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リレーエッセイ:変革を求められる日本の食卓

ギョーザ中毒事件、輸入食料の値上げ・・・

ギョーザ中毒事件が日本の食卓に影響を与えている。消費者は問題の発端となったギョーザだけでなく、中国製の冷凍食品や輸入食品全体を買い控えているという。今回の事件は、食べ物が食卓から離れた場所で作られている問題そのものを露呈させた。メディアが繰り返し報道しているように、どの生産過程で中毒を引き起こした物質が入ったかという原因の究明は大切だ。しかし、どの工程で入ったとしても、原因が特定困難な食品流通の実態そのものも同時に問うていく必要があるのではないだろうか。行政や企業がいくら改善しても、問題の根っこが解決するとは思えない。

中毒事件が紙面を賑わす片隅で、農林水産省が4月から輸入小麦を3割値上げする、というニュースが流れている。日本は小麦需要の9割弱を輸入に依存する。昨秋の値上げ(1割)でもパンや麺類の価格への転嫁が行われていただけに、食卓への影響は必至だ。小さなパン屋や麺類業界、関連企業への打撃も計り知れない。食品メーカーも再度の値上げに踏み切る可能性が高く、消費者は買い控えを行うと思われる。

値上がりしているのは、何も小麦だけではない。石油や穀物価格の高騰で輸入食料全体が値上がりしている。ロシアや中国では、自国の食料確保のために輸出規制を始め、日本の食料輸入は早急に見直しを迫られそうな状況だ。政府はどのようにして乗り切ろうとしているのか。農水省は4月から食料安全保障課を設置し、輸入への依存度が高い小麦、大豆と、家畜に与えるトウモロコシなどの飼料作物について、現在の備蓄水準を引き上げる、としている。現在の備蓄水準は、民間在庫を含めて小麦で2.3ヵ月分(政府備蓄1.8ヵ月分)、大豆で約1ヵ月分(同0.5ヵ月分)、全量を輸入に依存する飼料穀物で2ヵ月分(同1ヵ月分)。自給率が低い大豆は、わずか半月しか備蓄していないのが現状だ。

それならば日本国内での増産なり、あるいは地産地消の取り組みを活発化させればよいと思うのだが、どうもそうならない。その背後には、農協や大手食品メーカーの思惑があるのだろう。輸入食品は大きな利幅があるので手放したくない、というのが本音と言える。2007年度の食料品の輸入額は5兆3000億円。2006年の日本の国内農業生産額8兆5000億円と比べても、非常に大きい。

とはいえ、この春から、さらに食品価格が値上がりする以上、結果的に、手軽で安い加工品に頼る食習慣も見直され始めるかもしれない。現に、この間の石油や食品の値上げを受けて、メディアでは光熱費や食費の節約術が盛んに取り上げられるようになっている。加えて、ギョーザ問題をきっかけに、加工食品の問題点や食のあり方に対する関心は、確実に高まるはずだ。その潜在的なニーズを、それぞれの場所で新たな力に変えていくことが求められていると思う。今だからこそ、有機農業や地産地消の大切さを多くの人々に語りかけ、食や農に関する取り組みを深めていく必要があるのではないだろうか。(松平尚也:研究所事務局)


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