夏と言えば辛いものをよく食べるというイメージがある。
実際、常夏の国の料理には辛いものが多い。カレーも辛いものとして夏に多く食される、
代表的な料理の一つだろう。


ある日の葛城邸は何かがおかしかった・・・
そのトイレと浴室は死刑執行囚の待合室と化していた。
死刑囚は碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーの二人だった。
罪状は「不純異性交遊」・・・・・

罪と罰 - 1 -

written by オサーン

ある日のシンクロテストの後、チルドレン達は義務を終えて着替えてから帰宅の途に着いていた。ファーストチルドレンはさっさと着替えて一人で帰宅の途に着く。
セカンド、サードの2名は帰路が同じという事もあり、待ち合わせの上で一緒に帰る事になっていた。
彼らは待ち合わせの後、2人だけでエレベーターに乗り地上へ向かった。

そのネルフのエレベーターは非常に深く、地上までには5分程はたっぷりかかるのである。
かねてより交際を始めていると思われるセカンド、サードの各チルドレンにとって・・・そこは二人だけの小さい密室だった。自分たち以外にほとんど使う人間もおらず、そこに閉じ込められて退屈な時間を過ごす彼らがとっていた暇つぶしの行為は・・・ディープキス・・・だった。
以前からこのエレベーターの中で幾度も繰り返されていたそれは、彼らにとってごく当たり前の行為だった。
その日も密室での、このすばらしい行為に恍惚を覚えていた二人はそれを愉しんでいた。
彼らは唇を重ね合うというごく当たり前のキスはもちろんだったが、「その時」
はディープなキスに緩急をつけるためお互いに舌を突き出して舌だけをからめ合うというかなり高度なキスをしていた。

その時・・・・・ある階層、普段ならここでエレベーターが止まる事はないはずだった。
しかし「チン」というベルの音と共にエレベーターが停止した。行為に夢中になっていた彼らはその音に気付かずにそれを続けていた。



ドアが開き2人に差した大きな黒い影、それは・・・・・

「お前たち・・・なにをしている・・・?」
その声に、声にならない悲鳴を上げ、お互いの顔をあわてて離す2人。しかし上から見下ろす視線はこれ以上の彼らの動きを完全に封じた。
「もう一度聞く・・・ここで何をしていた・・・?」
エレベーターに乗りその行動を見ていたのは、司令でありシンジの父親でもある碇ゲンドウだった。

彼は明らかに怒っていた様子だった。司令として、施設内でのこのような不謹慎な行為は当然許されるものではない。そして父として息子がこのような場所でこのような行為をしていることに対しての父の躾の両方の怒りだった。
「シンジ・・・お前には失望した・・・」
自分たちに非がある少年少女は何を言われようと反論はできなかった。

「シンジ・・・ここはどこだか知っているな・・・?」

「このようなことが許されると思っているのか・・・?」

「シンジ・・・何か言ったらどうだ?」

碇シンジはただ下を向いて俯くしかなかった。アスカも、その言葉がシンジのみに向けられてはいるもののその迫力に顔を蒼白にして怯えている。相手が保護者であれば彼女も何か言い返すのであろうが、彼を目の前にしてはさすがの彼女も何も言い返せない。

「シンジ・・・お前たちは規則を破ったのだ。わかるな・・・」
「規則を破った者達には罰を与えられて当然だ・・・」
その言葉に少年少女は真の恐怖を感じた。そして言葉が続けられる・・・
「今は非常時だ・・・お前たちへの処分は私の全権において決定して伝える・・・」

やっと、碇シンジは口を開く事ができた。「お前たち」という言葉から、愛する少女にも罰が加えられると言明されたわけで彼女に及ぶ累を心配したからだった。
「処分は全て僕が受けます・・・彼女は関係ないんです!!」

「だめだ・・・」あっさりと彼の申し出は拒否された。そして冷酷にも隣の少女を睨みつけて言葉を続ける。その視線にアスカは更に恐怖を感じ「ヒイっ」と小さい悲鳴を上げた。



「お前たちは二人で規則を破っていたのだから二人とも罰を受けてもらう・・・わかるな?」
2人からは返事がない・・・

「この処分を拒否すると言うのなら・・・赤木博士に頼んでお前たちは生体実験の被験者となってもらう・・・さすがにそれは嫌だろう・・・?

