このお話をお徳用1.5倍のカップラーメンにレトルトカレーを入れて食べてうまいと思い、その後コンビニの辛子明太子おにぎりを入れて、これ最高! と思ったことがある方。
もしくは、メールソフトに
X-Maid: =?iso-2022-jp?B?GyRCQVpOLiEmJSIlOSUrISYlaSVzJTAlbCE8GyhC?=
と設定されている方に捧げます。





つ〜か、両方とも逸般人な作者のことじゃん


女の戰

Written by Kaz-A
kaz-a@po7.lunartecs.ne.jp


The first volume. "MISATO STRIKES !!"

 時に2017年。
 世界はいろいろ厄介な問題を抱えていたが、ここ第三新東京市は平和だった。
 平和すぎて、平和すぎて、某特務機関の総司令が色恋ざたの清算にとちったあげく、結婚という名の人生の墓場へ埋葬され、西瓜畑の管理人が伝えられなかった言葉を忘却の彼方へ葬り去る事ができず、婚約という名の棺桶の中に無理やり押し込められるぐらい平和だった。
 ところで、なぜに平和になっちゃったかというと……バタフライ効果ってご存知?
 つまり、誰かが、初期の段階で例のシナリヲからちょこっと外れた行動をとっちまったばっかりに、番狂わせによってとんでもないハプニング──たとえば、フォース・チルドレンが片足を失わずにすんだり、無精髭と西瓜なトリプルスパイが抹殺されずに生き延びたり、セカンド・チルドレンが特訓中に唇と唇の一時的接触によるファースト・インパクトに遭遇、一人人類補完計画が発動した結果、ママとEVAから乳離れしちゃったり、ファースト・チルドレンが自爆装置起動後、もしこのまま自爆したら、私が死んでもかわりがいるけど、今の私が「碇君と……一つ」になれない事に気づいちゃって、エントリープラグごと逃げちゃったり、第17Angelが別な意味で裏切っちゃって初号機に握りつぶされる事もなかったり、主人公が主人公らしい行動しちゃったり──をドミノ倒し的に生み出した結果、サングラスに髭な総司令の純粋だけど、自己中ではた迷惑な願いと、バイザーかけたジイさん何ぞのアヤしい計画が完全に破綻。
「碇よ」
「何ですかな、キール議長」
「この修正……容易ではないぞ」
「不可能ですな」
「どうする、碇」
「それを考えるのが、キール議長、あなたの仕事ではないかと愚考しますが」
「……」
「……」
「……我らの願いが……」
「……ユイ……すまん」
「……」
「……」
といった不毛な会議の後、特務機関の総司令と秘密組織の議長並びに日本国政府とその傘下の戦略自衛隊は自らの権力の保持と組織の生き残りのため、イヤイヤながら右手で握手──背中に回した左手にはナイフを隠して──した結果だったりする。
 もっとも、使徒はほぼ殲滅。残った第一使徒は対爆仕様のケースの中、特殊ベークライトに固められたまま、太平洋の底で鉄のお船と一緒におねんね中。第二使徒はおっきな本体と自らのコピー数十体を「あなたたち用済み」の一言とともに、L.C.Lに還元しちゃって、セントラルドグマの最下層をからっぽにした後、とある事情で冬月副司令の元へ引き取られ、お茶にお花に家事手伝いおまけに将棋のお相手と箱入り娘の猫かぶりつつ「碇君は……私が狩るの」をモットーに猿との最終決戦に向けてロンギヌスの槍のお手入れ中。おまけに最後のシ者は某特務機関の監視下ながら、自由意志の元「歌はいいねぇ……」と口ずさみつつ、LOVEをふりまいていた。無論、男女の分け隔てなく、含む、一次的接触ってな方向で。
 その他、相変わらずセカンドとサードはび〜るだいちゅきな上司とともに、あのマンションで同居中ながらソッチ方面は少し進展だけどAまで。フォースはあいかわらず黒ジャージで洞木家残飯処理専属担当者。おまけに、公式には戦闘中行方不明とされていた茶髪少女が、第三新東京市で現役じょしこ〜せ〜やってま〜すだったりぃ、市立図書館では黒髪で眼鏡でちょい色っぽいホクロありな少女が、ため息つきつつ読書中な光景が見られたり。3馬鹿トリヲの残り一人は自らの趣味と実益の世界を広げつつも、俺の春は何時来るんだ! と涙を流していたりして。
 まあ、上の偉いさん達は色々今までの後始末だとか、インボ〜だのボウリャクだのを練ったり仕掛けたりその対策に追われたりしているようだけど、手打ちの際に不可侵領域とされたチルドレンやその周辺はおおむね……ああ、へいわだねぇ。

 さて、ここは本年度保安上最も重要な施設、第三新東京市ランキング・ベストテンの中に確実にはいると思われるコンフォート17マンションの一角。
 現在、18時15分。キッチンには、ぽややんで、にぶちんで、この家の住人でただ一人家事技能レベル3持ちの汎用人型文化女中器(注:はんようひとがたハイヤード・ガールと読みましょう)な青年が一人。
 ダイニングには、テーブルに一人頬杖ついて、キッチンの方を見つめながら百面相真っ最中なクオータの美少女が一人。
 もちろんいわずとしれた元適格者、現第三東京市第一高等学校在籍の高校1年生かつ国連非公開の特務機関『NeRV』にも籍を置く碇シンジ君と惣流・アスカ・ラングレー嬢。
 なぜにアスカが現在『百面相真っ最中』なのかといいますと、説明するのも野暮なんだけど……
 あのさあ、ひっとこと声かけてくれればさぁ、手伝ってあげるのにぃ、そりゃまぁ以前、お皿3枚一気に割っちゃったり、包丁で指切って大騒ぎしたり、鍋焦がしちゃったりしたけど、何で声かけてくれないわけよ、ば〜か、ば〜か、馬鹿シンジ。という身勝手な思いが一つ。
 なんでアタシは素直じゃないのよぉ、一言、そうよ、一言、あのば〜かに、胸の前で両手を組んで、上目づかいに瞳をうるうるさせながら「あのね、シンジぃ、アタシに、アタシにね……お、お料理教えて(は・あ・と)」っていえばよかったのよ。そうすれば今ごろあそこに二人並んで、おそろいのエプロンつけて……なんでアタシは素直じゃないのよぉ。という後悔とも自己嫌悪ともとれる思いがひとつ。
 もしかして5年後も、10年後も、やっぱりこうやってあいつの背中見てるのかなぁ〜って何考えてんのよアタシ。5年後って21、10年後って26じゃん。でもそれって……やっぱアイツって主夫似合いそうだし、アタシは家庭にはいるタイプじゃないしぃ……う、いいかも。といった願望とも妄想ともとれる思いが一つ。
 ふ〜ん、アイツのお尻って、なかなかカッコイイのよねぇ。背中から腰のラインも昔と違って逆三角形描いてるし、グっと来るものあるしぃ。またふざけたふりして、お風呂から出た後、抱きついちゃおうかなぁ。その時、わざとバスタオル落としちゃったりして、そしたら……襲われちゃって、ヤられちゃって……あ〜んなことも、こ〜んなこともされちゃって……最後には、アタシ、シンジ無しには生きていけない身体に……グふふふふ。といった白昼夢ともリビドー全開ともとれる思いが一つ。
 おなかすいたぁ、おなかすいたぁ、ご飯、ご飯、ご飯、ご飯、ご飯マダぁ、早くしてよ馬鹿シンジぃ。といった、10歳程幼児化してるんじゃないかと思われる考えが一つ。
 ともかく、その他まあアスカ嬢がアスカ嬢であるための必要十分条件一部補完済みちょっとヘッポコなんぞが複雑にからみあっているわけでして……恋する乙女は大変なのです。

「ただいま〜。やほー。保護者様のおかえりよん」
 玄関の開く音とともに、能天気な声。それと同時に振り向く二人。
「お帰りって、ちょっとミサト何であんた帰ってくるのよ!」
 返事は一つ。となると、いつもだらけているのに、こういう事にはちょいうるさい保護者様こと葛城ミサトと致しましては、
「いいじゃん。時には私だって定時で上がりな日もあるわよ」
と軽くアスカを受け流した後、シンジに視線をロックオン。
「シンジ君。挨拶は」
 少しきつめな調子で、返事の催促。しかし、帰ってきたのはミサトが求めていたお返事ではなく、
「ミサトさん」
 ぽややんな彼にしては珍しく怒った口調。
「前にも言いましたよね、ミサトさん。早く帰るなら早く帰る、遅くなるなら遅くなるできちんと連絡してくださいって。何度言ったらわかるんですか、連絡が無いと……何ですそれ?」
 だが、シンジは最後までミサトに対してお小言が最後まで言えなかった。彼の顔の前に突如差し出されたのは、ちょっと小さめのクーラバック。
「さ・し・い・れ。いつもシンジ君ばかりに苦労かけているからね」
 さ〜びすさ〜びすとばかりにウインク一つ。受け取ったシンジが中を開けると、プラスチックのタッパが4つほど。その中身は……カレー?
「ミサトさん、これ、カレーですか」
「そ、シーフードカレー。まだ凍っていると思うから、ちゃちゃって暖めちゃってくれる」
 それだけ言って、着替えるために自室へ向かうミサト。それをアンタ邪魔、消えろとばかりににらみつけるアスカ。そしてシンジは、へえ、お総菜として冷凍のカレーが売られているんだ。ミサトさんどこで買ってきたのかな。と思いながら、システムキッチンの開き戸を開け、鍋をとり出そうとしていた。

