〔Ⅰ〕                                《メニューへ戻る》

 ファンになるのに理由はいりません。「よかったからよかった」のです。ですから、ファンがアーティストを分析すること自体、あまり意味がないといえばそういえると思います。
 しかし、今まで石川優子さんの曲を何となく気に入ったから聞いてきましたが、石川優子さんの作品について、ちゃんと考えたことがないことに物足りなさを感じるようになりました。よって、過去をしっかり見つめ直しておきたいという思いもあり、私の青春時代に彩りを与えてくれた石川優子さんを自分なりに分析してみたくなりました。大げさにいえば、素人による、<独断的石川優子論>です。
 その際、特に私のような素人には、石川優子さんだけを見てもはっきりわからないので、限定的ではありますが他の女性シンガーソングライターの曲も聞き、比較するという方法を取りました。全体の構図の中で石川優子さんの位置を見るようにした方が、石川優子さんの特徴がよくわかるのではないかと思ったからです。

レットミーフライのジャケット写真です
コッキーポップコレクションDVD vol.1 のメニュー画面の写真です。この写真は、1979年7月5日発売のセカンドシングル「レットミーフライ」(作詞作曲 石川優子)のジャケットにも使われました。

〔Ⅱ〕

<1>
 石川優子さんは、1980年代に活躍された女性シンガーソングライターです。
 1979年にデビューされ、1990年に引退されるまで、15枚のオリジナルアルバム、3枚の特別企画アルバム、24枚のシングルを発表されました。その間、「シンデレラサマー」「ふたりの愛ランド」などのヒット曲が有名です。
 こうやって振り返ってみると、わずか11年間の音楽活動にしては、驚異的な創作量です。その間、コンサート活動もしながらですから、尚更です。
 残念ながらメジャーな人気を博するまでには至りませんでしたが、このような真摯で地道な創作活動や公演活動が実を結び、また素直できれいな発声、やさしく親しみやすい笑顔もあって、現役中は熱心なファンを獲得しました。私個人としては、キャラクター的には芸能人っぽくない、気さくな雰囲気も魅力の一つでした。
 引退から25年たった今でも、まじめで根強いファンから、また引退後ファンになった人から、現役中と変わらぬ熱い応援が寄せられています。(これもかなり驚異的なことです)

<2>
 さて、比較対象の女性アーティストは、女性アーティスト紹介サイトFEMMEを参考に、私の好みで選びました。それらの方々のすべての曲を聴くことは経済的にも時間的にも不可能ですので、ベスト盤を主に聞きました。
 以下は私の独断で、私自身、音楽的素養などなく、たぶん的外れのことばかりかと思います。素人の評論ゆえ、広い心で読んでいただけたらと思います。

