一万二千年後の覚書

by リンカ

   4.ダージリン

深夜。とある軍施設と思われる場所。
1台のバイクがその施設の入り口に停車した。
バイクから降りた人物は門の所の近づいてきた衛兵に手を挙げてから施設内に入っていく。
衛兵が置き捨てられたバイクを見下ろし、溜息を吐いた。どう見ても軍用の物ではない。


施設内、士官宿舎。
その中のある個室のドアが開き、中に人が入ってきた。先程の人物が帰ってきたのだ。
その人物がデスクの椅子に腰を掛け、大きく溜息を吐いた所でブザーが鳴った。
ドアからだ。
「誰」
その人物は気だるそうに首を廻しながら声を出した。
「クルツ大佐が出頭する様にと」
その人物はそれを聞いて、ワシャワシャと髪を掻き、無造作に言った。
「シャワー浴びて着替える時間くらいケチんじゃないわよクソジジイ、と大佐に伝えてくれるかしら」
「・・・小官が殺されてしまいます」
「ハァッ・・・了解。5分後に出頭する、とメッセージを変更。それで良いでしょ」
「ハッ」
その人物は天井を見上げた後、大仰に溜息を吐きながら立ち上がる。
「一応着替えるか。・・・洗濯物が増えるじゃないのよ、全く。・・・・・支給品もっと増やせ!」
悪態を吐きながら、しかしそれとは裏腹にそっとジャケットを脱いで彼女は着替え始めた。


司令官執務室。
「無事帰ってきたようだな、ダージリン」
この部屋の主がデスクの上に組んだ手を置いて言った。
声には威厳が溢れているが、彼の姿を見ればどうしても滑稽さが拭えない。
この男はまるで熊のような大男で、デスクとチェアが何とも窮屈そうだ。
まるでこの男にそれらを無理矢理嵌め込んだように見えるその姿に些か脱力しながら
声を掛けられた人物は返答を返す。
「ハイ。色々苦労しました」
「外に乗り捨てたバイクもそうかね」
「ちょっと借りただけです。取りに来れば返せば良いでしょう」
「来るのか?」
「さぁ。別に立ち上がれないような怪我はさせてませんが。そもそも私に声を掛けなければ
今頃楽しくツーリングでもしてたでしょうが。忠告を無視するからです」
悪びれもせず答える彼女に熊のような大佐は肩を揺らしながらくつくつと笑う。同時にガタガタと音がした。
「(・・・何でたかがデスクくらい新調しないのよ、この熊は)」
彼女が呆れてその様を見ていると不意に大佐は鋭く睨んできた。
「色々苦労しました、では済まんのだよ。ダージリン。先発部隊は全滅。
援軍に向かわせた貴様等だが、隊長の貴様がよりにもよって戦線に到着する前に撃墜され。
そして貴様の部下が到着した時には戦闘は終わっていたと言う訳だ。
廃墟になった集落と、其処彼処に散らばる兵器群の残骸しか無かったと。
我等も、ヒュルデも、バラバラに吹き飛んだ。・・・何故だ」
「分かりません」
「そうだ。貴様等は役に立たなかったということだな。特に隊長がな」
「・・・・・」
「・・・この件は置いておくとしよう。貴様は中隊を率いてアンシェルに行け」
大佐の命令に彼女は眉を顰める。
「あんな黴臭い遺跡に行って何をするんですか。墓守でも?」
「ああ、それもお似合いかもな。だが任務は任務だ。自治都市アンシェルのお偉方に恩を売るのさ。
近頃あの辺りでゲリラ活動が活発になってきたそうだ。それを鎮圧するのが貴様等の仕事だ」
「・・・ゲリラ?あの辺りのゲリラは大した規模じゃなかったでしょう。何で私達がわざわざ・・・」
「大した規模になりつつあるのさ、要するに。ここ2、3年で急激に連中の活動が活発になってきている。
・・・ま、鎮圧しろとは言ったがな。どうせゲリラなんて消すのは無理だ。
連中が一時黙り込むように派手にかましてやりゃあ、それで良いのさ。簡単だろう。
その後遺跡巡りでもして来い。それが作戦内容だ」
「・・・・・」
「復唱しろ」
「・・・了解。ダジェル中尉率いる独立機甲機動中隊“STRAY.WOLF”は自治都市アンシェル周辺の
ゲリラ組織鎮圧の任に就きます。作戦概要は・・・マーシャ少佐に聞くと言うことで宜しいですか」
「うむ、まあ、いつも通りだな。細々したことはあいつの仕事だ」
ギシッと言わせて、うむっと言ったその熊のような男に、やはり彼女は呆れる。
抜け抜けとよくも言う、と大佐を見やれば、彼は顎鬚を―彼の顔は鼻から額までの扇状の部分と耳を除いて
全てもじゃもじゃとした栗色の髪と髭に覆われているが、その内の顎の部分だ―しごいて
やや言いにくそうに口を開いた。
「ドラ娘がお前の声を聞きたいそうだ。出立までにそうしてやれ。回線を一本使わせてやる」
それを聞いて、彼女は一瞬目を見開き、そして敬礼をしてから退室して行った。
それを見送って大佐は溜息を吐き、誰もいない部屋で零した。
「何故あの子を拾ってきたんだかな、馬鹿娘は。・・・お前の所為で毎回気を揉む羽目に
なったんだぞ、俺は。普通なら何処ぞの町や村ででも、笑って恋でも咲かせているようなものを。
・・・くそ、それにしても狭っ苦しくて堪らんな。全くつまらん世の中だ・・・」
ギシッと悲しい音がした。



