〜16年前…ここで何が始まったんだ…〜

 常夏の日本にありながら空調さえなく、内壁は無く外壁のトタン板が丸出しの廃墟。
 黒電話がたった一つだけ埃だらけ机の上に載せられただけ、その電話線は繋がれてさえいない。
 シャノンバイオと言われる会社は、登記上会社として実在する。
 だがその実情は、全くの架空。
 書類の上にだけ存在する会社。
 その役員には、Nervの指令と副指令が、名を連ねる。
 そして、国連の人類保管委員会と呼ばれる上級機関を束ねる人物の名さえ存在する。
 全てが謎に包まれた会社。
 外資系ケミカルプラント…9年前から存在する。
 その事実だけ。
 加持が、その事実を確認すると不意に扉の外から人の気配が現れる。
 ドアノブが全く無警戒に動き、そして僅かに扉が開く。
 即座に気配を絶ち扉の陰へと身を潜ませるが、そこに掛けられた声は加持にとって馴染みのある物であった。

「私だ…」

 空気の様に変化させた気配を解き放ち緊張感を解くと共に、胸元の拳銃に添えていた手を解き、安全装置を再び施錠する。

「シャノンバイオ外資系ケミカル会社で9年ま…」

「言われなくても知ってるさ、」

 そこに現れた中年の女性から語られたのは、加持も既に確認している事実。
 それを再確認させられているだけ。

「マルドゥック機関…エヴァンゲリオン操縦者選出の為に設けられた、人類保管委員会直属の諮問機関…その実態はいまだ不透明…だろ?」

 加持と中年女性の間に交わされる事実は、もし一般にもれる事があれば…人類史上最悪の事件として名を残すことになる。
 だが、証拠がない…全ては闇の中。

「…マルドゥックに顔を出すのは不味いぞ…」

「まっ、何事もね、自分の眼で確かめないと納得しないタチでね…」















コトノハノカミ〜ココロノヒビ

書イタ人:しふぉん















 携帯電話のスピーカーから聞こえる呼び出し音は、そこに目当ての人物が居ないことを伝えてくる。
 先週末から幾度となくかけ続けてきた短縮ダイヤルは、すでに発信履歴をその名前だけで埋め尽くしてる。
〜あぁ〜っ、もうっ!加持さんってばっ!〜
 週末には、ミサト・加持・リツコの大学時代の共通の友人の挙式がある。
 その話は聞いているからには…週末には帰ってくるのだろう。
 だが、アスカはそれまでに相談したいことがあった。
 シンジに対する自分の気持ちである。
 加持に対して感じるものとは、いささか異なる感情。
 『好き』であることは、自覚した。
 であるにもかかわらず…シンジに対して、どういう風に接していいか分からなかったのだ。
 アスカは知識のみで『恋』を知っている。
 実体験は全くない。
 また、その様子を見たこともない。
 アスカにとって学生生活とは知識を吸収する時間でしかなかったのだ。
 日本に来るまでは…
 恋した女の行動というのが、知識の上で知ってはいても、何をすればいいのか分からない。
 男性の方からエスコートしてもらうのであれば、それに合わせることも出来るものだが…
 恋した相手、シンジがそれに長けてるとは思えない。
 そして、今更ながらに自分の精神年齢が低いままということを再確認させられる。
〜アタシってば、知識だけの頭でっかちになっちゃってたってことか…〜
 経験を伴わない知識だけでは、恋は昇華しない。
 どうすればよいのか分からないまま、戸惑うばかりである。
 あの日…第壱拾使徒襲来からのシンジは、アスカのお願い(命令)を嬉しそうに行う。
 もし、二人の関係を理解してない人物が見れば、主人と下僕。
 まさにその言葉が当てはまる。
〜ミサトに言えば、からかわれるし…リツコじゃ…なんかねぇ〜
 そして、当の加持は2週間ほど前から所在不明。
 先週から数え切れぬほど電話して、今もまたそれを繰り返している。
 元々、監察部という部署の秘匿性の高さは言うまでもなく、アスカではその足取りを追うことも不可能である。
 シンジにしても、加持に一言あると話していたところを見ると、先日の手紙は加持が一枚噛んでいるというのも分かる。
 そしてなにより、週末が迫るにつれシンジのテンションが異様に低くなってきている。
 何とかしたいのだが…詳細を聞くのが何故か怖い。
 自分の触れられたくない過去の様に、シンジの過去も触れてはいけないものではないのか…
 シンジから直接語られぬ以上は聞くに訊けないのだ。
 ミサトに訊いても良いのだが、アスカにはそれがいまいち間違いである気がする。
 上辺の情報のみに限られてしまう可能性が高いのだ。
 ならば、それよりも高い権限で情報に触れることが出来る人間に訊くのが正解である。
 そして、辿り着いた答えに当たる人物、加持であった。

『はい加持です。只今留守にしております。 御用のある方は発信音の後に…』

〜はぁ…また加持さん留守かぁ…加持さんのバカっ!〜
「きゃ〜っ!加持さ〜んっ!助けてぇっ! 何するのよっ!きゃ〜っ!変態っ!」

 ひとしきり甲高い叫び声をメッセージとして残すと、冷静に通話を切る。
 こんな伝言をのこしたところで、加持が笑うだけ。
 返信などよこさないことは、日本に来てからイヤと言うほど味わってる。
 すでに、明日は週末。
 そして、シンジが控えているイベントの日。
 とうとう連絡がつかないままに迎えてしまったのだ。
 父親と共に、亡き母の墓参りと聞いてはいる。
 だが何故、父親と会うのが何故に暗くならなければならないことかアスカには想像がつかない。
 自分なら、割り切って会うこともできる。
 そこまでに険悪な関係なのかと…

「アスカ? 溜息なんかついちゃって、どうしたの?」

「ん〜ちょっとね、週末にさ、加持さんにどっかに連れて行ってもらおうと思ったんだけど…」

 苦笑いを浮かべながら、話しかけてきた親友に答える。
 真実を話してもいいのだが…どうも、気が引ける。
 親友・ヒカリもまた、恋する少女なのだ。
 アスカはその気持ちを全く自覚せずにきて、突然の事態でその感情を理解した。
 だがまだ、正式に返事をしているわけではない。
 その気持ちをシンジに明確に伝えているわけでもない。
 ただ、約束しただけ。
 ヒカリの恋はまだその状態ですらない。
 返事をすれば良いだけの状況と、ヒカリの状況はは明らかに異なる。
 自分の恵まれた環境に比べてしまい、それが何となくだがヒカリに対して気が引け目を感じる原因となっている。
 週末の事も、引け目が口から嘘となって現れただけ。

「んじゃさ、日曜日は暇なの?」

「へっ?」

 怪訝そうにするアスカの耳元でこっそりと伝えられたのは、義理デート。
 ヒカリの姉・コダマの友人と一日デートに付き合ってほしいというもの。
 どうしてもと、今まで迫ってきていたらしいのだが、ヒカリもうまく断り続けてきた。
 だが、このところその友人が何がしかの強硬手段に出ようと動き出しているとの情報もある為、いつ話を切り出すか迷っていたところだったのだ。

「だめかな?」

 もちろん断りたいところなのだが、断るにも口実をつけなければ、ヒカリも困るであろうことは解った。
 已む無く、という気持ちもよく理解できる。

「う〜ん…出来れば、今週の日曜日はちょっとね」

「予定はないんでしょ?」

「だけど…ちょっと気になることがあってね…それを加持さんに相談したいって言うのもあったんだ…」

 ヒカリはそのアスカの少し思いつめた表情を見ると、無理強いを出来なくなる。
 強硬手段に出たとして、アスカの身に危害を加えようとするのならば…常時彼女の傍に控えてる黒服のボディガード達に排除されるだけなのも理解している。
 まして、ヒカリにとってアスカは世界の平和の為に、自分達の為にその身を犠牲にして戦ってくれているのだ。
 自分達の様に時間に捉われない生活ではない、自由のない生活なのだ。

「そうなの… 仕方ないわね、何とかしておくね」

 無理にでもと作った笑顔で、アスカに余計な気遣いをさせないように振舞う。
 その健気な気遣いが、アスカの心をチクリと痛ませる。
〜ごめんね…ヒカリ〜
 適当に切り上げて帰ってもいいのかも知れない。
 だが、シンジが気がかりであることも確かなのだ。
 放っておくことは出来ない。
 今のアスカにとってシンジは代わりのいない人物なのだから。



















 これって訓練よねぇ…どこがテストなんだろ?
 長時間の集中力を、いまだ14歳にしかならない子供達に無理強いさせてるのよね。
 シンジ君のシンクロ率はあの日の様な数値は出てない。
 まぁ、あの日が特別って言ったら…特別よね。
 更に言えば、今日の数値は普段よりも格段に低い。
 明日には、まともに会話を交わしたこともない実父との約束があるからだろうけど…
 シンジ君の集中力を更に奪い去っている。

「そういえば、今日はまた一段と暗いわね… シンジ君」

 シンクロ率そのものより、精神状態が悪化してるところを見抜くって流石リツコよね、

「明日だからね…」

 そう、明日はシンジ君のお母さんの命日。
 実父である司令と共に墓参りに行く約束になってる。
 先週からそのことでシンジ君は頭を悩ませている。
 先日の私の言葉をちゃんと理解してるなら…そんなに悩まないと思うんだけどね。
 そんなに人の様子ばかり伺ってたって、どうにもならないって言うのに…

