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市民環境研究所から:冬の寒さに勝る雇用・労働環境の冷え込み

滋賀県の雪国生まれの身としては、冬に雪が降らないと落ち着かない。毎年のようにそう思いながら年末年始を過ごしてきたが、なんと、今年(2007年)は年内に降雪があった。しかし、そんなことを言っていられない社会状況である。

サブプライムローン問題からリーマンブラザースの破産へと、大変なことが起こり出したとぼんやり思っていたところ、事態は急速に悪化し、一日一日の事態の変化が理解できないほどだ。自動車産業を中心に、契約社員や派遣社員など非正規職員の解雇が頻発し、昨日まで布団の中に熟睡できた人が今日から路上生活者となって段ボールの囲いの中にいるという。こんな事態の進展にただ戸惑うだけで、なにも出来ない身がつらい。

現在勤務している私立大学の自然科学系学部では、教務課に4名の職員がいる。1名は男性の課長、1名は女性の課員で、いずれも正規職員だが、その他の2名は非正規職員で、1名が契約職員、1名が派遣職員である。日常業務では、正規、非正規の区別などなく、こちらも意識していない。派遣職員の女性は与えられた仕事の枠を越えて、たいへん気配りもしてくれ、私としては正規職員よりも信頼を置いている。安い給料なのに、こんなにも気配りをしてもらって申し訳ないと思いながらも、その誠実さに甘えてしまっている。しかし、彼女の雇用条件を知り、派遣職員の給与や勤務条件の劣悪さを知れば知るほど、業務とは言え、仕事をお願いするのが心苦しくなる(かえって失礼だろうが)。

時給の安さはともかく、つい最近まで通勤手当が支給されないことも知らなかった。筆者は大学勤務だけの人生であったが、市民運動や生協の理事長をやるなど、普通の大学教員とは違う人生を送ってきたし、大学の臨時職員の労働問題にも関係してきたのに、この10年ほどに急速に規制緩和された非正規職員の雇用問題を知らなかった自分が恥ずかしい。派遣職員の彼女と労働条件などを話す中から、彼女の待遇を出発点として、大学における労働者のあり方を大学側担当者と意見交換し始めた矢先の、今回の世界的不況の襲来だ。

この年末に職を失う非正規職員数は、当初の甘い予測をはるかに越え、8万人以上だという。多くは、事業所の一方的な都合による契約打ち切りだと知って驚愕した。契約を打ち切られた労働者が労働組合を結成し、昨日まで働いていた工場正門でビラを配っているニュース映像を見たが、ほとんどの職員がビラを受け取ろうともしない風景にまたまた愕然とした。「労働者の連帯」はどこに行ったのか。

我が大学は5月のゴールデンウイークやお盆には、7日から10日間ほど大学全体が休みに入る。経費節約のためであろうが、大学の都合の休みである。にもかかわらず、この期間は派遣の人には給料は支払われない。いつでも雇用者の都合で契約が打ち切られる今回の事態と変わらない。正月休みが明けたら、彼女とももっと深く話し込んでみたいと思う。久しぶりの年内の雪であったが、楽しめる寒さではない。(石田紀郎)


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