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市アソ シ研リレーエッセイ

若者た ちが自身で

動き始 めた希望を出発点に


先日、このニュースの「市民環境研究所から」欄をお願いしている石田紀郎さんと久しぶりに話す機会があった。四方山話の中でびっくりしたのが「もう農薬ゼミを止めんねん」 という話。「農薬ゼミ」は、石田さんがゼミ生と一緒に和歌山でミカンの有機栽培から産直までを永年にわたって実践してきた、石田さんの活動の中心 軸のひとつ。理由を聞くと、「質問と雑談のできる学生がいなくなった」。自らの思う「安全圏」に閉じこもり決してそこから出ようとしない、雑談も できないから問題意識が発展したり深まったりすることもない…そんな学生たちと付き合い続ける気力・体力がなくなった、のだという。

 それからしばらくして、『人民新聞』の編集会議で大内裕和(教育社会学)さんと今野晴貴(NPO法人POSSE代表)さんの対談「ブラックバ イトから考える教育の現在」(『現代思想』2015.4号)を資料に情勢論議を行った。「ブラックバイト」は「ブラック企業」とともに最近マスコ ミでもようやく取り上げられるようになったが、語られているアルバイト学生の悲惨な実態に参加者一同改めて「ウ〜ン」。関心のある方は是非一読し ていただくとして、いくつか要点を紹介すると、「アルバイトによって学生生活との両立が不可能になる学生が増えている」、「世帯年収の低下によ り、アルバイトは『自由に使えるお金』を稼ぐためのものから、『それをしなければ学生生活を続けられない』ものへと変わっている」、「特にサービ ス業において、顕著に差別構造と労務管理戦略が結びつけられ」「学生のうちから使い潰して、産業そのものも非正規で埋め尽くすという構造へ突き進 んでいる」…。

 「農薬ゼミ」の学生は京大生で言わば「勝ち組」、対談で語られる学生は「授業料以外の学生生活費全般をアルバイトで稼ぐ学生の方が多数派」で あろう「中位層以下の大学生」で、一緒くたに論ずるのは少々乱暴かもしれないが、「壊される若者たち」の表裏両面であることは間違いないように思 われる。そして言うまでもなく、ことは学生だけの問題ではない。「若者たち」全体が「壊され」ているのだ。「この20年で、若年労働者の非正規雇 用比率は15〜24歳層で20.6%から46.3%、25〜34歳層で11.7%から25.9%に」「学生アルバイトを含む民間企業の20〜24 歳の若者の非正規雇用比率は男性46.7%、女性44.2%」「2012年4月の新卒者で正規雇用につけたのは6割」「自身の収入のみで生活して いる若年労働者は44.0%(2009年)」「20〜50歳代の孤立無業者162万人」etc.etc.…手元にあった資料からのランダムな引用 なのだが、書いているうちにもだんだん気が滅入ってくる。ついでにダメ押しをもうひとつ、日本企業の内部留保は2000年度の194兆円から 2013年度には328兆円に跳ね上がったのだとか。まさに「洪水は我が亡き後に来たれ」、日本の未来は当分明るくない…。

 と、今回のエッセイ、このへんまでは引用と紹介だけだから書くことは決まっていたのだが、困ったのは締めの部分。この間、「日本の社会は既に 壊れている」「開き直って自律・協同の関係・場・空間を自分たちで創り出し拡げていくしかない」と思い定め、口にもしてきたのだが、それにしても 元気の出るような話があまりないのだ。「アホ、バカ、マヌケ」の連呼は虚しい。解説や評論は無力だ。さて希望は?と考えてみる。さしあたり思い浮 かぶのは、ささやかではあれ各地で「ブラックバイトユニオン」が結成されるなど若者たち自身が動き始めたこと、グローバリゼーション下、世界各地 で若者たちが同じ問題を抱え立ち上がり始めていること、か。何はともあれその希望を出発点としよう。「俺らのやってきたこともどこかで間違ってい たのかもしれないと思わざるを得ないよなぁ」という石田さんの自戒・自省を共有しつ つ。               

(津林邦夫・北大阪合同労働組合)


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