新 世 紀 エヴァンゲリオン

WRITTEN BY 神羅大和
第壱話 初陣
Episode1 FIRST CONTACT


 
 
 
西暦2015年
 
第三新東京市
 
第参使徒『サキエル』
襲来
 
使徒に対する通常兵器の効果は認められず
 
国連軍は作戦の遂行を断念
 
全指揮権を特務機関『NERV』へ委譲
 
第一種警戒態勢から第一種戦闘配置へ移行
 
2人目の適格者『碇シンジ』
3人目の適格者『惣流アスカラングレー』
 
エヴァンゲリオン初号機
エヴァンゲリオン弐号機
起動
 
 
NERV本部廊下
 爆発寸前の緊張感が全身の発汗作用を促進させる。
 武者震いか、全身の震えが止まらない。
 
 「情けないわね。使徒に直接対峙するのはあの子たちなのに…」
 
 ミサトは両腕で胸を抱きしめた。作戦指揮官として部下の前で情けない姿を見せることは出来ない。若過ぎる指揮官のせめてもの抵抗だった。
 地下のあまり綺麗とは言えない空気を深く吸い込んで吐き出す。
 何度も繰り返していくうちに少しずつ震えが治まる。
 だが、脳裏に浮かぶ不安を打ち消すことは出来ない。これじゃダメだ。
 そう思った時だった。
 背後から、29年生きてきてただ唯一愛した男の声が聞こえた。
 
 「落ち着けって。ミサトがいくら考えこんだって、皆が不安がるだけさ。いつもみたいに大きく構えてればいいんだよ」
 
 「それが出来なくて困ってるのよ!」
 
 
飄々とした様子の男の両腕がミサトの体を包む。



無機質な廊下に穏やかな空気が漂った。2人の呼吸だけがすべてを支配した。



雪解けのように不安が消えていく。
 
 
 「もう、平気よ」
 
 「そうか…」
 
 体を離して言葉を続けた。
 
 「俺が出来るのはここまでだ。あとは…」
 
 「大丈夫よ。私を信じなさいっ」
 
 男、加持リョウジは全てを理解したように肯き、女、葛城ミサトは決意を固め自分の戦場へと1歩を踏み出した。
 
NERV本部発令所
 
 「状況は?」
 
 発令所に上がったミサトは開口1番そう言った。
 
 「先程のN2地雷によるダメージをほぼ回復、国連軍の残存戦力を殲滅中です」
 
 「まったく、いい加減に無駄だとわかりなさいよ」
 
 「あら、あなたは時間が稼げてよかったんじゃないの?」
 
 エヴァの最終調整を終え、発令所で先に待機していたリツコが言った。
 メインモニターには国連軍の攻撃機を握り潰す光景が映し出されていた。新世紀の軍事大国日本が誇る最新鋭攻撃機が苦もなく潰される光景は通常軍事に携る 人間の悪夢に違いない。
 
 「何でよ?」
 
 「震えを押さえる時間が稼げたじゃない」
 
 「っ!!」
 
 「あなた隠せてるつもりだったの?」
 
 ミサトは慌てて周囲を見まわした。各業務を執行しているオペレーターズの背中が少し笑っている。青葉も日向もマヤも、皆笑っていた。
 顔が赤くなるのを感じた。
 
 「でも、あなたのおかげで皆緊張が解けたのよ・・・。私も」
 
 「……リツコ」
 
 「何よその顔は?」
 
 ミサトは始めて動物園に行った子供のような顔をしていた。親友の新たな一面を発見した気がした。
 
 「あんたも緊張するのね…」
 
 リツコが何か言い返そうとした時だった。
 下部オペレーターの報告が入った。
 
 「国連軍は指揮権をNERVに委譲。国連軍の各戦力は撤退に移りました」
 
 訪れるべき時が来た。本部施設全域に流れた放送に皆緊張感が一気に高まる。
 発令所後部の昇降機でNERV総司令・副指令が現われた。指令はいつもどうり手を顔の前で組み、威厳に満ちていた。
 指令の登場を確認するとミサトは口を開いた。
 
 「2人とも、準備はいい?」
 
 メインモニターに2人の適格者の顔が大きく現われた。それぞれ初号機・弐号機に搭乗済みである。
 
 「はい。いつでも大丈夫です」
 
 「待ちくたびれちゃったわよ。早くしてよねぇー」
 
 対照的な答え方の2人。だが、その顔からは余裕が伺えた。少なくとも緊張感に縛られていることはない。うん、これなら大丈夫ね。
 丁度いいタイミングで新たな報告が入ってきた。
 
