妄劇ウルトラDX


rinker





1.ギャップ


「いつかはこうなるって思わなかった?」

 ベッドに仰向けに倒され両手を押さえられたアスカは、覆い被さるシンジの顔を見開いた目で見つめて絶句していた。
 少しでも考えなかったといえば嘘になる。でも、自分が想像し、あるいは望んでいたのはこんな形じゃない。
 それを伝えようとしたアスカだったが、上手く言葉が出てこなかった。シンジの顔はいつになく無表情で、組み敷いた彼女のことをじっと見下ろしていた。
 言葉が出てこないのは、そんな彼のことが怖かったからかもしれない。事実、彼女の身体は小刻みに震えていた。彼女を押さえつけているシンジの力が思いの ほか強いこともあるが、それ以上に身体が竦んで逃げ出すことができなかった。
 今、家にはアスカとシンジの二人しかいない。保護者役の葛城ミサトは仕事で不在だ。そんな状況で思春期の少年少女が二人きりにされた結果としては、ごく ありきたりな展開かもしれない。けれど、このまま状況に押し流されて何もかも委ねてしまうほどアスカは擦れていなかった。
 せめて相手の気持ちを確認したい。ほんの少しでも自分のことを好きだと思ってくれていなければ嫌だ。もしも欲望を満たすことだけが目的だとしたら許せな い。

「シンジ、一つだけ、あっ……」

 言葉が途切れてしまったのは、たぶん唇を塞がれたせいだ。現実を直視するのが恐ろしくてたまらずアスカは目を閉じた。今自らの唇を塞いでいるものの正体 を必死になって頭から締め出す。熱いような冷たいようなぬるぬるした感触が一刻も早く過ぎてなくなってしまうように。そこにこれまで知らなかった気持ちよ さが含まれているなどというのはもちろん錯覚に決まっている。
 アスカはただ目を閉じてじっとこらえていた。





「うわあああああっ!」

 とんでもない悲鳴とともに跳ね起きたアスカがいるのはもちろん自分のベッドだ。いつものタンクトップとショートパンツ姿で、身体にはきちんとタオルケッ トが被せ てある。閉じられたカーテンの隙間からは朝日が眩しく差し込んでいて、ベランダの柵で羽を休める小鳥でもいるのか、可愛らしい歌声が聴こえてくる。
 完全無欠の爽やかな朝だ。しかし、アスカの気分は爽やかさから到底かけ離れていた。
 もちろん、意識ははっきりしているし、何がどうなっているのか彼女は完璧に理解している。
 昨夜就寝したのは午前零時を少し回った頃だった。就寝前には中 学校の国語の復習を して、友達のヒカリから借りた少女マンガを一冊読んだ。さらにさかのぼれば、昨夜の夕飯はグラタンとオニオンスープだった。そのあとにお風呂に入ってクラ スの女子の間で話題になっていた恋愛ドラマを観たのだ。
 ドラマは超面白かった。
 記憶は完璧だ。アスカは何の問題もなく昨日一日を過ごし、ベッドに身を横たえて目蓋を閉じた。そして眠り、翌朝悲鳴とともに目を覚ました。
 つまり、すべては夢だったのだ。
 ベッドの上のアスカは寝癖でぼさぼさの頭をうつむけ、手のひらで顔を押さえた。
 そして、次に彼女が動き出したのは三十分も経ってからだった。





「あれ? アスカ、起きてたんだ。珍しく早いね」

 部屋から出てきたアスカを見つけて、エプロン姿のシンジがお玉片手に振り返って言った。朝食の味噌汁でも作っていたのだろう。アスカが起きたのを今知っ たということは、彼女が悲鳴を上げた時には彼はまだ寝ていたに違いない。
 本当なら今はシンジの顔を見たくなかったのだが、浴室の扉がダイニングキッチンに面しているため、お風呂に入るためにはどうしてもそこを通らざるを得な い。アスカはいかにもしかめっ面で小さく返事した。

「……おはよう」

「うん。おはよう。朝ごはんはもういつでも食べられるから」

 エプロン姿のシンジにはまったく屈託がない。彼にしてもそもそも本意でなかったはずだが、よほど性に合っているらしい。なまじ柔和な顔立ちをしているの がなおのことたちが悪い。

「……まるでママね」

「え、何?」

 どうやら今度の呟きはシンジに届かなかったらしい。アスカは肺の中に溜まったもやもやをこれ見よがしに吐き出すと、首を傾げている彼に背を向けてまっす ぐに浴室へ向かった。
 多少ましな気分になってからお風呂を上がったアスカがいつものバスタオルを巻いただけの姿ではなくてきちんと服を着ていたことに、どうやらシンジは少し 驚いたらしかった。

