などの懸念が現実になる可能性はある。しかし、この点では、かつて日本が行った公害対策の経験を振り返る必要があります。例えば、自動車の排気ガス規制です。これには伏線があって、まずアメリカで排気ガスによる大気汚染が大きな問題になり、1970年にマスキー上院議員が排気ガス規制のための法律、通称「マスキー法」を提案しました。これは、自動車の排気ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)の排出量を10分の1に減らすという、かなり劇的な内容です。ところが、あまりにも経済的影響が大きいということで、結局は可決されませんでした。

一方、日本でも同時期、大気汚染など公害問題の解決を迫る世論が高まりを見せ、マスキー法も話題になっていました。ところが、これに対して当時の日本興業銀行(現みずほ銀行)の調査部は、そんな規制をすれば9万4000人の失業者が生まれる、との調査報告を出します。ただし、これは日本の実状をまったく調べず、アメリカで使われている数値をそのまま借りて計算しただけの、非常に大雑把なものだったそうです。そのため、関西でいえば西淀川のような、全国の自動車公害の被害者たちから大いなる憤激を招いたそうです。

その結果、正確な実状調査の必要から「七大都市問題調査団」が結成されました。調査団は国内の自動車メーカー各社に、マスキー法が求める規制が可能かどうか尋ねました。トヨタと日産は、とても無理だし、やってもコストで自動車価格が高くなり、商業的には不可能、と答えた。しかし、ホンダとマツダは、技術的には確立されており、やろうと思えばやれる、と答えた。もちろん、ホンダとマツダには、シェアの大きいトヨタや日産に対して、環境技術で一挙に逆転したいという思惑があったでしょう。いずれにせよ、世論の後押しもあって調査結果が公表され、78年に規制が実施されます。結果的にどのメーカーも基準をクリアし、その後、日本の自動車が世界で飛躍する契機になりました。最初はマフラーの触媒装置に関する技術対応だったのが、その後は燃費の改善に向かい、オイルショックで石油価格が高騰した際に、北米市場で成功を収める契機になりました。

つまり、規制は産業を弱くするどころか強くもする。このときアメリカが規制を見送ったことが、現在のアメリカ自動車業界の惨状を招いてもいる。だから、それに気づいたオバマ政権はゼネラル・モーターズ(GM)の再建にあたって、自動車から出るCO2そのものの解決と合わせて提起したわけです。要するに、世界同時不況と温暖化という二つの問題を解決するために、一方で財政を拡大しながら、単なる拡大ではなく、環境面での産業興隆につなげていく。その一つが自動車で、今までのようにガソリン車の燃費改善だけではなく、ハイブリッド・カーや電気自動車という形で化石燃料をできるだけ使わない方向性が中心になっています。もう一つは電気・電力のあり方を見直し、再生可能エネルギーに投資をする方向性が出てきています。いずれも、究極的にはCO2をいかに減らすか、という問題に帰着します。オバマ大統領は、こうした環境に望ましい経済を「クリーンエネルギー経済」と呼び、そのために1500億ドルを投資すると言っています。投資によって産業構造を転換し、これまでの重厚長大型産業を徐々に環境産業に変えていく、との展望です。もちろん、そうなると旧来の産業部門では失業者が増えますが、徐々Xに新しい産業部門に移ることで解決するはずだとして、500万人の雇用を創出すると宣言しています。

エネルギー政策の重大な転換点

環境対策が景気対策の効果も生む最近の実例として、ドイツ政府が数ヶ月前に公表したばかりの『2009年版環境経済報告書』を紹介しましょう。ここでは、新しい環境経済と呼ぶか環境エネルギー経済と呼ぶか、いずれにせよ新たな経済セクターが出現しつつあることが示されています。たとえば、クリーンエネルギーの生産や省エネ、資源効率性の向上、廃棄物リサイクル、持続可能な水利用の促進、自動車から公共交通への転換といった領域そのものがビジネスになっている。加えて、2007年〜08年にかけて、この領域の売上高は11%〜27%の範囲で伸び、雇用も7%〜22%の範囲で増えている。確かにこの時期は「リーマン・ショック」以前で、世界経済全体が伸びている状況ではありましたが、それを上回る成長率です。中でも、風力や太陽光、バイオマス、地熱、そして巨大ダムではなく小規模な水力など、再生可能エネルギーの生産が飛躍的な拡大を遂げています。ご存知のように、ドイツは反原発運動の力が非常に強く、原発は新設しない、耐用年数が過ぎて原子炉が廃炉になればそれで終わり、その代わりのエネルギー源として再生可能エネルギーを促進する、という方針です。とくに雇用面で効果が非常に大きいのは、バイオマスや風力。太陽光は意外に少ない。ドイツがこうした状況になるためには、実は2000年に導入された「固定価格買取制度」が大きく影響しています。これについては後で詳しく触れます。