 ダイニングテーブルの上には、きれいに盛りつけられたシーフードカレーが3つ。中央の小皿には、添え付けの福神漬けとラッキョウ。そして麦茶と缶ビール。葛城家の家族がいつもの定位置──ミサトが上座、その横にアスカ、アスカの真正面にシンジ──に座ると、家長自ら「いただきます」と号令かけ、待ちきれなかったのよねぇとばかりにビールを手にする。
「かぁ〜この壱杯のために生きてるのよねぇ」
 お約束のセリフをのたまうミサトを無視して、黙々とカレーを食す二人。テーブルの下ではPEN2が1匹目のイワシを丸のみにすべく、くちばしを天井に向けていた。
 シンジのカレー皿の中身が半分ほどきえた頃、彼は一家団欒の話題作りのつもりで口を開いた。
「ミサトさん」
「ん、なに、シンちゃん」
「このカレー……どこで買ってきたんですか」
 へ、とばかりに不思議そうな表情を浮かべたミサト。
「美味しいのでまた食べたいなと思って」
「ま、シンジのカレーに比べればいまいちだけど、既製品としては、そこそこイケルんじゃない」
 そのセリフを聞いた途端。ミサトはいきなりテーブルから乗り出して二人に迫った。
「シンちゃん、アスカ、もう一回、もう一回言って。美味しいよね。このカレーイケルよね」
「あ、あの、み、ミサトさん?」
「ミサトぉ! なに一人で盛り上がってわけわかんない事やってるのよ。そこそこイケルって言ってるでしょ」
「ええっと、僕は美味しいと思いますよ」
 そのセリフを聞いた途端、ミサトはいきなりのガッツポーズ。
「やったぁ! ありがとシンちゃん。ありがとアスカ。ありがと、本当にありがと。これで、これで、リツコに馬鹿にされずにすむってものよ。かんぱ〜い」
 勝手に盛り上がっていくミサトにどう対処していいか分からず、目を白黒させるシンジと、ついにこの年増、頭のねじをぶち切って向こう側に逝っちまったか、かかわるだけ無駄無駄とばかりに、いっさい無視を決め込んで黙々とスプーンを動かすアスカ。
「あのね、あのね、シンちゃん、アスカ、聞いて聞いて。じつわぁ、このカレーぇ……私が作ったの」
 その瞬間、アスカとシンジの手が止まり、彼らの使っていたスプーンが、ちゃりーんと音を立てて、ダイニングの床とキスをした。

***

 ここで話は3ヶ月前にさかのぼる。

「あのさぁマヤちゃん。ちぃょっち頼みがあるんだけど、聞いてくれないかなぁ」
 うるさいなあと思いながら、伊吹マヤは軽やかなタッチでキーボードを操り、先ほどのデーターをまとめ上げていた。
「今さあ、ちょっと大きな問題抱えてねぇ、ネルフ広しといえど、どう考えてみてもこの件については貴女しか頼れる人がいないのよぉ」
 ダメよ、聞いちゃダメ、今振り返ったら葛城さんのお願いという名のやっかい事を日向さんみたいに無理矢理押しつけられることになるんだから。いいわねマヤ、後ろには誰もいない、聞こえてくるのは幻聴。そうよ、飽きて何処かに行ってしまうまで耐えるのよ。
「あの時って云うかぁ、ほらぁ、3ヶ月前にぃ、お見合い話が持ち上がったときさぁ『血走った目』をしたリツコからかくまってあげたじゃない。だからぁ……」
 ブチぶちブチ、さすがに穏和なマヤもいい加減に自己暗示が限界に達していた。その証拠に彼女の軽やかなタッチが崩れ、モニター上のカーソルが左へ動きながら、入力した数値を消す回数が指数級数的に増えていく。
 もうダメ、我慢できない。時にはガツンと言った方がいいよね。
「葛城さん!」
「お・ね・が・い(はぁと)」
 椅子ごと振り向くマヤに両手の皺と皺を合わせて拝み倒すミサト。ちょうど照明のかげんでミサトの薬指で何かがきらりと輝いた。
「葛城さん? そのぉ、もしかして、それって……」
 かなしきかな女の性(さが)。クリスマスと揶揄される年齢をXXヶ月ほどすぎれば、いくらその手のことに”関係ありません”という雰囲気をもつ我らが伊吹マヤ嬢だって、そういうところが目ざとくなってしまう。
「あは、ばれちゃった。へへへへへへへへへ、やっと、やっとあのぶわぁかからせしめたのよ。ダイヤモンドの婚約指輪。もち、給料3ヶ月分」
 ミサト、ただいま頭の中で幸せ菌がバイオハザード中。
「へへへ、うらやましぃ?」
 ショックを感じながらもうらやましそうにミサトを見つめるマヤ。脳裏に浮かぶは1週間前から突如1ヶ月という長期休暇に入った彼女の上司が、仕事の引継の際に見せたるんるんスキップ。

 今、技術部長の研究室の前には昔なつかし少女変体文字な張り紙が1枚。
『ハニー・ムーンに行って来まぁすぅ。1ヶ月よ、1ヶ月……キゃん by りっちゃん(はあと)』
 そして総司令室にも汚い字でかかれた張り紙が1枚。
『今までの報いがこの有様か……冬月先生、後を頼みます』