「今日はほんとに珍しいね」

「……スケベ」

「ちっ、違うよ!」

 ぼそっと零すと、彼は随分と慌てて言い返した。
 違うはずがあるものか、とアスカは思う。いつもシンジの視線がどこを向いているかくらい彼女にはちゃんと分かっていた。時には火傷しそうなくらいに絡み つく彼の視線は熱を帯びている。おまけに、とアスカは心の中で付け加えた。こともあろうにあたしの夢の中であんな不埒な真似を仕出かすし。
 当然それは言いがかりというものだが、アスカはそんなことお構いなしだ。しかし、シンジのほうはといえば理由も分からず犯罪者を見るような目つきで睨み つけられて居心地が悪いものだから、慌てて朝食の用意に戻っていった。
 アスカがいつもと違ってお風呂上りにちゃんと服を着ていたのが今朝見た夢のせいだということはいまさら言うまでもない。いつもは顔を赤くするシン ジが面白くて可愛くてそんな挑発的な行動を取っていた。万が一にも彼が襲いかかって来ることなどないと高を括っていたというのもある。
 でも、それはちょっと違うのかもしれない、とアスカは部屋を出る時に考え直したのだ。何よりこれは恥ずかしい。タオル一枚の下は正真正銘の裸なのだか ら。別にあんな夢を見るまでもなくこれまでだって実は恥ずかしかったのだが、とにかくあんな夢を見てしまった以上は無防備な姿を彼の前にさらすのには抵抗 を感じる。そこで今朝はきちんと着替えを持って部屋を出たのだ。
 もっとも、明日からどうするかはアスカにもまだ分からない。





「何、アスカ?」

「別に」

「そう」

「……はぁ」

「ねえ、僕の顔に何か付いてる?」

「付いてないわよ、うるさいわね」

「じゃあどうしてさっきからこっち見てるんだよ」

「見てないわ」

「見てた」

「見てない」

「見てたよ」

「見てないったら! しつこい男ね!」

「こらこらこら! 二人とも朝から喧嘩するのはやめなさい!」

 子どもっぽい言い争いを始めたシンジとアスカに対して保護者のミサトがたまらず口を挟んだ。二人の喧嘩は別に珍しくもないことだが、朝からこれほど不機 嫌なアスカはあまり見たことがない。それにアスカ自身は先ほど否定していたが、テーブルを挟んで二人と向かい合っているミサトの見たところ明らかに彼女の 機嫌の悪さはシ ンジへ向けられていた。これではいかに大人しいシンジでも文句を言いたくなるのは無理もない。

「喧嘩の原因は何なの、二人とも」

「知りませんよ。アスカが勝手に怒ってるんです」

「決め付けないで。あたしは普通よ。バカシンジが突っかかってくるだけ」

「先にそっちがじろじろ睨んできたんだろ?」

「睨んでない。自意識過剰じゃないの、あんた」

 またしても言い争いが始まりそうだったのをミサトの声が遮った。

「やめなさい! アスカ、一体どうしたの?」

「うるさいわね。どうもしないわよ」

「シンジくんが何かしたの?」

「僕は何もしてませんよ、ミサトさん」

 シンジはいかにも心外だという表情で文句を言ったが、ミサトは取り合わなかった。

「今はアスカに訊いてるの。シンジくんは少し静かにしてて。アスカは黙ってないで答えてちょうだい」

「だから何でもないったら。大体シンジが何かするわけ、できるわけがないでしょ?」

 明らかに小馬鹿にしたアスカの言葉を聞いて、隣の席に座るシンジの表情がさっと強張った。

「じゃあどうしてそんなに不機嫌なの?」

「ミサトもしつこいわね。あたしは完璧に正常よ。これがあたしの普通なのよ!」

「……ヒステリー」

「何ですって?」

 小声で呟かれたシンジの言葉を聞き咎めたアスカがすごい形相で彼を見た。

「ぼそぼそ口の中で物を言うんじゃないわよ。男のくせにうっとうしい奴ね!」

「アスカみたいな金切り声よりましだろ!」

「何よ! 悔しかったらもっと男らしくしてみたらどうなの!?」

 顔を近づけ唾を飛ばして怒鳴りあいを始めた二人の様子にミサトは頭を抱えてしまった。もしもできることならタイムマシンで過去にさかのぼって、思春期の 子ども、それも男女を二人も預かる などという無謀な決断を下した自らの頭を拳銃で撃ち抜いてやりたい。
 と、ミサトの足元までやってきたペンギンのペンペンが、彼女を見上げて心配そうに鳴いた。