士官宿舎、ダージリンと呼ばれた女性の個室。
「声が聞きたい、か。・・・シャワー浴びよ」
そう言って彼女は部屋の隅に設えてある簡易のバススペースへタオルを持って歩いて行った。
服を脱ぎ、シャワーを浴びる。4日ぶりのシャワーだ。
ザアザアと体に打ち付け、跳ね返り、流れて行く湯を堪能しながら、口を開いた。
「あ゛〜」
そのまま気の抜けた声を出す。
口の中に湯が入るのもお構い無しにそうやってみて、ベッと湯を吐き出した。
「バカかアタシは。・・・何だってあんな辺境に。村が廃墟に・・・兵器の残骸・・・」
水分を吸って体に張り付いた髪の毛を掻き上げて後ろに流す。
目を閉じてシャワーの水流を顔に当て、次に肩に、そして胸から腹へと、手で撫でながら馴染ませる。
そして体を洗い始めた。


漸くさっぱりして、ダージリンが髪をタオルで包んで着替えを着込んだ所で、ブザーが鳴った。
デスクの引出しを開こうとしていた彼女は手を止めて声を出した。
「誰」
「私よ、ダージリン。入って良いかしら」
フォンから聞こえてきた声に、どうぞ、と答えると、優しげな風貌の若い女性が入室してきた。
「お帰りなさい、ダージリン。無事で本当に良かったわ」
「ええ、ブリン。ありがと。偉い目に遭ったわ」
苦笑してそう言うダージリンに笑い掛けて、ブリンは椅子に腰掛けた。
「心配したのよ?」
「大丈夫よ、傷ひとつ無いわ、・・・御陰様でね」
「?・・・大佐は何て?」
「アタシ達はアンシェル行きだってさ。役立たずには休暇を与えるそうよ」
ダージリンが手をヒラヒラさせて答えると、ブリンは苦笑して頭を振った。
「アンシェル・・・あんな場所に何で」
「ゲリラ脅かして、アンシェルのお偉いに恩売るんだって」
「まあっ。全く、碌でも無い熊親父ね」
「出立は3日後よ。連中にも伝えといて」
「了解、ダージリン。もっと話したいけど今日はよく休んで」
そう言ってブリンはダージリンの肩を撫で、立ち上がった。
「休ませて貰いますとも。・・・ああ、そうだ。ねえ、ブリン。その“ダージリン”っての、どうにかならないの」
「あら、気に入らない?私はピッタリだと思うけど。貴方の髪は本当に綺麗な紅茶色だもの」
ブリンが頬に指を当て、首を傾げて悪戯っぽく彼女を見た。
「だからってねぇ・・・あの熊の付けた渾名を皆して使うことないじゃない。
それにアタシはブリンの黒髪が羨ましいわ。この辺りには滅多に居ないもの、そんな綺麗な黒髪は」
「ふふ、ありがとう。でも、しょうがないわよねぇ。大佐は渾名を付けないと人の顔と名前が
一致しない人なんだもの。大佐の知ってる人は皆渾名持ちよ。それに面白いしね」
「アンタは“シャイン”だもんね。意味分かんないわ」