○五輪真弓・・・曲も詞もいかにも芸術家というオーラを感じました。その分曲調も重く私には少し近寄りがたく感じました。
○松任谷由美・・・いわずと知れたニューミュージック界の重鎮です。ですが、私にはユーミンの偉大さがよくわかりませんでした。軽快なポップス調の曲もありますが、それ以外の心にしみる曲は基本的には人生の寂しさ、はかなさが感じられて、私には今ひとつ楽しめませんでした。女性やもう少し感受性豊かな人ならユーミンの素晴らしさがわかるのでしょう。また少し引っかかるような歌い方をされるのが気になりました。
○中島みゆき・・・この人も超有名なアーティストです。この人の特徴は独特な感性で物事を洞察する作詞能力にあるのではないかと思いました。悪く言えば屈折したような性格が、人の心に突き刺さる非凡な詞を生み、時に悲しく時に攻撃的な曲調と相まって大きな感動を人に与えているのではないか、と思いました。
○谷山浩子・・・全体的に純朴というか、純真な子供の世界を思い起こさせる曲を書かれる人です。世間ずれしていない、この人の人柄を表しているように思いました。比喩や象徴を通して感情を表現する作詞能力も印象的でした。ただ、声量がもう少しほしいということと、曲に色艶がもう少しほしい感じがしました。
○尾崎亜美・・・編曲までこなしてしまうこの人は、なかなかのメロディメーカーだと思いました。きらりと光る数々のメロディが印象的でした。ポップス調の曲が中心で、玄人っぽい洗練された曲作りをされます。また、どこか遊び心が感じられ、曲に茶目っ気というか、ゆとりが感じられます。私はユーミンよりこの方のほうが好みでした。
○八神純子・・・メロディアスな曲を書く人だと思いました。声量、帯域とも広く、畳み掛けてくるようなボーカルも印象的でした。また、曲にどこかゴージャスな雰囲気があります。ただ、余程高域の発声に自信があるのか、高域のボーカルを多用しすぎるような気がしました。
○岡崎律子・・・一般的に言えば、歌は下手です。ただ、不思議とまた聞きたくなるボーカルでした。か細いながらも明日への希望を歌うボーカルにはどこか力強さが感じられました。曲調は全体的に押し付けがましいところがなく、清潔感、透明感に溢れており、一種独特の世界を作っています。清純派だと思いました。
○岡村孝子・・・この人の曲は、聞いていると不思議と明るい気分になります。詞の内容に関係なく、「青春讃歌」という言葉を連想しました。そういう曲を素直なボーカルで淡々と歌い上げて、聞く人に雑味のないさわやかさを与えています。演奏に過剰な装飾を施さないあっさり目のアレンジもこの人の曲調にあっていると思いました。ただ、もう少し歌唱力がほしいです。青春系だと思いました。
○大貫妙子・・・この人の曲には少し前衛音楽的な匂いを感じました。メロディの進行、楽器の構成など独特で、他の方の曲にはない斬新さがあります。一方、前衛的ではありますが、曲の展開にはクラシックのような壮大さがあります。また曲に色彩を感じました。聞いていると何か色彩豊かな絵画を見ているような気分になりました。詞にしろ曲にしろ芸術的ですが、五輪真弓さんのような近寄りがたさは感じませんでした。ただ、これらは、編曲者の坂本教授の力が大きいのかもしれません。
○久保田早紀・・・この方は良くも悪くも「異邦人」の影響から抜け出せなかったのかな、という気がしました。初期の頃はシルクロード、そして南欧やメキシコを思い起こさせるアレンジで、「異邦人」の流れを引く曲が多いです。後半になるとポップス系のアレンジの曲に移行しましたが、いいと思う曲はどこか「異邦人」の流れを感じました。歌唱力は後半のほうがうまくなったと思いました。初期のころは高域に使う裏声の出し方にどこかぎこちないところがありましたが、後半はのびやかな発声になりました。
○熊谷幸子・・・明るさほどほどの重みのある曲調で、洗練されたポップス系の曲を書かれます。曲作りでは、幼少期に何らかの音楽教育を受けられたのでしょうか。どこか音楽的素養が感じられました。なぜか私のイメージでは岡村孝子さんとダブるのですが、ボーカルは岡村さんと同じく素朴で素直な発声で、この方のほうがやや歌唱力があると思いました。作曲と編曲は自分で手がけていますが、詞はユーミンも名を連ねるグループが提供し、編曲に松任谷正隆さんも入るなど、ユーミン関係のバックアップを受けていたようです。そう思って聞くと、曲にチラッとユーミンっぽさを感じるときがありました。

<3>
 以下、これらの方々と比較して私なりに石川優子さんの特徴をまとめてみました。なお、少なくとも作曲をされていれば、作詞はされていなくても、優子さんの自作曲として扱いました。

(1) 歌がうまい。声量、声域の広さ、表現力、なめらかさ、どれを取ってみても、決してファンびいきではなく、この中で1番です。優子さんのアドバンテージはほとんどこれに尽きるのではないか、とさえ思いました。八神さんを除き、他の方々ははっきりいって「歌も歌えます」という程度でした。

(2)「歌はあくまで趣味だった」と書いておられますが、第三者から見るとその歌唱力は趣味の域を超えています。某動画サイトにファンが、カラオケで優子さんの曲を歌った様子をupしていますが、その素人の歌唱と聞き比べれば、その差は歴然です。
 また、コッキーポップDVDvol1に収録されている「オーマイラブ」は、優子さんの歌唱力が本物であることを証明しています。この歌は、歌がうまくない人がごまかしごまかし何とか歌える曲でないことは、素人にもわかりました。
 この曲はバック演奏が控えめでほとんどボーカルを聞かせる曲で、声量、音程の正確さ、強弱のつけ方、微妙な表現力、ある程度の歌のうまさがないと、歌えない曲だと思います。