こうしてみると、現在はエネルギーについて非常に大きな転換点にあると感じます。自動車では、走行の段階でガソリンを使わない電気自動車の方向に確実に移行している。もちろん、使われる電力が化石燃料なり原発なりで発電されていれば問題ですが、少なくとも走行の段階で温室効果ガスや大気汚染物質を出さないのは、非常に大きい。あるいは、再生可能エネルギーの伸び。これまで電力会社は一貫して、再生可能エネルギーはコストが高すぎ、技術的にも問題があって大量普及は難しい、CO2を減らしつつ安定的に供給できるのは原発しかない、と言い続けてきました。ところがドイツを見れば、再生可能エネルギーの適切な普及促進政策をとるなら、原発に頼らずに温暖化問題を解決しつつある。要するに、エネルギー源の交代と主導的な産業の変化を促していくことで、エネルギー多消費型の産業が衰退し、その代わりに省エネ産業や再生可能エネルギーに関わる新しい産業が大きな位置を占めていくということです。その意味では、日本は今こそ、再生可能エネルギーを増やし、日本版のグリーンニューディールを考えていく時期だと思います。

ただし日本では、環境省や経産省の報告書にあるように、ドイツと違って20年くらいほとんど増えていません。先ほど触れた固定価格買取制度を導入した国々は、ドイツ、スペイン、デンマーク、いずれも再生可能エネルギーの普及に成功し、それ以外の政策、たとえばRPSを採用した国々は、日本も含めていずれも普及に失敗している。ここでRPSについて簡単に説明しましょう。これは2002年6月に制定された「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」に基づいて、たとえばえば「発電総量に対して何%を再生可能エネルギー使うべし」という形で、再生可能エネルギーの利用を電力会社に義務付けるものです。具体的には2010年の段階で発電総量の1.35%となっています。非常に緩い数字ですが、それでも「厳しい」という声が多く、法の施行後7年間は低い数字でも認めることになりました。現状では、2010年で1.35%の達成は極めて困難です。そもそも、この法律は国が厳格に義務付けを行うなら、強力な効果を発揮します。目標を達成できない場合に何らかのペナルティーを課すようにすれば、意地でも太陽光や風力で発電に取り組むとか、あるいは他の電力会社から余剰分を購入するでしょう。ところが、結局のところ国が経過措置を加えたために、失敗してしまった。

これに対して固定価格買取制度は、電力会社が太陽光や風力で発電する業者から電力を買い取る際の価格を予め固定しておく仕組みです。発電業者からすれば、売電の価格が決まっているため、発電コストを計算すれば、採算が合うかどうか容易に分かります。実際、ドイツの固定価格は、初めから採算が合うように設定してある。そのため、多くの業者が風力発電に参入し、風力が圧倒的に伸びていきました。日本でも、まず政府が関西電力に、「太陽光発電事業者から1kwhあたりいくらで電気を買いなさい」と価格を義務付ければ、その価格なら商売できると思った人たちが参入する。発電した電気は関電の系統に向けて送電し、関電は政府に決められた価格で買い取る。日本でも導入すべきでは、という話になるわけですが、実は、さまざまな経緯がありました。