「そう、明日ね… 私たちも明日の準備しないとね、」

 チラリと時計を見れば、既に短針は真下から左に僅かにずらしてる。
 ……手元の書類に目を向ければ、重さと厚さは百科事典レベル。

「あっちゃぁ〜っ、ちょっち急がないと選んでる時間なくなるわね」

 リツコも時計を見て少し苦笑いを浮かべてる。

「そうね…後回しに出来るものはしないと、不味いわね。」

 サインするべき書類を抱えつつ、その中から急ぎで必要なものだけを選び出す。
 明日に備えて書類はほぼ処理してきたつもりだけど…
 ちょっちここでも書類が出ることを忘れてたわね。

「3人とも上がって良いわよ」

 ディスプレイに映し出されているシンジ君の顔はかなり落ち込んでる。
 対照的にアスカの表情には元気がある。膨れているとも言えるけどね。
 レイは相変わらず、最近僅かに表情らしきものも見え隠れしてるけど…鉄仮面よね。

『あ〜ぁあっ! テストばっかでつまんなぁ〜いっ!』

 アスカがテストに対して不平不満を言うことなんて、ドイツ時代には無かったわよね。
 そういう意味では少し人間的に余裕が出来た感じがしてきて、私としては嬉しい。
 最近は特にそうなのよねぇ…あの日から。
 『彼も男だったんだよ、』
 加持君…どういう意味なのかな?男だから、遺書を書くの?
 そんな答えが私には理解できない。
 アスカにとってもいい影響を与えてるって以上、シンジ君に問いただすって言うのも、ちょっちねぇ…
 薮蛇になりそうだしね…それに、最近のシンジ君の様子を見てるとそれもできないしねぇ…
 『僕にも守りたいものがあったんです』
 シンジ君があの日に語った言葉。
 守りたいものがあるから遺書を書く?
 それは本末転倒としか思えないのに、何故かそれを問いただせない。

「しんちゃ〜ん、これからリツコと明日の服を買いに行くから、ちょっち遅くなるけど私のご飯忘れないでねぇ〜」

『わかってますよミサトさん、ちゃんと用意しておきますから。』

 私の声が聞こえると、それまでの表情を一変させて苦しい笑顔を浮かべながら返事をする。
 愛想笑い…そういってしまえばそれまでだけど、そこまで子供たちが気を使わなきゃいけない状況ってのも、間違ってるのかな、やっぱり。
 ふと、『おねぇさん』を演じてる仮面が剥がれ落ちて表情に陰が落ちかけるが、気を取り直して再び演じる。
 感傷的になってる姿なんか子供たちには見せたくないし、悩んでるところだって見せてはいけない。
 私は大人、彼らを導いてあげなきゃいけないんだから…
 特に、シンジ君は今アスカの精神状態にも影響を及ぼす立場。
 少しでも、助けになってあげなきゃいけないけど…今の私が何をすれば良いのか…
 教えてよ、加持君…



















 すでに習慣と貸した動きは悩んでいても、変わりは無い。
 食事の支度を整えるシンジの手元からは一定のリズムが刻まれている。
 しかしその瞳は虚ろで、いつ手を切らないかアスカは気が気ではなかった。
 やっと食事になり、その心を少しでも和らげようと色々と話しかけるアスカの言葉に対しても反応が薄い。
 普段ならば、どんなに沈んでいても笑顔を見せてくれるはず…それさえもない。

「ゴメン、後片付けお願いしても良いかな? 食器を下げるだけで良いから、」

「いいわよ、その位はやったげるわよ、」

「ありがと、」

 食事を終えたシンジは会話もそこそこに自室へと引きこもる。
 その後姿を見送りながら、何とか助けてあげたいと…気持ちは逸るが、如何して良いかアスカには分からなかった。
 とりあえず、っと食器を下げて、リビングでテレビをつけてみるが、そこに映る映像は視界のどこにも捉えられない。
〜訊いてみた方が…いいのかな、やっぱり〜
 訊かれたくないのではないか…だけど、知りたい。
 自分の心を捉えた人物の過去ならば、知りたくなるのは当然の事。
 だが、語りたくない過去を、無理に聞いたならば嫌われるのでは…
 なぜかは理解できないが、そういう気がするのだ。

「たっだいまぁ」

 重い空気を一切感じない、お気楽を体現した声。
 保護者にして、家長たる葛城ミサトの帰宅である。
 重苦しい気分の時には聞きたくは無い類の声と雰囲気。
 それが解決を導いてくれる人物なら頼もしいと思えたのかもしれないが、アスカはミサトにそれを期待できない。
 ここ最近のミサトは、やけに感情的過ぎるのだ。
 その言動の端々に見える棘、それが周りを傷つけていることを自覚していない。
 アスカでもその一方的な物言いに、不満がある。

「シンちゃんは?」

「部屋に篭ってるわよ、明日の事でかなり悩んでるみたいね、」

 ミサトはそれを聞くと苦笑いを見せながら、シンジの部屋へと向かう。
 何か助言をしてあげなければ、保護者としての責を果たせない。
 そう考えてのことだった。

「シンジ君? 開けるわよ?」

 扉の前で声を掛けるが返事は無い。
 ゆっくりと覗き込むように襖を開ければ、シンジはベットの上で小さく丸まっている。
 衣服を着替えもせず、制服のまま。
 一見すれば、疲れてそのまま寝てしまっているかのようにも見える。

「怖いの? お父さんと二人で会うのが、」

 ミサトの問いかけにシンジは返答しなかった。
 その雰囲気は寝てるものと思われるのだが、ミサトは寝てないと感じていた。
 僅かに揺れる体のリズムは、呼吸のリズム。
 それが、寝ていないと物語っているのだ。

「逃げてばかりじゃだめよ、自分から一歩を踏み出さなければ何も変わらないわ、
 この前も言ったけど、人の顔色を伺っていては何も出来ないのよ?」

 ミサトは父とはその一歩を踏み出せぬまま終えた。
 永遠の別れという名の終わりを、その後悔が今もミサトには残ってる。
 同じ間違いを子供達に犯させるわけにはいかないと…
 故に、短絡的ともいえる自らの境遇とシンジの境遇を重ねる、という間違いに気づいてない。

「そして最初の一歩だけじゃなく、その後に続けることも大切だって事が、」

 シンジはその言葉に対して共感できなかった。
 助言であるのは分かるのだが、一歩を踏み出す事がなにかとてつもない決別に繋がるような気がしてしまう。

「とにかく…明日は胸を張っていきなさい、お母さんにも会うんだから、じゃ、おやすみ」

 ミサトは言いたい事だけを伝え、襖を静かに閉めリビングに戻る。
 そこには、不審な視線を投げかけるアスカがいた。

「ミサト…ミサトはシンジのこと…シンジと司令の関係って知ってるの?」

 その言葉にミサトは少しだけ戸惑った。
 シンジと実父である司令の関係を、遠くで眺めている以外知らされてはいない。
 過去において何があったのか、
 書類上では、親類に預けられたとだけ。
 そして、10年後に来い…その一言で呼び出されたのだと。
 アスカのように詳細に報告書が出来上がっているわけではない。

「まぁ、ちょっとだけね…アスカみたいに細かく書かれてた訳じゃないしね、」

 その返答にさらに、アスカの表情が厳しくなる。
 明らかに、その視線はミサトを責めている。

「ちょっとってだけであそこまで言えるの? ミサトは?」

 ミサトには、アスカの言う意味がいまひとつ理解しかねる。
 そして、そこまでアスカが機嫌を損ねる理由が分からない。

「人の顔色を伺うことが悪いことなの?」

 悪い事でなどはない。
 それが周りをよく観察することなり、人の心の細やかな機微を察することにも繋がる。
 だが、怯えて覗くのであればそれは異なる。
 そこを理解できないアスカでもない筈。

「加減ってものがあるでしょ?」

「じゃあ、父親の真意が自分を遠ざけようとしていても、一歩を踏み出していいの?」

 碇司令を僅かの間とはいえ、見てきたことは確か。
 そして、人格に関しても多少問題があるように感じるが、そこまで大きく騒ぐほどではない。
 あの、対面の時だって、きっと何かの理由があるのだと…そう信じている。

「踏み出した先で奈落が待っていたら…ミサトは責任をもてるの? ミサトにそれが分かるの?」

「まっ待ちなさいってば! 司令だって父親よ?自分の子供を…「あたしの父親は?」

 ミサトは言葉を最後まで放つことはできなかった。
 アスカほどに重い家庭環境の人間は少ない。
 その所業は、他に類を見ない。言動一つとって見ても、大人とは呼び難い。
 アスカの父は、母親が亡くなってすぐに再婚、その情事を子供に見られているのだ。
 母親が恋しい子供に、すぐに別の人物を母親としてあてがうという行為を…
 また自分ほど過去が重い人間も少ないはず…それにシンジが該当しているとは思っていなかった。
 ただ、父親はその重い職責をこなすが為に子を預けたのだと。
 そして、自分の過去のように一歩を踏み込めば互いに理解できると。
〜もしかして…〜
 そう思い始めたときには、アスカの視線は苛烈を極めていた。

「ミサトなら分かってる筈よ? 人の人生は紙に記されてる物だけじゃないって事が…」

 アスカはその父親の存在ゆえに心を一度…閉ざした。
 その時のアスカはただひたすら、他者…大人との接触を嫌っていた。
 近寄るものには容赦なく牙を剥き、爪で切り裂く。
 それ程の環境に、シンジが置かれていたのだとは思えない。
 ミサトはその自らの間違いを、肯定できない。
 シンジの境遇に関して調べるということは、司令である碇ゲンドウの過去を調べるということに繋がってしまう以上、おいそれと簡単に調べることは出来ない。
 まして、国連の一機関のTOPである。
 人格の面でも厳しく考査された上で選び出された人物であるはずなのだ。

