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活動報告―釜ヶ崎フィールドワーク

はじめに

当研究所では、これまでほぼ毎年、よつ葉グループ全体に呼びかけ、大阪市西成区にある日雇い労働者のまち「釜ヶ崎」へのフィールドワークを実施してきた。よつ葉グループは「食の安心・安全」に関わる事業を軸にしているが、それは単に食材や加工・流通といった個別領域にとどまるものではない。「格差社会」と言われる今日、さまざまな事情から、毎日の食事も満足に食べられず、野宿を強いられる多くの人々が存在する。そうした現状を直視した上で、深く広い視点から「食」のあり方を考えていくことが求められるだろう。以下、初めて訪れた参加者の感想を掲載する。

打開の道は人の連帯にこそある

越冬の時期に訪れるからか、寒風と曇り空は釜ヶ崎の殺伐とした空気をいっそう際立たせていた。フィールドワークの参加者は同じ大阪に住んでいても、野宿生活や日雇い労働、釜ヶ崎についての実情をほとんど知らない。だから初めて訪れると、あの独特の雰囲気にたじろいでしまう。しかし、野宿生活者に対する一般的なステレオタイプは、解放会館や当事者である野宿生活者の方々との会話を経て、容易に払拭される。

語弊を承知で例えるなら、生産調整のために廃棄される農産物のように、経済成長の弁として労働者は、その状況に応じて廃棄(非正規、賃下げ、リストラ、過労働)の対象となる。それが資本主義のルールであり、釜ヶ崎はその縮図として今日に至ってきた。しかし、歴史的に固定化されてきた釜ヶ崎の問題は、すでにこの地域や個人に限定されたものではなくなった。不安定雇用やワーキングプアは、若い世代や女性、高齢者を中心に「釜ヶ崎の分散化」として拡大している。野宿生活者へのステレオタイプは、ある意味「市民権」を得て、それらの持つ偏見を徐々に曝け出している。

そして釜ヶ崎という「地域」への運動団体、NPO、教会による炊き出しやカンパなどの支援は、「分散化した釜ヶ崎」のような不特定多数への新たな対応を必要とする。また、扇町公園の「最後のセーフティーネット」(釜ヶ崎パトロールの会・中桐氏)による夜回りや生活相談など、差別的行政に抗する感嘆すべき「仲間の連帯」は、分散化した状態では困難になる。しかもそれはインターネット上ではない、「血の通った連帯」が要求される。

「釜ヶ崎フィールドワーク」やよつ葉の会員に呼びかける「越冬カンパ」を継続させ、各所でその萌芽を見せはじめた「生存権」を勝ち取るための新しい運動や連帯が横一列で繋がれば、釜ヶ崎周辺を累々と形成してきた構造は転換を迎えることになるかもしれない。「生きる」ことが大前提になったとき、打開の道は人が連帯するしかないことを、私たちは震災で、既に知っている。(高木隆太:関西よつ葉連絡会事務局)

◆   ◆

今回の行程

【午前】32年間1日も休まず炊き出しを続けている「釜ヶ崎炊き出しの会」(稲垣浩・代表)の梅沢さん・中田さんに案内いただき、釜ヶ崎地区内を見学。野宿者追い出しのため、学校の塀に設置された散水設備、日本で唯一、仕事紹介を行わない「あいりん職安」など、差別行政のあり様を実感。住民票消除問題の舞台となった「釜ヶ崎解放会館」で炊き出しの会の皆さんと交流。

【午後】大阪市北区の扇町公園へ移動、テント村の皆さんや釜ヶ崎パトロールの会と交流。空き缶探しの苦労、テント村の秩序維持など。コーヒー、自家製の大根漬けをごちそうになる。その後、最近、行政による追い出しがあった中之島公園を見学し、元住人から話を聞く。「元気なうちは自分で何とか稼ぐ。強制排除はやめてほしい」。


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