 やっぱり女の幸せって結婚なのかぁ。でも、こればっかりは一人じゃできないしぃ。それに、葛城さんのせいであれからお見合い話……ないの。
 重たい重たいため息一つ。
「でさぁ、あいつったらねぇ、まじめな顔しちゃってさぁ、信じられるぅ。でもさぁ、無精ひげのくせにねぇ、それがメッチャ格好良く見えてさぁ、なんだか気分が盛り上がっちゃってね、思わず涙、涙にまた涙。う〜ん、やっぱ夕日をバックにプロポーズって映画だけのお話って思っていたけど、たまんない。主演女優としてはここで一発決めぜりふって思うでしょ、でしょ。でもさぁ、いざそうなっちゃうと、これが全くだめ。頭の中真っ白になっちゃってぇ」
 そんなマヤの心を知ってか知らずか、ミサトはお惚気街道一直線。

 本当のところは技術部長の研究室前の張り紙を見たミサトが、口から泡を吹きながら錯乱、ゲシュタルト崩壊寸前までイったあげく、付属病院に緊急入院。精神安定剤の大量服用で意識を取り戻すと、そのまま逃亡。
 再びミサトが現れた時の目撃者の証言や所内に流れたうわさ話によると、彼女がネルフ内をるんるんスキップで、時々空を飛んでいたとか、何故か彼女の肌が十代後半の艶を取り戻していたとか、加持リョウジ氏が突如緊急入院したとか、体重が15キロも減少していたとか、彼が救急救命室にて3回ほど心停止状態に陥ったとか、医療部薬務局の倉庫から、心臓疾患がある方は服用しては絶対いけませんと注意書きが書かれた男性の下半身の特殊なおびょうき専用の特効薬がグロス単位で紛失していたことがわかったとか、担当看護婦の話によると、彼がうわごとのように赤い玉が、赤い玉が、と言っていたとか、極度の疲労と彼の診断を下した医師がぼそっと「よく腹上死を……」とつぶやいたとか、彼のカルテには病名として過渡な有酸素運動による一時的な心不全状態もしくは腎虚と書かれてあったとか。
 まあ、これだけであの二人にナニがあったか想像はつくだろう……いやはや、待たされた女はマジで怖い。

 ああ、もう、勘弁してぇ。
 はじめのうちは興味津々で聞いていたマヤだったが、さすがに15分おきのCMタイムなしでミサトののろけを聞き続けば、古今東西どんな拷問よりも酷なのは間違いない。そこで何とか話の腰を折ろうとするのだが、相手はあの三石もとい葛城ミサト。例のむちゃくちゃな語彙とハイスピードな語り口に、幸せバイオハザート自己中状態となればキャラ的にも無理な話。
 とはいうものの、さすがにミサトも2時間ほど立て板に水な調子でしゃべり続ければ、喉がカラカラ。
「まだ続きがあるんだけどぉ、その前にコーヒーもらっていい?」
 ラッキぃ。こ、これで話題を変えることが……
「とっころでさぁ、コーヒーで思いだしたんだけどぉ」
 やばい、やばいよう。このままだと続編が始まっちゃう。
「か、か、か、葛城さん」
「なに? どっかした?」
 右手にコーヒーサーバ、左手にRitukoと書かれた猫のイラスト付きマグカップを持ったまま振り返る。
「なにか、お願いがあるって云ってましたよね、ね、ね、聞きます。聞きます。お願い聞きますから、だから、だから」
「へ、そう。悪いわねぇ。実はさぁ、あたっしも薄々感じていたんだけど、たださぁ、やっぱりい、人には得意なものと不得意なものってあるじゃない。それでさあ、今までは何とかなってきたんだけどぉ、加持のやつがさぁ、これ、この指輪もらった後、あれはあの夜の3日後だったかなぁ、私があのぶわ〜〜かのマンションにね、ちょ〜っちかわいいとこ見せてやろうと思って、だからぁ、あいつのところに行く前にスーパヘちょいとよってさあ、まあ大した事できないけどぉ、カレーぐらいなら乙女のたしなみでしょ。ところでさぁ、男やもめにウジがわくって云うじゃん。あれってやっぱ本当だって事、実感。キッチンは食器で溢れてるしさぁ、ゴミ箱はコンビニ弁当の空箱であふれているしぃ、サイテーなことにアレったら洗濯物10日分もため込んでいた訳よ。さすがに寛大なアタシも、ウヘェ〜な状況だったんだけど……」
 結局マヤがミサトののろけという名の拷問から開放されたのは9時間後の薄明のころだったりするのだが、彼女の不幸はこれで終わらない。
 だって、ミサトのお願いって、
『私にお料理を お・し・え・て ♪』
という使徒でも戦略自衛隊一個師団でも量産型エヴァ9体でも裸足で逃げ出すとんでもないものなんだぜ。

 現在、伊吹マヤ嬢は1ヶ月の特別休暇の真っ最中。ただ、ちょっち気になることに、彼女が『ゆで卵が、ゆで卵が、ゆで卵が、ゆで卵が』とか『タバスコは嫌、タバスコは嫌、タバスコは嫌』とか『葛城さん、やめて下さい、やめて下さい、やめて下さい、やめて下さい』と怪しい呟きをもらしながら、うつろな目でネルフ内の食堂の厨房からをフラフラとさまよい出てくるのを青葉君や日向君がここ3ヶ月の間に十数回目撃したとか、休暇願いが受理されたと同時に、彼女の机の上に『旅に出ます。探さないで下さい』と人生に疲れた方々の常套句な文面のお手紙が置かれてあったとか、その数日後、ネルフ付属病院精神科部精神汚染対策班特殊病棟第2隔離室で拘束服を着た彼女を見たといった噂が流れたりしたのだが……伊吹マヤ嬢のボランティア精神を讚えるとともに、つつしんでご冥福をお祈り申し上げ……あ、嘘です、まだ死んでません。厨房でカレーライスかチャーハンかエビチリかタバスコか天津飯かチンジャオロースかゆで卵を見ると悲鳴を上げるといった、ちょっち重症なトラウマを背負っただけです。

***

「……ってわけなんだけどぉ、やっぱりぃ、いくらぁ、男は仕事女は家庭なんて封建的で前近代的な結婚観が払拭されたってぇ、やっぱさぁ、恋する乙女の幸せといったらぁ、あ〜た、手料理よ、手料理。たとえ四畳半一間、ちゃぶ台に赤い手ぬぐいマフラーにしてなんて生活だったとしてもぉ、愛よ。ぜったい手料理は愛よ。愛する彼のためにキッチンに立ってぇ、
『ミサト、まだかい』
『もうちょっと待ってね、あ・な・た ♪』
きゃぁ、きゃぁ、きゃぁ、きゃぁ、あ・な・た♪ だって、あ・な・た♪ いやん、いやん、ミサト恥ずかしぃ……」

 葛城ミサト、当年とって2X歳とXXヶ月。
 本人が、某年の某月某日に行われた、赤木リツコ女史主催”ようこそ葛城ミサト様。これであなたも三十路(み・そ・じ)。私と貴女でサーティペアの誕生よ。うれしいでしょ、うれしいでしょ、泣きたいほどうれしいでしょ、今すぐベランダから飛び降りたいほどうれしいでしょ、おめでとう、本当におめでとう。私、本当にうれしくて、あなたのために、見て見てこの直径30cmのバースデーケーキ。わざわざ、わざわざ、特注して、祝・30歳と入れてもらったのよ。ついでに、お店の方に無理言ってロウソク30本もらって立ててあるのよ。数えて見なさい、29本じゃなくて30本、きっちりしっかり30本、何度数えても30本。さあ、吹き消しなさい、吹き消しなさいよ、思いっきり吹き消しなさいよ。吹き消したらもう私に向かって「アンタは30、私はまだ29だもんねぇ。へへへへへん」なんて人を馬鹿にしたセリフ言えないのよ。ミサト、私はねえ、この日を指折り数えてカレンダーに特別な印までつけて、昨日の深夜は23時59分50秒からカウントダウンをしてあげて、0時ちょうどにクラッカー鳴らしたほど待っていたのよ。ざまあ見なさい。ああ、今日はなんていい日なんでしょう”パーティの席において、主賓挨拶として
「私は地球人じゃないの、カツラギ星人なの。カツラギ星人は生まれて29年と364日たつと次の日から1日ずつ若返るのよ!」
と、真偽はともかく愛用のM92Fのセーフティロックを外しながらカミングアウトした関係上、あえて伏せ字とさせてもらうが、どう考えても年相応とは思えない壊れた発言──メチャメチャ自己中なのろけ話──が一方的にしかもジェスチャー付きで、ほぼCD1枚分ほど続いていたりする。
 通常なら、シンジはそのまま状況に流されるであろうけど、アスカが
「うがぁあああああああああ!! ぬわ〜に年増が寝ぼけた事いってんのよぉ、寝言なら寝て言え、ぶわ〜〜かぁ!」
と突っ込み、それを受けてミサトが足音も立てずにアスカの後ろに立つと、
「そういう事を言う口は、この口かぁ、この口かぁ、ほれほれ、ほれほれ」
「いひゃい、いひゃい、みひゃと、いひゃいってばぁ」
といったお約束な展開に──事実ミサトの薬指に指輪が輝いた時はそうだった──なるはずだった。
 しかし、今日に限って、アスカは、まるで全身から力が抜けたかのごとく、両手をひじ掛けの横に力なくぶら下げ、首から上はカクンと下を向いたまま。
 ことわっておくけど、決してミサトカレーに当たって自我崩壊寸前というわけではなく、アタシ、ミサトの作ったカレーを食べちゃった、食べて、そこそこイケルなんて口に出して評価しちゃった、ミサトが作った物がおいしかったなんて、絶対絶対嘘に決まってる。だって、加持さんが婚約が決まった後にボソッと「俺が家事やる羽目になるのか」ってつぶやいてため息吐いていたの見ちゃったし、シンジがいない夜はいつも店屋物で済まして、店屋物に飽きたアタシが「アンタも女ならなんかつくったらぁ」って言ってもな〜んにも作ろうとせず、逆に、「アスカぁ、何かお酒のおつまみ作ってぇ」何ぞと甘えた声でふざけた事をのたまいながら、ビールの摂取に明け暮れ、冷蔵庫はビールを冷やす為にのみ存在すると心から信じている腐れ女が何で家事技能を手に入れているのよ。もしかしてアタシだけ? もしかしてもしかしてアタシだけ? もしかしてもしかしてもしかして家事技能を持っていないのはアタシだけ? いやだなぁ、もうダメなのぉ。とばかりに自我喪失状態。
 シンジはシンジで両手をぎゅっと彼の胸の前で握りしめ、見知った天井を見つめたまま、ミサトさんが、あのミサトさんが、お徳用1.5倍のカップラーメンにレトルトカレーを入れて食べちゃうようなミサトさんが、食事当番の時は、おかずは市販のお総菜、それも酒のつまみになる物のみで、ご飯さえレトルトのご飯を買ってきて、電子レンジでチンするだけのミサトさんが、最終的には「家事って、ちょっち苦手なのよ。ねぇ、シンジ君。お・ね・が・い(はあと)」の二言で炊事当番をすべて僕に押し付けたミサトさんが、僕たちの為にこんなにおいしいカレーを、それも手の込んだシーフードカレーを作ってくれるなんて……僕、間違ってました、ごめんなさい、ミサトさん、ごめんなさい、ミサトさん、僕はミサトさんの表層しか見てなかったんですね、女性なのに家事が全くデキナイから僕に押し付けたんじゃなくて、本当はできるのに何か理由があってデキナイふりをしていたんですね、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……と、ひたすら感動と後悔と謝罪の涙を流し続けていた。
 ああ、別の意味でもおそるべしミサトカレー。なお、彼ら二人が再び起動するまでにCD2枚分の時間が無駄に消費された模様である。