「…いいよ、アスカ」

 声に二人が振り向けば、気配もさせぬままシンジはリビングの入り口に立っていた。
 鬱とした表情は相変わらずだが、そこには無理にでも…と、作った笑顔が浮かんでる。

「ミサトさんだって心配して言ってくれてるんだから、その気持ちだけでも嬉しいんだ。」

 人を疑わないシンジらしい言葉といえる。
 ただ短絡的推理の上で言葉を放ったミサトには…その言葉は重い。
 この父子の間に何があったのか…
 対話があったのか、無かったのか…
 それすらもミサトは知らない。
 知らないにも関わらず、何故自分はそれを断言できたのか。
 今頃になって、ミサトはその間違いに気づく。

「シンジは…まったく、お人好しなんだから、」

 自分の為に家族達が争うところを見ていたくない。
 その言葉を放つまでもなく、シンジの表情はそう語っている。
 アスカにはシンジのその心がいじらしい。
 昼間のヒカリにしてもそうだ、出来る限り人に迷惑をかけないようにと努力し続ける。
 そして傷つけられても、人を信じる。
〜だけど、行き過ぎなのよねぇ…コイツの場合〜

「いや、何も話さない僕がいけないんだから「そういうとこが内罰的っていうのよっ!」

 仁王立ちで左手を腰に当て、右手をシンジに向かってビシっと音が聞こえるかのように指差す。
 アスカの説教時のポーズである。
 だが、そのアスカの目にはいつもの攻撃的な光はなく、物憂げで揺らめくような灯りだけ。 
 ポーズを崩さぬままシンジの方へとすっと歩み寄ると、その伸ばした右手の指先でシンジの額を軽く突き、俯きかけていたシンジの顔を強制的に正面に向ける。

「何でもかんでも自分のせいにしちゃってさ、それに話したくないんでしょ?…少なくとも今は、」

 シンジはほんの一瞬だけ驚きの顔をする。
 アスカの言葉はまさに、シンジの核心を付いていた。
 自分の中に持ち上がる父への不信。
 それを口に出してよいのかどうか判別がつかないのだ。
 自分の邪推かもしれないと、父へ望みをかけているのでもある。
 憶測でモノを語ってはいけないのだと…
 持ち上げられた顔は背ける事が出来ず、シンジは視線を僅かに下に外す。

「ゴメン…」

 アスカの目はシンジを見据えたまま。
 苦しげに呟くそのシンジの言葉に、アスカも文句を言いたくなるのを抑える。

「またそうやって謝るっ!…ま、今日は許したげるわよ。というわけで、子供はさっさと寝るっ!」

 言うが早いか、アスカはシンジの肩を両手で掴み無理やり反転させると、その背中を押して部屋へと強制的に押し込もうとする。

「あっ、ちょっとまってよぉ、 ごめんなさい、ミサトさん。 おやすみなさい」

 振り向くことも許されず強制連行されていくシンジを、ミサトはただ黙ってみていることしか出来なかった。



















 何年経とうが、結婚披露宴ってのは代わり映えがないもんよねぇ。
 乾杯の音頭を取るのは、仲人。
 その後に新郎主賓のスピーチが入って、友人etc.…
 平凡に憧れる者には、このプログラムが一番の幸せかもしれないけど、飽きるわよね。

「ミサト? どうしたの、ちょっと暗いわよ?」

 右に腰掛ける親友は、私の状態を良く見抜く。
 私に限らず見抜くんだから、その観察眼は折り紙つき。

「ちょっちね、色々あってさ…」

 幸せを振り撒いてる新婚夫婦にあてられて、その後に待ってる披露宴はお約束だらけだもん。
 旧友といえど、席が離れてればそうそう話しかけれられるもんじゃないしね。
 つまりは、暇ってこと。
 そうなると、思い出すのは…昨日の事。
 アスカの言うとおり…私が軽率だったってことは分かる。
 何にも知らない奴に人生語られたりしたら、私だったら我慢できないわね。
 でもシンジ君は、そんな私を気遣ってくれた。
 話さない自分が悪いんだって…
 誰にも知られたくない過去っていうのはある。
 私のことも詳しく知るのは数人だけ。

「シンジ君達となんかあったの?」

 観察眼だけじゃなく勘まで鋭いっていうんだから、リツコはホントに凄い。
 まったく、私の親友やってるだけあるわよね。

「良く分かったわね、っていうかMAGI使って覗いてるんじゃないの?ホントは?」

「馬鹿いってるんじゃないわよ、恋人が来なくて沈んでるって雰囲気じゃなかったら、貴女の場合シンジ君がらみでしょ?」

 あらら、勘じゃなくて理論でか…
 って?

「恋人ってだれよっ!?」

「加持君でしょ? 今更、惚けなくったっていいわよ、貴女の場合隠しても顔に出るんだから、」

 そういいながら、ワインをあっさりと飲み干してる。
 ホントなら、もう私の左隣の席に座ってなきゃいけない奴。
 昔っから時間には凄くルーズな奴でデートに遅刻しないで来たことなんか一度も無い。
 そう、私の昔の恋人で、今は全く関係ない。
 その加持を恋人って言われるのは…困る。
 正直、どう接していいか分からない奴だし。
 8年ぶりに再会したら、いきなり私を襲うし。
 それも、気障ったらしい台詞つきで。

「それはそうとして、シンジ君達がどうしたの?」

 言葉に詰まるわね。
 保護者が被保護者に叱られたなんて、恥ずかしくっていえないし。

「それとも、二人に叱られた?」

 うっ!
 なっ、なんて鋭い…

「あら、図星だったの?」

「昨夜アスカに、私が短絡的だって叱られちゃったのよ」

 はぁ…まぁ、付き合いの長さから見切られるって言うのもあるけど、
 こう見抜かれてちゃ、話さないわけにもいかないし。
 苦笑いを浮かべてるのが自分でも分かる。
 あの時アスカから受けた指摘は核心中の核心。
 なぜ、ああも浅はかな発言をしたのか…
 自分でも分からない。

「そうね、最近の貴女ってやけに感情的だものね。 特に加持君が帰ってきてからね」

 感情的?
 私が?
 加持が帰ってきてから私が感情的になってるって、

「どういうこと?」

 少し声に棘が混じる。
 自分でも分からないけど、また自分の感情が止められなくなってる。

「素直になりなさい。 認めないと先へは…」

「よぉ〜っお二人さん、今日はまたお綺麗なことで」

 軽薄な顔を更に軽薄な笑顔でだらしなく近づいてくる。
 噂をすれば何とやら、ってよく言ったものよね。
 普通はパシッと着込む礼服もだらしなく着崩してるし、ネクタイなんか緩め過ぎて、ただ首からぶら下がってるだけ。
 全く世話が焼けるわ…

「遅かったわね?」

「ちょっと仕事が抜けられなくてね、」

「いっつも暇そうにしてるくせに…」

 私を挟んでリツコと会話しているのを邪魔するかのように言葉を挟む。
 そして、席についた加持の胸元に手を伸ばすと、ネクタイをしっかりと締める。
 反射的な行動…としか言いようがない。
 気づいたら、手が勝手に動いてネクタイを締めていた。

「あら? そうしていると夫婦みたいよ? 貴方達」

 リツコの言葉に思わず赤面しそうになる。
 自分がどうしてあんな行動に出たのか、全く分からないし。

「やだ、ミサトってば、より戻したの?」

 そのうちに他の友達にまで囃し立てられると、反論なんか一切受け付けられなくなる。
 そして、それが何故かそんなに悪い気分じゃない。



















「アスカ、行ってくるから… そんなにかからないとは思うけど、一応お昼は冷蔵庫に入れてあるから」

 何が忙しいのか、アスカは朝食もそこそこに自室に篭りっきり。
 シンジの言葉にも、適当に返事を返すだけ。
 シンジにしてみれば、何かをしていて忙しいから相手をする暇がないと、受け取ってしまうのだが…
 黒、紺などの礼服系の衣装を選んでいるだけ。
 そして声をかけられた今も、すでに選んだ服を身に着けて待機しているのだ。
 いつも丈が短めの服を好むアスカだが、こういうときは流石に違う。
 黒のスカートの上に豪奢なレースのついた黒のブラウスを羽織り、髪をアップで纏め上げ、黒くつばの広い帽子を被る。
 もう少し、大人びていれば未亡人と誰もが思うほどの渋めのコーディネイト。
 自室に篭っていたのも、簡単に言ってしまえば…
 こんな格好で自宅内をうろついていたら、シンジの後を追えなくなってしまうからである。
 シンジが家を出ると足音も荒く、後を追うように家を飛び出す。
 だが、シンジが駅へと向って歩くのとは逆にアスカは向かう。
 目的地はすでに調べてあり、近くの幹線道路にでてタクシーを拾い墓所へと先回りするだけなのだ。
 途中で、花束を購入するのも忘れない。
 予定通り、アスカはシンジより一足先に目的地に着くと、シンジが来るのを待った。
 セカンドインパクトによって、亡くなった犠牲者を弔うために急造で作られた墓所には、今でも数千人の人が眠っている。
 その規模の大きさも問題なのだが、時節が時節だけに、その墓所にあるすべての遺碑は、一本の鉄柱で表されている。
 記されているのは、故人の名と生没年だけ。
 故に、いかに通いなれた遺族であっても、ここを訪れて迷わずにはたどり着けないのだ。
 ましてアスカはシンジの母親の名を知らない。
 たどり着けないのならシンジに案内しもらおうと、タクシーの中で身を潜ませて待つ。
 その為に先回りしたのでもあるのだから。
 しばらくすると、いつもの学生服姿のシンジが花束を片手に現れた。
 俯いたまま歩くシンジはタクシーが賃走の状態で止まっていることは気づかない。
 シンジが目の前を通り過ぎ、しばらくするとアスカもタクシーをそのまま待機させて、シンジの後を追う。

