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気 になるコラム

漁と農と季節の花

三月末に山形県新庄市で行われた「雪調に学ぶ講座」に参加しました。その詳細については次号で報告する予定ですが、ゲストで来られていた民俗研 究家の結城登美雄さんからお聞きした話が、日本農業新聞のコラムで紹介されていました。 (下前幸一)
◇   ◇   ◇
 『民俗研究家の結城登実雄さんが、雑誌「世界」(4月号)に復興について寄稿している。その中で東日本大震災後、時々訪ね、寄り添ってきたある 老漁師を紹介している
 震災直後、あらゆる物を失った彼らに結城さんは掛ける言葉もなかった。次に訪れた時、老漁師は家の周りのがれきを少しだけ片付け、ペンキで小船 を修理していた。「漁、やるのが?」と尋ねる結城さんに、彼は、網も餌もなく船外機は動かないと答える。
 その次に訪れた時、彼は家の周りに土を盛って花を植えていた。結城さんは、けげんに思いながらその時は帰った。そして次に訪れた時、家の周りの 花が咲いていた。老漁師は、集落の仲間から、漁をやるのかと問われ、「まあな」と短い会話を交わしていた。
 結城さんは、漁村の花は観賞用の花ではないことを知った。藤の花が咲けばタイが釣れだし、菜の花が咲けば、カツオ漁の準備をする。漁師たちは季 節ごとに咲く花を見て、さまざまな漁の段取りをする。花を植えることは、もう一度ここで漁をする、生きていく意思表示だった。
 農民も同じ。田んぼの周りの草木の花を見て農作業の段取りをする。ただ経験豊かな古老が少なくなった。野の草花が今年も花を咲かせ声を掛けてく る。今年も春作業を始めよう。』         
(日本農業新聞 「四季」より)


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