ゲンドウなら自らの息子であってもあのマッドサイエンティストに売り渡しかねない。
彼にとって他人であるアスカなら尚更の事、情などかけないだろう。
その言葉にアスカは泣き出し始めた。
とりなすようにゲンドウは言う。
「私の罰を受け入れれば良いことだ・・・子供たちへの罰は教育的指導に過ぎん・・・」

そのあとの沈黙を経てエレベーターは地上に到着した。彼はエレベーターを降り際にこう言って姿を消した。
「罰の内容は明日の夕方までに言い渡す・・・」
動かないエレベーターに取り残された二人はドアが閉まると抱き合って泣きだした。
「シンジぃ、シンジぃ!こわかったよぉ・・・」
「アスカぁ、僕だって怖かったよぉ・・・」
二人ともへたり込みながら、ちびっていなかったのが不思議なくらいだった。


翌日、彼らは眠れない夜を過ごし、昼近くに本部に召集された。不思議な事にテストも何もなく、ただ施設内廊下で待っているように伝えられたのだが、2人にはここで判決が言い渡されるものだとわかっていた。
その法廷にはなぜか保護者も呼ばれていた。
(保護者に通報して、保護者にも罪を負わせるつもりなのか?!そこまでしなくてもいいじゃないか!?僕たち(私たち)だけでいいじゃないか!?)
2人の考えは一致していた。親愛なる保護者を守りたい・・・

やがて、裁判官が現れた。彼は笑みを浮かべていた。不気味な笑みだと思ったが彼にはそのような笑みしかできないのかも知れなかった。そして恐るべき処分が下される。

「葛城三佐・・・チルドレンたちは最近疲れているようだ。今日はもう帰ってかまわんから今日は彼らを手料理でもてなしてやってくれ・・・わかったな?」
「はいっ!」と直立不動の態勢で答えるミサトだったが何か解せなかった。

「葛城三佐、ごくろうだった。先に帰って準備を始めてくれ」



「それと・・・この件について報告書を提出するように」
「はっ」
「じゃあ、シンちゃん、アスカ、私は買い物してから帰るから。また後でね。」
不可解な命令だったが命令は命令だ、従わないわけにはいかない。

残されたチルドレン二人にゲンドウが続ける。
「これがお前たちへの罰だ・・・残さずにきちんと食べろ・・・その確認のために報告書を出させるのだからな・・・・残した場合には完食できるまで何度も同じ命令を出すことになる・・・わかるな・・・・・

みるみる、チルドレン二人の顔色が失われていく。
ニヤリと笑って立ち去るゲンドウ、その先にはファーストチルドレンが不思議そうにこちらを見てゲンドウの到着を待っているのだった。

「ハハ・・・事実上の死刑・・・だね」
「アタシ達の命も今日の夜までって事ね・・・最後の晩餐・・・それ自体が処刑って事・・・」
「アタシ・・・今のうちに懺悔しておくわ・・・」
「でも、同じ人間が作って、一緒に食べるミサトさんだって同じ人間なんだよ・・・多分僕らも大丈夫だって・・・」
「アンタ、あの部屋に棲んでるミサトが人間だって言い切れるの?・・・奴は・・・あの腐海に、タルタロスに、魔界に棲んでるのよ・・・人間じゃないわ!!魔物よっ!!