 いくつかの区画を数えながら通り過ぎ、指折り数えながらシンジが歩いていく。
 やがて、その立ち並ぶ遺碑の中に長身の男、遠くから見てもその風貌には威圧感があるその姿は見間違いようがない。
 シンジの父・ゲンドウの姿である。
 シンジはゲンドウへの挨拶もないまま母の遺碑に向かい花を飾り、手を合わせる。
 アスカはその背後にそっと回りこみ、二人の墓参りを眺める。
 何も語らぬまま母への黙祷を捧げていると、不意にゲンドウの方から声をかけてきた。

「3年ぶりだな…こうして二人でここに来るのは…」

 シンジの後ろに立つゲンドウの様子は普段と変わりはない。
 故人を偲ぶといった様子さえもない。
 既に祈りは終えてるとも採れなくもない。

「そうだね、僕はあの日からここには来てないんだ… 母さんがここで眠ってるって気がしなくて、」

 シンジはその声に静かに目を開けると振り向きもせず答える。
 後ろに控える父に対して目を合わせるのを恐れるかのように、ただじっとしている。

「人は思い出を忘れることで生きていける。だがけっして忘れてはならないものもある。ユイはそのかけがえのないものを教えてくれた」

「写真とか無いの?」

「何も残ってない、ここ墓もただの飾りだ。 遺体も無い」

〜飾り? 飾りって何よ?〜
 アスカはシンジ達が居なくなった後に挨拶を出来れば…そう思い背後に隠れたのだ。
 そこで起こる会話のことを気にとめてはいなかった。
 だが、聞こえてくる会話は故人を偲ぶといったモノから遠く離れた交わり。 

「先生の言ったとおり、全部棄てちゃったんだね。 僕は…母さんの面影さえも、覚えてないのに…」

〜面影も覚えていないって…なんで? そんな訳ないでしょ? 赤子だったわけでもないって話しだし〜
 シンジとゲンドウの間に交わされる言葉は、アスカの想像を遥かに上回るものだった。
 ミサトに対して、憶測だけで…と言ったにもかかわらず、自分もその生い立ちを軽く見ていたのではないか?と。

「全ては心の中だ、今はそれでいい」

「甘えるって…どんな感じなのかな、それさえも思い出せないよ…」

 全く噛み合わさることのない会話がこの親子の距離を物語っている。
〜まさか、シンジは母親のことを…まったく憶えてないなんてことは…〜
 アスカには思い出したくもない暗い記憶とはいえ、母親の面影もある。
 そして、母親が自分を抱きしめ愛してくれた記憶もしっかりとある。
 その温もりも…

「ねぇ、ひとつ聞いてみたいことがあったんだ。」

 シンジは意を決して振り向き、今までとは異なる強い意志の光を宿してゲンドウに対峙する。
 シンジの心の奥底では、訊いてはだめだっと警鐘を激しく鳴らしている。
〜訊かなければ、僕は…〜
 その気持ちが僅かに警鐘よりも強く心に働きかける。

「なんだ?」

 シンジが強い意志を持って対峙したとして、ゲンドウには何の恐怖もない。
 逆に取り巻く空気が威圧感に満たされる。
 すべての言葉を封殺するかのように、厳しい視線。

「なんで…」

「早く言え、私も忙しいのだ」

 シンジの右手の指先が無意識に揺れる。
 その緊張感に耐え切れずに、僅かに握るかのように動き、そしてまた開く。
 僅かの逡巡さえも許さぬゲンドウの視線がさらにそのシンジの動きを加速させる。

「なんで、父さんは僕を…何も思い出せない僕を、あそこに置いていったの? まるで捨てるみたいに…」

 一瞬の沈黙の後、ゲンドウは嘲笑を見せると、踵を返しシンジに背を向ける。
 まるで、答える必要などないかのように。
 そこに浮かぶゲンドウの表情は明らかにシンジに対しての、蔑みを表している。
 そんなくだらない事を訊きたいのか…と、

「ふっ、下らん、お前にもそのうち分かる日がくる」

 そのままシンジを後に残し立ち去ろうとする。
 シンジはそれが許せなかった。
 その理由のわずかな部分でも、自分が嫌いだからと言われても構わない。
 そう、心に決めて必死に尋ねたというのに、目の前の父親はそれに答える必要はないと…
 そして、逃げるように立ち去ろうとしているのだ。

「大人になればっ!父親になれば分かるっていうの!? 子供を捨てていくのが普通の父親なの!? そんなの…聞いたことないよ…」

 如何に自分を無碍にするとはいえ父親。
 その愛情に触れたことのないシンジはそれに幻想を抱いている。
 故に、憎むことなど出来ないのだ。

「時間だ」

「逃げないでよっ! 教えてよっ!」

 立ち止まることなく歩くゲンドウの先には大型VTOL機が爆音を響かせながら降下してくる。
 そしてそのゲンドウの少し先には、アスカがただ呆然と立ち尽くしていた。

「覗き見とは関心せんな、セカンドチルドレン」

 すれ違い様に、声を掛けられてもアスカは身動きをとれなかった。
 シンジがおかれた環境が自らの想像などまったく及ばなかったことに驚き、何をどうしていいか分からなくなってしまったのだ。
 硬直した思考は、普段なら忘れることない上官への敬礼さえも消し去っていた。
 ゲンドウはその歩みを緩めることなく、やがてVTOL機の中に消える。
 シンジはその立ち去るゲンドウを厳しい目でずっと追い続ける。
〜なんで、答えてくれないんだよ…〜
 その真実だけを求めてこの場に来たにも拘らず…答えずに逃げた父親に対して、この日初めて怒りを覚えた。
 爆音と共に空へ上ろうとするその機体から起こされる風に、アスカは我に返る。
 そして、見つめたその先にいるシンジの表情を見ると再び凍りつく。
 シンジは今まで見せたことのない顔を隠すことなく晒していたのだ。
〜シンジ…アタシ…来ちゃいけなかった…こんなの聞いたらダメだった…〜
 自分の浅はかさに強烈な罪悪感に襲ってくる。
 首筋からは力が抜け、自分の足元だけが視界のすべてになる。
 ミサトに対してあれ程、責めたにも拘らず自分の行いは何なのかと…
〜なんでシンジがあんなに悩んでたのに…〜
 シンジは空へと消えたその機体を見送ると、俯いたままのアスカへと静かに歩み寄る。

「ゴメン、みっともない所みせちゃったね、」

 シンジは先ほどまでとは違う柔らかい声。
 付いてきてしまった事を咎めるつもりなど毛頭ない。
 映画で見るような黒でまとめた服装とその手に持つ花束が、母親に会いに来てくれたのだと語ってくれているのだ。

「ゴメン、シンジ…アタシ、ただシンジのママに…」

 理由はちゃんと理解しているとばかりに頷くシンジ…
 シンジの声に顔を上げられないアスカは、その動きを捉えられない。
 その罪の意識から、言葉を放つことさえも苦しい。
 自分の愚かさをもう一人の自分が責めるのだ。

「いいよ、それより、母さんに会いに来てくれたんでしょ?」

 俯くアスカの顔を覗き込みながら、シンジは優しいく笑いかける。
 それがまたアスカが自身を責める。
 シンジは俯くアスカの手をそっと握ると、ゆっくりとした歩みで母親の前へと導いていく。

「あとで…聞いてもらえるかな、僕と父さんの関係…」

 シンジはアスカを振り向くことなく、告げる。
〜アタシが聞いても良いの?〜
 アスカとて、出来ることなら聞きたいのだ、聞いてはいけないのではないかと思いながらも…
 顔を上げてシンジを覗くと、そこには優しいシンジの顔がある。

「その前に、アスカ祈ってくれるかな?」

 ゆっくりと頷き、墓前に花を捧げながら両手を軽く握りあわせて祈りを捧げる。
 シンジの目にアスカの姿は、まるで映画のワンカットの様に映る。
 そこにはただ静かに祈りの時間が過ぎてゆくだけだった。



















 昔は騒がしいだけの結婚披露宴2次会も…、この歳じゃさすがに静かよね。
 周りを見渡せば、既婚者ばっかり。
 昔はそこら中で恋人探しに忙しい奴らが、大声で喚いて叫んで酒飲んで…
 んで、酔いつぶれるってのが定番だったのにね。
 まぁ、三十にもなる大人が酔いつぶれてたら、みっともないわよね。

「私達も歳とったって感じるわね、こういう光景見ちゃうと」

 以前なら、リツコの傍には男共が張り付いて、剥がすのに苦労したもんだけどね。
 今はそういう奴もいなくて、周りにいるのは旧知の人間だけ、それも大人しくお酒を嗜んでる。
 私の場合は、たった一言『一応これでも、国連軍の士官なのよぉ』って得物を見せるだけで、片が付くから困らなかったけどね。