「クキュー……」

「ああ、ごめんね、ペンペン。うるさいわよね。いいからあなたは自分のお部屋に入ってなさい」

「キュッ、キュッ、キュッ」

 沈んだ声の飼い主を励まそうというつもりなのか、ミサトの足に何度か頭をすり寄せてから、よちよちとペンペンは歩いていって自分の部屋である冷蔵庫の中 に閉じこもった。

「まったく、ペンペンにまで心配されるなんて」

 ミサトは頬杖をついてテーブルの向かいで言い争う二人を眺めた。

「いつもあんたがあたしのこといやらしい目で見てることだって知ってるのよ!」

「アスカこそ自意識過剰じゃないか。大体裸みたいな恰好でうろうろするほうがどうかしてるんだよ!」

「家でどんな格好しようとあたしの自由でしょ! あんたこそ気にならないならあたしを見るんじゃないわよ!」

「気になるに決まってるだろ!」

「……ほらね。うじうじしてるくせにそういうところだけは一丁前に男ってことね。あたしに何かする勇気もないくせに」

「何を言ってるんだよ、アスカ」

「否定したいならあたしに何かしてみなさいよ。四六時中一緒にいるのよ? いつだってできるはずでしょ?」

「何考えてるんだ、そんなことできるわけないじゃないか!」

「だからあんたはいくじなしだって言ってるのよ!」

 どうやら、とミサトは二人を見ていて思った。何がどうなっているのか大体見当がついてきた。どちらかといえばミサトにとってこれはあまり係わり合いにな りたくない展開だったが、二人の同居が決まった時点である程度覚悟もしていた。
 今朝のことは感情のブレが極端なアスカらしいが、シンジからしてみればわけも分からず振り回されるのはたまったものじゃないだろう。しかし、いずれにせ よそろそろ止めてやらなければならない。立ち上がったミサトは大きく息を吸い込むと、張りのある大声を怒鳴り合う二人に浴びせかけた。

「二人ともやめーっ!」

 それがあまりの大音量だったので、驚いて思わず眼をまん丸くしたシンジとアスカは揃ってミサトを振り返った。その様子を満足げに見ると、ミサトは打って 変わって穏やかな声で言った。

「学校に遅れちゃうわよ。アスカ、制服に着替えてらっしゃい」

 朝起きてすぐに制服に着替えていたシンジとは違って、アスカはまだお風呂上りのTシャツとショートパンツ姿だ。アスカはしばらくの間躊躇していたが、ミ サトの無言の圧力に気圧されて自分の部屋に向かった。
 それを見送ったミサトは今度はシンジを見た。

「シンジくん。朝ごはん美味しかったわ。ごちそうさま」

「あ、はい……」

「あなたも学校へ行く用意をしてきなさい。洗い物はわたしがしておくから」

 言われたとおりにシンジが部屋へ向かったのを見届けると、ミサトはテーブルに両腕をついて大きなため息を吐き出した。

「ああ胃がしくしくする。わたしに子育ては無理よ、お父さん」

 そんな弱気を振り払うように胸元のクロスを握ってかぶりを振ったミサトは、アスカと話をするために彼女の部屋の前に立った。無理でも何でもとにかくこの ままにしておく わけにはいかない。二人がただの子どもならば放っておくところだがあいにくとそうではないし、それ以前にこの先こんなことが続くようなら本当に胃に穴が開 いてしまう。

「アスカ。わたしだけど入るわよ」

 ノックをして呼びかけても返事はなかったが、ミサトは構わずふすまを開けた。アスカは背を向けて制服に着替えている最中だった。そのまま部屋に入り、ふ すまを閉じたミサトが言った。