(3) コッキーポップDVD vol1に原作者の田島裕子さんとコラボで歌った「目をそらさないで」が収録されています。優子さんが歌った方がこの曲の情感がよく出て、いい曲になっていると思いました。同じ曲でもボーカルによってこんなに曲のイメージや印象が変わるものかと思いました。
 ボーカルはアレンジと同じくらいの影響力を曲に与えるのですね。やっぱり優子さんのボーカルの表現力は卓越していると思いました。

テレビ主演で「オリーブの恋」を歌っているときのワンショットです
1982年ごろ、テレビ番組に出演され「オリーブの恋」を歌われているときのワンショットです。

(4) 歌唱力のピークは「Spicy」から「フルセイル」のころだと思いました。西暦でいうと1982年前後ということになるでしょうか。声量の豊かさ、高域の素直な伸び、ボーカルの躍動感、円熟した技巧、このころが一番です(ただ録音がよいせいだけなのかもしれませんが・・)。以後、年数が経過するにつれ、わずかずつですがボーカルの衰えが感じられます。
 しかし、これは他の方々も同じであり、自然な経年変化なので特に問題ではありません。
 また、このころのテレビ出演のパフォーマンスを見ても、お若いこともあり動作は躍動感に満ちていますし、表情もはつらつとされ輝いています。
 歌唱力、体力、気力の面で、一番脂がのっておられたのはこの時期ではないかと思います。

(5) 比較的、情感をこめて歌う、いわゆる熱唱形の歌い方をされます。淡々とした歌い方はあまりされません。

アルバムNuanceでの写真です
1982年12月5日発売の7作目のオリジナルアルバム「NUANCE」の歌詞カードに付属していた写真です。

(6) 声質には女性らしい包み込むようなやわらかさ、おだやかさがあり、純音系のきれいな発声をされます。音程としてはメゾソプラノあたりでしょうか。いわゆる正統派です。とんがった所やハスキーな所、ゆがんだ感じはありません。それが、むしろ普通過ぎて個性がないと捉えられてしまうきらいもあったのかもしれませんが・・・。
 ですから、パンク調の曲、ロック調の曲、R&B調の曲は合いません。たとえば、もし優子さんが、Suzi Quatro や Janis Joplin、Avril Lavigne のカバーをしても似合わないでしょう(大体キャラクターからしてぜんぜん違いますが・・)。逆もまた然りで、例えば、Suzi Quatro が優子さんの曲をカバーしても合いません。

(7)「恋愛孤独人」ではR&Bにも挑戦しておられますが、どうしてもボーカルに日本の民謡調、演歌調のような感じが出てしまっています。残念ながら、あまりしっくり来ませんでした。

(8) 音楽の事から外れますが、ルックスのよさもピカイチです。笑顔がとても似合います。アイドル歌手並みです。そのせいか、シンガーソングライターとして見られることが少なかったのではないでしょうか。(私もはじめはシンガーソングライターだとは思いませんでした。ただ、この意外性も優子さんの魅力の1つでした)

(9) 11年間の音楽活動で非常に多くの曲を残されました。よくぞこれだけの自作楽曲を残されたものだと思います。まずそのことに敬意を表したいと思います。

(10) 作詞と作曲で、どちらが得意でどちらが不得意ということは特になかったような気がします。

(11) 他の方は曲のジャンルが大体決まっています。しかし石川優子さんの場合は曲のジャンルに統一感がありません。思うに、多くの編曲者を起用してきたせいではないでしょうか。(他の方は、編曲者は大体1人から3人位で、いつも決まった人だったように思います。つまり曲作りの方程式が決まっていたようです)
 いろいろなことに挑戦したい、という優子さんの前向きな姿勢もあるのでしょうが、反面、フォーク調の曲から、ニューミュージック系の曲、歌謡曲風の曲、演歌風の曲、バラード調の曲、ポップス調の曲、ロック調の曲と方向性が定まらない結果になってしまいました。
 逆に言えば、優子さんの曲には多面性があり、これも優子さんの魅力や特徴の1つであったともいえます。