 ようやく再起動を果たすとともに、暴走し続ける汎用人型おのろけ兵器葛城ミサト型を停止、もとい、缶ビールという緊急停止プラグを1ダース半ほど与えて、リビングという名のゲージに閉じこめる事に成功した二人。
 シンジは再びキッチンに立ち、これからは、僕一人がキッチンに立つ事はないんだ、僕はリビングでくつろいでいて良いんだと、一人勝手に補完されたかのごとく、至福の表情を浮かべながら明日の朝の下準備に取り組み中。
 アスカは現実復帰の一環として、命の洗濯すなわち入浴の真っ最中。

「シンジぃ、お風呂あいたよ」
「あ、うん」
 さっさと明日の下準備を終え、お風呂場へ向かうシンジ。赤いバスタオル一枚ではなく──さすがにミサトがいると自制するらしい──いつものホットパンツに、タンクトップ、首にスポーツタオルを引っかけて出てきたアスカは、珍しく冷蔵庫ではなく、リビングへ直行すると、ミサトの前に座り込んだ。
「ミサト」
「アスカ、そこ邪魔。TV見えない」
「恥ずかしくない?」
 ?
「大人げないと思わない?」
 ??
「やっぱり、嘘はいけないでしょ?」
 ???
「今なら冗談で済ましてアゲルけど」
 ????
「誰があのカレー作ったの? 加持さん? リツコ? それともマヤ? ひょっとして部下の……名前なんだっけ……そうそう、日向さん?」
 ?????……!
 アスカがなにをいっているのか気づいたミサトは、視線をそらした後、うつむいて表情を隠した。
 後ろめたい処があったわけでも、図星を突かれたわけではない。今、彼女が浮かべている表情を見られたくなかったからだった。
 血の滲むような努力と、軽トラック1台分は確実に食されぬまま生ゴミと化したした食材、再起不能なまで歯のこぼれた数十本の各種包丁と真っ黒どころか黒体となるまで焦げ付かせた鍋、鍋、鍋、そして大量に消費した絆創膏に伊吹マヤ嬢を踏み台にして、ようやく手に入れた家事技能レベル1(料理限定)。その成果であるミサトカレーシーフードヴァージョンを苦労をかけっぱなしなシンちゃんと意地っ張りだけど可愛いアスカのために、前日わざわざ残り少ない有給休暇を犠牲にしてまで愛情込めて作ったのに、あろうことか誰に作ってもらったの? と邪推されれば、泣きたくもなるだろう。だが、これも自業自得。因果応報。身から出た錆。

 うう、私、全く信用されていないんだ。
(ミサト、うつむいたまま寂しそうに笑い)
 いいんだべつに。日ごろの態度がアレなんだもの。
(ここでカメラ目線)
 それは私のせいだもの。
(あさっての方を見つめ)
 でも、でも! 見守っていてね。草葉の陰から見守っていてね、マヤちゃん!
(胸の前で両手を組み)
 いつの日か、いつの日か、ミサトは、ミサトはきっと、今日のカレーは私が作った事を、認めさせてみせます!!
(瞳うるうる)

