タイトル
HOME過去号48号

主張紹介―生産・消費の連携をめぐって

はじめに

90年代初頭に設立された安全食品事業協同組合は当初、よつ葉グループも含めた産直企業・生協を結集する組織として構想されたが、よつ葉の独自商品に関する物流部門への転換を経て、この4〜5年はよつ葉グループとよつ葉以外の生産者とをつなぐ「人と情報の交流」を担う組織として活動を展開してきた。その主旨は、「生産者と消費者が手をむすび、よりよい食べものを開発し、自ら作り出し、供給していくために、共同の商品開発・仕入・輸入・宣伝・教育など、あらゆる分野での共同事業を推進していくこと」である。しかし、「食」をめぐる社会状況の変化、よつ葉グループ内部での機構変化に伴い、組合独自の存在意義を再考する中で、新たな活動形態の必要に迫られ、昨年11月の総会をもって活動を休止することになった。最後の事務局長を務めた鈴木伸明氏に、今後の展開に向かう問題意識を記してもらった。

食の事業について考えること

「食」に関わる仕事に携わって、はや30年ほどになる。当然のことだが、時代状況の変化はもちろん、その変化に向き合う主体的な対応もずいぶん変わってきた自身を見出す、この頃である。

高度成長期の「大量生産、大量消費、豊な社会」を、まるで戦後社会の「進展」でもあるかのように謳歌する風潮が支配的な時代の中、当初は、高度成長によってもたらされた負の側面に焦点をあてるところから、社会批判を展開するスタンスで「食」に関わりはじめたと思う。切り捨てられ、押しつぶされた事柄の大切さについて再認識し、失われつつある「大切なもの」を食の分野で復権させることが中心課題だった。テーマは、「食の安全」「生産と消費のつながり、お互いが見える関係」「有機農業」。

生産と消費の関係では、流通が主な仕事であったこともあり、対等な関係性を求めつつも、消費の側により重きを置いた事業であったように思う。とはいえ、安全な食品を求める消費者と農業つぶし、小規模事業者つぶしに抗し、有機農業・伝統的な食品のよさを訴求する生産者との直接的な連携が生まれ、進展した。その動きは2000年末頃まで順調に広がり、相対的にはまだ少数派であったが、社会的な影響力を持つまでになった。

転機となったのは、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)の「改正」である。資本主義的に言うならば、「安全な食品」は一定の「市場」を形成する力を持つテーマとなって、資本主義市場への取り込みが始まったのである。そのための法整備が、JAS法の「改正」ということになる。資本主義の仕組みの「柔軟さ」と言うか「狡猾さ」と言うかは別にして、社会批判の思想としての位置付けで意欲的に進めてきた事業理念が希薄化され、相対化され、勢いを失うこととなった。とくに、比較的小規模のグループとしては存続の危機に立たされた。「新たな事業理念・思想」を求めなければ、事業そのものを続けていく意欲も失うことになる。思想としての安全な食べ物が、単なる「商品」でしかなくなってしまう――、その意味は深いのである。

こうして、新たな理念を求める必要に迫られることになった。「食」の問題をもっと広い視点、社会のあらゆる事柄と密接につながっているという観点から問い直すこと。再びそこから始める必要があった。元気の出る源泉を見出す作業である。ここ数年間の中心的な問題意識は、そのようなものであった。そして、始めてみれば、「食」に関わる問題について資本主義的な仕組みからこぼれ落ちる事柄がいかに多いか、日々発見することとなった。農業と工業生産・労働のあり方、資本主義的な仕組みが農業を劣位に置くことになった理由、人と自然の捉え方、社会そのもののあり方、等々について考えを巡らし、有志と議論することが楽しい作業となってくる。

生産・流通・消費を一つの事柄として考えるべきだ。それらが細切れに分断され、対立関係に作り変えられてきたことこそが問題なのだ。当然、そこに至るまでに果たした流通の役割は、犯罪的なほど大きい。この点を自己批判し、「望むべき」関係のあり方を構想していくことは、次の社会のあり方を考えていくことにつながるように思える。そんな観点での事業展開は可能ではないか、試行錯誤を続けていく意味があることだ。そう考えるに至っている。

「食」の問題は「食」の分野だけでは解決できない。これもまた然り、である。全ての出来事がつながっているわけで、様々な分野で、次の社会のあり方を求める力が、一つの社会的な力となる方向で連携・共同が進んでいくことが不可欠だ。そんなことを夢見ながら切磋琢磨する時が今ではないか、そう考えることにしている。(鈴木伸明:元・安全食品事業協同組合事務局長)


200×40バナー
©2002 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.