シンジとアスカが再会を果たし、再び同居生活・・・と言っても今回は二人きりだが・・・を初めて早三日間が過ぎようとしていた。

シンジの物まねが功を奏したのか転校生アスカもクラスにすっかりと慣れ溶け込んでいる様子。

そして今日もあっという間に授業は終わり、騒がしくも少し寂しい放課後に差し掛かった時、2つのニュースが『2−A』組に流れ込んできた。





「ねえ!知ってるぅ?再来週からクラスが1つ増えるらしいのよ・・・なんでも第三新東京からの転入生が大量に来て『2−E』組が出来るんだってぇ〜・・・」




と事情通の女の子のちょっと得意げな喋り声が二人の耳に入る。



実はその情報に関してはシンジは既にアスカから事情を聞いていた。

チルドレンとその候補者・・・つまり以前のクラスメイトが全員お引越し&転校して来る・・・第三に戻るのではなく全員が第二に来る事になったのだ。

クラスメイトもそれなりに反応しているが、あまり興味が無いのか反応も悪い。



しかしもう1つのニュースはクラスの少なくとも半数をどよめかせた。







「おい!知ってるか?校門の所に今まで見たことも無いようなもの凄い美少女が立ってるぜー!!!おまけに誰かを待ってるみたいだったぜー!!!」




ちょっと軽そうな男の声。



「なにぃ〜」
「まじかよっ?」
「どんな美少女なんだよ?」
「おいっ見に行って見るか?」


etc、etc、男たちの浮き足立ったざわめきが怒涛のように起こる。




そのざわめきに釣られる様につい窓から校門の方角を眺めてしまった碇シンジ。




「アイタタタタタっ!!!」




と当然の如く、その耳を引っ張る女性・・・言わずもがな惣流・アスカ・ラングレー。




「シーンジっ!!!まさか興味があるなんて・・・言わないわよねぇ〜」




すぐさま掴んだ耳を離し、猫撫で声とともにシンジの右腕を両腕で自身の胸に押し付けるようにして抱え込んだアスカ。

にへら〜っと笑う彼女。

ヤキモチ焼きで甘えん坊で・・・三年前とは比べ物にならないぐらい魅力的で美しくそして・・・優しくなった少女。



・・・でもやっぱりアスカだ・・・



と不謹慎なことを考えるシンジ。



・・・だって目が笑ってないんだもん・・・


あ、さいですか、それは怖いですね。






典型的な飴と鞭で調教されているシンジをよそに男の声は更に続く。







「それがさ〜シャギーの入った蒼銀の髪に、透き通るような白い肌、ルビーも色あせるかの真っ赤な瞳・・・手足だけでなく腰まで無茶苦茶細いからも〜今まで見た中で一番の美少女間違い無しだぜ!!!」




どっかで聞いたような表現に顔を見合わせるシンジとアスカ。

もっともアスカは『今まで見た中で一番』の呼称が妙に気に入らないらしく、顔の端をピクピクと引きつらせているが。

そして目撃情報とプラス感想まで言い始めるその男。





「んで更に、なんか小さな女の子も連れて・・・真っ赤な髪とブルーアイだったから外人の女の子みたいだったし・・・姉妹には見えなかったが・・・まぁホンット絵になる二人って所だった・・・なんか子供をあやす聖母って感じで・・・でも・・・まさかな〜・・・俺達と同い年ぐらいにみえたもんなぁ〜・・・まさか子供って事は・・・無いよな・・・」






そんなわけ無いわよっ!
アレは
アタシの子どもぅぅぅぅぅぅ〜」




って突っ込みを入れたところで突然何者かに両手で口をふさがれたアスカ。

犯人は当然シンジ。

これだけ目撃情報がはっきりと語られていたら、祖父の名前に賭けるでもなく、誰と誰が校門で待っているのかは判ろうと言うもの。

そして相変わらず自爆装置付きの恋人に軽い頭痛を覚えるシンジだった。

三年逢わないうちに爆発力ヘンにUPしているのは気のせいだろうか?



と妙に冷静なまま、暴れる恋人を引きずるようにして衆人監視の中、校門に向かうシンジだった。








シアワセノカタチ

第八話 「レイ襲来」
AYANAMI ATTACK!


