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市民環境研究所から:人間が学ぶべき自然のつじつま合わせ

3月初めの行事は、和歌山にある省農薬ミカン園の剪定作業の手伝いに出かけることである。農作業のうちでも、剪定は最も難しい作業であり、とても素人にはできる業ではない。個々の木に向かい、木々と対話をして、それぞれに適した枝切りをしている百姓の後ろに立って、なるほどと感心するのが精一杯。われわれの作業と言えば、切り落とされた枝葉を園外の道路に持ち出し、燃やすだけである。ミカンの枝葉には油分が多く、生木でもよく燃える。香ばしい柑橘の香りを伴って立ちのぼる煙の行方に春を感じ、楽しんでいる。この季節の楽しみは、山の斜面でフキノトウを採取して、天ぷらにして食べることだ。ところが、今年は春の到来が三週間も早く、ほとんどのフキノトウは花となってしまい、ごちそうは諦めざるを得なかった。それから二週間、桜の開花も早めにやって来た。このままでは、4月はじめにも散ってしまうのでは…、そう思わせるほどの早さだったが、自然はどこかでつじつまを合わせてくれるというか、バランスを取ってくれる。3月末に京都の北山、西山に雪が降り、桜は立ち止まって、入学式を待ってくれている。

それにひきかえ、人間社会のつじつま合わせの悪さである。半年前の好況は嘘のように、派遣切りが、非正規切りとなり、正規労働者切りへと進んでいく。私が勤務する京都学園大学のバイオ環境学部は、開学部してから3年が経過し、初めての4回生が誕生する。ところが、就職活動を開始した矢先の大不況で、先輩もいない新学部の学生には厳しすぎる春である。野外での調査研究を旨とする本学部のような分野では、3回生の2月と3月は本来、非常に重要な時期である。春になって生き物が動きだし、百姓が田植え準備をしだす前に、環境調査のポイントの下見に行き、調査研究のテーマを確立し、調査活動をデザインする。その過程で大学入学から今までの学習成果を引き出し、卒業研究に活用するチャンスなのだ。

ところが現実には、大不況でなくても、この時期、ほとんどの3回生は就職活動に専念せざるを得ず、まして、この大不況下では4月や5月になっても就職活動は終わりそうもない。いきおい、4回生の半分が過ぎた頃になってから、やっと卒論研究を始めることになる。かくして、野外の研究などは時間足らずとなり、室内のチマチマしたテーマとなる。日本の大学教育の質は低下せざるを得ない。これに気づいた文科省が、経団連と就職活動の時期について議論を始めたとの報道もあった。事実なら、単に時期の問題だけではなく、我が国の文化、教育、科学、技術などなど全般に関わる課題として議論してもらいたい。

この大不況は、昨年の石油の異様な高騰と合わせて、異常に膨らんだ経済活動、金がすべてであるとする価値観から必然的に発生する現象だろう。経済活動を縮小して、人が人らしく生きられ、振れ幅も少ない社会を作り出さねばと思う。少々の振れはあっても、4月に桜が咲いているようにする自然のつじつま合わせの穏やかさを人間社会は学ばねば。(石田紀郎)


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