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Act3:真夏の夜の悪夢、再び…。 

by三只
















どこからか聞こえてくるお囃子。

星空に上がる大輪の花。

第三新東京市に、今年も夏祭りがやってきた。

由緒正しい歴史があるに相違ない神社は、様々な出店の群れで飾りたてられている。

そして、煌びやかなそれらに負けないほど、光彩を放つ姿があった。

「さぁて、今年もシュトゥルム・ウント・ドランクの時季が来たわよ…」

舌なめずりせんばかりに呟いたのは、惣流・アスカ・ラングレー。

金髪碧眼に浴衣を着て赤い鼻緒の下駄姿。もとが目立つだけに、この艶姿は注目を集めて余りある。

その隣でひたすら地味な少年の名が碇シンジ。隣人の圧倒的な威光に霞んではいるが、なかなかに繊細な容貌の持ち主ではある。

この二人がセットで移動、活動している姿はそれほど珍しくない。

事実、去年の夏祭りの某大会では、マスク・ド・カップルに扮して大暴れした前科がある。

しかしながら、今年は彼女らの背後に四人のクラスメートの姿があった。

いわずもがな、綾波レイ、洞木ヒカリ、鈴原トウジ、相田ケンスケの面々である。

このグループが集まるのも決して珍しくない。ただ、本日は華やかさが段違いだ。

アスカが赤い浴衣を着ているのはもちろん、レイも青い浴衣を着用していた。そしてヒカリは若草色の浴衣。

三原色の取り合わせは、自然と道行く人の注目を集めるに足りる。

「しかし一体何をする気なんや? わしらを呼びつけてからに」

鼻くそをほじりながら苦言を呈したのはトウジで、彼がじんべえを着ていたのはまあオマケ。

対して、腕を組んだアスカは不敵に笑う。本日、ここに全員を呼び集めたのは他ならぬ彼女の所行だ。

「こうしてみんなで集まったのは、盛大に遊ぶからに決まってんでしょ!」

自信満々の様子で宣言して、当然皮肉るのも忘れない。

「それともなに? アンタ、ヒカリと二人きりの方が良かった?」

「な…!!」

思わず鼻の奥に指を突っ込んでしまうトウジの醜態と、顔を赤くする親友の反応を等分に眺めた青い瞳は、他の参加者も睥睨する。

言葉にせず『文句はないわね?』と告げてくる金髪の少女に、残りの三人は三様の反応。

ケンスケは相変わらずだなあとばかりに苦笑を浮かべる。

レイは平素と変わらぬ無表情。

シンジのみが気まずそうな表情で、それでも同居人の少女の内心を推察していた。

きっと、アスカ、寂しいんだろうな…。

彼女が日本に来て初めて得た仲間たち。

しかし、お互いに高校三年生。

全員が同じ進路を選択するわけではない。必然的に皆が集まる機会は激減するだろう。

永続的な別れとなるわけではないのだろうけど、今、このひとときの時代が終わるのは確か。

なれば最後の夏休み。

彼女が、全員との思い出を増やそうと試みたのも無理なからぬことかも知れない。

相変わらずの理不尽かつ強引な招集と乱暴な物言いも、彼女流の照れ隠しなのだろう、きっと。

それでも、トウジたちの邪魔をしちゃ悪いよ…。

ポリポリと鼻の頭を掻きながらシンジは思う。

別離を惜しむ気持ちなら、彼ら二人だけの感情のほうがより強いだろうに。

シンジの推察は的は射ていたが、一つだけ間違っていた。

それは、同じことを考えていたのは彼一人だけではなかったことである。

トウジもヒカリもケンスケだって、金髪の友人がしようとしていることは薄々察していた。

伊達に長い付き合いでもない。彼女が意地っ張りのくせに寂しがり屋なのも重々承知している。

そしてなにより、彼らも成長していたのだから。

反して、子供っぽさが拭えない態度と口調で、アスカは言う。

「だいたいねー、みんなで遊んだ方が楽しいのは決まってるでしょ?

 しかもただ遊ぶだけじゃないわよ。各種出店で戦果を競い合い、一番負けたヤツが罰ゲーム。

 ね? ドキドキするでしょ?」

たちまち微妙な表情で視線を交わし合う参加者の様子が気にはなったけど、アスカは構わず胸を張った。

「名付けて“ 強羅祭五凶爆闘 ” !!」

どぉぉぉぉおおおん! と効果音でも入りそうな宣言。

「…ちょっと待て。五凶って、オレら六人だぜ?」

さっそくケンスケがツッコミを入れれば、アスカはなんとも哀れんだ視線で眼鏡の友人の顔を一撫でした。

「ああ、アンタは含まれてないから。だいたい、眼鏡のカメラマンは、祭りの後、自分で喉掻きむしって絶命するのよ…」

「なんだよ、それ!?」

叫ぶケンスケの傍らで、シンジはぼそっと呟く。

「…アスカ、時事ネタはすぐ風化するよ…?」

ちょっとした言い争いが生じたが、結局アスカはケンスケのスポット参戦を認める。

まあ、これもいつものちょっとしたウォーミングアップと言えなくもない。

「じゃあ、さっそく行くわよ!」

意気揚々と下駄を慣らす金髪少女の後を、トウジとヒカリは苦笑を浮かべ、憮然とするケンスケを宥めながらシンジ、無表情の綾波レイの順で追いかけていく。







とりあえず出店並木を突っ切って、人通りのない神社裏に到着したのち、アスカは尊大にもルールの説明を始めた。

「じゃあ、対象競技は五種目ね。『型抜き』『射的』『当てクジ』『輪投げ』『ヒモ釣り』よ!」

単に真っ直ぐ歩いてきただけなのに、それだけの出店の目星をつけるなんてさすがアスカ、と洞木ヒカリは感心した。

「軍資金は一人1000円ね。その範囲内なら、どの屋台にどれだけつぎ込んでもいいわ」

なるほど、そうなれば、やはり得意分野に集中的につぎ込んだ方が利口か…。相田ケンスケは考え込む。

「戦利品の具体的な優劣は、あとから審議するからね?」

…こいつ、素直に審議できるんかいな? 鈴原トウジはじんべえの懐から右手を出して顎を掻く。 

「で、罰ゲームは、これで最下位の人の顔に落書き♪」

金髪の少女が浴衣から取り出した油性ペンに、綾波レイは片方の眉だけをピクリと動かす。

「みんな異存ないわね? じゃあ、始めるけど…、あ、ちょっと待ってね、あちち…」

ハフハフいいながらたこ焼きとイカ焼きを食べる同居人に、碇シンジは首を捻る。いったいいつの間に買ったんだろう…?




一人食欲を満足させたアスカを筆頭に、一行がまず向かったのは『輪投げ』の屋台だった。

百円で5本の輪っかを貰い、定められたラインからそれを放る。

一畳ほどのステージの上に並べられた大小様々な景品は、大きい物になればなるほど獲得が難しくなる。

しかも、その大きなトロフィーや人形には、1000円札とかが差し込んであるのだ。

ルールとして、輪っかが対象にひっかかっただけでは獲得できない。

景品をすっぽりその輪の中に納めて初めて獲得となる。

さっそく、他の子供たちに混じって百円と引き替えに五本の輪っかを受け取ったアスカは、大物に目標を定めた。

驚くべきことに狙いは正確で、腰に千円札を輪ゴムで括ったウルトラマンの人形に、輪っかが迫る。

入った! 