「私が着任の挨拶をした時、西日が眩しかったんですって。だから輝く女で“シャイン”」
「・・・・・マジバカ?」
ダージリンが言葉を発した口を開けたまま、ブリンを見やる。
てっきり、ブリンの容貌と気質を誉めて“シャイン”としたのだと思っていたのに、
よもやそんな下らない理由だったとは、あの熊はやはり侮れない、と彼女は思った。
「かもね。それにどっちにしても名前を呼ばれるの許さないんでしょう?」
「ああ・・・いや、別にブリンとかは良いのよ。・・・まあ、そっか」
ダージリンがやや俯いて、指先でコツコツとデスクを弾いた。
「ふふ、貴方の名を呼ぶ幸運な殿方は誰なのかしらね、“アスカ”?」
「べ、別にそんなんじゃ・・・」
「はいはい、そういうことにしときましょ。でも、男の人には養父の大佐以外許さないじゃない。
そう取られたって無理も無いわよ?」
「だから、違うんだってば。単純に気に入らないだけよ。・・・それだけよ」
ダージリン―アスカは俯いたまま、デスクに指先を滑らせた。
自分より2つ年下の少女の様子を見て、ブリンはそっと微笑み、手をヒラリと振って踵を返した。
「長居しちゃったわ。それじゃ、アスカ。おやすみなさい」
「あ、うん。おやすみ」
アスカが顔を上げれば、もうブリンが出て行く所だった。
そのまま見送って、アスカは天井を見上げた。
「・・・別にそんなんじゃないわ」




アスカは孤児だった。
正確には彼女の父親が母娘諸共勘当したのだ。彼女が8歳のときだった。
彼女は何故父が彼女達を勘当したのか、知らない。
2年後、母が死んだ。下らない事故が、余りに呆気無く彼女の母の命を奪った。
そしてアスカは国の“センター”と呼ばれる組織に回収され―彼女の国では路頭に迷う人間は
居ない。少なくとも居ないとされている。国が面倒を見るから、と―その後、軍の設立した
孤児の養育施設に送られた。そこで生活し、教育を受けた子供達は多くが軍に入る。
無論他の教育機関に進学したり、他の職に就いたりすることは個人の自由だ。
教育も、特殊な戦闘訓練や思想教育などは課したりはしない。
だが、恩を返したいとでも思うのか、7割の子供達は軍属となる。
アスカはそこで2年間生活した。
彼女が12歳のある日、施設に隣接した学校―生徒は施設の子とその他普通の子が半々だーに
ある人物が視察に訪れた。その人物は軍人で、施設の運営状況や教育現場などを見に来たのだ。
そしてアスカとその人物は出会った。
その人物がアスカに何を感じたのか、それは彼女―女性だ―の胸の内にのみ秘められているが、
ともあれ、1ヶ月後、その人物の実家の玄関に、アスカとふたり立っていた。