ハマチュウさん作







「レイっ!!!もぉ〜一週間の約束でしょ〜!!!」



不満を訴える内容の言葉が、妙に嬉しそうな口調とともに自身の名前を呼ぶ。

校門でぽつんと立って二人を待っていた綾波レイは、ようやく目的の人物が現れたと振り向く。



「・・・アスカ・・・」



彼女の視界に映ったのは走りよってくる惣流・アスカ・ラングレー・・・別名赤毛・サル・バナナクレー・・・ではなく弐号機パイロット。

二人は誰に言われても止めなかった「弐号機パイロット」「ファースト」と言う愛称の使用、これを『ユキ』の教育上問題アリと認めるやいなや『ユキの目の前では使用を止める』・・・と態度を改め『名前』で呼び合う事としていた。



「ごめん・・・アスカ・・・ユキが泣くものだから・・・」



と綾波レイは、駆け付けたアスカに向かって自身の背中に装備された幼女を見せる。

小さな手でしっかりとレイの制服を掴んだまま、プニプニのほっぺに僅かな涙の跡を残し眠っている『ユキ』がそこに居た。

一週間アスカはシンジと二人っきりの生活をしてみたいっ!と言う事でレイが面倒を引き受けたのだが、寂しがり屋のユキはアスカとレイどちらか一人居ないだけで泣き出す事が多くこの結果となった様だ。



「あらら〜やっぱり寂しがり屋の泣き虫さんねぇ〜誰に似たのかしら?」



と言いつつ微笑をたたえ、『ユキ』をレイから抱き取るアスカ。

丁度その時、遅れて駆け付けたシンジがアスカの表情を見てはっと息を呑む。

この三日間・・・アスカはシンジに色々な表情を見せていた。

いつもの勝ち誇った顔
いたずらっ子な顔
真っ赤になって照れた顔
涙をこらえた顔
泣いている顔
はにかんで笑う顔
そして・・・女の顔
一緒に朝を迎えるベットでの寝顔・・・

表情豊かな彼女がよりいっそうに表情を増やしたかに見える・・・

しかし初めて見るアスカの『母親』の表情。
・・・求めても求めても得られなかった幼い日々
そしてかすかな記憶に残るやさしい母・・・
図らずも思い出してしまい、すっかりと魅せられてしまった。



と惚けていたシンジだが、そこにもうひとり惚けていた人物が居た。



「・・・碇君・・・」



そう・・・それは綾波レイだった。

その綾波レイが相変わらず色気を感じさせない極めて事務的な歩調でスタスタとシンジに近付く。

あまりに自然な歩みにシンジもアスカも動けなかった。



でも・・・レイの紅い瞳は潤んで揺れてた・・・



ぽむ!



そんな音を立てて綾波レイの蒼銀の頭がシンジの胸の中に埋まる。



「・・・碇君・・・」



再び呟く愛しい人の名前。

綾波レイは碇シンジの胸の中に顔をうずめたままだった。




「・・・綾波・・・」




シンジの呟き。

胸が詰まりシンジはそれだけしか喋れなかった。



蒼銀の髪を右手で一撫でしたところでシンジは、隣でものすごい「気」が膨れ上がるのを感じた。



(こっ・・・これはっ!)



と見る間でもない・・・って言うか怖くて見れないシンジの隣に位置する惣流・アスカ・ラングレー。



キキィィィイイイイ!



シンジの首が油の切れた門柱のような音を立ててゆっくりと恐る恐る横を向く。

そこには当然の如く怒髪天を突いたアスカがいた・・・




・・・のだが、すぐにふっと『しょーがないわねっ』と言わんばかりの表情を顔に浮かべ、くるりと後ろを向き背中を見せた。




「一分限定だからね・・・アタシの旦那貸すのっ!」




そう・・・シンジとの再会を喜ぶものは一人ではなかった。

愛しき人との長きの別離を悲しみ・・・

来る日も来る日も再会できる日が来ることを望み・・・

忘れ形見を必死に守り・・・育て・・・

・・・共に苦労してきた・・・


そうそれは二人。

惣流・アスカ・ラングレーと綾波レイの二人。

だからアスカは咎めなかった。

・・・レイの気持ちが痛いほど判るから・・・




(アタシはシンジと恋人になれた・・・ユキが出来たおかげだけど・・・でもレイには・・・

いえ・・・ホントならレイに負けてたかもしれない・・・恋敵として争ったならきっと負けていた

でもシンジはアタシのもの・・・随分と卑怯なやり方だったわね・・・アタシ・・・

なのにレイは文句1つ言わずずっとアタシとユキの側にいてくれた・・・

・・・レイ・・・こんなモンじゃ借りは返せないけど・・・少しだけシンジを貸すわ・・・)