驚嘆するシンジらが見守る中で、見事するりと人形を滑り落ちた輪っかは…乗っていた台座に引っかかった。

無理もない、人形本体より大きい四角い台座である。

案の定というか、さっそくアスカは抗議を開始していた。

「なによ、その台座! 元々輪っかが入らないようになってんじゃないの!?」

金髪少女の浴衣姿に目を細めていたおっちゃんは、猛抗議に薄ら笑いを浮かべる。

「ちゃんと通るよ、ほら」

おっちゃんが輪っかの回収がてら、台座に輪を通して見せてくれた。

しかし、それはギリギリ輪の円内に収まるという感じ。

上から放って、見事そこに収まる確率は如何ほどのものだろう?

はっきりいってアコギである。まず取れるものではない。

だがそれがテキ屋というものであって、世間一般ではこのような事を子供だましと呼ぶ。

大人はそれを承知しているからやらないのだ。

なのに、今年で齢18歳を迎えようというのに、騙される人が約一名。

「じゃあ、不可能ってわけじゃないのね!? よっし、絶対取ってやるんだから…!!」

「…無理だと思うよ?」

小声のシンジの忠告は、参加者全員の心情を代弁していたが、彼女が耳を貸すハズもない。

むしろ止めろと言われれば、ムキになって逆に燃え上がるタイプ。

「はん、アンタはせこくキャラメルでも取ってなさいよ!!」

まったくとりつくしまもない。

そしてその通りに、シンジはキャラメルやガムなどの小物をちまちまと狙い始めた。

「はん…つまんない男ねー」

そう斬って捨てたアスカであったが、他の面子も彼にならうものだから、後悔する羽目になる。

だからといって朝令暮改できない意地っ張りな彼女。

結果、ことごとく大物狙いに徹し、四本の輪を投げ終えても一つも戦利品を上げることが出来なかった。

憮然とするアスカの目前で、投げ終えた各々の参加者の手には獲得品が。

ヒカリはなにやら安っぽい金メッキの御神輿のミニチュアを獲得。

トウジとケンスケは妖しいイラストの入ったライターをそれぞれがゲットしていて、レイはキャラメルが二箱。

本当に小物狙いに徹したらしいシンジは、キャラメル一粒にガムが一つ。

…これで取れなきゃ、現時点で最下位だわ。

アスカは逡巡する。

ある程度、保険の為に、なにかを確実に獲得しておけと囁く防御的な自分。

いやいや、まだ始まったばかりだ、序盤なのよ、ここはあえて最後まで大物を狙ってみるべきでは?

まだ楽観的かつアグレッシブな自分。

結局、アスカは、後者の意見を採択した。

ただし、大物を狙うにしろベストを尽くそうと考えるあたりは、負けず嫌いの彼女の面目躍如といったところか。

「ほら、シンジ! あんた、ちょっと手ぇ貸しなさいよ!!」

「え? あ、うん」

言われるままに差し出したシンジは、左手を無造作に掴まれた。

冷たい彼女の手の感触に少しドギマギしていると、そのまま輪投げの投擲ラインまで連れて行かれる。

このラインから足を踏み出してはならない。しかし、上体はいくらでも伸ばして構わない。

アスカは最後の輪っかを右手に構える。

上半身をラインの上で精一杯に伸ばす彼女の左手はシンジをがっちり押さえている。

つまり、通常ではバランスが崩れるほど身を乗り出した投擲体勢を、シンジによって支えて貰おうという魂胆だ。

確かに、景品の乗ったステージに近づけば近づくほど、狙いも確かになるだろう。

だが、傍目には大人げないことこの上ない。

「ほら、しっかり押さえてなさいよ…!!」

一生懸命腕を伸ばすアスカの顔は真っ赤だ。

「う、うん…」

シンジの顔だって真っ赤だが、赤面した理由はもちろんアスカと異なる。

誰だって、他に参加していた子供たちに指さして笑われればこうなるだろう。

「よし、もう少し…」

ジリジリとアスカの腕が伸びる。彼女が拘るウルトラマン人形に狙いを定めるまで、あともう少し…!!

誓って明言するが、シンジは最後までアスカの言いつけを遵守していた。彼に落ち度はない。

むしろ落ち度があったのは金髪の浴衣姿のアスカの方で、彼女は慣れない下駄を履いていたことを忘れていた。

そのような不安定な足下で伸びをすればどうなるか。しかも爪先立ちという暴挙。

「そりゃあ!!」

気合い一発、輪っかを投げた瞬間、ものの見事に微妙な身体バランスの均衡が崩れた。

右巻きで宙を泳ぐ浴衣姿。

「きゃああああ!?」

悲鳴を上げる彼女を支えようと力を込めたシンジだったが、完全にバランスを失った浴衣姿に巻き込まれた。

アスカもアスカで、どうにかバランスを取ろうと、シンジを掴む手に力を込める。

アスカはバランスを取るために、シンジは浴衣を抱え込むように、お互いが旋回した。

どちゃ! むぎゅ!

ギャラリーの悲鳴の中、なんともしまりのない擬音を響かせ、地面に転がる二人。

シンジが下敷きになってくれたので浴衣への汚染はゼロ。

どうやら身を挺して庇ってくれたらしいシンジの上で跳ね起き、アスカの青い瞳は自分の投げた輪っかの行方を探していた。

輪っかは、狙い違わず、見事ウルトラマンの人形に………ひっかかっていた。

しかも、突き上げられた拳と肩の間で制止。全然惜しくもなんともない。彼女的には最悪の結果だ。

「アスカ、はやくどいてくれない…?」

なお地面に転がったまま不満そうに見上げてくるシンジに、さっそくアスカは八つ当たり。

「…うっさい! しっかり押さえていないアンタが悪いんだからね!?」

「そんな無茶な…」

ぽかぽか少年を殴り始めた少女を、一般ギャラリーは驚きと微笑みを混在させた視線で眺めている。

一方、彼と彼女の級友らは、生暖かい視線で二人を見守るのであった。

嗚呼、仲良きことは美しきかな。

この時点で、アスカは獲得品ゼロ。最下位である。










つぎに一行が向かったのは『型抜き』の屋台である。

正体不明の粉で作られた、一枚50円、5�四方ほどの板。

そこに刻まれた形を、画鋲などを使ってくり抜くのだ。

出来上がった形に応じて換金して貰えるという、ある意味もっともテキ屋らしい屋台かも知れない。

複雑な模様のものほど難易度が高いのは当然として、換金率も高くなる。

本日の最難易度はチューリップ。換金はなんと1万円。

もし、これが抜けるとしたら、今日の祭りの一位は獲得したも同然だ。

「よっしゃ、わしの腕の見せ所やな!」

この店で俄然張り切ったのはトウジである。

腕まくりをすると、ベニヤ板の即席の作業台で型抜きに興じている子供たちをかき分け、自分の作業場を確保。

「おっちゃん、ワイには四枚くれや!」

「あいよ」

威勢良く2百円と引き替えに四枚の小さな板をもらう。

実はこのくり抜くべき小さな板自体、紙に包まれて中身が分からない。それをアトランダムにもらうのだ。

ある意味、ここから競技は始まっているといってもいい。

「あ、あたしにも四枚ちょうだい!!」

トウジに対抗するように四枚注文したアスカであったが、負けず嫌いなのはもちろん、彼女にとって初めての体験なこともある。

失敗することも見越しての四枚注文であったが、他のメンバーは全員二枚ずつだった。

「…シンジ、アンタはこれ、やったことあるの?」

「うん、子供のころ何回かね。大体日本の祭りの屋台では大抵どこにでもあるから」

「ふーん…」

気のない返事をしつつ、アスカは、作業台で一心不乱にプラスチックの柄がついた画鋲を動かす子供たちを見る。

画鋲の針の先端で、型板に縁取られた形をなぞる。

削っていけば、やがてその形に抜けるという寸法だ。

理屈はわかるんだけど、根気のいる作業は苦手なアスカである。

青い瞳は、一人の子供が板のカケラを食べていることに気づく。

なにこれ、食べられるわけ?

