タイトル
HOME過去号50号

視察報告:食育と地産地消―愛媛県今治市

食育と地産地消:今治市視察に参加して

地域にこだわってユニークな実践を進めている各地を訪問し、我々の地域に対するイメージを豊富化させよう―。そんな問題意識で呼びかけた「地域」研究会だったが、諸般の事情で、ほとんど稼働できないまま休止のやむなきに至った。唯一実施したのが、今治市で地産地消と食育を結びつける試みに取り組んでこられた、市職員の安井孝さんによる講演会である。今回は議員視察団を中心に、安井さんが紹介された現場を訪問し、当事者からお話を伺った。

当事者からのお話

世間の食の安全への関心は、ここ数年にわかに高まっています。マスコミでは「衛生管理の強化」や「企業倫理の向上」が声高に主張されています。しかし、食の安全確保は規制の強化やモラルで解決できる問題ではなく、生産・流通・消費の関係性そのものを問わなければならないと思うのです。多くの市民はこれまで値段と賞味期限の表示ばかりを意識し、「どこで、誰が、どのように」食べ物を作っているのかということに、あまりに無関心すぎたのではないでしょうか。

◆  ◆

こんな思いから、2月4日、5日に愛媛県今治市の「食育」「地産地消」に関する取り組みを、よつ葉グループ関係者や近隣自治体議員の皆さんとともに視察しました。今治市は人口約17万5000人、松山市に次ぐ県下第二の都市で、タオル生産や造船、大島石、菊間瓦などで有名です。温暖な気候に恵まれ、柑橘類、木材などの農林業、鯛、ヒラメ、車えびなどの漁業も盛んです。

今治市では83年、学校給食の自校調理方式と地元食材の優先使用を開始します。そこには、市長の選挙公約実現という政治的な背景があると聞きました。88年には「食糧の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」を採択し、有機農業の振興、地産地消と食育の推進を行ってきました。そして06年には「食と農のまちづくり条例」を制定し、都市宣言の内容を着実に実行するための施策展開を担保しています。

この条例は農林水産業者、食品関連事業者の役割、市の責務を明確に示し、地産地消推進基本計画、食育推進基本計画、地域農林水産業振興基本計画、有機農業推進基本計画を全庁的な取り組みとして行うことを謳うものです。役所の仕事はセクショナリズムに陥る傾向が強いものですが、それを排除しようとする思いが伝わってきます。

実際、学校給食では地元の安全な食材が使用されています。市職員の説明では、給食で使用される野菜の40%が地元産、週三回の米飯は100%地元産の減農薬米です。子どもたち自身が地元食材を使って食べてみたい献立を考える「アイデア献立コンクール」があり、大賞の献立は学校給食に採用されるという大胆な企画も行われています。また、地元のJAが大規模な直売所を開設したり、大手スーパーでも地元農産物の販売コーナーを設置するなど、積極的な取り組みを推進しています。地域全体に地産地消の機運が醸成されているように感じました。

◆  ◆

生産者については、立花地区で有機農業を営むNさん方を訪問しました。お話によれば「かつては農薬や化学肥料を多用し、“もうかる”農業を営んでいた。しかし、農薬の影響や食生活の乱れから家族みんなが体調を崩してしまった。それを契機に働き方と農業のやり方を考え直し、有機農業に取り組むようになった」とのことです。現在では、「販路が安定的に確保されていること、地元の人、特に給食を食べる小学生に喜んでもらえることが“やりがい”につながっている」そうです。

ちなみに、Nさんは松山市に拠点を置く「愛媛有機農産生協」の設立にも尽力されたそうです。立花地区は今治市の中でも有機農業の先進地域ですが、こうした生産地があってこそ地産地消も可能になるのだと、改めて気づかされました。

また、給食のコッペパンを地元小麦で生産している製パン工場も視察しました。国産小麦は麺類に適して、パンには向かないと言われてきました。パン工場の社長が市長の熱意にほだされて今治産小麦でのパン作りに挑戦。研究機関などの協力も得ながら、美味しいコッペパンの生産に成功したのです。

◆  ◆

ところで、地産地消の給食は実際、どれほどの食育効果をもたらしているのでしょうか。この点は、85年に小学校3年生だった子どもが26歳に達した03年、今治市が実施したアンケート調査によって検証されています。その結果、市内の地場産給食を食べた子どもたちは、大人になっても食材購入に際して「産地や生産者が確かであること」「なるべく地元産であること」に注意を払う一方、一般の給食を食べた人は「安価であること」「見た目がきれいであること」などを重視していることが分かります。この間、食育基本法の成立などを背景に、全国の自治体でも食育の推進が課題となっていますが、部分としての「食」だけでなく、地産地消をはじめ農業政策と連携することが非常に大切だと感じました。

一昨年12月に施行された「有機農業の推進に関する法律」では、地方自治体の責務として、有機農業推進のための施策を総合的に策定し実施すること、農業者と消費者の協力を得て有機農業を推進すること、が明記されています。今治市の取り組みに学び、川西市においても地産地消、食育などを総合的に推進するよう働きかけていきたいと思います。 (北上哲仁:兵庫県川西市議会議員)


200×40バナー
©2002 地域・アソシエーション研究所 All rights reserved.