「着替えながらでいいから聞いてね」

 ブラウスのボタンを留めながらアスカはかすかに振り返ったが、それ以外の反応は返さなかった。それでもミサトは言葉を続けた。

「認めたくない気持ちは分かるけど、そんなに焦ることでもないとわたしは思う」

 ボタンを留め終わったアスカは無言でショートパンツを脱ぐ。

「もちろん、あの子の察しが悪いのは事実だけど」

 じろりとミサトを睨んだアスカはすぐに視線を外してハンガーで壁にかけられたジャンパースカートを手に取り、足から通してそれを身に着けた。

「アスカは最高に可愛い女の子よ」

 ブラウスの裾をスカートの中に入れ、腰のホックを留めたアスカはミサトのその言葉にようやく口を開いた。

「自分の醜悪さは自分で一番よく知ってるわ。下手な慰めはよして」

「慰めじゃないわよ」

「あらそ。でも、あたしは醜くて嫌な女よ。あのバカだってさぞうんざりしてるでしょうね。あたし自身でさえ時々そうなんだから」

 本当にお人形のように可愛らしい女の子でいられたなら、母も父も自分を愛さずにはいられなかったはずだ。シンジだって、きっと。
 でも、しょせん現実は違う。

「そんな風に卑下するもんじゃないわ。誰にだって欠点はあるし、欠点があったって世界一可愛い女の子にはなれるのよ」

 その言葉にはアスカは答えなかった。姿見に映った自分と向かい合って襟のリボンをまっすぐに結ぶ。

「たとえば、たった一人の男の子にとっての世界一に」

「下らない」

 リボンを結び終えたアスカは不愉快に吐き捨てた。視線は鏡の中の自分へ向けられたままだ。

「あらそう?」

「あたしはエヴァのパイロットよ」

「そうね。でも、十四歳の女の子でもあるのよ」

 たとえば同居する男の子が構ってくれなくてヒステリーを起こすような?
 心の中でそう自嘲気味に吐き捨てると、アスカは深いため息を吐き出してかぶりを振った。
 まったく、馬鹿みたいだ。

「朝から騒いで悪かったわね、ミサト」

「あら?」

 ミサトは少し驚いた。こんな風にあっさりアスカが謝るとは予想していなかったからだ。
 もちろん、アスカにしても本来は簡単に自らの非を認めてそれを表に出せるような性格をしていない。しかし、朝からシンジを相手に当り散らして今こうして ミサトに穏やかに諭されていると、つくづく自分が馬鹿なことをしていると思い知ったのだ。これでは幼児がかんしゃくを起こすのと変わらない。世界の誰より も優れたエヴァのパイロットなどという割にこのざまだ。
 結局のところミサトが正しいのだろう、とアスカは心の中で静かに認めた。エヴァのパイロットであるという特別さには、同時にあたしがアスカというただの 十四歳の女の子に過ぎないという事実と何ら抵触するところはない。

「急に素直になったものね?」

「あたしにも多少は救いがあるってことでしょ。さあ、もう着替えてカバンに荷物も入れてることだし、学校へ行ってくるわ」

 手にカバンを提げたアスカはミサトと向かい合ってまっすぐに立って言った。

「まだ間に合う?」

「走ればね。あのバカよりあたしはずっと足が速いのよ」

「いいわ。いってらっしゃい」

 アスカのために身体をずらして道を開けたミサトは、その横を通り過ぎて部屋から出て行こうとふすまに手をかけた少女の背中に声をかけた。

「一つだけ約束して」

 顔だけで振り返ったアスカの視線がじっとミサトを見つめた。

「今日中にシンジくんと仲直りすること。直接謝るのが嫌ならメモを置いておくとか何だっていいわ。とにかく明日まで持ち越さないで、必ず今日中によ」

「それ、経験上の台詞?」

「まあね。わたしにはできなかったけど」

 肩を竦めておどけた保護者にアスカは鼻を鳴らした。

「ふん。当てにならなそうな忠告をどうも」

「どういたしまして」

 開いたふすまから出て行く間際、アスカは小さな声で「いってきます」と言った。ミサトは慌ててそのあとを追い、彼女の背に「いってらっしゃい」と投げか ける。
 さて、シンジはと思って彼の部屋を見ればすでにおらずカバンも見当たらなかった。しかし、アスカと話している間に家を出た気配もないので、大方玄関で彼 女を待って一緒に家を出たのだろう。
 いずれにせよ、喧嘩をしてもああして付かず離れずの関係でいられる間は大丈夫だ。ダイニングに戻ったミサトは洗い物は自分がすると宣言した手前、テーブ ル上の食器をそのままに放置していたら学校から帰宅したシンジがひどく腹を立てるだろう、と考えた。いや、ひょっとすると怒りを通り越して呆れられるかも しれない。十四歳のガキんちょに呆れられるようでは保護者としても立つ瀬がないというものだ。
 しぶしぶ食器をシンクに下げた彼女はスポンジを手に取ってそこに洗剤を落とすと、実に久しぶりとなる洗い物を鼻歌交じりに始めた。決して楽しんでいるわ けではないが、滅多にしない分だけ気楽な鼻歌も出てこようというものだ。
 洗剤の泡を水で洗い流し、ぴかぴかになった平べったいお皿を目の高さに掲げると、ミサトはどこまでものん気に言った。