(12) 全般的には、優子さんの曲にはどちらかというと地味で素朴な傾向があると思いました。豪華さや華やかさ、きらびやかさはあまり感じません。
 反面、どの曲にも一生懸命さや真面目さ、初々しさがあります。それはそれでいいのですが、あまり真面目一辺倒だとややもすれば退屈さにもつながってしまいます。どういったらいいのかわかりませんが、野球でいえば直球一辺倒ではなく、適度に変化球を混ぜた方が投球に幅が出るように、もう少し遊び心というか、適当さというか、いいかげんさというか、心のゆとりが欲しかったような気がしました。

(13) 詩の言い回しは素直な表現が多く、回りくどい凝った表現や比喩はあまり使われません。日常生活のエピソードに材を取って、どこにでもいる女の子の揺れる気持ちを素直に表現されることが多いように思いました(鑑賞された映画から材を取ることも多かったようです)。たとえば典型的なのが、お気に召すままハイウェイ、ロードショー、ガラスの中のラブストーリなどです。
 こういう親しみやすさも石川優子さんの魅力の一つで、庶民派といえると思います。

(14) 私の好みもありますが、比較的次の方が優子さんの良さを引き出す編曲をされると思いました。 
 ○大村氏が編曲を担当した曲
 (終わりのないラブソング、思い出模様、レットミーフライ、など)
 ○鷺巣氏が編曲を担当した曲
 (ジプシー、魔術師、過ぎ去る季節は美しく、Midnight Puppet、誘惑のプレリュード、
  サンタをひとり占め、など)
 ○瀬尾氏が編曲を担当した曲
 (愛を振り向かないで、ヴィーナスは泣かない、Sentimental Road、時を置いて、
  時の痛み、ドリーミードリーマー、君の大好きなチェリータルト、くちびるせつなくて、など)

(15) 総じて、優子さんに向いているというか、その才能が光ると思った曲は
 1.メローでスローでやや哀愁を帯びた曲
 (ラストソング、FlyAway、Fairwell、時を置いて、時の痛み、MidnightPuppet、
  Sentimental Road、愛を振り向かないで、ニールサイモンも読みかけのままで、
  Lonely Symphony、真夜中のメリーゴーランド、Still、微笑みたちの午後、
  瞬きのメモリー、など)
 2.明るくて軽くて、誰でも気軽に聞ける曲(アニメソングにも使えるような曲)
 (シンデレラサマー、ひみつ、夢色気流、ドリーミードリーマー、誘惑のプレリュード、
  サンタを独り占め、ミルキーウェイファンタジアなど)
だと思いました。

(16) 前述したように、優子さんは熱唱形の歌い方をされます。そして歌唱の印象としては、あっさりと乾いた感じはなく、ややベターとした感じというか、重い感じがあるというか、ドロドロ感があります。
 ですから、私は、案外優子さんは演歌系の歌にも才能があるのではないか、と思いました。ご本人は、あくまでニューミュージック系やポップス系を志向されていたと思いますが、これも多面性の表れだと思います。
 具体的には初期の曲になりますが、運命川、虚姿、眠りの中へ、などの曲に演歌の才能を感じました。また、これは優子さんの自作ではありませんが、沈丁花、そしてチリ音楽祭での悲しさ夢色の歌唱にも、その傾向を感じました。

(17) これも優子さんの多面性の表れですが、おもしろいことに、情念を隠さない演歌系とは真逆の、素朴で簡素なフォーク調の曲にも光るものを感じました。たとえば、終わりのないラブソング、Once More、などがそれであり、過剰な装飾をなどなく、小気味よくまとまっている、すがすがしい曲です。

(18) ジプシー
 優子さんの曲の中では、特に色彩を感じる曲です。力強く華やかさがあります。

(19) 神々の少女
 曲調は暗鬱な曲ですが、詞は現実の日常ではなく非現実の心象風景が表現されており、ロードショーの対極にある作品です。文学的な凝った表現はあまり使われない、庶民派の優子さんにしては異色の作品です。少したとえが下手ですが、今まで大衆小説を書いていた人が急に純文学を書き始めたような驚きを受けました。
 作詞においても、多面性があるのでしょうか。