「そういえば? 田貫の奴は来なかったのか?」

「どこの世界に、過去に付き合ったことのある男を呼ぶ奴がいるのよ、バっカじゃないの!?」

 いかにもボケた質問に私の声にも棘が出る。
 田貫っていう奴は、加持の親友。
 まぁ、加持と仲良く軟派に精を出してたらしいけど、詳しくは知らない。
 ただひとつ知ってるのは新婦の昔彼で…別れ話の仲裁に入ったときに、私がぶん殴った奴。

「あれ? そうなのか?」

「私も、聞いたことないわよ? 田貫って、加持君とつるんでた優男君よね?」

 二人とも、惚けた顔しながら私を見てる。
 さっさと答えろって言いたげな視線だし…
 はぁ… まぁ、リツコはこの当時、ガリ勉ちゃんだったから知らないのは当然として…
 加持まで知らないとはね。
 周りを見渡して、私たちの会話を聞いてる奴が居るかどうかを確認する。
 ぐるっと一回り確認してみても、周りはそれぞれの昔話に花を咲かせている。
 まぁ、もう10年近く前のことだし、話しちゃっても時効よね。

「大学に入ったばっかりの頃にね、あの子ってば、あの男にベタ惚れだったのよ。」

 待ってましたとばかりに、加持の目が輝いてる。
 コイツてば、こういう噂話が好きなところは相変わらず。
 リツコは、知らなかった事実にちょっと驚いてる感じ。
 私もまだ、加持に出会ってなかった頃だしね。
 あの頃はまだ擦れてなかったし、恋愛に夢見てたりもした。

「んで、あの男にイキナリ別れ話を切り出されて、泣きついてきて、そこからはお約束ってとこね」

 問い詰める私に、意味不明の言い訳をしたあの男を、そこで思いっきり殴りつけた。
 まぁ、避けもせずに殴られたのは褒めてあげるけどね。
 そう、この事件がきっかけで…私は加持と出逢った。

「えらい落ち込んじゃってさぁ、一年近く引き摺ってたわよ、」

「ほぉ〜っ、そうだったのか… そりゃ、呼ばれないな」

 親友だけあって、性格をよく把握してるみたいね。
 そう、あの事件の数ヵ月後に、偶然誘われたサークルのコンパであの男…田貫の隣にいたのが、加持。
 酒に強いのが自慢の私は、酔い潰して事に及ぼうとする男共を逆に潰して楽しんでた。
 もちろん、その日も…その予定だった。
 だけど、飲まされた酒には薬品が混ぜられていて…、気づいたときには酩酊状態一歩手前。
 隣にいるリツコは既に酩酊状態。
 計画通りに進んだ男たちは、私達を介抱するように見せかけてお店から連れ出そうとした。
『よぉ、お薬つかってそこのお姫様二人をどうするつもりだ?』
 それを防いでくれたのが、加持とその親友君。
『情けないねぇ先輩方…、そんなことしないと駄目なんですか?』
 その言葉を最後に、私の記憶はない。
 気付いた時には、自宅のベットの上でリツコと仲良く抱き合って寝ていたから。
 もちろん衣服もそのまま、事に及ばれた形跡もなかった。

「あんたの親友でしょ? そんなことも知らなかったの?」

「お互いに女絡みの問題は不干渉だったしな、…いや、一度だけあったかもな?」

 その翌日からお礼を言おうと二人を探してたんだけど、コイツらは大学に来なかった。
 一ヶ月も過ぎようとした頃、ランチを食べてる私に唐突に声が掛けられた。
『二東大きっての才媛、葛城姫が何の御用でございますか?』
 その声に振り向くと、今でも変わることのないニヤけた顔をしたコイツがいた。

「まぁ私は直接、話したことはないから何とも言えないけど、あの優男君なら引っ掛かるのも無理ないわね」

「そうだな、そしてここにも捉えられた憐れな姫君がいらっしゃいます」

 そういいながら、見せる笑顔はあの時のまま…
 変わってないわよね、コイツって。
 私は、この笑顔に惹かれて…
 気付いた時には、コイツのアパートで暮らしていた。

「あの時は吃驚したわ、健康優良児のミサトが一週間も大学に来なかったなんて、後にも先にもあれだけよ?」

 私の傷を見てコイツは『綺麗だ…』って…
 あんな醜い傷跡なのに…
 どうして?って、私の問いにコイツはこう答えてくれた。
 『この傷跡があるから葛城なんだろ? ありのままの葛城が綺麗だってそう思うから言ったんだ』
 その言葉に、私は溶けていった。
 溶けていくのが気持ちよくて、幸せだった。
 そして…愛してしまった。

「まぁそれだけ、俺が魅力的だったって事さ、」

 こうやってすっ呆ける様に、自慢げに言う姿は気障ったらしいのに、それが嫌いじゃない私も変よね。
 ずっとそんな幸せな日々が続くって…
 あの頃は思ってた。
 私がそれを壊すなんて、考えもしなかった。

「なに言ってんのよっ、あんたは私に溺れてただけでしょ、」

「あははっ、そうとも言うな」

 こんなとこでも私の大人の女という仮面は外れない。
 睨み付けるように言う私に、あっさりと受け流すコイツには敵わないわよね。
 だからこそ、ちがうって言える…溺れてたのは、私。
 だけど、私は…コイツを捨てた。
 あの男みたいに、意味不明な理由で…嘘なんだから、意味不明なのも当たり前なこと。
 だから今でも…

「ちょっと、お手洗い行ってくるね、」

 そそくさと立ち去る私の頬には一滴だけ零れだした跡が残ってる。
 やだ、思いっきり泣きそうになってるし…
 一応今日は、晴れの日だからね、泣いていいのは新婦だけ。
 思い出して泣いちゃうなんて、女の子みたいね。
 もう、いいオバサンなのに…可愛い子ぶっちゃってさ、馬鹿…み、たい…



















 アスカの前に紅茶のポットとティーカップが並べられると共に、心地よい水音と僅かに香る良い匂いが、その場の空気を優しくほぐす。

「はい、アスカ」

 霊園から帰る間も帰ってからも、アスカはただ俯いたままだった。
 そして、今もクッションを抱えて身動きひとつしない。
 シンジが何かを話しかければ、返事をしないわけではないのだ。
 シンジが語るという関係に踏み込んでもよいのか?といまだに自問しているだけ。
 そんなアスカの心の中を無視するように、シンジはローテーブルを挟んで向かいに腰を下ろす。

「冷めないうちにね、」

 熱い紅茶を啜る音が、静かなリビングに響いていく。
 紅茶によって緩められた空気が、少しずつ重さを取り戻していく。

「じゃぁ、話すね…」

 声と共にシンジは目を瞑り、記憶の扉を開いていく。

「僕は、3歳の頃までの記憶がないんだ…母さんは僕の目の前で死んだんだって、」

〜コイツも、ママが…でも、記憶が無い?〜
 アスカは顔を上げてシンジの様子を見ると、瞑想するように穏やかな顔でゆっくりと語っていた。

「そのショックで、僕はそれまでの母さんに関する記憶を失ってしまったんだ、
 僕の治療をしてくれてた精神科の先生が教えてくれたよ。
 だから、僕は母さんの面影も、温もりも何も憶えていないんだ。
 母さんがどんな人で、どんな顔をしていて、どんな風に話していたか…
 まったく…思い出せないんだ。」

 ゆったりと話すシンジは、目を瞑ったまま。
 テーブルの置かれたカップに手を添えて、身動きもしない。

「写真とかは、無い…」

 アスカは言いかけたところで、先ほどの会話を思い出す。
 『全部棄てちゃったんだね…僕は母さんの面影さえも憶えてないのに、』
〜シンジには、ママの形見とか遺影とか…ないんだ…〜

「うん、何にも残ってないらしいよ。 父さんが秘密で持ってるかもしれないけど、僕にはね、」

 それまでの、穏やかな顔から苦笑いへと変化させる。

「ゴメンね…」

「いいよ気にしないで、それより今日のアスカは謝ってばっかりで、いつもの僕みたいだね」

 少しでもアスカの気持ちを楽にさせようとした、シンジの優しい顔に彩られた言葉も慰めにはならない。
 逆にその言葉はアスカの自責の念を強くさせるだけ。

「だって私がっ!」

 アスカが身を乗り出して自分の非を認めさせようとすると、シンジはゆっくりと首を振ってそれを否定する。
 そんなことは気にしてないとシンジは言っているのだが、アスカはそれで許されるとは思ってもいない。
 逆に、強く自分を責めるだけ。
 それを見たシンジが苦笑いを浮かべながら、自分の失敗を自覚するがどうしようもない。

「続けるね…、母さんが死んだ後、父さんは僕を親類に預けたって事になってるけど…
 僕を…第二東京の郊外の駅に、置き去りにしたんだ。
 ボストンバックをたった一つ、両手で抱えたまま僕はずっと泣いていた。」

〜置き去りにって…捨てられたの?〜
 驚きにシンジを見つめるが、シンジはその視線を感じもせずに目を瞑り、ただ静かに語り続ける。

「気付いた時には、警察に保護されていて…
 その後数年間は養護学校に、身元が判明した後は父さんの知り合いの家に連れていかれたんだ。
 だけど、その知人夫婦も…父さんが寄越す養育費が欲しかっただけ、
 まだ幼い僕を庭に立てたプレハブ小屋に押し込んで…あとは、何もしてくれなかった。
 食事は持ってきてくれるけど…話もしてくれない。 僕を家に方には入れてくれなくてね、」