「・・・・・」 そうして二人は頭を垂れて俯いてしまった。家路に着く足取りは重く、鉄球の付いた足枷を付けられているような感じだった。


(シンちゃんとアスカは疲れ気味って言ってたわね・・・よし、今日は栄養満点!スペシャルカレーを作るわヨン♪)
もはや、タンクトップにホットパンツという砕けた格好にエプロンを付けて・・・彼女はご機嫌だった。また見ようによっては美しい新妻が旦那に愛情料理を作っているようにも見えただろう。
(えーと、疲労回復には・・・ビタミンは必要よねぇ・・・特にアスカは肉が好きだし・・・)
彼女はキュ○サイの青汁をおもむろに取り、開封して鍋を満たしていく。
これはセカンドインパクト前からの有名なブランドだった。栄養という面では申し分ないのだがバラエティ番組では罰ゲームにも使われるほどのものでそのまずさには定評がある。
(これがベースのスープね・・・これを使えば野菜を切る必要はないわ♪)
それを熱していくと部屋中に・・・それだけでヤバそうな匂いが充満する。



(えーと・・・スタミナが付く食べ物・・・ニンニク、ニラ、それに栄養ドリンクかしら?
やっぱりユン○ルよね♪おぉ徹夜続きの友よ・・・シンジ君もこれでパワーを補給ね♪)
ニンニク、ニラをジューサーに入れてそれにユンケルを3本入れてスイッチを入れる。
完全に混じり合ったのを確認し、その蓋を開けた時・・・この部屋の空気に色が付いたように見えたくらいの臭気を発していた。
そして、それを熱した青汁のベースに混ぜて、かき混ぜて行く・・・・・
もはやその作業をしているミサトの嗅覚は人間の限界を超えているのかも知れない。

「トローリ♪トローリ♪魔法のスープぅ♪栄養たっぷり生命のスープぅ♪」
殺人的なその香りには生命という文字を使うべきではないと思う・・・

その時のチルドレンはと言うと、まずシンジは換気扇を全開にしてトイレに籠っていた。
トイレに籠っている分、キッチンに近いわけで彼女の鼻歌などの言動を聞いていた。
「父さん・・・僕はいらない子どもなんだ・・・」
涙を流しながら嘆きの言葉を紡いでいた。
アスカは浴室に籠り、これもまた換気扇を全開にしていた。彼女はただ自分の運命に絶望し泣き崩れていた。
「ママ・・・もうすぐ会えるわ・・・向こうでシンジを紹介するわね・・・ママ・・・


調理はまだ続くのである。ミサトが取りだしたのはそのままのヤリイカだった。
この大きさなら切る必要もなく鍋に放り込めるのである。スチロールのパックからおもむろに引出し、洗う事すらせず、鍋に入れる・・・・・これによりさらにそのベーススープの香りがより官能的になっていく。
生臭さと・・・やがて溶け出すイカのわたの香りが加わり絶望のハーモニーを奏でる。

ところでここまでカレーと言いながらカレーらしさがない。ミサトはレトルトカレーを取り出してそれによりカレー風味に仕立てようとした。そしてそれを入れたわけだが当然のことながら塩味が足りない。あとの部分はソースで味を整え。辛さと酸味はキムチで調節した。そして煮込んで行けば・・・・・
「ミサト特製、スペシャルスタミナカレー」の完成である。
ちなみにここまで、もはや休暇のミサトは調理をしながら500缶のビールを4本空けていた。隠し味には入れてないようだった。

「このパンチの効いた香りと味・・・激戦を乗り切るための最高に元気の出るカレーじゃない!?これさえあれば使徒殲滅なんて楽勝よ!!」
そのカレー自体が強力な兵器であることを創造者は全く自覚していなかった。



まだ途中で居眠りをして炭にしてくれた方が幸せだったかも知れない。しかし、その作成者は監視の目を怠ることなくこの傑作を完成せしめた。

そして処刑の幕が上がる。
「セカンド、サードチルドレン」VS「ミサト特製、スペシャルスタミナカレー」のハルマゲドンがミサトの「ご飯よぉ♪二人とも♪」葛城ミサト、いやヘイムダル角笛のような声によって始まった。





2へ続く
寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる