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活動紹介―「農を変えたい!全国集会」に参加して

はじめに

一昨年12月に成立し、施行された「有機農業推進法」。法制化に向けた運動を担ってきたのが、「農を変えたい!全国運動」だ。これまで農政はもちろん、主流派農業団体から歯牙にもかけられなかった有機農業。それが、法制化によって社会的認知を得たことは間違いない。時代は確実に変化している。とはいえ、「制度」となることで、換骨奪胎される危険が生じるのも、また確か。法制化運動以上にねばり強い実践が必要との観点から、継続的な取り組みが行われている。その一つ、「全国運動」の主催で開かれた集会に参加した田中昭彦さんに、報告と感想をお願いした。

これからの有機農業運動に問われるもの

3月に北海道江別市の酪農学園大学で「農を変えたい!全国集会」がありました。初日は第2回有機農業技術総合研究大会と畜産分科会、2日目は午前中だけでしたが第3回大会の本集会に参加しました。「有機農業推進法」が成立する一方で、食品偽装・中国餃子事件による「食の不安」という社会状況を反映し、主催者・参加者ともに勢いを感じる集会でした。参加したのは短い時間でしたが、技術的な話も含めて非常に参考になる話が聴けました。とくに畜産分科会の北里大学八雲牧場の萬田富治さんや興農ファームの本田廣一さんの話は、よつ葉の畜産部会で取り組んでいる飼料の地域内自給の課題に関連していることでもあり興味深いものでした。

声を掛けていただいた「農を変えたい!」代表の中島紀一さんに「よつばの学校」の講師をお願いしたときに少し話をする機会がありました。「自分も農薬や化学肥料への依存をやめて持続可能な自然な農業に戻っていくべきだと思いますが、それが本来の農業の姿だと思います。それを無理に有機農業と呼ばなくていいのでは」と尋ねたら、「僕もそう思いますよ」という言葉が返ってきました。意外な答えでしたが、「農を変えたい!」の運動を過去の有機農業運動を超えた運動していきたいという意気込みだと勝手に理解しました。しかし、もしそうなら、それを実際の運動の中で展開していくのは大変なことだと思います。今後の活躍に期待しつつ、今回せっかく集会に参加させてもらったのですから、この機会に、有機農業運動を自分なりに再考してみたいと思います。

よつ葉の地場野菜の取り組みは、高齢化・離農・耕作放棄が大きな問題になっている地域の農業が現場です。大阪の能勢町と高槻市、京都の亀岡市と日吉町の四地区で約400軒の小規模農家が登録している摂丹百姓つなぎの会。それらの農家から出荷されてくる野菜を、セット企画や単品企画として、よつ葉の会員に配達しています。こちらから注文した分だけを農家から引き取るのではなく、毎日出荷されたものを全部引き取るのですから現場の仕事は大変です。しかし、そんな地場野菜の取り組みの現場「よつば農産」で働いていた頃に有機農業の大きな産地だけでなく、圧倒的な数の小規模農家ときちんと向き合うことの大切さを学びました。

現在、慣行農業と呼ばれているものは、もともと国の政策で押し付けられてきたもの。明治政府以降、上からの改革として農業の近代化が進められてきた結果なのです。つまり、日本の気候風土の中で培われてきた農業である稲作や野菜づくりを、お上の方針で捻じ曲げられてきた結果が現在の慣行農業だと思っています(現在の農政も新農業基本法のような大規模・経営効率追及路線、まるで欧米型「緑の革命」のリメイク版みたいな法律を作って、性懲りもなく「上からの改革」を進めようとしているようですが)。農業を支えてきた小規模農家こそ農政の被害者であり、その広範な人々が参加していく運動でなければ、農業の現状は変えられないと思います。

かつて有機農業運動は少数派であり、お上に対しては「反農政(体制)」の立場だったと理解しています。しかし、いわゆる慣行農業を押し付けられた小規模農家の人々との関係は、長い間緊張関係にあったようです。歴史の一時期にしろ「被害者」と「加害者」の関係がムラの中に存在していたことは、その後の有機農業運動のあり方に少なからず影響を与えてきたのかもしれません。JAS有機認証制度の成立過程、現在のJAS有機の全国の認証率がわずか0.16%という状況は、慣行農業の小規模農家にとって農政とは違う立場からの圧力にしかなっていないという意見もあります。


畜産分科会のもよう

食品の6割以上を輸入に頼っている日本では、世界的な穀物相場の高騰がそのまま食品の値上げにつながっています。穀物相場高騰の結果、前年比で小麦が3倍、大豆・とうもろこしが2.5倍だとか。地球温暖化という環境問題を名目にしたビジネスチャンスとしてのバイオ燃料の生産が穀物を原料にしていること、エタノール用の植物(とうもろこし、さとうきび、ヤトロファ)への転作が各国で広がっていることの結果、世界の穀物在庫率は14.7%、危険水域といわれる17%を大きく下回っています。

すでに始まっているアジア・アフリカでの食糧危機は、エジプト・カメルーン・コートジボアール・セネガル・ブルキナファソ・エチオピア・インドネシア・マダカスカル・フィリピン・ハイチなどの各地で抗議デモや暴動という形で表面化しています。農業の破壊的な状況が続く中、対抗していくためには、食の地域内自給を確立し、農薬や化学肥料に依存しない自然の営みに任せた本来の農業に戻っていく必要があると思っています。

「農」研究会で学習したザイール共和国(現在のコンゴ民主共和国)の、ある部族の自給的農業(焼畑農業)は「人の関係」、「村の掟」なくしてはできないとか。焼き払う前に木を切り倒したりする、しんどい仕事は男どもがして、女の人は種まきや栽培の仕事、高齢者や未亡人の畑は村のみんなで手伝うのだそうです。だいたい3年から5年のサイクルで畑をまわしていくのですが、畑は部族のものなので、次にどのくらいの畑をやるかは、部族の長が決めるそうです。

そんな地域の関係が現在の日本でどのように再構築できるのか分かりませんが、食の地域内自給にとって地域や人の関係が不可欠であることは間違いないと思います。そして、地域や社会を足元から変革していく立場との共闘こそ、これからの有機農業運動に問われているのではないかと考えています。(田中昭彦:関西よつ葉連絡会事務局)


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