〜アタシだけじゃない…不幸なのは、コイツだって…いや、コイツの方が〜
 アスカには自らの経験に匹敵するほどの過去を持つ人物は少ない。
 また持っていたとしても、それは人によって与えられたものではなく…天災と言われるもの。
 人に蔑まれ、それに反発したのがアスカであり…
 それを受け流して生きてきたのがシンジである。
 そして、アスカには逆らうだけの足場と言う名の身分があった。
 セカンドチルドレンと言う名の足場が。
 だが、シンジには与えられなかったのだ。
 足掻こうにも、その足場は泥沼のように緩く、足掻く分だけ沈み不安定にさせるだけ。
 その差を理解すればするほどアスカは自らの人生が幸せであった気がしてくる。
 自分の心を縛り付ける傷と、今もなお縛り付けながら、さらに締め続けるシンジの傷。

「唯一の話し相手は…精神科の先生だけ。それ以外…人と接することはなかったんだ。学校に入るまで誰ともね、」

 シンジの声は震えている。
 だが、顔は笑顔を浮かべたまま。
 声の震えも、引き攣った頬も、シンジには自覚がない。
 シンジはアスカに自分の人生を他愛の無いことと、伝えたかった。
 この時代に両親が居ないというのは良く聞く話であり、実際に一つ歳上というだけでセカンドインパクトにより、孤児だったという人も少なくない。
 だからこそ、この程度の苦難を“苦しい”と言ってはいけないと…。
 苦しくないのならば、笑顔を。
 そしてそれが、植え付けられたものであると言うことも知らずに。
 生きていける、食べられる、教育を受けられる。
 人として最低限の生活は保障されているのだから、それに不平不満を持つことを許されないということを大人により押し付けられただけ。
 それが故に、シンジは笑う…無理にでも。

「今日…父さんに訊きたかったんだ、なんであの時…僕を捨てたの?って…
 結果はアスカも知ってる通り…無視されて、終わっちゃったよ、」

 アスカにはその父親の行動が理解できない。
 捨てた息子を、今度は世界の為に戦えと呼び出すのだ。
 それも、突然に。
 アスカはシンジがその環境に置かれていた時代から、Nervで厳しい訓練を受けていた。
 ならば、何故使徒戦直前に呼び出したのか?
 既に、それを想定してアスカは訓練をされていたのに。
 記憶の問題もNervならば、問題なく治療できたのではないか?
 疑問に駆られながらも、シンジからは目をそらさない。
 シンジは、閉じていた目を開き、天井を見上げる。

「ねぇ…アスカはお母さんってどんな感じか…分かるよね?」

 シンジの頬に一瞬だけ悲しい光の輝きが見えた。
 その輝きは、耳元を通り首筋へと流れていく。
〜泣いてる? 泣いてるの?シンジ?〜
 次第に、シンジの呼吸はは不規則に変化していく。
 アスカにはシンジの問いに答えることは出来ない。
 自分とて、明確な記憶があるわけでもない。
 うっすらと記憶に残る優しい母の匂い。

「教えてよ、お母さ、…の…暖か、って、どん…感じ・・・の?」

 涙をこらえる為に見上げていた顔は、とどまる事が出来ない涙を隠す為に俯き、背ける。
 耐え切れぬ感情の昂りに嗚咽を洩らし、シンジの喉を詰まらせ、言葉も途切れる。

「男のく、に、こんなことで、泣…なん、て、みっともないよ、…ね」

 アスカはそっと立ち上がり、シンジの隣に再び腰を下ろすと、シンジの頭をそっと撫でる。

「今日だけは許してあげる、いいわよ…泣いても」
〜アタシじゃ、代わりにならないかもしれないけど〜

 もはや、シンジにその心の流れを塞き止める事は出来なかった。
 アスカに縋りつき、ただ幼子のようなシンジの泣き声だけが続いていた。



















 ゆったりと規則的に揺れるのが気持ちよくて、お酒で麻痺した頭には揺り籠みたい…
 前に伸びた影が、少しずつ短くなっていって一瞬だけ消える。
 そして、今度は後ろに少しずつ伸びて次第に濃くなる暗がりに飲み込まれる。
 それをゆっくりと眺めてる。
 そういえば…いつからこうしてるのか…良く分かんない。
 二次会が終わって、リツコと加持の三人だけで三次会に行ったところまでは憶えてる。
 そのあと、結構呑んだわよね…酔っちゃったのか、
 そういえば、何年ぶりだろ?吐いたのって、
 なんだか分かんないけど、酔わなきゃいけなかった気がする。

「起きたのか?」

 もうちょっと、この背中に揺られていたい…
 だから、答えないで寝たふり。
 腕に感じる無精ひげがくすぐったい。
 なのに、すごく嬉しくなる。
 剃った方が絶対、格好いいのにね。
 だけど、そのズボラさもまたコイツのいい所だし…

「寝たふりか、まっいいさ、」

 気づいてるなら、聞くんじゃないわよぉ…
 でも、懐かしい…ずっと前にも、こうして揺られたわね。何度も…
 気づいてるのに訊いてくるところも一緒。
 そっか、初めて会った時もきっと、こうだったんだ。
 こういうのって、なんかいい雰囲気よね…
 なのに、そういう時に限ってコイツは絶対に手出ししてこない。
 それがなんか悔しい気がする。
 なら、酔わなきゃいいのに…ってそんな風に思っちゃうなんて馬鹿みたいね。

「わかってるなら降ろしなさいよぉ、歩くから」

 揺られてるだけじゃ何もならないもんね。
 なんか、しなきゃいけない事があったような…

「そうか、ほらっ靴をちゃんと履けよ、」

 ゆっくりと地面が近づいてきて、足が夜の闇に同化したアスファルトに触れる。
 あ、道路が冷たい…なんか、これも気持ちいい。
 このまま道路に横になったら気持ちいいんだろうなぁ。
 なんて、駄目駄目。
 訊こうと思ってたんだ。
 酔って回転が鈍くなった頭には丁度いい刺激だしね。

「いい、このまま歩く」

 今じゃなきゃ、訊けない。
 そっか、その為に私…酔わなきゃいけないって思ったんだ。

「おいおい、どうしたんだ? 今日はおかしいぞ?葛城、」

 えへへってニッコリ笑って、加持の顔を見つめる。
 そんな自分が、余計おかしく感じちゃう。
 もうすぐ30になるって言うのに、女の子みたいにぶっちゃって…
 気持ち悪いって思われてるかな?
 酒豪って自負してるくせに、呑み過ぎて吐いて、仕舞いには歩けなくなるくらい。
 おかしいのも当たり前よね。
 こんな大人のふりしたガキは、おかしくて当たり前。
 お酒が呑めて、タバコを吸えて、体が大きいだけの子供。

「夕べねぇ、アスカに叱られちゃったのよ、私が短絡的過ぎるって、
思い詰めてるシンジ君にさ、無責任にあぁしなさい、こうしなさいって
書類しか見てないのにさ、シンジ君の人生分かった心算になっちゃってさ、
適当に励まして、適当に助言して…って、私、酷いよね」

 今もそう、酔っ払ってしまわないと、話すことも出来ないなんて。
 素の状態だと自分のプライドが邪魔をしてる。
 情けないわね。
 解ってても、それを変えられない。

「そしたらさ、私が悪いのに…シンジ君ってば、ありがとうございますって言うのよ、」

「人を理解する事はできない、だから理解しようと努力する。そうだろ? 葛城?」

 諭すように私に優しい顔を向けてくる。
 ペタペタって足音をさせながら歩く私の少し後ろを心配そうについてくる。
 アスファルトにコツコツって音を響かせて。
 普段は足音なんかさせない癖に…

「ねぇ、この前さ…シンちゃんも男だからって言ってたわよね?」

「ん? それがどうした?」

「男だからって、どういう意味?」

 あの日から、ずっと気になってる。
 私は解らない。
 さらに言えば、あの日からのシンジ君は私の知るシンジ君じゃない気がする。

「ん〜 そうだな…簡単に言えば…自分の命より大切なモノを見つけたから、それを守りた…」

「そんなの安っぽい自己犠牲じゃないっ!」

 そんなの、何にもならない。
 自己犠牲の末に救われたとして、残された者たちはどうすればいいって言うのよ。
 生きていられただけで幸せなんだからって、感謝しろって言うの!?

「まぁ、待てよ…話しは最後まで聞くんだな。『神風特攻隊』ってわかるよな。」

 苦笑いを貼り付けて、私を諌めようとしてる。
 私の言い分くらい加持は分かってるはず、だから余計に『神風』の例え話で何を言いたいのかわからない。

「御国の為なんて理由で、命を投げ出せると思うのか?」

 そんな筈ない、だから私は声を出さずに首を横に振って応える。

「彼等はそれで、自分の愛する人達が幸せになれると信じて死んでいったんだ。
敗戦国というのの、悲惨さを知っているからな。
自分達の愛する人が、その身を売り払うことになったら?
そんなことは命を捨ててでも防ぎたい…そう思うからだろ?」

「じゃぁ、生きて帰ってくればいいじゃない。」

 理由になってないわよ、帰ってきて、その大切な人を守り通せばいいじゃない。
 そんな簡単なこともわからないわけじゃないでしょ?