 「使徒、第三新東京市に侵入します」
 
 ミサトの顔にキレがはしる。
 
 「リツコ、いいわね?」
 
 「私たちの仕事は完璧よ。いつでもいけるわ」
 
 ミサトは肯いた。
 
 「エヴァンゲリオン初号機・弐号機発進準備!!」
 
 号令と共にエヴァ両機の拘束が解けていく。
 
 「1番から15番までの安全装置解除。内部電源充電完了。外部電源コンセント異常なし!!」
 
 「エヴァ射出口へ!!」
 
 「発進準備完了」
 
 準備は整った。あとは…
 
 「碇指令。かまいませんね?」
 
 「勿論だ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」
 
 重くゆっくりとした声だった。
 
 「発進!!」
 
 凄まじいGと共に一気に数千メートルを駆け抜ける。
 
 
第三新東京市(ジオフロント直上)
 
 「最終安全装置解除!!エヴァンゲリオン初号機並びに弐号機リフト・オフ!!」
 
 一切の明かりを消して息を呑む街。
 上空のヘリからでは、その瞬間にエヴァが射出されたことを確認することさえ出来なかった。気配を消して敵を待ち構えるそれは、戦場での熟練した兵士のよ うであった。
 
 シンジは上空からライトアップされた使徒を目撃し、自分の体が金縛りに遭うのを感じた。
 
 「「蛇に睨まれた蛙か…」」
 
 同じ言葉がスピーカーから聞こえてきたことに驚き、二人は画面上で顔を見合わせた。
 相手の顔を見ると心が軽くなる気がした。自分が感じたものにバカらしささえ感じた。
 
 「行こうかアスカ」
 
 「そうね」
 
 次ぎの瞬間に二体のエヴァは猛然と駆け出した。エヴァが1歩を駆ける度にコンクリートがひび割れする。ビルの窓ガラスがバラバラに砕け散る。
 
 シンジは使徒との距離を詰め、射撃に適した場所で一端止まる。
 様子見の射撃なのでモード変更は行わない。
 ビルの影から飛び出して、手持ちのパレットガンを構えることをイメージした。エヴァはすぐに反応を示し、イメージ通りの動きを展開する。
 トリガーを引き、銃口から時間を置かずに弾丸が連続発射される。音速を遥かに超えた速度で弾丸は使徒に集中する。
 着弾の煙が巻き起こり、使徒の姿を半分以上覆い隠す。
 ビルの影に再び隠れて使徒の様子を見る。
 
 「シンジ君、使徒がそっちに向きを変えたわ。射撃は適当に、攻撃を避けて時間を稼いで。もう少しでアスカが行けるわ」
 
 「ケーブルはパージしても大丈夫ですか?」
 
 「多分大丈夫。危険ならそうして。周りからも援護するわ」
 
 「了解」
 
 全然効いてる様子がないな…、頑丈な奴だ。
 外部電源をパージ、シンジは影から飛び出し、パレットガンを構える。
 瞬間、使徒の目が光る。シンジの脊髄は反射的に危険を察知し、その信号はエヴァに伝達された。
 間一髪でエヴァは光線を避けて、向かいの通りに転がり込む。パレットガンは犠牲になった。
 
 「弾幕張ってっ!」
 
 シンジが立ちあがるまでの時間を稼ぐ。
 アスカが突撃するまであと10秒。それまでこの弾幕を維持していくのは……不可能。
 
 「弾幕、使徒の背面に集中っ!」
 
 「シンジ君。接近戦よ。5秒稼いで」
 
 命令と同時に肩からナイフを抜く。
 弾幕は使徒の背面に集中して、前面には煙だけが残っている。
 
 あと7秒…
 
 「弾幕停止っ!」
 シンジは煙に隠れて使徒の胸元にもぐりこみナイフを突き立てた。コアに突き刺さったナイフの周りに亀裂が出来る。
 初号機に対応して、腕を振り上げた使徒の動きが一瞬止まる。
 
 あと2秒…
 ミサトがそう思った瞬間、使徒の背面に紅い影が踊った。
 
 「離れてなさいシンジっ!!」
 そう叫ぶとアスカは大きく地面を蹴った。
 ソニックブレイブを構えて、一気に振り下ろす。煙で姿は見えないが、勘がそれを補正した。
 最初は空気を、次には使徒の肉体を、コアを、再び肉体を切り裂く。一気に振り下ろしたソニックブレイブは、コアを切断した直後にえの部分から折れてし まったが、全ては決した。
 次ぎの瞬間、使徒は爆発した。不思議なことに炎は同心円状にではなく、十字となって大空に浮かび上がった。
 
 
 
 
 
