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連 載:ネパール・タライ平原の村から(32)
プンマガルの故郷の村(その4)

 
 ネパールの農村で暮らす、元よつば農産職員の藤井君の定期報告。その32回目。

 

「日本ネパール協会」のネット配信ニュースによると、ネパールの国勢調査報告で64.6%の家庭がケイタイにアクセスできる一方、61.8%の家庭にトイレがないとのこと。ネパールでは、ケイタイよりも普及しないトイレ。山岳部カパルダンダ村を中心に、今回はトイレ事情を紹介します。

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階段状の地形に、“国花”に指定されているツツジに似たシャクナゲが、ところどころに見られるカパルダンダ村。ここでの滞在中、訪問・宿泊先によっては、困ったことにトイレがありません。それで用を足すには、どうすればよいのか、ちゃんと教えてもらいました。
  まず民家から少し離れて、紙の代わりに適当と思われる葉をちぎります。次に階段状の茂みにある、Y字形にくねった常緑低木シャクナゲの幹と幹を掴み、屈みます。傾斜地は段差があるので、木の間からから下に“落とす”ようにするのです。周囲に人気を感じた時は、「ゴホン、ゴホン」と咳をすれば、暗黙の了解が得られます。
  初めての頃は、傾斜地で中まで傾斜しているトイレ、尻を拭く水の缶に手首が入らず、水をすくえずに困ったトイレ、扉が外れておおっぴらなトイレ、さらにはそもそもトイレ自体がないことに、便意が失せてしまったものです。

都市部のトイレ
●都市部のトイレ

  一方で、トイレのない家で暮らしていた人が他の地域や都市へ出かけた時には、慣れないトイレを使わなければならず、反対に便意が失せてしまうこともあるそうです。
  ある山村では、部屋の隅にある穴から、階下の家畜小屋に便を落とす民家もありました。今では見られなくなってしまったかも知れませんが、栄養化の高い人糞を豚のエサにするというのも、ネパールでは有名な話です。
  また、トイレが設置されても、「あの狭い部屋に入りたくない」と使わず、鍵をかけて物置として利用している集落もありました。こうしたケースは、トイレの設置に関する統計では、どのようにカウントされるのでしょうか。
  そんなネパールのトイレ事情の下で、カパルダンダ村で最近、各戸にトイレの設置が義務付けられたという話を耳にしました。トイレの設置は、手やハエを通じた病原菌による下痢、赤痢、コレラ、腸チフス等の感染症を防ぐための対策です。便の中にある病原菌が広がらないよう衛生を改善し、それが貧困の削減にもつながることを目的に、国際機関や国が尽力しているところです。

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農村部のトイレ
●農村部のトイレ

村のトイレ事情については、とかく開発プロジェクトの対象として、医療や衛生という判断基準からのみ語られがちです。しかし、別の視点から眺めれば、山村の暮らしにおいては、意識する/しないに関わらず、そもそも人の排泄も生態系の循環の中に含まれていたことが分かります。
  トイレの普及により衛生面が改善される一方で、都会や先進国と同じく、排泄物が「ただの廃棄物」と認識される社会になる日も近いのかも知れません。

            (藤井牧人)

 


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