作業台上の残骸を、おそるおそる口に運ぶアスカ。

噛むと仄かな甘みがあった。なるほど、食べられなくもない。不味いけど。

気づけば、メンバー全員が作業を開始していた。

慌ててアスカも包み紙を開け、作業をすることにする。

えーと、なにこの形? カバ? ポット?

「ああ、それはポットだね。簡単だけと安いやつ。200円くらいかな?」

シンジが説明してくれた。

さっそく画鋲でラインをなぞる。

カリカリ カリカリ カリカリ カリリ

…なんか、全然抜ける気配がない。

そもそも削れているのかしら?

そろっと見渡せば、みんな熱心に削っている。

はっきりいって地味だ。こんな地味なの好きじゃない。もっと派手なものにすれば良かった。

この出店を競技にカウントしたのを後悔し始めたアスカの視線は、トウジを捉えた。

どういうわけか彼のみがニタリとした笑みを浮かべている。

そんなじんべえから伸びた彼の手元から、パキパキと渇いた音がする。

まずは余分な部分、丈夫そうな部分を指で割り抜いていくといのはよくある技術。

しかし、鈴原トウジの一般技術はそれの上を行く。

一番簡単な『船』の形とはいえ、なんと彼は指だけで一枚を完全に抜き終えたではないか。

仕上げとばかりにくり抜いた断面を、別の板でこすり、形を整え始める。

最後に削り粉を吹き払ってから浮かべた勝ち誇った表情。

それは、えらくアスカを刺激してくれた。

くう、鈴原のくせに生意気よ!?

まるで古典ガキ大将のような台詞を胸中で呟き、アスカの細い指は板に力を込めている。

トウジの行動を模倣するからに他ならない。そう、なにも削るだけが能ではないのだ。

むしろ、こっちの方が楽チン…。

「あ゛」

パキンと渇いた音を立て、ポットの頭の取っ手の部分が欠けてしまっていた。

健気にも欠けた部分をくっつけようと試みるが、くっつくハズもない。

失敗である。

…ま、まあ、初めてだから一回くらい失敗するわよね?

自分自身を宥めつつ、二枚目の包みを開けるアスカ。

今度の形は『傘』である。柄の部分が細いので、難易度が高そうだ。事実600円の換金である。

さっそく喜び勇んで割り始めたアスカであったが…。

「あ゛」

またもや渇いた音を立て、柄の部分が真っ二つ。

「だめだよ、アスカ。柄の部分はゆっくり削りださないと…」

「…うっさいわねえ」

そういうシンジの方を見れば、キノコの型をゆっくり削り出しているところ。

なんか、これなら簡単に割って出来そう。

「ったく、アンタはトロいのよ、貸して見せなさい!」

「あ、ちょっと待ってよ、アスカ!!」

シンジが止める間もあらば、それをかすめ取ったアスカはさっそく細い指で割裂く。

ぱきゃ

「あ゛」

「…………」

真っ二つになったキノコの型を放り出し、アスカは明後日の方向と、親友と、青い髪の元同僚の三つを見た。

ヒカリは堅実に針を動かし続けている。一枚目は失敗だったらしい。現在二枚目の様子。

レイに至っては、包み紙から板を出すと、削り出す素振りすら見せず、そのまま口に直行させていた。

「…ファースト、それ、美味しい?」

「不思議な味…。でも、ちょっとだけ甘い…。悪くないわ」

もしゃもしゃ追加の四枚目を咀嚼する青い髪と赤い瞳から気味悪そうに目そらし、思い出したようにアスカはケンスケの方も見る。

カメラを首にぶら下げたケンスケも短気組に属するらしく、彼の前には既に二枚分の残骸。

それ以上する気はないのだろう、暇そうに隣のトウジを眺めている。

今回の競技は、もはやトウジの独壇場といっても良い。

既に仕上げた一枚目をこれ見よがしに目前に据え、もう一枚の包み紙を開く。

中からあらわれた型は『タコ』である。

これもなかなかの難易度で、見事削り出せれば400円だ。

それを認めると、トウジの両眼が妖しく光った。続いて彼は、周囲の子供たちに意味ありげな笑みを振りまく。

「おい、ボンども、ちーと見てろや。今から凄いもの見せたるでぇ…」

実のところ、彼はご幼少のみぎり、ナニワの型抜き帝王の異名を取ったことがある。

難易度の低いものは根こそぎ抜かれ、屋台の中には彼が姿を見せただけで店じまいしたものもいたという。

わずか50円、一枚の元手で、お好み焼き、お面、あんず飴、りんご飴、綿飴、大判焼き、チョコバナナと溢れんばかりの獲物を手に悠々と引き上げていく彼の 姿は、テキ屋と同年代の子供たちの畏怖と尊敬を一身に集めていた。

特にテキ屋にしてみれば、商売あがったりという見本みたいなもの。

だからといって、まだ小さい子供に凄むのも、筋ものとしては如何にも情けない。

精々、不機嫌な顔で睨み付けるのが関の山。しかし、無邪気な帝王は頓着しないのだった。

彼が、自宅で待つ妹の為にいくつもの戦利品を欲していたことは美談ではあるが、商売側の痛手はいささかも慰められはしなかったのである…。

そして今。

10年近くのブランクを得て、帝王はその奥義の一旦を垣間見せようとしている。

タコの型の頭のミゾの部分に針の先端が当てられている。

彼の発する尋常でない空気に、周囲の子供たちはおろか、アスカでさえも気圧されたように口をつぐんでいる。

「…ふっ!!」

何かを切り裂くような呼気を発し、針に力が込められた。

ぱぁぁぁぁん…と澄み切った音が響く。

祭りの喧噪の中でも異様に響いた音。

直後、歓声が爆発した。

なんと台上には、見事にくり抜かれたタコが出現していたのである。

針で一点を突いただけで型をくり抜いてしまう。

型の強度を熟知し、脆い点を看破して、なお神懸かりな力加減とカンを持って可能な荒技。

名付けて『一点抜き』!!