「生きて帰ったからって、それを防ぐことができないとしたら?
 それが敗戦国の実情だと、知っていたからさ。」

 そ、そんな…そんな訳ないじゃない。
 だけど、その悲壮に満ちた真剣な顔はそれが事実だって言ってる。
 確かに、そうかもしれない。
 セカンドインパクトって大災害を越えても…
 アジア各国は日本という国に保障をしろと…
 それが、真実だったから。

「だからって…」

「だからこそ負けたくなかった。理不尽な命令であろうと従った」

 だから、命を捨ててもなんて出来るっていうの…
 ふと、そこで疑問が浮き上がる。
 私は…それが、答えに繋がる気がした。
 加持君とシンジ君の共通点。

「守りたいものが出来たとき、男って奴は全てを投げ出すことが出来るのさ、」

 そして、ずっと心の中でもやもやしてたもの。
 ある事実を知ったときからずっと、引っかかってた。

「あんたも、そうなの?」

「俺もそうかも知れないな」

 誤魔化しちゃって、ちぇっ…けち。
 しょうがないから、諦めてあげられない。
 膨らんだソレは、そんな言葉じゃ納得してくれない。

「最近のシンジ君見てると…加持君と被るのよ…」

 シンジ君がアレを書いた日から男になったって言うなら、
 コイツも男。

「それは、俺が子供っぽいってことか?」

 そういいながら、いつもの笑顔を見せてくる。
 歳に似合わない悪戯小僧みたいな顔。
 だけど誤魔化そうとしても、もう遅い。
 そんなことじゃ、許してあげない。

「ちゃかないでよ…なんていうか、思い詰めてるのに人には凄く優しくて…」

 そう、凄い似てる。
 どんなに辛くても、絶対に泣き言は言わない。
 一人で全部抱え込んじゃってる。
 特に、夕べなんかそっくりじゃない。

「それなのに、自分の事は…話してくれないのよね、秘密にしちゃって。保護者として認められてないのかな?」

「葛城は上手くやってるよ、俺が保障してもいいぞ?」

 ほら、そうやって私を正当化して慰めてくれる。
 夕べのことは、全面的に私が悪いのに。
 叱ってくれないのよね。
 人に気を使ってばっかりでさ、違うのはコイツの方がちょっと強引。

「ありがと…、でもね、私はだからこそ…って思ってるんだけど、」

「誰にも、秘密の一つや二つあるさ、人はそうやって深みを増していくんだろ?」

 そうよね、私も秘密はある。
 話せないって事なんか、山ほどあるもんね。
 加持なんか、秘密だらけだし。

「そうね、でもね…だからこそ被るのよ、別れたばかりの頃の加持君と…」

 ふられたって言うのに、私の心配ばかりして。
 知ってんのよ? リツコにあれやこれや聞いてたこと。

「俺も、ふられて男になったってことさ、ちょっとシンジ君に比べると遅いけどな、」

 そういう風に、切り替えしてくるのかぁ
 そこまで、秘密にしたいのかな…
 私の答えは決まってるのに、言ってくれないの?

「ねぇ、あの時さ『好きな人ができたから…』って言ったでしょ?あれ嘘だったの、気づいてた?」

「いや、」

 コイツの顔を見ながら話をしても嘘をついてるのなんか見抜けないし。
 いつになく真面目な顔で、私の視線を逸らしもせずに真っ向から受け止める。
 でも、私の勘は嘘だっていってる。

「嘘、気づいてたでしょ?」

「さてな、」

 おどけて、肩をすぼめる…ホント、ドラマの見すぎじゃないの?

「相変わらず、秘密にするのね。いいわ、訊かないでおいてあげる。
でもね、嘘だって分かってて騙されるなんて、それに文句も言わないなんて…」

「それが、男ってもんだと思うんだけどな?」

「わかんないわよ…」

 ドラマの見すぎよ…そんな格好つけても、辛いだけじゃない。
 ポーズまでとっちゃって…
 って、私もドラマみたいよね。
 酔っ払って、裸足で歩くなんて。
 もっと酔っ払った方がよかったかな…

「俺にも、女心は分からないさ、」

「ぷっ…女ったらしで有名なのに?」

「それとこれとは別さ、分かったふりをしてるってだけだよ」

「そっか…」

 これも嘘よね、コイツほど人の心の機微に鋭い奴はいないもん。
 それがどれだけ大事かって、良く解ってるから。
 だから、気づいてるけど…わざと何もしないだけ。

「じゃぁ…私が別れたホントの理由は、「知らないよ」

 酷く辛そうな顔で、私を見つめてる。
 もう、話したくないのかな?
 私の言葉を遮るなんて、余程のことがない限り…しないもんね。

「嘘ね、それも… 分かってたんでしょ?
 加持君に父親を重ねていたことを…」

 私は俯いてる。
 もう、コイツの顔が見ていられないから。
 罪悪感っていうのもある。
 嘘ついてたんだもん、見れないわよ。

「どうしたんだよ? 急にそんなことを…」

 歩きたくない…このまま歩いたら…多分、答えを聞き出せなくなる。
 だから私は立ち止まった。
 どうしても聞きたかったから、どうしても言いたかったから。

「ずっと言いたかったのっ! ずっと謝りたかったのっ!」

「おい・・・」

 もう、止められない。
 私の中に言い表せない感情が吹き荒れていて、自分をコントロールできない。

「聞いてよっ! 私は卑怯者なのよっ!考えなしの馬鹿でっ!」

 もういいっ! 全部洗いざらい言ってやるっ!
 私がどう思ってるかなんて、知ってるくせにっ!

「やめろよ、」

 知ってて、そういう態度でいっつも大人ぶってっ!
 どれだけ悩んでるか知ってるくせにっ!

「挙句に、付き合った男が父親に似てたからってっ!
人類の未来の為になんて言ってても、結局は自分の復讐の為っ!
挙句にいい大人なのに、人に頼ってるっ!」

「やめろっ!」

 叱ってよ…昔みたいに、
 私が馬鹿なことすると叱ってくれたのは、加持君だけなのに…

「だからこうして、困ったからって昔の男にっ! 加持君に頼ってるっ! 甘えてるだけなのよっ!」

 もっと叱ってよ…私が大人になれるように、
 ねぇ、お願い…

「甘えていいんだよ、それで葛城が救われるならな」

 なんで、そんなに優しくするのよ…
 ズルイ。

「なんでよ…加持君といい、シンジ君といい…なんで、そんなに…」

 ずるいのよ…
 その言葉はもう出せない。
 もっとずるいのは私。

「葛城、俺たちはまだ本当の大人じゃない。
 親にもなってなければ、悟りを開けるほどの歳にもなってない。
 男が父親に似てたから、怖くなった。
 だから別れた、それだけだろ?
 困ったから相談した、それだけだろ?
 不安になったから頼った、それだけだ」

 見上げると、私の前にはこれまでに見たことないくらい真剣な顔の加持がいる。
 私の肩を両手で掴んで支えてくれてる。
 言ってくれたことは解る。
 だけど、そんなことが許されるの?

「いいんだよ、女に甘えてもらえる内が華ってな、男としては光栄なことなんだぞ?」

 私の心を見透かしたように、そんなこと言うなんて。

「そんな…こと、言わないでよっ! 私は加持君を今でも好きなのにっ!」

 言っちゃった…
 酔っ払った勢いで、言っちゃった。
 あはは、意気地なしね。
 少し驚いた顔をしてるのなんか、わざとらしいわよ。
 だけどまだ…言わなきゃいけないことがある。
 言わなきゃ…私はこの不安に押しつぶされてしまう。

「だからっ、もう危ないことなんてしないでよっ!」

 なんで、二重スパイなんてっ!
 なんで、日本政府なんかのスパイなんかしてんのよっ!
 おかしいじゃない…
 私を支える腕が一瞬だけ震えてた。
 加持が動揺した?
 表情はさっきとぜんぜん変わらないのに…動揺してる。
 私に知られたくなかったことなの?
 私はNervのTOP3なのよ?
 知らないわけが…ないのに、なんか引っかかる…

「知ってたか…、だが葛城のお願いでも…それは、聞けないな、」

 なんでよ?
 Nervっていう組織を知らない男じゃない。
 今やってることが、命がけってこともわかってる筈なのに。
 命を賭けてもいいほどの事なの?
 『俺もそうかもしれないな…』
 『俺もふられて男になったってことさ、』
 ふとさっきの言葉が頭の中でリピートする。
 え? そんな?

「まさか…」

 もしかして? 私のせいなの?
 私が、あの時話したこと…信じて。
 そんな、アレは第一使徒が起こした…
 だけど加持君の顔は、それが真実ではないって…言ってる。
 じゃぁ、私の復讐は?
 今までその為に生きてきた私の人生は?