ドアを開け、その人物は大声を張り上げた。
「帰ったよ!居ないのかい、父さん!・・・熊親父、出て来なさい!」
彼女の大声にのっそりとした大男が玄関へとのしのし歩いてきた。
アスカは自分を連れて来た女性の隣で目を丸くしてそれを見、やや後退って女性の後ろに隠れた。
「何だ、大声を張り上げおって。帰ったならとっとと入れば良いだろう。
・・・・・そこのちんまいのは何だ。お前二月前会った時も腹は引っ込んでたぞ。どういう魔法だ?」
「何言ってんだか。あたしが何時子供を産んだって言ったのさ。第一この子は12だよ。
耄碌するには早過ぎんじゃないのかい、父さん」
女性は腰に片手を当て、呆れた様に彼女の父を見やる。
するとその父親は口髭―口の周りの髭だ。何しろ髭だらけなのだから―をゴシゴシとやって、
彼の娘を見、諦めた様に溜息を吐いて口を開いた。
「で、入る前に言いたいことがあるんだろ。一応言ってみろ」
それを聞いて、女性はニンマリと、しかし誇らしげに笑って、アスカの肩を抱き寄せて言った。
「今日からこの子はあたしの娘だよ。良かったじゃないか、父さん。お待ちかねの孫が出来たよ」
アスカは抱き寄せられながら女性を見上げ、そして不安げに熊男を見上げた。
「・・・・・全くお前と言う奴は何て娘なんだ、カレン。・・・嬢ちゃん、名前は」
「・・・アスカ」
熊男―クルツ大佐の目に稚い風情の少女の、紅茶色の髪の毛が良く映えた。
「そうか。今日からここがお前さんの家だ。よろしくな、アスカ=“ダージリン”」


それから半年間その家で過ごした。
カレンは限りない愛情をアスカに注ぎ、またクルツも不器用ながらアスカを愛した。
クルツの妻は10年前に死んでおり、カレンは未婚で恋人も居なかった。
アスカが来るまではその家はクルツとカレンの二人暮しだった。
と言っても、2人とも家を空けていることが多いのだが、半年間はそれも無くその家で3人で過ごした。
カレンは父と同じく軍人で、しかもこのとき既に父と同じく大佐だった。
彼女は非常に優秀な軍人で、しかしその豪快な性質から、“クルツのじゃじゃ馬姫”と渾名されていた。
クルツ家は軍人を多く輩出してきた家で、カレンの祖父も将官だった。
しかし家庭では、行動が些か突飛であったりしても、優しい女性だった。
アスカに母の様に姉の様に接し、アスカも彼女のことが好きだった。
カレンの髪の毛は見事なカーリーヘアで、アスカは彼女に抱き締められる時に首筋に顔を埋めて
そのくるくるふわふわした感触を楽しむのが大好きだった。カレンの髪は良い匂いがした。
クルツはアスカを良くダージリンと呼んで、不器用に、しかし父の様に接した。
恐々としてアスカとコミュニケーションを取ろうとするクルツの滑稽で健気な姿に、
カレンはカカと豪快に笑ったものだった。
その度に、ぶっすりとして、うるさいぞ“カーリー”、と睨みつける様を見て、アスカも可笑しくて笑っていた。


半年の生活の後、カレンはアスカを軍に連れて行った。
軍事教育を受けさせ―アスカはとうの昔に義務教育レベルは終えても良いような聡明な子だった―そして
14歳の時、カレンはアスカを戦場に連れて行った。
カレンが上層部をどう黙らせたのか、アスカは知らないが、
アスカはこの歳で、機動兵器を駆り、戦場を走る兵士となった。
カレンは常に彼女の部隊にアスカを置き、守っていた。
それは戦場でのことも無論だった―アスカを他人に任せて死なせるようなことはさせない
ということだ―が、同じ軍の兵士から守ることにもカレンは神経を尖らせ、
常にカレン自身か、彼女の信頼できる女性の部下をアスカの傍につけていた。