(20) 時の踊り子、魔術師
 作詞作曲とも格調の高さ、豪華で洗練された雰囲気が感じられました。魔術師など、何かのドラマの主題歌にも使えるのではないでしょうか。

(21) 君の大好きなチェリータルト
 常に全力投球、直球一辺倒の熱唱形の優子さんにしてはめずらしく、力を抜いた淡々とした歌い方が感じられた曲です。特に出だしのフレーズにですが、このような聞き手にあえてそっぽを向くような、感情を殺した歌い方をされると、かえって追いかけたくなるし、歌唱の幅が広がり、さらに魅力が深まると思います。

(22) アルバム Sentimental Roadあたりからプロデューサーに石川優子さんの名が載るようになりました(accelerandoは除く)。また、カバー曲を別にすれば、恋愛孤独人あたりから全曲石川優子さんが作詞あるいは作曲に関係されるようになりました。ディレクターはヤマハやEMIの方が担当していますが、音源制作の全体的な方針に優子さんの意見が積極的に反映されるようになったのは、Sentimental Roadまたは恋愛孤独人あたりからなのではないかと思います。
 プロのアーティストとして仕事を任されるようになったという意味で、第1の分岐点だったと思います。

(23) アルバムタイトルの「生真面目で好き」と「月曜日のシャンプー」ですが、当時私はこのネーミングにはちょっと疑問でした。たしかに、人によっては「すばらしいタイトルだ」と評価しているのも知っております。しかし、学生が自分の作品につけたのなら学生らしくてよいと評価できますが、プロの作品のタイトルとしてはどうでしょうか。何か直截すぎるというか、単純すぎるというか、私には少し子供っぽく感じられました。私に感性がないからそう感じるだけだと思いますが・・。

(23b)私のオーディオ装置が悪いのかもしれませんが、優子さんのアルバムは録音状態があまりよくないと思います。
 各楽器の音の分離度、明瞭度が悪いですし、音の高低の幅(ダイナミックレンジ)も狭いです。それに全体的に録音レベルが低いと思います。
 ですので、音が全体的にもやもや、もっさりした感じでメリハリがなく、奥に引っ込んでいる感じで、拡がりがありません。
 さらに個人的に一番不満なのが、優子さんのボーカルが不明瞭だということです。ボーカルのレベルを下げて、各楽器の音の間に埋もれさせるようなミキシングがなされていると思います。
 Norah Jones、Taylor Swiftなどのアルバムを聞くと、ボーカルを前面に押し出し、もっと生々しく聞こえるように録音されています。優子さんはボーカルはうまいのですから、またそのボーカルが優子さんの曲を聞くときの最大の魅力の一つなのですから、歌唱力がないのをぼかすアイドル歌手のような設定は必要ないと思います。
 ただ、ラジオシティから発売されたアルバム、デビューから「シンデレラサマー」「スパイシー」「フルセイル」「フェリアの恋人」あたりまではまだ録音状態がいいです。特に「スパイシー」「フルセイル」あたりは、各楽器の音も明瞭ですし、何よりも、大事な優子さんのボーカルが非常にクリアに録音されており、声も前に出てきます。
 それに対して、「accelerando」あたりから録音状態が悪い傾向が始まり、東芝EMI移ってからのアルバムは総じて音がこもっている感じで、クリアでないと感じています。
 特に「Stupid Cupid」は、他のアルバムよりもボーカルにエコーをかけすぎていると思いますし、「微笑たちの午後」は明らかに録音レベルが低すぎです。そのせいか、優子さんのせっかくのボーカルも各楽器の音も奥に引っ込んでしまい、臨場感が削がれています。
 「微笑たちの午後」は曲もアレンジもいい出来なのに残念です。
 これらはどうしてなのでしょうか。
 アルバムの記載事項を見ると、アルバムによっては複数のスタジオを使っている場合もありますが、スタジオは主にEpicurus Studio を使っておられますので、機材の問題ではなさそうです(先述した通り、LPレコードで発売された初期のアルバムは録音状態はそんなに悪くないので)。それよりも、ミキシングの問題なのではないかと思います。
 どうしてこのような編集方針にされたのかわかりませんが、個人的には残念です。