 だ・か・ら、マヤちゃんは死んでないって。

「……ちょっとミサト、聞いてる?」
「な、なに……か……な?」
「カレーの件。アンタの事だから、な〜んにも後先考えずに、時にはイイトコ見せなくっちゃ、さ〜びすさ〜びすぅなつもりで、こんな事したんでしょ。幸いシンジは気づいてないようだから、このアタシが口裏合わせてあげれば、バレずにすむと思うけどなぁ」
「あ、あの、アスカ。アスカは何か……勘違い……して……ない?」
 先程まで自我喪失状態だったアスカが再起動したのは、人の心理における自己防衛機能のおかげ。絶対にあり得ないと信じ切っている事実に遭遇した場合、ショックで自我喪失状態に陥った後、再起動する為に、事実をそのまま認めるのではなく、その事実を忘却の彼方に追いやって無かった事にしちまうか、事実を無意識のうちにねじ曲げて受け入れる事がほとんど。
 つまり、アスカはあのカレーはミサトが作ったんじゃない。誰かに作らせて、自分が作ったって嘘をついているのよ。と、今現在信じ切っていて、本当にミサトが作ったとは、これっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぽっちも思ってない。だから、その辺を問い詰めてやろうと、ちょっかいかけたら、帰ってきたのは沈黙と今のミサトの気弱な返事。これで自分の推測が完全に正しいとアスカは勘違いしてしまった。
 勘違いだけならまだよかったのだけど、この時、自我喪失状態の反動で、躁状態。完全に舞い上がっていた。もともと周囲が見えないタイプなのに、余計周囲が見えなくなっていた。そこに邪悪な思考が舞い降りる。この優位を利用して……にやり。
「シンジったら感動で、涙うるうるだったもんねぇ、本当の事知ったらどう思うかなぁ」
「アスカぁ、あのね、あのね、本当に私がね……」
「知ってる? ミサト。週末にねぇ、駅前のブティックでバーゲンあるのよ。アタシさぁ、新しいワンピースが欲しいなぁって考えているんだけどぉ」
 ワンピースという単語がミサトの逆鱗に触れた。
 勘違いとはいえ一方的に責められるのは、日ごろの態度がアレだったからまだ許せる。今は信じてもらえなくても、アスカの目の前で、実際にキッチンに立ち、ダイニングテーブルの上に、今度はカツカレーを並べて、一口食べてもらえれば、なんやかんや言われるとは思うけど、誤解を解くことができる。今日のところは、シンちゃんも喜んでくれたことだし、私一人落ち込んで、すませるつもりだったのに……よりにもよって新しいワンピースが欲しいなぁ、なんて見え見えの態度で私を脅迫するなんて、冗談じゃないわ!
 座り直す。再びうつむく。ひざの上で指を絡めてみる。そのままミサトは身じろぎもしない。ありありと感じるアスカの勝利の視線。
 ミサトが口を開いた。
「アスカの言いたいことはよく分かったわ」
 私だって、私だって、週末の駅前のブティックのバーゲン狙っていたのよ。
「ちょっち私の配慮が足りなかったみたいね」
 新しいワンピースも、ジャケットも、パンツも、そろそろスーツも新調したかったし、現役の証明、今年の流行の水着だって……愛する人への手料理の為に諦めたのよ。だって、今、財布の中には食材その他の購入の為、限度額一杯まで使い切ったクレジットカードだけだもん。
「はっきり言わせてもらうけど」
 それなのに、それなのに、アンタって子わぁ……ふざけるんじゃないわよ!
「私はアスカ、あなたと違って大切な人に手料理振る舞うこともデキナイ役立たずとは違うの!!」
「あ、あ、あんですってぇ〜〜〜〜〜〜〜!!」
 青筋ヒクヒク。
「アタシのことを役立たずですってぇ!!」
 拳ブルブル。
「アンタだってそういう意味じゃあ役立たずでしょうにぃ!!」
 怒りバクハツ。
「もちろん、私もついこの前までは役立たずだったわ。でもね、今は違うの。お洗濯とお掃除はまだまだだけど、お料理は別よ」
 フンっと鼻で笑って、見下すミサト。
「なんならアスカの目の前で、やって見せてあげましょうかしら」
「へん、やれる物ならやって見なさい。恥をかくのはアンタよ、ミサト」
「そお? 恥をかくのはアスカの間違いでしょ。中学時代に家庭科の実習でアスカちゃんは何をやらかしたのかなぁ」
「昔は昔、今は今。アンタがお料理作れるってんなら、アタシは今ごろ三つ星ホテルでシェフ長やってるわよ。それにぃ、婚約惚けで夜遊びばっかしているアンタは知らないでしょうけど、アタシの作ったハンバーグ、シンジったら最高だよっていってくれたもんね〜〜〜〜だ」
「まあ、アスカ。いつの間にあなたの脳味噌、アリンコに食われちゃったわけぇ? キッチンに立つシンちゃんの背中見つめて出来もしない妄想に浸ってるだけでしょ。いっつもシンちゃんに家事から雑用から全部押しつけて、お姫様みたいな上げ膳据え膳の生活に首までどっぷり浸かってるアスカにぬわぁ〜にができるっていうのかしらぁ。へん、シンちゃんレイに寝取られて泣き叫ぶがいいわ」
「むかしっからミサト! アンタのこと、いけ好かない糞ババアだと思っていたけど、今日という今日は、だぁ〜れにケンカ売ったかぁ、再教育よ!!」
「上等よ、このエテ公。血のしょんべんが出るまでぶちのめして、ママの股から這い出てきたことを後悔させてやる。覚悟しなぁ!!」