そして、アスカ・“ダージリン”・ダジェル少尉は、
半年前、独立機甲機動中隊隊長として中尉となり、彼女の“父”クルツ大佐の元で任務に就くようになった。
彼女の中隊は特殊で、クルツ大佐からしか命令を受けず、他の部隊からは独立しており、
その任務も単独任務が多い。
クルツ大佐はカレンがアスカを軍に連れて行ったとき、猛反対をした。
確かにカレンの家での愛情深い様子を見ていれば、アスカを戦場に連れて行ったことが奇異に思えた。
何故アスカを連れて行き、僅か14歳で兵士に仕立て上げたのか、
それはカレンがアスカを娘とした理由同様カレンの胸の内にのみ秘められ、
クルツはカレンに随分と翻意を促したが、結局それは叶わずに今まで来ている。
カレンがアスカを彼の元に送ったときに、クルツはアスカをどう守るか苦慮することとなった。
無論、軍人としてはそのようなことは考えるべきでないと知っていたが、
彼は規則だとかこうあるべきだとか、そういうものが嫌いだ。
ともあれ、こうしてクルツ大佐は毎日胃に穴が空く思いをすることとなったのだ。


アスカは、カレンが彼女を軍に連れて行った時、それを疑問に思わなかった。
それが何故なのか、彼女自身にも分からない。
予想していたと言う訳では無論無く、しかし、ただカレンの突飛なその行動に従うべきだと思った。
いずれ必要になる、と言われた。
アスカにはカレンの言葉の意味が分からず、またカレンも多くを語らなかったが、
アスカは今も、軍人としてここにいる。
カレンの配慮の結果か、それともクルツの姫を怖れたのか、
アスカを害しようとする者はいなかった。
“父”クルツ大佐の元に来てからもやはり状況は変わらなかった。
今度はあの熊大佐が怖いのか、とにかくアスカに手を出そうと―それがどのような意味であれ―する
者はおらず、むしろ丁重に扱われている。
無論アスカ自身優秀で、多少変り種の存在ではあるが、認められていない訳では無い。
が、幾分の居心地の悪さは感じていた。
彼女は別段軍に興味があるわけでは無い。軍人になりたいと思ったことなど無い。
本当なら、あの3人で暮らした家か、或いはカレンかクルツの配属先に付いて行って
普通の少女として過ごすはずだった。
アタシはどうしてここにいるのかしら、とアスカは思う。思うが、やはりカレンの言葉が気になった。
カレンはアスカが世界中で誰より信じる存在だ。
そしてカレンの言葉を自然に受け入れた自分のことも分かっていた。
ただ、“いずれ”とは何時のことなのか、といつも彼女の内で木霊していた。




アスカの個室。
ブリンが帰って行ってから、アスカは椅子に座ったまま、ギシギシと言わせて天井を見上げていた。
手を上に伸ばす。広げて、握る。
何も無い。
挙げた手をダランと下げて、アスカはデスクの引出しを見詰めた。
そっと手を伸ばして、引出しをゆっくりと開けていく。
布の包みが中に入っていた。
アスカはそれを手にとってデスクに置き、ゆっくりと開いていく。
ライトの灯りが反射して煌いた。
アスカはそれを両手で摘んで、静かに目の前に広げてみる。
玉と銀の腰飾り。
彼女はじっとそれを見詰めたまま動かない。
と、立ち上がって腰に当ててみた。そのまま姿見の前まで歩いて行き、自分の姿を見てみる。
普通の服には着けられない。ドレスでも着れば別だろうが、それも難しそうだ。
アスカは、熊親父にドレスを買ってくれなどと言ったら一体どんな顔をするだろうか、と考えながら、
今度は飾りの輪を2重にして首に掛けてみた。
スリムな造りの飾りなので、これなら何とか見られないこともない、と
アスカは鏡の前で体の角度を変えたりして自分の姿を見てみた。
ふと自分の顔が綻んでいるのに気付いて、慌てて飾りを首から外し、デスクへ早足に歩いて行って
布にそれを包んだ。
布の包みを丁寧に引出しの中に仕舞って、静かに引出しを閉めた。
彼女は立ち上がって、ベッドへ身を投げ、うつ伏せのまま顔を横向けてぼんやりとデスクの引出しを見る。
薔薇色の唇が密やかに動いた。

「シンジ・・・か。・・・助けられたな」



5へつづく


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