ファイナルコンサートのツアーパンフレットの表紙です
1990年7月のファイナルコンサートに記念出版された「History Book」の表紙の写真です。

(24) 月曜日のシャンプー(Produced by Yuko Ishikawa です)
 1989年、デビュー10年目に発表されたアルバムです。全曲優子さんが作曲しており、半分は優子さんが作詞しています。
 優子さんも、OLでいえば若さはじける新入女子社員から中堅ベテラン社員となり、当然作風にも年齢なりの進化や変化が求められる訳で、それに対する優子さんの一つの解として制作されたアルバムだと私は解釈しています。
 制作方針というか主題としては、当時出演した音楽番組「きらり!熱々CLUB」のインタビューで、次のように語られています。

「仕事を持つ、私と同世代の女性が主人公で、彼女の目を通して日常の恋愛とか、人間関係とか、社会問題とかを見つめるという内容です」

その女性主人公とは、当然、主として石川優子さんご本人でしょう。
 このアルバムから今までとは少し傾向が変わってきたように感じられました。簡単にいえば、おねえさんから分別ある大人の女性らしい曲調へと変化を遂げた(第2の)分岐点に当たるアルバムだったと私はとらえています。
 初期の頃のような若さや元気さが少しずつ影を潜めてきたのは当たり前ですが、それよりも真面目ゆえの不器用さや初々しさがこなれてきて、あか抜けたというか、大人っぽい洗練された雰囲気が曲調に出て来たと思いました。accelerandoをさらに発展させたようなアルバムだと思いましたが、accelerandoから発展したと思った点はその点にありました。
 すみませんが、私にはアルバム全体の曲の印象がうら寂しく悲しい感じがして好きになれませんでしたが、よくできていると思った曲は、Lonely Symphony、真夜中のメリーゴーランド、ラッシュアワー・モニュメント、明日へ駆ける翼、Still でした。特に、なかなか優れたメロディだと思った曲は、真夜中のメリーゴーランド、Stillで、やはりメローでスローな曲でした。

(25) 微笑みたちの午後(このアルバムも Produced by Yuko Ishikawa です)
 1990年、図らずも最終作品となったアルバムです。月曜日のシャンプーの流れを引き継ぎ、曲調にアイドルっぽい傾向が無くなり、大人の女性らしい洗練された曲調に脱皮した第2弾だと、私はとらえています。
 主な編曲者は芳野氏で、「くちびるせつなくて」は瀬尾氏が編曲を担当しており、「Return to Myself」と「P.S. I Miss You」はツアーのバックバンドの皆さんが編曲を担当しています。全曲優子さんが作詞しており、12曲中9曲は優子さんが作曲しています。2曲はカバー曲で、1曲はコーラスアレンジも担当している村田氏の作曲です。
 私は月曜日のシャンプーよりこちらのアルバムの方が曲調に力強さがあり、好みでした。また、主たる編曲者を芳野氏一人に絞ったせいか、アルバム全体の統一感、まとまりはこちらが上だと思いました。
 いわゆる玄人っぽい作品であり、曲調に格調の高さ、大げさにいえば芸術性が感じられて、今までのアルバムの中で一番の出来だと私は評価しています。

  まず、1曲目の「最後のダンス」。
 前奏を使わず、いきなりコーラスからすっと曲に入ります。小説で言えばできるだけいらない言葉を削った方が、文章がよりわかりやすく印象的になる効果があるようなものです。今までの優子さんの曲にはあまりない入り方ではないでしょうか。この発想はすばらしいです。

 2曲目の「微笑みたちの午後」。
 アルバムタイトルにもなっている、主題曲です。主題曲を1曲目ではなく、あえて2曲目に入れるところは「生真面目で好き」でも使われている手法ですが、なかなかにくい演出だと感心しました。
 また、このネーミングもどこか深い余韻を残す感じがして、芸術的だと思いました。曲調もスローで柔らかく適度に大人の雰囲気があり、落ち着いて聞けるいい曲です。
 同様に、このアルバムにはネーミングにしろ、曲調にしろ、玄人っぽい洗練された曲が多いように思いました。

