タイトル
HOME過去号61号

寄稿:「田をつくる」長井シンポジウム

はじめに

去る2月7日から9日にかけて、山形県長井市で「『田をつくる』長井シンポジウム」が開催された。参加された吉田さんから、概要報告と感想が届けられたので、以下に掲載する。吉田さんは九州とロンドンを基盤にさまざまな活動を行っている潟Wェイネットの代表である。

次の時代を指し示す思想を期待して

2009年2月7日から3日間、「レインボープラン」で有名な山形県長井市で行われた「田をつくる」長井シンポジウムに参加した。長井市は1万弱世帯、人口3万人余で、農村地域と都市部が町をほぼ半分ずつに分けている自然豊かな街であった。

長井シンポジウムの狙い

「田をつくる」事務局の長井でのシンポジウム開催のねらいは、レインボープランの核になっている人々と交流することをとおして、『思想をつむぐ』ことと『たすき渡し』の道筋を見つけること。

シンポジウムの主催者の一人、花崎皋平さんは問題意識を通信で次のように述べられている。

@人類史の現在は、達成すべき世界の理念が失われたかのようであり、その混沌の中で、行方を探る友を得たい。

A現在の日本の政治と社会はあまりにも無惨な姿を呈しており、その責任は私たちも負わなくてはならない。

Bこのひどい状態から脱するには、長期的な見通しで望まなければならない。その見通しを立てるには、民衆の思想の地下水を掘らなければならない。

Cそして崩壊の危機に直面している農の問題を重視する必要がある。

D日本列島社会の未来を、多文化共生の社会としてイメージする。

シンポジウム初日は主に参加者同士の交流会、2日目はレインボープランに携わってきた人たちからの報告と討議、3日目はフィールドワークでのレインボープラン全容の見学とまとめというスケジュール。ほとんどの参加者が1970年代を通過した人たちで、20、30代は極めて少数だった。

レインボープランの流れ

レインボープランは1988年「まちづくりデザイン会議」をけりだしに準備がはじまり、1996年11月に農林水産省の補助事業を適用する形でレインボープラン・コンポスト(堆肥)センターが竣工し、翌97年2月に運用が開始される。

事業の概要とねらいは、次の通り。

○家庭生ごみの再資源化

長井市内約9700世帯のうち中心市街地約5000世帯から排出される家庭系生ごみを分別収集し、その再資源化を図る。生ごみは、副原料となる畜ふん、籾殻を加えることにより発酵させ、良質の堆肥として農業に再利用する。

○土づくりと安心・安全な農産物の生産

生ごみの再資源化によって生み出された良質の堆肥を農地に還元することで、化学肥料等に頼らない自然生態系に即した豊かな土づくりを行う。その結果、作物自体の免疫機能を向上させることができ、減農薬の普及にもつながり「安心・安全な農産物」の生産を推進する。

○農産物の域産域消、地元への還元

レインボープランの堆肥で生産された農産物を地元で流通させることにより、地元消費者の食卓に安心・安全な農産物をとどけて健康な食生活を推進する。

○農業の担い手育成

レインボープランによって生み出される「安心・安全な農産物」をブランド化し、生産者の所得向上につながる農業構造を作り出し、新たにレインボープランの輪に加わる担い手の育成を推進する。

レインボープランの課題

以下、シンポジウム参加とレインボープラン学習における私の感想を記す。

@レインボープランでは、リーダー(集団)が深い人間性をもって、しっかりとした貫徹意思と周囲の人と同じ目線で運動をつくってきたことがよく理解できた。リーダーの重要性を痛感した。

Aプランの事業予算がガット・ウルグアイラウンド記念事業などの膨大な農水補助金を柱につくられてきたことが、陰陽の影響を呈しているように感じた。

・数億円かけた重厚長大な処理センターのこれからの維持・管理が、長井市の予算に大きな負担感をもたせるのではないか? 最後に畜ふんと混ぜ込み堆肥にするのであれば、もう少し、小さな単位で混ぜ込んでいけば巨大な施設は縮小していけるのではないだろうか? 莫大な補助金のゼロの数で最初のデザインをしたように感じた。

B「レインボープランはゴミのリサイクルシステムではなく、市民自治の運動である」と言われていた。「なるほど」と思った。そうであるなら、いまからが楽しい本番かな?

・「市民農場」「虹の駅」に加えて、もうひとつ「虹の物流」を立ち上げて、生ごみを出してくれている市民を会員としてレインボーブランド中心に地元産物・各地産物の共同購入会を組織してはどうか? さらにこの地域内流通に加え、地域外流通もめりはりをもって積極的につくっていったらどうか? 運動を拠点化、継続、拡大していくには事業化が必須。

・レインボープランの運動を包み込む市民の厚い衣があればいい。

Cレインボープランのリーダーの方が「(これからは)土への感謝、恩返しを」と語っておられた。花崎さんも「農の問題を重視」と言われている。次の時代を指し示す思想(言葉)はここら辺から出てくるのかなぁ?(吉田登志夫:潟Wェイネット)

※かつて研究所でも、レインボープランの中心的な立て役者の一人である菅野芳秀さんの講演会を、行ったことがあります。お話の内容は以下のURLに載っていますので、ご参照ください。
@http://www.ne.jp/asahi/institute/association/old/bulletin/20040801/sugano.htm
Ahttp://www.ne.jp/asahi/institute/association/old/bulletin/20040901/sugano.htm
Bhttp://www.ne.jp/asahi/institute/association/old/bulletin/20040916/sugano.htm


200×40バナー
©2002 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.