観客と一緒に驚愕している店主のおっちゃんに、トウジは無造作にくり抜いた『船』と『タコ』を渡す。

普通なら、なにかしら削りが甘いと文句をつけてくる店主も、雰囲気に呑まれたのか素直に代金を渡してきた。

事実、文句のつけようがない出来映えであったし。

年季とアルコールで濁ったおっちゃんの両眼が興奮の色彩を帯びる。

「…アンタ、まさかナニワの…?」

「おーっと、おっちゃん、それ以上はいいっこなしや。わしはもうカタギやから、今日はこれ以上せえへんて…」

じんべえの懐に代金600円をしまい込んでトウジは踵を返す。

途端に彼は子供たちに囲まれた。

すげえよ、あんちゃん。今のアレはどうすんの?

ダメやダメや、企業秘密ってヤツや。

ケチらないで教えてくれよぉ!!

その光景を眺め、うっとりする少女が一人。

「鈴原…かっこいい……」

「おーい、ヒカリ、おーいってば」

アスカが目の前で手をぶんぶん振っても気づく様子はない。

でも、確かに今の鈴原はカッコ良かったなあ…。

親友を正気に戻すのを諦めたアスカは、どういうわけか傍らで型抜きを再開している同居人の少年を眺める。

「? どうしたのアスカ?」

見上げてくる彼が削っているのは、自分が買ったもう一枚だ。

キノコの代償に手渡しのだが、未だチマチマ削っていて地味である。

「…何でもないわよ」

どういうわけかため息をつきたくなったのを堪えて、アスカは最後の一枚の包み紙を開ける。

直後、アスカが電撃に打たれたように硬直した、という表現はやや大げさすぎる。

それでも、彼女が興奮したのは事実。

最後の最後に彼女が引き当てた型。それは最高難易度にして最高金額のチューリップだった。

「うわあ、スゴイや…」

まだくり抜いてもいないのに、隣のシンジが興奮した声を上げる。

そんな彼は、先ほど突起の微妙な処理を失敗してダメにしてしまっていた。

他のメンバーもワラワラと集まってくる。

全員が注目してくるなか、アスカは沈思する。

チマチマ削っていけばいずれ抜けるかもしれないけれど、それでは時間がかかりすぎる。

第一地味で宜しくない。

ならば…!!

チューリップの先端に、画鋲の針が当てられた。

「…!! それは無茶だよ!!」

一番最初に気づいたシンジが、悲鳴の入り交じった声を上げる。

「いいから黙ってなさい! …鈴原に出来てあたしに出来ないわけがないんだから…!!」

ここまで来れば、彼女が何をしようとしているのか明白だ。

先ほど、鈴原トウジが見せた『一点抜き』の再現。

しかし、『タコ』と『チューリップ』では難易度は格段に違いすぎる。

はっきり言って無謀である。

なのに、青い瞳に宿る尋常ならざる光よ。

極限まで集中力を高めろ! あたしなら出来る。あたしにしか出来ない…!!

異様な緊張感に、型抜き屋は水を打ったように静まりかえった。

祭囃子の音が遠くに聞こえる。

花火の音も段々遠ざかる。

誰もが固唾を飲んで見守る中、一陣の夜風と裂帛の気合いが緊張を切り裂いた。

「ふんっ!!」

激しく翻る浴衣の袖。

ぱぁぁぁぁん…と澄み切った音が響く。

祭りの喧噪の中でも異様に響いた音。

直後、歓声が爆発した…。






型抜き屋を後にしたアスカは憮然の表情。

そんな彼女を不器用にシンジが宥めている。

「ほら、やっぱり難しかったからさあ、あれは…」

「うっさい」

そっぽを向くアスカ。

「ま、確かにアレはアレで大したもんやったでぇ?」

トウジそういってからかったが、シンジや他のメンバーも同意見ではあるだろう。

くり抜けはしなかったが、実際に彼女が見せた成果は大したものだった。

わずか一点をつくことにより、なんと板丸ごとを粉砕してのけたのだ。

文字通りの粉砕である。粉末に還元したと形容しても大差ない。

跡形も無く粉と化したそれは、夜風に吹かれて綺麗さっぱり消え失せた。

さっきまで存在した固形物は瞬時に消失したのである。

歓声が上がったのもむべなるかな…。




現時点で、600円の実益を上げたトウジが大きなアドヴァンテージを握っているのは間違いない。

アスカは変わらず成果ゼロ。最下位である。










『当てクジ』

100円一回が、高級ゲーム機に化けるかも知れない場所。

等価交換の原則を無視した魔法の出店。

子供の射幸心を煽ってやまない、人気のある出店の一つ。

巨大なタッパみたいな入れ物の中にあるクジをかき回す子供たち。

引き当てたそれに一喜一憂する姿はよくある光景だ。

技術も何もない。運だけが全てである。

アスカは、ここでも二百円を投入する。

ヒカリは三百円。三バカトリオも二百円ずつ投入する。

綾波レイだけが百円の一回勝負だ。

クジを引く際の状況を詳しく描写しても、それほど面白いものではないので割愛させていただく。

殆ど全員が最下位の7等賞を獲得した。

商品は、雑多なオモチャの中から一つずつ。

いわゆる、笛の先端に風船がついていて、膨らますと「べー」という音を立てるヤツ。

笛の先端に、伸ばした紙が丸められていて、息を吹き込むと伸びるタイプ。

または、安っぽいヨーヨー、ビニール風船、キーホルダー、ペンライト。

ただ一人、ヒカリだけが四等賞を引き当てた。

景品は、カラーペンの詰め合わせ。市販で千円はくだらないと思われる。

彼女自身、「妹にいいお土産が出来たわ」と喜んでいたが、これで逆転トップである。

以下に、現時点での順位と残金をまとめよう。




一位 洞木ヒカリ 

獲得品 *( )内は暫定金額 

ペンの詰め合わせ(1000円) ヨーヨー(100円) ペンライト(100円)御輿のミニチュア(100円)

獲得金額:1300円 残金500円



二位 鈴原トウジ


型抜きでの換金(600円) ライター(200円) 風船(100円) ペンライト(100円)

獲得金額:1000円 残金500円



三位 相田ケンスケ

ライター(200円) ヨーヨー(100円) キーホルダー(100円)

獲得金額:400円 残金600円



四位 碇シンジ

ガム(100円) キャラメル一粒(10円) 風船(100円) キーホルダー(100円)

獲得金額:310円 残金600円



五位 綾波レイ

キャラメル(100円)×2 ペンライト(100円)

獲得金額:300円 残金600円



六位 惣流・アスカ・ラングレー

風船つきの笛(100円) 先っぽが伸びる笛(100円)