 
葛城邸
 
 「「「カンパーイ!!!」」」
 
 音頭をとったミサトの後方には『祝 使徒撃破記念パーティー』の文字が誇らしげに浮かんでいた。
 ミサトはビールを、シンジとアスカはワインをそれぞれ楽しんでいる。
 
 「やっぱ勝利の後のエビチュは最高ねっ♪」
 
 「何言ってんのよ、いつも美味しそうに飲んでるじゃない」
 
 「チッチッチ、甘いわねアスカ。こういうときの味はまたいつもと違って格別なのよ」
 
 いつもの喧嘩(本気ではないが)に発展するような会話も、今日はそういった感じがまるでしない。シンジはワインを飲みながらそう思った。
 アスカが成長するにつれてミサトの言葉に反応する内容が多くなり、食卓はいつも2人の独壇場だった。シンジはいつもそれを聞いて笑ったり、2人に鋭い意 見を求められて動揺したり。それは今日も同じ、少なくとも使徒の出現は葛城家に笑顔を増加させた以外に大きな変化を起こし得なかった。
 
 
 「今日は特別よ」と言って買った高アルコール度のワインに、アスカのろれつが段々正確さを失ってきた。ミサトは既に酔いつぶれている。
 
 「アスカ、もう飲むのはやめなよ。明日も学校があるんだし」
 
 「なによぉ〜、このヴァカシンジ。今日は特別じゃがら、いいのよぉ〜!!ほら、アンタももっと飲みなさいっ!!」
 
 アスカが絡み酒だと気付いたのはつい最近だった。シンジは少し後悔した。こうなっては、眠ってくれるまで付き合うしかない。
 ハァ〜
 溜息を内心でつきながら、アスカが注いだワインを飲む。このワインはこんな飲み方しちゃいけないんだけどな…。
 シンジは酒に強かった。
 
 「いいぞぉ〜ヴァカシンジ!!もっとだ、もっと飲めぇ!!」
 
 
 結局、その後数時間絡み酒に付き合うことになった。
 空いたワインは買ってきた物と元から家にあった物で6本。ビールはミサト一人で250ml缶13本が空いていた。
 既に時間は2時をまわっていた。
 
 「ミサトさんとアスカを部屋に運んでと……」
 
 シンジが近づくと、ミサトの寝言が零れた。
 
 
「シンジ……アスカ……無事でよかった……………」
 
全身から、今日の疲れが抜けていく気がした。寝顔がどうしよもなく愛しく感じた。
 
「ただいま、ミサトさん……」
 
「お帰り、シンジ……………」
 
 
 この後、ミサトを部屋に運んでから聞こえた寝言が「加持ぃ〜、もっと飲めぇ〜!!」だったので、シンジの感動が冷めてしまったのは誰にも言えない秘密 だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
R極秘資料(重要度RSSS・赤木リツコの許可なく何者の閲覧も禁ずる)
 以下は某所での極秘会議の録音記録である。
 
 
「碇君、今回の使徒撃滅よくやってくれた。EODまでに苦しみを味わう人間が少しは 減るだろう」
 
「ありがとうございます」
 
「それで、計画の方はどうだね、この絶望的状況における唯一の希望は?君の一番の仕事だよ」
 
「承知しております。計画は問題なく進行しています、2%も遅れはありません」
 
「情報操作の方はどうなっている?」
 
「ご安心を。その件については既に対処済みです」
 
「そうか……」
 
「申し訳ありませんが、仕事が控えていますので……失礼」
 



ドアの開閉音がした。



 
「碇ゲンドウ、このまま信用してもいいのか?」
 
「問題あるまい、奴の心は妻に囚われておる」
 
「ふんっ、色恋沙汰か。そのようなものに縛られるとは……」
 
「我等の計画はそれを利用したものだ。何をいっても仕方あるまい」
 
「LAS計画か……よりにもよって、子供の色恋沙汰に人類の未来がかかっているとは……」
 
「目的のために手段は選べん。我等は一刻も早く、人類補完計画を遂行しなければならぬ」
 
 
 記録は以上である。
 この記録は、かの人物に対して大きな影響を及ぼすものと考えられる。
 
 私は復讐の為にこの記録を利用する予定である。
 
第一話終幕
 
 
15年ぶりに再来した使徒
持てる全てをもって迎撃した人類は、これに対抗することに成功した
命を賭けて明日を守った少年少女は、日常に再び足を踏み入れる
胴上げ・ファンレター・守った存在からの手荒な祝福は2人を新たな決意に向かわせる
 
第弐話 生きる命
Episode2 The Day After 


神羅大和さんから「新 世 紀 エヴァンゲリオン」の第壱話をいただきました。

アスカが最初からいたりとか、加持がいたりとか

いろいろ違いのある本編再構成のようですねぇ。

それにLAS計画ですか。

いろいろ違いのある本編再構成のようですねぇ。

続きも楽しみですね。皆様首をながくしてお待ちください〜。

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