「世の中にはまだまだ知らない真実がある。ということさ、」

 そんな…私が知ってる以外に何かあるっていうの?
 そんな馬鹿な…
 もし、私が知らない真実があるとしたら…それを知ることは、消されるということ。
 間違いなく、この世に生を受けた痕跡さえも、消し去る。
 加持はその何かを掴んだっていうのね、
 だからって、ソレを知ったからって!
 加持がいなくなったら意味がないじゃないっ!
 なんなのよ、そんなことの為に命を賭けるって言うの?
 おかしいわよ、何があるっていうのよ…
 加持君の命とそれが天秤にかけるだけの価値があるわけないじゃないっ!
 やめてよ…お願いよ、な…で、」

 いつの間にか声を荒げて心のままに…私は叫んでた。
 加持はそんな私を優しく抱きとめて、ゆっくりと首を横に振っただけ。
 そんなことで…私のことはどうでもいいのに、命がなくなったらどうする気なの?
 言いたいのに、喉から声が出てこない。
 息を吸いたくても、少し吸っただけで無理やり吐き出されて。
 多分、泣いてる。
 いつから、泣き始めたのか自分じゃもう分からない。

「俺も男だからさ、それが理由だ」

 男だからって、残されたら、私はどうすれば…

「おね、が…」

 暖かい感触に包まれて、私の唇は塞がれ…
 もう言葉を話す術は失われた。



















 食事の後片付けをするシンジをアスカはただ見つめてた。
 いつもと変わらない習慣をただ繰り返してる。
 ただそれだけなのだが、アスカにはそれだけではないように感じた。
 一時間も泣き続けたかと思えば、その直後にはいつもと変わらぬ笑顔で、食事の支度を始めてた。
 その背には泣き続けていた時に感じた弱々しさは微塵もない。
 食事をとる頃には昨日までの暗さも払拭しきったように、笑顔を見せる。

「アスカ? お茶飲む?」

 洗い物もひと段落したのか、振り返りもせずにシンジがアスカに問いかけるが…、アスカはそのシンジの違和感に、思考のほとんどを占領されているがために、その声は届いてない。
 シンジの方も、いつもならリビングに移動してテレビを見てるアスカが、ダイニングでテレビを見てることに、ふと、違和感を感じる。
 不思議に思い、振り向いてみれば…自分の方を見つめて、身動ぎもしないアスカがいた。
 アスカはいまだその考えにとらわれたまま。シンジはその視線に驚き、呆気にとられたまま…
 ただ二人は視線の質こそ違うが互いを見つめあう。

「アス…カ?」

 先に硬直から解けたのはシンジであった。
 視線の質こそ、懐疑的なものではあるが、恋しい人物に見つめられるという事に恥ずかしさを覚えたためである。
 シンジの呼びかけにピクリとアスカの体が震える。
 それに釣られるように、顔は次第に赤みを増してゆき…次の瞬間には真っ赤になりながら見詰め合ってたという事実に気づく。

「なっ!なによっ!急に振り向くんじゃないわよっ!」

「え…? いや、ご、ごめんっ!」

 普段ならば、そこで罵詈雑言の嵐とも言うべき、言葉の暴風雨が降り注ぐはずなのだが…
 テレビを見ていたふりをしていただけに、アスカも気恥ずかしさから何も言い出すことができない。
 シンジも、見つめられてた恥ずかしさから、俯いてただ立ち尽くすだけ。

「あ…あのさ、アスカ、お茶飲む?って聞いたら、返事しないで、こっちをジーッと見てるから…」

 沈黙の時間に耐えられなくなった、シンジが言い訳とばかりに話し始めると、それを聞いたアスカは、ピクリと僅かに体を震わせて反応を見せる。
 見つめていた理由を思い出したのだ。
 気丈に振舞うシンジの姿に、違和感を感じたのだと。
 だが、それを口に出してよいものかと、戸惑う。

「どうしたの? 変だよ、アスカ」

「変なのは…アンタじゃない、さっきまでとはコロッと変わって今度は笑ってて…」

 シンジの言葉に誘発されたように、アスカはその疑問を口に出す。
 だが、その言葉を口に出すことにまだ抵抗があったのか、アスカの顔は俯いてシンジからは見ることができない。
 口調だけで言えば…責めるような棘が感じられなくもない。
〜そっか、アスカなりに心配してくれてるんだ…〜
 いかに鈍いシンジとて、その言葉の意味くらいは理解できた。
 それに気付いたシンジは何事もなかったかのように、お茶を湯飲みに注ぐと、それを持ちテーブルにつく。

「はい、お茶」

 そういいながら、アスカの対面に座り、お茶を差し出す。
 余りにも普段どおり過ぎる行動。
 それが故に、アスカは余計に気に掛かる。

「シンジっ!アタシの話…「もう大丈夫だよ」

 耐え切れぬように叫んだアスカの声は、たった一言の落ち着いた小さな声に遮られる。
 のほほんとした顔でお茶を音を立てながら啜る呟きにである。
 ドラマの中で嫁が姑に、旦那の不貞を泣きついたのに、あっさりと受け流されてる。
 そんな、雰囲気が感じられる。

「あれだけ泣いたらさ、すっきりしたよ。」

 シンジの切り返しに、アスカは呆気にとられる。
 直前に爆発しそうだった感情さえもあっさりと鎮火してしまい、アスカの思考は停止させられる。
 その言葉に載せられた感情は開き直りや諦めなどではなく、強さを感じさせたもの。

「それに、あんなに思いっきり泣いたのって、初めてだしね。」

 そして、続く言葉とともに見せられた笑顔には、先日までの翳りなど欠片もない。
〜強がり…なの?〜
 そういう疑惑が浮かぶのも無理はない。
 だが、シンジは強がっているわけではない。
 ただひとつ物事を理解しただけ。
 そして、澱んだ感情の爆発・泣くことで心の底に鬱積した感情が晴れた。
 心の負担が少なくなれば、その鏡も曇りなく輝く。
〜すっきりしちゃったのか…〜
 理解できると、その違和感は感じなくなる。
 代わりにアスカには自分に嫌悪する。
 ここ数週間のシンジの成長の早さと、立ち止まってしまっていた自分の心の成長。
 分からなかったからと、自分の行動を抑制していた事に。
 そして、シンジの気持ちに気づいていながら…まだ一言たりとも返事をしていなかったという事実を。
〜踏み出さなきゃ…ミサトのセリフ、アタシの方こそ必要だったみたいね…〜
 シンジはアスカの表情の変化に、納得しただけと思い込む。
 先ほどまでの呆けた表情から、最近よく見せてくれる優しい笑顔へと変化したのだから。
 その笑顔の意味に別のものが含まれていることを理解していないのは、シンジがシンジたる証なのだが…

「シンジ…アタシもアンタの事、好きよ、」

 今度はシンジが呆ける。
 突然の告白に、思考停止に追い込まれたのだ。
 アスカも停止してる思考が回復するまで、ただ待つ。
 惚けたまま、シンジの脳が再起動を始める。
 そして、自分の価値を理解しないシンジの思考ルーチンは次のように結論を出す。
 アスカの好きな人=加持さん
 恋愛対象=加持さん>自分(シンジ
 自分(シンジ=恋愛対象外
 好き=LOVE ×/Like ○=友人・家族として
 驚きから回復すれば、当たり前の事実であると認識する。
 心の片隅では落胆があるのだが…

「びっくりさせないでよ、友達としてとか、家族とか、そういうのだよね、ありがと、」

 あまりの思考の跳び方にアスカは再び硬直しかけるが、せっかくの一歩を台無しにされた怒りが支配し始める。
〜せっかくアタシが…〜
 だが、冷静な部分が一つの仮説を提案する。
 俯いて、真っ赤になって…などと、少女らしかったのならば…いかに鈍いシンジとて気づいたかも知れないが、こうもサラッと言われて気づけるシンジではない。
 その仮説に間違いないと立証されるまで時間はかからない。
 シンジの表情・声・挙動、全てがそれを肯定しているのだ。

「はぁ…アンタって、ホンっトにっ!鈍いわね…、めんどくさいったらありゃしない」

 本当なら、先日させた約束の時に自分の気持ちを理解してほしかったアスカではあるが…それは無理というのを、ここ数週間に亘って嫌というほど経験している。
 その度に、シンジの左頬は赤くなっていたのだから。
〜理解させるには…やっぱり…かな?〜
 そう結論付けると、ゆっくりと立ち上がりテーブルを迂回しながら、シンジの隣へと移動する。
 アスカ行動が意味することが分からぬまま、シンジの顔はその姿を追いかける。

「こういうことよ…」

 アスカの両手がシンジの頬を包みこむ。
 その行動が意味することに、シンジの心が期待に膨らむ。と、同時に、その考えがあり得る訳がないと否定する。
 アスカの顔がゆっくりと近づいていき、その距離に反比例するように双眸が閉じられていく。
〜え…えっ? えっ!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!〜
 その叫びは、唇を塞がれて行き場を失う。
 代わりに襲い来るのは、甘い痺れを伴う柔らかく包まれながらも吸い込まれるような感覚。
 ここで、シンジの脳は全ての機能を停止。
 ゆっくりと離される唇と共にアスカも自分の行動に恥ずかしさがこみあげる。

「んじゃ、アタシ寝るっ! おやすみシンジっ!」

 アスカは赤く染まった顔を隠すように、部屋へと駆け戻る。
 無論、シンジの顔をそこで見たなら…違った行動に出たのかもしれないのだが…
 そこに残された固まり続ける少年が再起動するのは、日付もとうに過ぎたころだった。












「おーい! シンジ君!アスカ! 開けてくれ!」

 加持が叫びながら、何度もチャイムを押すが…
 居るはずの二人がそれに応えることはない。
 シンジはフリーズ中。
 アスカは先程のキスの余韻に、枕を抱えながら布団の上で悶えている。
 故に、彼らの耳にチャイムの音が届くことはないのだ。

「仕方ないか…、」

 呟く加持の背中にはミサトが再び酔いつぶれて寝ている。
 長時間の口付けに、酸欠になり…再び泥酔状態に逆戻りしたのだ。

「この時間から、俺のアパートに戻るには遠いしな、勘弁しろよ葛城…」

 呟きながら横目で伺えば、幸せそうな寝顔がある。
 それを見ると、これから向かう場所も悪くないと思えてしまう。
 その足が、ネオン輝く繁華街の一角へと進路を変えて進んでいった…





しふぉんさんからコトノハノカミの続きをいただきました。

今回はミサトさんの心情が良く描けていましたね。

それにしても29はまだおばさんというほどの年ではないと思うけど‥‥心情的にそんな気持ちになってしまうところだったのでしょうかw

あと、ヒカリとアスカのあたりからさりげなく本編よりLAS度があがって上昇していくのはなにげに良かったですね。

素敵なお話でした。皆様もぜひしふぉんさんに感想メールをお願いします。