 中指おっ立てて……睨み合うのは……ああ、二人とも「女」捨てて……ます……ね。

 ここから先ちょっち聞くに耐えないスラング、つまり、アメリカ海兵隊の新兵教育担当の鬼軍曹が、とことん新入りを歓迎するようなセリフ──ほら、ファッ○ン、アス○ール、ビ○チ、マザーファ○カ──をベースにした──日本語だと、ア○ズレ、色キ○ガイ、腐れま○こ、ケツの○から手突っ込んで……、猫のう○こ踏め〜〜〜といった、と、ともかく、今までの展開でめっちゃ不幸な伊吹マヤ嬢と、今後不幸になるかもしれない洞木ヒカリちゃんが聞いたら「不潔〜〜〜〜!」って叫ぶ前に、白目向いてひっくり返ること間違いなしな、汚い言葉の羅列による罵倒の応酬が続くわけ。これって読んでもあまり気持ち良く無いと思うし、かみそりメールも受け取りたくないし、投稿規定に18禁はダメってあるし、プロバイダーさんの規約に接触したり、フィルタリングソフトの規制に引っ掛かったりするとまずいっしょ。悪いけど○○行ほど自主規制。

 罵倒合戦の結果はドロー。二人ともかる〜い酸欠状態で頭くらくら。それでも、双方とも相手の目をにらみつけたまま一歩も引こうとしない。
「はぁ、はぁ……口で決着がつかないなら」
 息を整え、ミサト、テーブルを足で蹴飛ばし、部屋の隅へ。戦闘空間の確保。
「はぁ、はぁ……実力行使あるのみ」
 同じく息を整え、アスカ、クッションソファーを、踵ではね飛ばす。ソファーはリビングとダイニングを仕切るドアへ衝突。ドアを閉めて退路遮断。
 ドアの閉まる音がゴングとなるはずだったのだが、その前に浴室の方からドアを開ける音に続いて足音がした。
「シンジ君ね」
「まずい」
 両者目で肯定。
 ケンカしていることがばれたら……
 シンちゃん怒らせてビール減らされるのは嫌よ。
 シンジ怒らせて間食のお菓子が減るのはゼッタイ嫌。
「休戦」
「了承」
「再戦?」
「了承」
 ここでミサト、一瞬、にっと笑うと、
「土曜日、シンちゃんの前でお料理勝負! 受ける? 降りる?」
 アスカ勢いで、
「受けたぁ!」
 と、承諾の言葉を口に出した。
「覚悟しなさい」
「アンタもね」
 ここでホントに休戦するほど女の戰甘くはない。
 にやりとちゃ〜〜んす。
 ミサトの油断大敵奇襲攻撃情無用な一撃必殺正拳突きを紙一重でかわしたアスカはそんな手はお見通し実はアタシも狙っていたのよにっと笑ってのど元狙った手加減ってなに? な抜手をさばいたミサトのわき腹ねらいの蹴りをひざで受けたアスカの鋭い前蹴りを見切ったミサトの鳩尾を狙ったひじ打ちを最小限の動作でかわしたアスカの蹴りを真っ向から受けたミサトの掌底が
「二人で何を騒いで……あ」
 遅かった。手遅れだった。
 シンジがドタバタうるさいリビングのドアを開け、何やってるのと、のぞいた瞬間の出来事だった。
 鈍く嫌な音がした。
 十分にのったスピード、ヤバい角度、シャレで済みそうにない破壊力の掌底とハイキック。
 先にヒザをついたのはミサトだった。危険な危険な前のめりのダウン。
「ミサトさん!!」
 シンジが叫び、ミサトを助け起こす。ミサトは恍惚の表情を浮かべて失神中。何度か肩をゆすって、頬を軽くたたいて見ても、白目は相変わらず白目だった。
 そんな二人を立ち尽くしたまま、じっと見据えるアスカにシンジが抗議する。
「アスカ!」
 アスカは抗議に答えてこう言った。
「ばあむくうへん」
「は?」
 棒っきれのように、仰向けにばったりと倒れるアスカ。
「アスカ、アスカ、ミサトさん、ミサトさん、しっかり、しっかりして、アスカ、ミサトさん……」

 実力行使の結果は両者痛み分けのダブルKO!

 果たしてアスカとミサト、この女の戰の行方は……以下次号


 kaz-Aさんから素晴らしいお話をいただいたのです。これで前編ですか?
 うむ、盛り上がげかたがよろしいのです。

 お料理勝負‥‥なんとも楽しみですね。まだ始まる前から周到にディテールを重ねる描写は素敵であります。加持さんのことといい、マヤさんの災難といい‥‥。

 本筋と関係ないですが、さりげなくマナとかにも触れているのがいいのです(実はちょっとマナファン)

 続きも楽しみですね。後編の読みたい方、=?iso-2022-jp?B?GyRCQVpOLiEmJSIlOSUrISYlaSVzJTAlbCE8GyhC?=とはなんであるか知りたい方は是非kaz-Aさんに感想を!

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