「痴話喧嘩で人類滅亡しませんよーに!」





「へくしゅん!」

「きゃあっ! こっちにつば飛ばさないでよバカ!」











2.こんがらがった



「(今日こそ告白するぞ。アスカが起きてきたら真っ先に伝えるんだ。絶対、必ず、きっと。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げ……)」

「おはよ、シンジ。今日って雨が降ってるのね。日本の雨はじめじめ蒸し暑いから嫌いだわ」

「おっ、おっ、おは、はっ」

「やあね、くしゃみならあっち向いてしてよ。あたしに唾かけないで」

「……おはよう、アスカ」

「あら、暗いわね。ま、あんたの場合はいつものことか。はぁーあ。それにしても今日は憂うつだわ。何かいいことないかしら」

「! あ、あのねアス……」

「ってあるわけないわよね、どうせ。中学校にいるのはガキばっかで授業も退屈だし、今日はシンクロテストの予定もないし。いっそ使徒でも出てくれないかし ら。思う存分ぶちのめしてスカッとしたいわ」

「……そうだね(何で僕のほうを見ながらこぶしをにぎにぎしてるんだろ……)」

「で、今日の朝ごはんは何?」

「えっと、お味噌汁とベーコンとレタス、トマト、それから目玉焼きと……」

「つまり、いつもと一緒ってわけね。はいはい、ありがと。それじゃ食べましょうよ。ミサトの奴は待つ必要ないわ。どうせ起きてきやしないんだから。もう食 べられるんでしょ?」

「う、うん。じゃあアスカは席についてて」

「(何でどうして、もっと可愛いこと言えないのかしら、あたしって)」

「え、何か言った?」

「何でもないわよ、バカシンジ。お腹空いてるからさっさとして」

「ご、ごめん」

「(あたしのバカバカバカ)」

「それじゃいただきます」

「いただきまーす」

「……ねえ、アスカ?」

「何よ、あたしのベーコンはあげないわよ?」

「そうじゃなくてね」

「そうじゃないなら何? ぐずぐずしないで早く言って」

「好きなんだ」

「ベーコンが?」

「アスカが」

「ふーん。あ、マヨ取って」

「はい、これ……、あの、それでね?」

「はいはい、好きなんでしょ、あたしが」

「う、うん」

「……ん? シンジがあたしを好き?」

「そう」

「な、何ですってぇ!?」

「うわっ、ご、ごめんなさい……!」

「あ、あんたバカァ!? い、い、言って良いことと悪いことってもんがあるでしょうが!?」

「……え?」

「……あれ?」







3.仕切り直し



「もう一回言って」

「好きだ」

「もう一回。名前も一緒に」

「アスカが好きです」

「もう一度」

「アスカが好き……、あの、いつまで続けるの?」

「いいから。ワンモア」

「好きです」

「名前も」

「アスカ」

「もう一回」

「……からかってるんだ、絶対。あとで僕のこと笑い者にするんだ」

「バカね、そんなことしないわよ。いいからもう一回言って」

「ううう……好きだアスカ好きだ好きだ大好きだアスカが好きだ超好きアスカ超愛してる!」

「うわっ、ちょ、ちょっとシンジ」

「僕はアスカが大好きだーっ!!」

「バ、バカ、そんな大声で」

「アスカは僕のこと好き!?」

「は、はいっ」

「ちゃんと答えて!」

「す、好きよ。シンジが好き」

「やったー! 今日は人生最高の一日だー!」

「あー、もう。めちゃくちゃね、このバカ」

「わー! 好きだアスカー!」

「あたしも好きーっ!」

「あははははっ!」



「軒を貸して母屋を取られたってこういうの言うのかしら」

「クキュッ?」

「ペンペン、二人の邪魔になるからわたしの部屋で朝ごはん食べようね」

「キューキュー」

「えへへ、可愛いんだから、こいつぅ……、ぐすっ」







4.高等テクニック



「あたしも好きよ」

「どうして僕を殴ってからそんなこと言うの?」

「え、あ、う、……それは愛情表現よ、愛情表現。うん」

「優しくしてくれないとアスカのこと嫌いになるかも」

「駄目ぇ〜〜〜〜!!」

 涙目で飛びついたアスカ選手のヘッドバットがシンジ選手のあごを痛打!
 シンジ選手たまらずダウン!
 これは効いてますよ!