獲得金額:200円 残金500円




「ファーストより下ってのが納得いかないわ」

「って、さっきから笛で僕を突かないでよ、アスカ…」


    
アスカ、変わらず最下位。










そして、セミファイナル。射的屋である。

ある意味、この屋台が一番人気と言っても良い。

なにせ、ヴィジュアル的にも分かり易く、派手である。

技術の介入度も大きければ、ハイリターンも期待できる。

輪投げより、よっぽど正々堂々勝負できるわ。

アスカはそうのたもうた。

チルドレンとして実際の射撃訓練もしたことのある彼女にとって、得意分野なのはいうまでもない。

他の全員までも惜しみもなく資金を投入したのは、単純に面白いからという理由も存在する。

全員が残金100円だけを残して、全てをコルクの弾丸と交換した。

100円で弾が二つであるからにして、アスカ、トウジ、ヒカリは8発ずつ。

ケンスケ、レイ、シンジは10発ずつ。

「さあて、ワイからいくでぇ…」

ここでもトウジが先頭を切る。

昔取った杵柄を思い起こさせる手慣れた様子で、コルク玉を銃砲に詰めていく。

銃を構える姿は、洞木ヒカリの眼には国際的なスナイパーに見えたことだろう。

相田ケンスケの眼には、往年の大爆発刑事ドラマの刑事部長に映る。

惣流・アスカ・ラングレーの青い瞳には、また違うものに見えたらしく、彼女は遠慮無くそれを口に出していた。

「なんか、ヴィルヘルム・テルみたいね〜」

「…もしかして、ウイリアム・テル?」

「そうそう、ドイツ語読みだとヴィルヘルム・テルなのよ。息子の頭にリンゴを乗せて、見事息子を射抜いたってヤツ」

「そ、それは違うんじゃないかな? 僕が聞いたことのある話は頭のリンゴを…」

「アンタね…。冗談と本気の区別くらいつけなさいよ? 今のは小粋で陽気なジャーマンジョークよ?!」

「…それこそ聞いたことないよ、そんなの……」

とにかく、ゴルゴだろうが大門だろうがヴィルヘルム・テルだろうが、腕の良いことには違いない。

事実、トウジの腕前は大したもので、放った8つの弾丸を全て命中させている。

しかし、射落とした景品は合計で5つ。

チョコボールなどのお菓子が三つに、小さなマスコットキャラの人形が二つだ。

残りの三つの弾丸は、大きなぬいぐるみとゲームソフトに弾かれている。

「ちぃ、狙いがぶれる上に、大物にはさすがに歯が立たんわ…」

商品を受け取りながら悔しそうなトウジに反し、周囲は拍手喝采ものである。ここまで命中精度の高いプレイヤーはいなかったのだから。

続いてはケンスケである。

こちらもこちらでミリオタの意地がある。膨大な知識が、その眼鏡の奥に押し込められているのだ。

…悲しむべきは、知識の取得が技術に直結しないということ。

「これがM16とかなら完璧なんだけどなあ…」

ぼやきつつ、それでもお菓子とトランプを一個づつ獲得している。まずまずの成果であるといっていいだろう。

次はヒカリで、彼女の射撃体勢がメンバーと観客を驚愕させた。

「…なに、ヒカリ、その構えかた…?」

代表してアスカがつっこんだ。つっこんでしまうのも無理はない。

ヒカリの構え方は、銃自体を肩に乗せるように構え、左手は指を伸ばして添えるだけ。

バズーカを撃つような体勢を思い浮かべるのが一番近い。

「え、え、え? …ちょっと昔の少女漫画で、こんな打ち方してたんだけど…?」
 
指導され、普通の打ち方をしてみるが、どちらにしろ素養がないらしく、全然当たらなかった。

店主のおっちゃんから残念賞のキャラメルを貰い、ヒカリは退場。

その次がシンジであったのだが、彼の場合、銃撃のセンス云々より、背後からアスカのかけてくるプレッシャーが最大の障害である。

…あたしより獲得したら、殺すわよ…?

首筋に刺さる悪寒に振り返れば、アスカの青い瞳が無言でそう告げてくる。

まるで蛇に睨まれたカエルの如く縮み上がったシンジは、それでもなんとか安っぽい水鉄砲を一つゲット。

打ち終えてから背後を振り返り、アスカの顔色を窺っている姿がなんとも情けない。

さて、その次が綾波レイなわけであるが。

パン! 

コルクの弾丸が飛ぶ渇いた音。

それが正確な一定間隔を刻む。

機械的にコルク弾丸を充填、発射するものだから、その音は実にリズミカルに聞こえるのだ。

しかも、その音がするたびに、景品が棚から転げ落ちるのはどういうことか。

アスカは眼を見張る。

確かに、ファーストは専らライフルとかばっか使っていたけれど…。

当然、シンジたちの驚きは、アスカより大きい。

「綾波って、射撃得意なんだね…」

眼を丸くして賞賛すれば、青い髪の少女は恥じらうように顔を伏せた。その頬が微かに赤く染まっている。

一方、金髪の少女の方は、この期に及んで悪態をつくのを忘れない。

「…ま、人間、誰にも取り柄ってのが一つくらいあるもんよね。それともまぐれ当たりかしら?」

果たしてその不遜な発言は、レイの耳にはどう入ったものか。

すっと射撃姿勢から通常の体勢に戻った彼女は、つかつかと背後に立っているアスカのそばにやってくる。

なによ、ファースト、闘る気!?

思わず身構えるアスカの傍らを通り抜け、青い髪の彼女が立ったのは、なんと射的屋の屋台からゆうに三メートルは離れたところ。

…まさかそこから!?

観客は眼を見張り、行き交う人々は興味深げに銃を構える少女を眺めては通り過ぎていく。

銃口は、通常より大きく上を向いている。

弾自体に威力がないので、そうやって大きく放物線を描くようにしてやらねば、届くのも覚束ない。

レイは狙いを定める。

そして、引き金を引き絞るタイミングを計っている。

彼女が待っているのは追い風だ。軽いコルクは風に乗る。

それら全ての条件が整った瞬間、引き金は引かれていた。

放たれた音はしなかった。

しかし、風に乗った軽い弾丸は、全員が視認できたといってよい。

緩やかに飛ぶ弾丸は、大きな放物線を描き、そして…!!




コツン




命中したお菓子の一つが、ゆらゆらと前後に揺れる。

息を呑み、皆が見守る中、お菓子の揺れ幅は大きくなって。

棚からそれが墜落すると同時に、大歓声が周囲を揺るがした。

そもそも三メートル先から、軽いコルクの弾丸を飛ばして届かせること自体神業である。

ましてやそれを命中させる、しかも当てた対象を撃墜するとなると、もはや奇跡と形容してもいいのではないか。

さすがに度肝を抜かれたアスカが見ている前を、悠々と凱旋するレイ。

おっちゃんから山のような景品を受け取った彼女が振り返り、金髪の少女に向けた表情。

彼女とは付き合いが薄い人間には判じかねるほど、微細な変化がその白い顔に浮かんでいる。

白磁の頬が少しだけ紅潮、青い瞳がいつもより0.5�ほど見開かれ、口の端が1�ほど持ち上がっている。

勝ち誇った綾波レイの表情だった。

これには、アスカが平常でいられるわけがない。

額に青筋を立てたアスカは、射的屋のおっちゃんに告げる。

「……用意してっ!!」

「あ? ねーちゃん、なんだって?」

「ありったけの銃を用意してっ!!」

アスカの剣幕に気圧され、おっちゃんはカウンターの上にあるだけの銃を並べ始めた。

10丁はあろうかというそれを眺め、アスカの頬に怒りとも苛立ちともつかない表情が浮かぶ。

許せない。

ファーストが、たくさんの景品を獲得したのはもちろんだが、なによりあたしより目立つなんて…!!

青い瞳に炎を宿らせ、アスカはコルク玉の全てを銃の一丁づつに詰めていく。

かくして、計八丁の装填済みの銃が出来上がった。

今度の女の子は何を見せてくれるんだ?

