このたび、わずかではありますが、4名の女性シンガーの曲を聞いてみました。
その女性シンガーとは、高名な、したがって私でも以前より名前だけは知っていた、山本潤子さん、大橋純子さん、高橋真梨子さん、夏川りみさんの4名です。
時間の関係で全曲を聞くのは無理なので、今回もベスト盤を聞きました。また、全盛期のお若い頃のボーカルを対象とするようにしました。
○山本潤子・・・1970年代に活躍したフォークorポップグループ、赤い鳥のボーカルを担当されていました。その後、ハイファイセットのボーカルとしても活躍されました。女性としてはやや低めの声域をお持ちです。ボーカルから受ける印象としては、どちらかというと男性らしい力強さ、武骨さがあります。少なくとも女性アイドル歌手から受けるような、華奢で軽い感じはありません。声量、発声の伸びなど技巧的な部分も一定のレベル以上です。何よりも一番魅力に感じたのは、技術だけでは説明できないその「味わい」です。「翼をください」「竹田の子守唄」などの曲の情緒を、ここまで聞く人の心にしんみりと浸透させたのは、この人のボーカルの「味わい」があったからこそでしょう。個人的には、この4名の中で、そのボーカルに1番感銘を受けた方でした。
また余談ですが、赤い鳥というグループの曲作りは実に非凡であり、先進的なセンスを感じました。決して月並みなポップグループではありません。曲の入り方、曲の展開の仕方、楽器音の入れ方、楽器の組み合わせ方、コーラスの使い方など、30年以上前のグループとは思えないほど、今聞いても斬新で革新的です。自信はありませんが、ビートルズの影響を感じました。
○大橋純子・・・声量、声域の広さ、発声の巧みさなど、技巧的な面では、この4名の中でおそらく1番だと思いました。それぞれの音程を巧みに操り歌いこなす様は、まさに自由自在という感じで、シンガー界の韋駄天の如しです。この人のボーカルの特徴は、その華やかさです。ルックスから受ける雰囲気も含めて、歌に華があります。そういうボーカルで、おしゃれな都会を彷彿とさせるポップスを華麗に歌い上げています。都会派だと思いました。
○高橋真梨子・・・1970年代のポップスグループ、ペドロ&カプリシャスのボーカルをされていたときに注目され、今でも根強い人気を誇る女性シンガーです。おそらくこの4名のシンガーの中では、今でも1番の人気を誇っておられる方でしょう。主に、歌謡曲風の当たりの柔らかいポップスをレパートリーとされており、フォーク調やロック調の曲、アップテンポの元気な曲は余り歌われないようです。大橋純子さんに比べると女性らしい情を感ずる艶っぽいボーカルであり、細やかな女心をときに激しく、時に静かに強弱をつけて歌い上げる表現力は非常に巧みです。また、ルックスも大人の女性としての魅力にあふれており、その歌唱力と共に、聞く人にその曲の感動を十二分に伝える役割を果たしています。そういう意味で、女性にもファンが多いのも納得できます。
○夏川りみ・・・この4名の中で1番高い音程を持っておられる方だと思います。石川優子さんと同じく、透明感のある、きれいで素直な声が特徴で純音系の発声をされます。ただ、石川優子さんは演歌で言うところのこぶしというか、少し力を込められるような声の出し方が散見されますが、この方の場合は、概ねさらっとした声の出し方をされます。レパートリーとしては、ポップス系の曲も歌われますが、沖縄の民謡調の、きれいで、ゆったりとしていて、聞いていてなぜかほっとするような柔らかな曲が多く、またそういう曲調のほうが、この方のボーカルに合っていると思いました。曲調からすれば、純情系といえると思います。
これらの方々のボーカルを聞いたとき、少し悔しいけれども、石川優子さんより上かも、と思いました。これらの方々はシンガー専門の方々であり、うまいのは当たり前といえば当たり前なのですが・・。
もちろん、それぞれのボーカルには、数値化できないその人なりの味わいや特徴があるわけで、また聞き手の好みもありますから、単純に比較できないのは承知しております。しかし、歌唱力や、特に曲の情緒を解釈して聞き手に伝える表現力では、さすがに石川優子さんよりこれらシンガーの方々のほうが、1枚上手と認めざるを得ませんでした。
ただ、本編でも述べたように、石川優子さんの歌唱力や表現力は、決してファンびいきではなく、かなりいい線にいっています。これらシンガー専門の方々のボーカルと比較しても、そう大きく見劣りしません。
これらシンガー専門の方々の歌を聞いてから、改めて優子さん以外のシンガーソングライターのボーカルを聞いてみたのですが、八神さんを除いて、少し薄っぺらな感じがしました。音程など技術的な部分は一定のレベルをクリアしているのですが、何か物足りない。特に曲の情緒を自分なりに解釈し表現して聞き手に伝える、という部分でもう一味足りない気がしました。少し大げさにいえば、曲の上っ面をなぞって何とか歌っているだけという感じです。もし、もっと歌のうまい方が歌ったら、この曲はもっと生き生きしたのではないか、と思う場合もありました。
以上、これらのシンガー専門の方々の曲を聞いて改めて痛感した、石川優子さんの特徴というか良さがあります。
それは、「石川優子さんは、ルックス、歌唱力、作詞作曲能力の3つをバランスよく兼ね備えた総合エンターテイナーであり、このような女性アーティストはめずらしかった」ということです。
野球でも、走、攻、守そろった選手はそう多くはいません。打撃はよいが守備に少し難があったり、守備がよく足も速いが打撃がいま一つだったり、これは漫画ですがドカベンのように守備と打撃は一級品だが足が遅かったり、この3つがそろった選手というのは中々いないものです。
これと同じように、女性アーティストの中で、この3つがそろっている方はそう多くはなかったのではないでしょうか。
女性シンガーソングライターの方々は、作詞作曲能力ではすばらしい方々ばかりだと思いますが、おおむね歌唱力という点で少し難がある方が多いように思いました。
また、シンガー専門の方々は、さすがに歌唱力は素晴らしいですが、基本的には作詞作曲はされません。わずかに高橋真梨子さんが少し作詞をされるのみのようです。
このような意味で、石川優子さんは希少なタイプのアーティストであり、もっと評価されてもいい女性アーティストだったと思います。