 「絹の瞳で眠りたい」。
 これも随分大人っぽいタイトルです。どこからこんなタイトルの発想を得たのでしょうか。accelerando の歌詞カードに寄稿された優子さんの散文に、「サガンの『絹の瞳』を読んで・・・」というフレーズがありますが、この本から材を得たのでしょうか。

 「P.S.I Miss You」。
 今までの優子さんのアルバムに大抵1曲はあった重いバラード系の曲です。これまでのこの系統の曲には何か暗く切ない感じがしてあまり好きになれませんでしたが、この曲は重いことは重いですが、どこか上質な心地よい雰囲気があります。いい出来だと思いました。

 「瞬きのメモリー」。
 この曲もバラード系の曲ですが、ほぼフォーク調ともいっていいほど、楽器の構成など簡素で、アレンジも素朴であっさりと仕上げられています。これもメローでスローな曲で、なかなか大人っぽい上質ないいメロディだと思いました。

 「愛を眠らせないで」。
 これまでも優子さんのアルバムにたびたび収録されていた特にメッセージ性の強い曲です。優子さんが歌を通して言いたいこと、伝えたいことを比較的ストレートな言葉で表現されています。たとえば、「セ・ラ・ヴィなんて早すぎる」「明日へ駆ける翼」などです。そうメッセージ性は強くありませんが、「思い出が騒ぎ出す」「Return to Myself」にも同様な傾向を感じます。優子さんの熱意はわかりますが、私には何かメッセージが直截すぎてちょっと引いてしまうというか、もう少し間接的な表現にした方が、後に余韻が残ってかえってよかったのではないか、と思っていました。
 しかし、この「愛を眠らせないで」に対しては何か後ろ髪惹かれるような感じというか、優子さんの引退を暗示している感じがあるというか、一抹の寂しさと親近感を覚えました。
 ファイナルコンサートのパンフレット「History Book」によれば、「『微笑みたちの午後』の制作中は、まだ引退のことは考えていなかった」とのことですので、初めからファンへのラストメッセージとしてこの曲を書かれたわけではないでしょうが、そういうことで、この曲に対しては比較的素直に耳を傾けることができました。
 また、曲自体はメッセージソングといっても、重さはほどほどでポップス調の適度な明るさと乗りがあり、歌詞と曲調がマッチしたいい曲だと思います。

〔Ⅲ〕

 以上書いてきたことを振り返ると、やはり具体性がないことに気づきます。もう少し私に音楽の素養があれば、たとえば「この曲は初めは何分の何拍子で始まっているが、ここでリズムをあえて変更しており、こういう工夫が見られる」とか、「ここは普通、このような楽器構成にするものだが、あえてセオリーをはずしてこのような楽器を使用して、こういう効果を狙っている」とかもっと具体的に指摘することができるのでしょうが、自分の力のなさを感じています。
 しかし、石川優子さんの曲に対してきちんと自分なりの考えをまとめ、ある程度整理できたことに対しては満足しています。ただ、これからも自分なりに考えをまとめ整理してゆくことは続けたいと思っています。また、私の勘違いや間違いもあるでしょうから、気づいた時にそれらも訂正してゆきたいと思っています。
 私としては、大人の女性らしい洗練されたアルバムを作られたところで、言い換えればこれからだというところで、引退されたことは大変残念なことでした。しかし、私たちの想像以上に創作の苦労は大変なものであったのだろうと思います。
 またご本人は、前々から歌以上に英語が好きであり、英語の勉強にも挑戦したい、年齢的にも今しかない、と決断されたのでしょうから、それはそれで仕方のないことだったと思っています。
 これは単なるファンのたわ言ですが、引退されてからかなりの時間がたっています。その間、作り溜めしておいた曲があるでしょうから、どんな形でもいいから優子さんの新譜が聞いてみたいなー、なんて思っています。
 それと、1回でいいから、優子さんが大阪弁全開で話しているのを聞いてみたかったです(2番目は半分冗談ですが・・)。


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