周囲の観客から、興味津々といった視線が降り注ぐ。

OK、十分注目は集まった。

鋭い青い瞳が景品の棚を睨み付ける。

視線の先にはあるのは、一番高く目立つ場所にある景品群。

大きな家庭用ゲーム機は、質量的にも論外として、彼女が眼を付けたのはテディベアのぬいぐるみだ。

しかも、こんな場末の屋台に似つかわしくないシュタイフベアであることを、アスカは看破していた。

…ターゲットは、あれだ。

撃墜できる景品として、物理的にどうにか可能な範囲だと思えたし、仮に落とせばぶっちぎりトップを確保できるだろう。

「負けて…らんないのよぉぉおおおおおおおっ!!」

アスカは吼えた。

同時に彼女の両手には装填済みの銃が握られており、それらが立て続けに連射された。

パパパパパパパパン!

狙い違わず全ての弾丸はテディベアに殺到、命中する。

どっしり腰を落ち着けていたクマのぬいぐるみも、さすがにこの連打には前後に揺れた。

アスカ必殺の集中砲火である。

この熱すぎるパフォーマンスに驚く群衆。

そして驚きはどよめきに変わる。

目標たるテディベアは大きく大きく前後に揺れて……………徐々にその幅は収束し ている。

結局、観客の声は、ため息となった。

テディベアは、変わらぬ姿で棚の上に鎮座していた。

つぎにアスカが取ろうとしていた暴挙を、いち早く気づいたシンジが制止することに成功したのは、一緒に暮らしている時間が長い証明だろうか。

「ちょっと、シンジ、離しなさいよっ!!」

「って、いわれても!! それはいくらなんでも滅茶苦茶すぎるよ!!」

「あたしは、射撃より、近接格闘の方が得意なのよぉ!!」

シンジに羽交い締めされたまま銃身を逆手に取って振り回すアスカ。狙いは落とし損ねたテディベアだろう。

一瞬遅れて反応した他の仲間たちが、なお暴れる彼女を取り囲んで、無理矢理引っ張っていく。










アスカは落ち込んでいた。

なにせぶっちぎりの最下位である。

自分の思い描いた通りに行かない苛立ちすら通りこし、彼女の気分を泥沼のようにしているのは、自身の提案した罰ゲームも一因だろう。

油性ペンで、最下位のヤツの顔に落書き。

ファーストの額に『肉』とでも書いてやろうと思ったのに。

このままでは、逆に、あたしが額に『猿』とでも書かれそう。

最後の競技が一つ残ってはいるけど…。

青い瞳は、束ねられたヒモを選ぶ親友の姿を映す。

『ヒモ釣り』

巨大な網籠の中に大小様々な景品が鎮座している。

その景品それぞれにヒモがついていて、それは天井で束ねられる。

束ねられたヒモは、寄り合わされ、筒状の覆いで隠され、籠の外へ。

百円一回で、覆いから出たヒモを一本選んで引いて、吊り上げた景品が貰えるという寸法だ。

ルールで、いくら高価な景品を釣り上げても、他の景品のヒモに絡まると無効など、結構シビア。

反面、景品はプラモデルからゲームソフトと高価な傾向が見られる。

或いは一発逆転も不可能ではないかも知れない。

不可能ではないかも知れないが。

「じゃあ、これ」

ヒカリが選んだヒモを引く。

なんとヒモは最新ゲームソフトに繋がっていて、それが緩やかに吊り上がっていく。

どよめく観客。

しかし、そのヒモは、他の景品のヒモに絡まり、宙ぶらりんで停止する。

「はい、嬢ちゃん、アウトだよ。残念だね」

手際よく網籠の中に棒を突っ込んだおっちゃんが、絡まったヒモをほぐす。

それから、また引っ張る側の束ねられたヒモの方をシャッフル。

ここいらへんは情け容赦なして、残念賞もないのは厳しい。

おそらく、高価な景品を引いても、わざと途中でヒモが絡まるように細工はしてあるのだろう。

当てクジより人為的な処置が施してあるのは間違いない。

「ほら、最後、アスカの番だよ…?」

傍らにやってきた少年に声をかけられも、アスカは一向に慰められはしなかった。

むしろ、声に含まれた同情の色彩に、イライラした声で返してしまう。

「ふん、アンタはいいわよね。たくさん景品とれてさあ」

「そんなに僕もとってないよ…」

シンジの語尾はゴニャゴニャといったものになってしまう。

確かに、彼はアスカより多数の景品を獲得していた。

最後のヒモ釣りもとれこそはしなかったが、アスカより上位であること分かり切っている。

そして、おそらく逆転されないであろうことも。

すでにヒモ釣りを終えたケンスケ、トウジ、レイらも戦果はゼロである。

このテキ屋の難易度を如実に物語っていたが、それはアスカの気分を暗くするだけで改善はしてくれない。

この少女にしては珍しくマイナス志向に陥ってしまっていた。

思わず両手で顔を覆ってしまう。

ああ、どうせ、あたしは何も取れなくて、そして罰ゲームされちゃうんだわ。

高校生最後の夏休みの思い出に、目蓋に眼を書かれたり、ヒゲをかかれまくったりしちゃうのね、シクシクシク…。

自業自得のクセにヒロイズムの涙に耽溺するアスカであったが、ふと表情を改めた。

ちょっと待って? 

景品を獲得できないなら、強奪すればいいじゃない。

顔に当てた手の隙間から覗けば、そこにいるのは碇シンジ。

その無防備な表情と物腰は、鴨が葱をしょって鍋に浸かってグツグツ煮えて、まるで食べ頃のよう。

そろりと、アスカはこちらに背中を向けたシンジへと近づく。

浴衣の袖をまくりあげ、細い腕を剥きだしに。

そう、首筋をコキュ! コキュっとね!?

今まさにアスカの細腕がシンジの首に食い込もうとする寸前、鈴原トウジの声が、浴衣姿のアサシンの動きを釘付けにした。

「あ、獲得商品の譲渡はモチロンなしやで? だいたい、誰が何を獲ったか、ばっちり覚えてるさかい」

隣の相田ケンスケも熱心に頷く中、シンジは背後の気配に不思議そうに振り返った。

「…アスカ、何してるの?」

「ああああ、えーと、その、アンタの首筋にでっかい蚊がね!? もう、第4世代型巨大宇宙戦艦サイズの大物の!!」

「へえ…?」

とんでもない言い訳だが、誤魔化される方のシンジもどうかしている。

渋々、もう本当に渋々とアスカはヒモ釣り屋の前に立つ。

おっちゃんに百円を渡し、幾つものヒモが目前にある。

これで命運が決まる。

そう思うと、どうにも手先が鈍ってしまう。躊躇してしまう。

即決即断が信条の彼女にあるまじき逡巡を垣間見せたアスカだったが、行動に反し、その天才的な頭脳は無駄にアクティブに稼働していた。

…そうよ、もう負けていると思うから悪いのよ。

まだ逆転できるわ。勝負はまだついちゃいない。

思い出せ。あたしの名前。

あたしの名前は惣流・アスカ・ラングレー。

不可能を可能にする女、ってわけじゃないけれど、それなりに逆境には強いハズ。

追いつめられれば追いつめられるほど実力を発揮するタイプじゃない?

そう、あたしは一発逆転の似合う、天才美少女よ!!