エネルギーの地産地消も可能に

ところが、最近オバマ大統領がグリーンニューディールで、新しい電力網の考え方を打ち出しました。それは、「スマートグリッド」という分散型の電力網の考え方です。現在の日本は、いわゆる中央集権型、指令型の電力網です。中央で指令して人口過疎地に危険な原子力発電所を置き、そこで発電した電気を大規模送電網を使い、非常に大きな送電ロスを伴いながら都市部に送り込むというやり方です。スマートグリッドという考え方は、それが変化する可能性を示しています。つまり、今後、たとえばバイオマス発電や燃料電池、蓄電池、風力、太陽光といったさまざまな形で発電が行われれば、大規模送電網を使わなくても、電力消費地のすぐ近くで発電し、各々の小規模な電力をネットワーク型でつなぎ、最終的に電力の消費者たちを結ぶことが可能となる。これは「マイクログリッド」といわれるシステムです。すぐ近くに電源があれば、送電ロスはほとんどありません。また、風力だけなら天候次第で不安定になるとしても、多様な電源をつないで融通しあえば、各々のオフとピークを互いに打ち消しあって、結果的にはかなり安定供給が可能になるそうです。もちろん、電力会社は「電力が不足して停電になったらどうするんだ」と言います(実際、電力会社は停電を起こさないよう、常にピークを高く保って、余った電気を捨てています)。これに対しては、電力需要を制御し抑制する、と答えます。つまり、通常よりも省電する。そのために制御装置を使う。言い換えれば、供給側だけで需要のピークを満たすように発電するのではなく、足りなければ需要も落とす。それをコンピューターで制御しながらやるのが、スマートグリッドやマイクログリッドの考え方です。今後、こうした電力網が作られれば、電力会社の既存の電力網から離れ、地域で発電して地域で消費する「エネルギーの地産地消」も可能となるはずです。

低炭素社会に向けて

現在では、CO2の削減に際して、どんな技術を使えばどれくらいのコストで減らせるのか、だいたい分かっています。実は、マイナスのコストで削減できる事例もかなりある。たとえば、省エネを提言するESCO(Energy Service Company)事業者の場合、オフィスの電灯や空調システムを省エネ型に切り替える提案をしてビルを改修します。当初の工事費こそかかりますが、改修すれば明らかに光熱費が減り、工事費は遅くとも4〜5年で回収できるらしい。その後に出る儲けについては、ESCO事業者とビルの所有者で分配する、そういうビジネス。これだけでかなりの削減が可能です。しかし、2度上昇に抑えようと思えば、さらに技術を使わなければなりません。

よく「すでに日本の対策は進んでいる、これ以上CO2を減らすのは困難だ」と言われます。しかし、確かに石油ショック後に多大な努力を払ったとはいえ、バブル期あたりからは停滞している。一方、その時期に他国はかなりの努力をしています。だから、現状維持だといつかは追い抜かれます。先ほども触れましたが、日本にとって低炭素社会は、コストもかかるけれども利益を生むし、化石燃料への依存を減らすことで、日本の外交的・地政学的立場を強化する可能性もある。実際、石油ショックまではGDPの増加とCO2の増加は比例する関係にありましたが、それ以降は実態として比例の関係ではありません。GDPが増えてもCO2を減らすにはどうするか、それが今後の課題です。

その点で、ドイツはエネルギー供給のあり方自体を変えようと試みています。私は以前、ドイツのフライブルク市を調査しました。興味深かったのは、緑の党の発祥地ということもあって、地域にエネルギー問題を扱うNPO(非営利組織)や運動家がおり、大学にもエコインスティテュートという研究所がある。そうした中で、消費者がエネルギーを選択する権利について研究し、実践していました。私たちの場合、電気の供給元は関電しかないと考え、現状ではその通りですが、ドイツでは電力自由化の影響で、大口の事業所だけでなく各家庭でも電源を選択できます。それを基盤に、原発で発電されていない電気を買おうという運動がある。

どうしてそんなことが可能かといえば、ドイツの各市がエネルギー供給公社を持っているからです。もっとも、各市が自ら発電するわけではなく、発電業者から電気を買って一般家庭に配電するまでを供給公社が担っています。フライブルク市の場合、電気は太陽光や風力発電している事業者から買っていますが、それは市の電力を原発に頼らないという方針があるからです。原発由来の電気に比べ、料金は少し高くなりますが、市議会で承認されています。そこには、かつて周辺で原発の建設計画が持ち上がったとき、ワイン用の葡萄農家が立ち上がって撤回に追い込んだという背景がある。この経験の上で、原発に頼らない電源の選択権という考え方が出てきたそうです。日本の場合、エネルギー問題は国レベルと考えがちですが、フライブルクでは地域レベルでエネルギー問題を考えており、非常に新鮮に感じました。

