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市民環境研究所から:世界的規模で弱者を食い物にする時代

三寒四温は自然のならいであり、次の春の暖かさを待つ間の楽しみでもある。朝の薄氷を楽しみ、次の朝は畑の畝からかすかに立つ湯気を眺める幸せを繰り返す時である。残念ながら、日本社会は三寒四温とは行かず、とくに政治は寒さのみである。

寒々とした時世は、弱者を食い物にする時代である。先日、銀行に立ち寄った際、ATM機の近くに銀行員と警察官が居て、振り込めサギにひっかからないようにと訪れる客に注意を促していた。心優しい老人や親を食い物にする不逞の輩もまた寒々とした存在である。昨年、この種のサギの被害が300億円以上とか聞いて驚愕した。どうして、そんなにも引っかかるのかと不思議である。数年前、筆者の自宅に「おれおれサギ」の電話がかかって来たことがある。すぐにサギだと分かったから、怒鳴りつけて電話を切った。そのあと、もう少し引き延ばして、どんな手口で騙そうとするのかを楽しめばよかったと後悔した。

それからずいぶんと経ち、今度は、海外からのサギ・メールがやってきた。筆者はこの20年間にわたって、中央アジアのカザフスタンやウズベキスタンの水と農業を取り巻く環境問題に取り組んできた。その中で、何人もの現地研究者の仲間ができ、共同研究や交流を続けている。今月はじめにも、現地の研究者集団の代表を務める昆虫学者が京都に来て、一緒に研究会と会食を楽しんだ。そんな集団の一員から深夜にメールが送られて来たのだ。

彼とはしばらく仕事をしておらず、このところ別の研究者が行動を共にしているので、いったい何のことかとメールを見ると、内容が尋常ではない。筆者と同じ程度のつたない英語力の主なので、メールの英文も間違いだらけである。「今、オランダに居るが、カネとパスポートを失ってしまい困っている。大使館に相談に行ったが、何もしてくれないので、困り果ててメールをする。カネを貸して欲しい。1400ユーロ貸してくれれば助かるし、カザフに帰国したらすぐに返すから。24時間メールは見られるから、連絡してくれ」。

パニックになった様子の表現はうまい。差出人の名前はフルネームではなく、愛称が書いてある。まさに、本人が出したと錯覚させる文体である。しかし宛名が書いてないから、無差別に送ったようでもあり、怪しい。そこで、彼と共同研究をしている知人に連絡してみた。案の定、彼と彼の仲間にも送られて来ていた。カザフの知人に確認を取ったところ、メールの送り主になっている人物はオランダではなくカザフにいるとのこと。

事情を聞くと、メール関係のファイルを盗まれたか失い、メールアドレスを無効にしようとしたが、時すでに遅く、パスワードが変更されてしまっており、なんとも出来なかったという。国際的振り込めサギの仕掛けであるが、この手はもはや効果がないだろう。牧畜の国でも犯罪は世界共通である。カザフの2月は厳寒期でマイナス25℃の世界、春は5月までお預け。そんな国からの冬の便りであった。(石田紀郎)


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