と自己暗示をかけてしまえばしめたもの。

獲物を狙う猫科の動物さながらに青い瞳が細まり、瞬時にターゲットを見極める。

網籠の中心。

丸い輪の中にぎゅうぎゅうに押し込められた各種ゲーム機、オモチャ、プラモデルなどなど。

それらを束ねる輪っかにヒモがついているのだ。

いわば、高額景品の詰め合わせ。大当たり中の大当たり。

この輪に連なるヒモを引き当てれば、華麗極まりない逆転絵巻が展開されるだろう。

…問題は、ここに技術の介入する余地は一切ない。

左右するのは本人の勘。ひいてはその個人が所持している運。

ここでなお迷うような素振りを見せれば、それは惣流・アスカ・ラングレーの名折れ。

電光さながらに腕が閃き、一つのヒモを引っ張り上げる。

「これよっ!!」

叫ぶように宣言して、ヒモに力を込めるアスカであったが。

…あれ? 重い!?

同時に巻き起こるどよめき。

「…ウソだろう!?」

ケンスケが思わず叫ぶ。その叫び声こそが事態を象徴していたといってもいい。

見物人を始め道行く人も足を止め、籠の中に視線を集中する。

もし、視線が熱を持っていたら、きっとヒモは焼き切れていたに違いない。

しかし、幸いかな、細いヒモは健在で、なおゆっくりと上がりつつあった。

ヒモの端は輪に結びついている。

その輪の中には超豪華賞品の詰め合わせが。

信じられない思いがアスカの胸中を満たす。

…あたし、やったの!?

じんわりと意味が染みこんでくる。

嬉しさに思わず頬が綻んだ。

「すごいよ! やったよ、アスカ!!」

隣に来た少年が、我が事のように喜んでくれている姿もなお嬉しい。

どよめきはいつの間にか歓声に代わる。

羨望と感嘆の視線が肌に刺さるのを感じる。

殆ど夢見心地で、アスカはヒモを引っ張る手に力を込める。

奇跡的にも、ヒモは他の景品のヒモにも絡まっていない。

ひっぱりあげさえすれば、あの豪華景品は全部あたしのもの。

ああ、持っていないゲーム機もあるし、ダブったヤツは中古ショップにでも売ってお小遣いに。

バラ色の皮算用を始めたところで、誰が彼女を止められよう?

大歓声に包まれ、アスカは最後の力でヒモを引っ張る。

栄光と賞賛の未来が、彼女にははっきり見えた…。













ずぽん!













極めて散文的な音が、アスカを現実世界に引き戻した。

急に軽くなった手元に、彼女は首を捻る。

あれ?

もう一回引っ張ってみるが、どうにも軽い手応えしか伝わってこない。

網籠の中を見て、青い瞳が茫然といった色を浮かべる。

…どうして、景品が、中に落ちているのだろう。

確かにあたしが釣り上げたハズなのに……?

「はい、嬢ちゃん!」

おっちゃんが、網籠の中から輪っかを取り出して、結びつけてあったヒモを外してくれた。

「…え? あの…、あれ?」

「景品のフラフープだよ、おめっとさん!」

「………はああああい?!」

アスカは悲鳴にも似た声を上げる。

「そんなのって…」

隣のシンジも似たり寄ったりの表情で、周囲の観客も子供たちに至っては根こそぎブーイングの声を上げていた。

もっとも大人たちは、「やっぱりね」と言わんばかりの苦笑を浮かべている。

目玉商品は、端から取れないようになっている。テキ屋の鉄則だ。

トウジたちも、妙に長いため息をついて諦観の表情を浮かべている。

綾波レイだけがやはり無表情だった。

半ば無理矢理アスカにフラフープを押しつけると、おっちゃんは何喰わぬ顔で通常営業を開始している。

売り上げも評判も落ちるかも知れないが、あれだけ大量の景品を奪取される損益よりはよほどマシだろう。

仕方ない。

これが祭りの屋台というものだ。

だいたい、子供のころから、クラスメートに祭りで豪華な景品をもらったヤツがいただろうか?

