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研究会総括:「『よつ葉らしさ』の根源を探る」

よつ葉の歴史を貫く「多様性」の存在

関西よつ葉連絡会の事業活動の中で生じた出来事について、その意味と今日的な教訓を考える研究会。全5回目の終了を受け、研究会の提唱者から総括的文章が寄せられたので、以下に掲載する。

パートTからパートUへ

「『よつ葉らしさ』の根源を探る」と題し、研究会のパートTをスタートさせたのは、2006年4月でした。約半年にわたって、隔週に集まってテキストを読むという研究会は、当初25名ほどの参加者が集まったのですが、終わる頃には10数名になっていました。この研究会の「まとめ」として、私が提出したレジュメを改めて見てみると、よつ葉の基本的主張として以下の3点を挙げています。@モノよりヒト、A生産過程が必須、B地域が基本。この3点に、関西よつ葉連絡会が社会運動として取り組んできた「食」についての現状批判が集約されていると捉えて、この主張の背後にある思想の系譜を学ぶというのが、この研究会のスタイルだったと思います。

2年後、研究会のパートUを企画しました。2008年5月から9月にかけて行った、研究会パートUでは、関西よつ葉連絡会の形成史を遡って、会の主張がどのような論争や出来事を経て意識され、整理されて来たのかを、その当時、中心的にかかわった人たちの話を聞くカタチで振り返ってみるというものです。

全5回の概要について

第1回目は「よつ葉の食べ物に対する考え方―その形成史の出発点」と題して、1980年のよつ葉牛乳関西共同購入会の分裂と関西よつ葉連絡会の発足時代に焦点をあてました。

第2回目は「よつ葉はどう共同して働くのか―組織が拡大していく中で矛盾が顕在化」と題し、1987年の鰍ミこばえ設立時に焦点をあてて、組織内での分業化、専門化、コンピューターの導入に直面した関西よつ葉連絡会での管理部門と配送の現場の間に生じた対立、矛盾の激化を振り返りました。

第3回目は、「不十分さの公開と共有―よつ葉牛乳の放射能汚染の公表と山城養鶏の卵事件への対応」を取り上げ、1986年のソ連・チェルノブイリ原発事故と2003年の山城養鶏による冷蔵保存卵の出荷事件、という二つの危機局面に対応した、関西よつ葉連絡会の危機管理の原則について振り返りました。

第4回目は、「地場と旬を柱とした農産の確立―鰍謔ツ葉農産の設立に至る過程をめぐって」と題して、2000年のJAS有機基準の法制化に対応して関西よつ葉連絡会が取りまとめた「よつ葉有機基準」と、1年後の鰍謔ツ葉農産設立に踏み切った考え方を取り上げました。

そして最終回となる第5回目は「よつ葉はどうして政治活動に取り組むのか―豊中市議選への35年にわたるかかわりの中から考える」と題し、関西よつ葉連絡会の前史とも言える1970年代後半の大阪、北摂地域を中心とした地域活動、政治運動の流れとよつ葉のかかわりについて取り上げました。

「話し言葉」の功罪

全5回におよぶ研究会で、それぞれのテーマにかかわる報告者は合わせて20名に達し、現在も関西よつ葉連絡会の各部署で先頭に立って働く50〜60才代の人達が、当時を振り返り、ホンマカイナ?の爆笑トーク、ナルホドの納得トークを披露していただきました。そのおかげか、この研究会パートUはパートTとはうって変わって、最大で70名、少ない回でも50名を越える、関西よつ葉連絡会で働く職員の参加者を集め、大盛況のうち終了することができました。

それぞれの回の簡単な報告、参加者の感想はこれまで本誌でも掲載してきました。報告者の発言を加筆修正した報告集も、現在、テープ起こしが完了し、まとめの段階に入っており、発行にむけた準備を進めているところです。したがって、研究会パートUの内容報告はその発行にゆずるとして、以下、この研究会を企画した側の全体的感想と評価を簡単にまとめてみたいと思います。

まず思うことは、話し言葉による、しかも何人かの報告者が各々に過去を振り返って語る問題提起では、どうしても、分かったような感じをなんとなく与えざるを得ない。一過性の伝達になってしまう限界性を持つという点です。

その分、聞く側、参加する側にとっては気軽に入って行けるメリットもあったのだと思いました。歴史的に発生したさまざまな事実をどのように把えて、主体の側がその時行動したり発言したりした内容から、どのような考え方を読み取るのか。その回路を学ぶことが重要だと思うのですが、なかなか、困難でもあるようです。かといって、書き言葉を読むことで学習しようとする研究会は不人気で、さっぱり参加者が集まらない。仕方のないことかもしれません。メゲずに、クサらずに続けていくしかないのだと考えています。

「多様性」の意義を再発見

もう一つ、全5回の研究会を聞いていて強く考えた点は、多様性という問題でした。よつ葉の運動全体が、会員である地域住民にとって魅力的に映った面があるとすれば、それは主張の重視と、それを発信する人間の多様性にあったと思うようになりました。主張が無く無色透明で巾が広いのではなくて、さまざまな主張が時には強烈に交差し、対立する多様性が、よつ葉の現在を創り出して来たように、皆さんの報告を聞きながら感じたのです。

組織は大きくなるにしたがって、同じ顔つきの、同じような口調でしゃべり、同じ思考に縛られた人間を生み出します。そうした組織の発信する主張は、どこか厚みにかけた、らしい言葉づかいの、同じような言葉で語られるようになるものです。関西よつ葉連絡会が組織形態としては「連絡会」に固執した意図も、多様性の重要さを、強く意識した考え方によるものだったと思います。

したがって、よつ葉の考え方を学ぶという本質は、学ぼうとする主体である一人ひとりの人間性と個性をみがく、ということにならなければダメだと思うのです。今回の「よつ葉らしさの根源を探る」研究会パートUが、そうした参加者一人ひとりに、なにか一つでも刺激を与えることができたとしたら、研究会は成功だったと思っています。(津田道夫:研究所代表)


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