付け加えれば、再生可能エネルギーは地域の振興にもなります。風力発電は二基、三基ぐらいの小規模でも可能ですから、人口の少ないところで、風車を立てるところから始まって、地域に雇用をもたらす。バイオマスもそうです。もともと農山村地域でやるものですから、そうした地域で雇用が発生する効果がある。そういう意味で、再生可能エネルギーの展開する幅はかなり広い。かつてに比べれば技術的にも容易になっています。

日本はドイツと違って、発電から系統送電、配電まで一つの電力会社が所有する「垂直統合」の電力供給システムであり、それ以外の事業者は事実上、参入が拒絶されているという特殊事情があります。ただ、それは世界の多勢なのかと言えば、まったく逆です。韓国だけは日本とよく似ていますが、中国もヨーロッパもアメリカも、世界の多勢は電力自由化で、比較的に再生可能エネルギーを普及促進させやすいシステムになっている。ところが、日本は依然としてやりにくい仕組みのまま。ここをどう変えるか、非常に大きな問題点です。この点を最後に指摘して、話を終わりたいと思います。

◆  ◆

【参加者の感想】 「資本主義の非物質化」と重ね合わせて

講演の内容は別掲の概要に譲り、以下、参加者として感想を書かせていただく。

講演では、まずIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第四次報告のデータをもとに温暖化の事実が確認され、つぎに「スターン報告」の警告や「マスキー法」の事例から、環境と経済は必ずしも対立しないことが示された。私としてはIPCCもスターン報告も、温暖化対策として原発を容認する姿勢を示している点が容認できないのだが、そこから始めると、それだけで終わるので、ここでは触れない。

さらにそれらを踏まえて、オバマ政権の「グリーン・ニューディール」が、世界同時不況と地球温暖化という二つのグローバル危機を同時に解決する総合的な戦略として、排出権取引とセットで提出されていることが指摘された。いまやエコロジーも資本の戦略に組み込まれつつあるわけだ。そのアメリカが環境政策の手本としたのが欧州である。ドイツを例に、再生可能エネルギーの普及で産業と雇用拡大の実績をあげていることを、多くのデータで示していただいた。

日本はといえば、技術力はあっても総合的なビジョンを欠いているために、「第三次産業革命」ともいうべき歴史的転換点で取り残されている。あとを追ってきたアメリカが「グリーン」に転向し、いまや温暖化対策の最大のガン扱いだ。しかしビジョンがないわけではなかったのだ。2008年の洞爺湖サミットを前に「福田ビジョン」なるものが発表された。ビジョンは提出されたが、職務が放棄されたのだった。もっともそれは長期目標だけで、中間段階の数値目標は何もないビジョンだった。ケインズなら「長期的に見れば、われわれは皆死ぬ」とツッコミをいれたことだろう。

この講演で関心を引かれたことが二つあった。ひとつは、エネルギー分野でも「分散型」という考え方が重要になっていることだ。「エネルギーの地産池消」という言葉も使われ、よつ葉の職員にもわかりやすい説明だった。そもそも自然エネルギーは地域分散型だから、地域で発電して地域で消費することになる。欧米ではすでに分散した単位をネットワーク化することで相互に融通するシステムが構想されているようだ。一方、日本は集約化の発想を変えられず、原発などの大規模集中型施設から、大きな送電ロスを伴いながら都市部に電力を送り続けている。原発で発電した電力は買わないという選択くらいできるようにしてほしいものだ。

もうひとつは「資本主義の非物質化」という言葉で提起されていた問題である。情報化やサービス産業化にとどまらず、物そのものではないところに付加価値が付くようになってきており、「先進国」では人々の志向性も物欲以外の欲求にシフトしているという指摘である。これは事業の展望の問題としても、「モノより人」と言ってきたよつ葉の考え方との関連においても、踏み込んで考えてみたい問題だと思った。

以上の二点は、ネグリとハートの『帝国』でも強調されている論点で、共感しつつも抽象的な理解しかできなかったのだが、今回の講演で少し具体的な輪郭が見えてきた気がしている。(下村俊彦:関西よつ葉連絡会事務局)


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