そもそもテキ屋自体、限りなく一方的に近い搾取なのである。

子供にはそれがわからないから夢中になる。だから、大人になるにつれ、テキ屋への興味は薄くなるのだ。

ある意味、日本の祭りの伝統である。

残念だけど、仕方ないね。さあ、もう行こうよ。

そうシンジが声をかけたのだが、彼は忘れていた。

他のメンバーも失念していた。

彼女が日本文化への馴染みが薄いことを。そしてなにより負けず嫌いという子供っぽいところがあることを。

「なによこんなの詐欺じゃないのよふざけんなああーーーーっ!?」

アスカの怒声が大爆発。

あまつさえ、フラフープを振り回して大暴れだ。

たちまち、別の意味で観衆が集まってくる。大騒ぎになる。

どうにかシンジが取り押さえることに成功するも、アスカの口は止まらない。

「あたしの景品をよこしなさいよでなきゃ日本政府に訴えてやるぅううううう!!」

さて、屋台テキ屋はいわゆるヤクザものの仕切りである。

そんな中で、このような大騒ぎをすればどうなるか。

「ちょいとお嬢さん方、なにか問題がおありで?」

サングラスをかけた厳つい大男のご登場。一目で分かる尋常でない雰囲気。

取り巻きを連れず、単独であるのがなおのこと怖い。

あまりにも素早いご登場にはワケがある。

実は彼女らグループは先ほどから目を付けられていた。少なくとも、射的屋はあれほど落とされると洒落にならない。

「アンタが元締めなの!? いい? さっきね!? …って、シンジなにすんのむぎゅ!」

トウジの目配せを受け、シンジはアスカの口を塞ぐ。

絶妙のタイミングで、ケンスケが彼女らの前に立ちふさがり、更にその前に進み出たヒカリが愛想笑いを振りまいた。

ヒカリの隣にはトウジが進み出て、大男にペコリと頭を下げる。

「えらいすんません。あの女、見てもらえば分かるとおり外人なもんで、日本の祭りをよく知らんのですよ。
 
 後でよっくと言い聞かせますさかい…」

ヒカリも矢継ぎ早に頭を下げる。

「おさがわせしました〜」

「ほな行こうか、な?」

トウジに促され、シンジは暴れるアスカを引きずり、ケンスケがそれをフォローする。

その後をトウジが愛想良く頭を下げながら追いかけ、ヒカリも続く。

かくして、トラブルは未然に回避されたのだが。

青い髪の少女、綾波レイ。

しんがりになるはずの彼女だけが、まだ動こうとせず、無言で大男を見上げていた。

「…お嬢さん。まだ何か?」

ジロリと見下ろしてくる大男に憶した様子もなく、彼女は片手を差し出した。

無言で差し出された大男の手に、彼女は手の中のそれを放り込む。

「上げるわ。…迷惑かけたお詫び」

「…こりゃあどうも」

手の中のキャラメル二箱に視線を落とし、大男は言う。

つぎに彼が顔を上げたとき、青い髪の少女の背中は客波に飲まれるところだった。











「なによ、屋台全体が詐欺みたいなものなんて…」

なおブツブツいうアスカの怒りはようやく冷めようとしていた。

まったく、最後の最後で面白くない。

気分が削がれたから、もう帰るわ。

そういって踵を返したアスカだったが、即座に進行方向をトウジに遮られる。

「…そうは問屋がおろさへんでぇ…?」

「そうそう。罰ゲームがまだだったよなあ?」

こちらの声はケンスケのもので、彼もニヤけ顔を隠そうとしない。

「あ、罰ゲームね罰ゲーム。いやーすっかり忘れていたわ。で、なんだっけ、罰ゲーム。みんなにアイス奢るんだっけ?」

この後に及んで往生際の悪いアスカであったが、トウジとケンスケはそろって首を振ってくれる。

悪寒と戦慄に周囲を見回せば、さすがに気の毒そうなヒカリと視線があった。

恥も外聞なく、目線で助けを求めるアスカ。

「…その、さすがに女の子の顔に落書きって、ひどくない…?」

読み通り、ヒカリは助け船を出してくれたのだが。

「ダメや。そもそも言い出しっぺは惣流やで?」

「提案したヤツが約束を反故しちゃ、さすがにね〜」

男子両名に即座に粉砕される。

更に助けを求めてレイを見れば相変わらずの無表情だし、シンジにいたってはこの期に及んでフラフープを弄くりまわしている。

なにやってんのよ、あのバカ! あたしがドキドキするほど大ピンチなのよ? 早く助けなさいよ!!

心の中で悪態をつくアスカだったが、まだまだ諦めたわけじゃない。

「そうよ! あたしのさっき獲得したフラフープ1000円くらいするでしょ? だったら…!!」

確かに現時点でのシンジの獲得景品の合計は、

ガム(100円) キャラメル一粒(10円) 風船(100円) キーホルダー(100円) 

それに射的の水鉄砲(300円)を加えて610円、第五位である。

「いーや、あのフラフープは精々300円くらいやて!」

トウジが主張する。困ったことに、安っぽいそれはその値段が相応に思えた。

仮にフラフープの代金300円を加えたところで、アスカの現在の獲得商品合計は、

風船つきの笛(100円) 先っぽが伸びる笛(100円)

の200円。くわえても500円でシンジに負ける。

「…だから、な。観念して、おまえもたまには罰ゲーム受け入れろや」

ジリジリと迫ってくるトウジに、アスカもたじろぐ。

逃げようにも、背後にはケンスケ。

左右はヒカリとレイに固められ、四方ともに逃げ場なし。

「あっ」

その時、シンジが小さく上げた声。思わず縋り付きたくなってしまったのは、いわゆる藁をも掴む心境だ。

そして事実、その声は彼女にとっての救いの声となる。

「このフラフープの裏側に値札ついている。500円だって…」










「おまえ、アホか? 黙って見て見ぬふりして値札捨てりゃ、惣流のヤツがビリだったのに…」

呆れ顔でいうトウジだったが、油性ペンを握った手には容赦がない。

額の右上に青筋、鼻の下に盛大にグルグルヒゲを書く。

「ま、それがシンジのシンジたる所以だろうね」

クスクス笑いながら、ケンスケは額の中心に『米』と書く。あとはオマケであごひげをボーボーと。

「ごめんね、碇くん…」

しおらしい台詞と裏腹に笑った声でヒカリはシンジの右頬に花の絵。少女漫画みたいな長い睫毛も書いた。

「………」

レイは無言だったが、書いたものはストレートかつ雄弁極まりない。

彼女は、左頬の手つかずのスペースにこう記す。

『碇くん、スキ』

最後がアスカなわけであるが、彼女の表情は複雑骨折していた。

今回はすんでの所で勝ちを譲ってもらったというべきか、それとも庇ってもらったと形容すべきか?

…ええい、どっちでもいいわよ。シンジのヤツだから、きっと素でボケたか何かしてたんだわ。

感謝なんかしなくていいの。元々あたしの勝ちだったんだから…。

気を取り直してペンを握る彼女は、周囲の期待に反して少ししか書かなかった。彼女が書いたのはたった二文字だけ。

その行動に、他の勝ちメンバーは彼女の内心を推察、笑いを漏らさないよう必死だ。

かくして、罰ゲームは滞りなく推敲された。

あらためて落書きだらけのシンジの顔が、提灯の明かりの下に浮かび上がる。

彼は、鼻の下からグルグルヒゲとあごひげを生やし、少女漫画のような長い睫毛に加え右頬には花の絵。

額の真ん中には『米』の一文字が鎮座し、左頬にはメッセージが。

『碇くん、スキヤキ』

…ひとしきり笑ったあと、トウジは提案する。

「さて、そろそろ解散とするかのう」

「そうだね、僕もこのまま出店廻りたくないや…」

シンジの主張にみんなが苦笑する。なにせ、何が書いてあるか彼自身分からないのだ。

じゃあ帰ろうか、と三々五々散ろうとした一行だったが、アスカがシンジにちょっと待ってと言い残しどこかに駆けていく。

「どうしたんだろ、アスカ。まさか、また文句いいにいったんじゃ…」

心配するシンジのシャツの裾を引っ張る影。

「…どうしたの、綾波?」

青い髪の少女は顔を伏せて言う。彼女が顔を伏せているのは、笑いを堪えているせいだとシンジは思った。

「碇くん、送ってって…」

思いがけないことをレイは言った。

シンジは彼女の提案をのんびり吟味する。

確かに夜の帰り道は物騒だろう。よし、アスカにお願いして…。

「ダメよ、シンジはあたしと一緒に帰るんだから」

いつの間にか戻ってきたアスカが、そばで胸を反らしていた。

彼女の手に何かをもっていた。なにやら買ってきたらしい。

注意を引かれたシンジだったが、不意にそれを被せられる。

さすがに元祖ではないだろう。何代目かは分からねど、それはウルトラマンのお面だった。

「…ほら、それ被って帰ったほうが、恥ずかしくないでしょ?」

たっぷり三秒かけて、シンジはアスカの行動を理解した。

どう考えても驚きの方が先行してしまうあたり、普段の彼女の行動が伺えるというものだ。

なんだかよくわからないけど、アスカが僕に気を使ってくれている…?

茫然としてしまうシンジのシャツを、更にレイは引っ張る。

「…碇くんは私と一緒に帰る…」

だが、その主張は物理的に切断された。

なんとアスカは、フラフープをシンジに被せると、その輪ごと彼を引っ張りよせたのだ。

「ほら、シンジ。さっさと帰るわよ!!」

「う、うん…。ごめんよ、綾波。…みんなもまたね」

こうなってしまえば、彼が逆らえるはずはない。事実、身動きもとれなくされているし。

ウルトラマンのお面を被ったシンジがずりずりと赤い浴衣に引きずられ、遠ざかっていく。

後に残されたのは、珍しく悔しそうな表情をするレイ。

他に残された三人の友人のうち、トウジが面白そうに呟く。

「結局、一番の景品を獲得するのは、いっつも惣流のヤツやなあ…」

その発言に、残りの二人も顔を見合わせ、苦笑を交わしあった。

フラフープを被せられたシンジの姿。

それに、彼らが、初っぱなの輪投げの光景を重ねたのはいうまでもない。



















Act4に続く?







 









三只さんから連載第三話をいただきました。

前回はアスカのシンジへの愛の話でしたが、今回はシンジのアスカへの愛の話でしたね。

愛とは信じることでもあるが、耐えることでもあったのですね(w

素敵なお話でした。ぜひ読後には三只さんに感想メールをお願いします。

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