「シンジ? ちょっとシンジ? 大丈夫!?」

「……」

「きゅっ、救急車ー!」

 効いてます!







5.ビタースウィート・ショートケイク



「あ、ちょっと……駄目だったら」

「大丈夫だよ。ミサトさん、帰りは遅くなるって」

「だからってキッチンでこんなこと」

「嫌?」

「もう、バカ……。あとで知らないんだから」

 ガチャガチャッ。

「鍵の音! ミサトさん帰ってきた!?」

「やだ、うそ!」

「たっだいまー! 仕事が早く終わったから帰ってきたわよー!」

「おおお、おかえりなさいミサトしゃん!」

「はっ、早かったにょね!」

「あら、二人してそんな全力疾走で玄関まで出迎えてくれるなんて」

「と、当然じゃないですかぁ!」

「……お姉さん感激だわ?」

「あ、あたしたちも嬉しいわ、ミサトの帰りが早くて!」

「……じゃーん。おみやげにケーキも買ってきたよー?」

「わ、わーい」

「やったー、うれしー」

「……三人で食べましょうね。じゃあこれキッチンに」

「だっ、駄目!」

「駄目?」

「いや、そうじゃなくて、ほら、だから、ね!?」

「だから何なの。ひとまず玄関から上がらせてよ、二人とも」

「じゃあ五分待って!」

「ここで?」

「あ、そうだ。あたし、ミサトに訊きたいことがあったんだ! ちょっといい?」

「……ふーん? 何だか変ねぇ。二人とも妙に慌ててどうしちゃったのかな? 顔なんて真っ赤になってるぞ?」

「ミ、ミサトの気のせいじゃない?」

「そうですよ。べ、別に慌てることなんて何一つ。ねえ、アスカ?」

「う、うんっ。シンジ、いいこと言う!」

「だよね! あはは!」

「うふふふ!」

「ははーん? お姉さんがいない間に二人とも随分仲良しになっちゃったみたいねぇ? でも、一体キッチンで何をしてたのかしら? 言っておくけど、エッ チぃことはちょーっち早いわよぉ?」

「……」

「……」

「否定してくれないと泣くわよ」



fin.


あとがき

 最後までお付き合い下さって、誠にありがとうございました。

 こんな中途半端なものでお茶を濁して大変申し訳ありません。
 2以降とかお話ですらありませんし、1も最初考えていたのと随分違うものになってしまいました。
 本当はもっと「夢ではあんなだったのに現実のあのバカは……ハァ」みたいなお話にしたかったのですが、二人が喧嘩を始めたところから変な方向へ行ってし まいました。
 分かっているなら直しなさいよという感じですね。すみません。
 1から5までのそれぞれは特に繋がりを意識して書いたわけではありませんが、繋がっているものとして想像して下さるのはまったく構いません。
 こんなつまらないものでも暇つぶし程度にして頂ければ幸いです。

 ところで最近色々なことが色々でして、お話があまり書けません。
 次がいつになるかもまったく分かりません。
 今回はちょっと煮詰まってしまってもーっという感じになっていたので、久しぶりにストレス解消でざくっと書いたも のです。
 型崩れしたざっくり編みのセーターみたいな哀愁が如実に表れているのが悲しいところですが、しょせんこの程度ということでしょう。
 いずれにせよ私などがお話を書こうが書くまいが別に影響はないはずですが、楽しみにして下さるという奇特な方がいらっしゃったとしたら、特に申し訳な く思います。
 本当は他に書きたいお話はいくつもあるんです。幼馴染奮闘系とかバリバリ逆行系とかその後の愛憎系とか。書きかけのそれらもいずれ終わらせてご覧頂けた らいいなと思います。

 さて、他にさせて頂く場所もありませんので、どうでもいい連絡事項など織り交ぜてしまいましたが、この辺りで失礼させて頂きます。

 このお話をお読み下さった皆様、掲載して下さった怪作様。
 ありがとうございました。


 rinker/リンカ


リンカさんからのお話公開です。これは「妄想劇場」のシリーズものでしょうか。
これはもう、最初からアスカの妄想力でシンジがグングンひっぱられていって読者もひきずられていくようなLASですね。
シンジもまんざらではないようですが(笑)
素敵なお話を読ませてくれたリンカさんに読後に感想メールや掲示板への感想レスをしましょう!

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