とアスカが感傷に浸ってたのが悪かった。










「碇君・・・私と1つになりましょう・・・それはとてもとても・・・気持ちの良いことなの・・・」





「あ・・・綾波っ・・・ナニ言ってるんだよっ!!!」




泣いてたのは何処へやら、すっかり暴走していた天然人型決戦美少女




「・・・問題無いわ・・・ユキも妹を欲しがってたし・・・さあ製作しましょう・・・碇君」





「駄目だよ、綾波っ!!!僕には妻も子供も・・・・」




とのたまうシンジ。

確かに表現は割と正しいが、まだ結婚してないシンジ。
・・・ってそれよりある意味ノリノリの台詞に聞こえない事も無い。





「・・・それも問題無いわ・・・ユキは私になついてるし・・・

・・・古女房より初心な生娘・・・って太古より謳われてるもの・・・」





「レイっィィイイイ!!!ナニ言ってンのよ!!!アンタっ!!!」





再起動したアスカが猛烈な勢いでシンジとレイにせまる。




「・・・アスカ・・・碇君貸してくれるって・・・」




と両手でシンジの白いカッターシャツをしっかりと握り締め相変わらずシンジの胸の中から離れようとせずに、振り向いて答えた綾波レイ。

おびえる少女の演技が愛らしい。




「一分限定よっ!一分っ!」




「・・・そんなに短いのイヤ・・・」




「どーゆー意味よっ!
シンジはそんなに速くないし回数だって回復力だって
それにテクニックだって凄いんだからねっ!
・・・・・・・・・・って・・・・・・・・・・何を言うのよ・・・・・・・・・」



ポッと頬を赤らめるアスカ。




「・・・アスカ・・・それ私の台詞・・・それにアナタが勝手に言ってるの・・・」



本来アイドルに匹敵いや軽く凌駕するような容姿を持つ二人だが、この会話ではどっからどーみても立派なお笑い芸人コンビだ。



「あの・・・二人とも・・・もうネタは終わったかな?」



大声である時間生態暴露されたシンジが顔を赤らめたままばつが悪そうに尋ねる。

(・・・止めないと永遠に続きそうなんだもん・・・で・・・しかもとばっちりが全部僕のほうに来るんだ・・・)

とある意味正確な未来図を予想するシンジ。




「何がネタよっ!!!人を芸人扱いするんじゃないっ!」




「・・・ひどい・・・碇君・・・芸人はアスカだけ・・・」




「くおらぁ〜っ!レイっ!人を芸人だの古女房だの・・・

この超絶天才美少女に向かってよくも言ってくれたわねっ!!!」




「・・・冗談よ・・・アスカ・・・」



エキサイトしているアスカに比べレイはいつもどおりのクールさで答える。

すぐに頭に血が上るアスカにとってこれほど扱いにくい相手はいない。




「まったく性質の悪い冗談ばっかり言うんだからっ!!!」



アスカがしぶしぶと矛先を収めようとした時・・・



「・・・半分本気だけど・・・」



とまたもやクールに一言のたまう綾波レイ。



ぶちっ!カッチーンっ!!!



アスカの堪忍袋の緒が切れ、袋に入っていた鋼鉄製の鈍器が落ちた音・・・をシンジは聞いた。

何故堪忍袋にそんな凶器が入っているのかはこの際問わない・・・なんとなくそんな感じがしてたから。




「シーンジ・・・ちょっと『ユキ』を抱いててもらえるかしら・・・な〜に・・・すぐ終わるから・・・」



とちょっと恐ろしい形相の妻。

目を合わせると石になりそうなので目線を外しつつ愛娘を抱きうけるシンジ。



「すぐ終わるのはアナタの方・・・弐号機パイロット・・・」



「上等じゃない・・・99戦49勝49敗1引分・・・丁度決着がつくわね・・・ファーストっ!」



一体何回どーゆー喧嘩してるんだ?と突っ込みを入れたいが、ちょっと想像しただけで頭が痛くなったので聞かないことにしたシンジ。


対峙する二人。

仁王立ちで相変わらず威張っているアスカと、これぞ自然体の力の抜けた立ち姿のレイ。

しかし視線が交差するとバチバチと音を立てそうな勢い。



「今日は外だし、野外ルールで良いわね!」



「・・・了解・・・立ち技のみ、目潰し顔面攻撃無しね・・・ATフィールドは?・・・」



「無しよっ!あれ使うとNERVに感知されちゃうじゃないのよっ!」



「・・・始末書は面倒・・・了解・・・」



と言葉を交わす二人。


言葉から判断すると既に二人の喧嘩は99回を数え、ATフィールドを炸裂させてNREVを出動させる程暴れている・・・事が伺える。

巻き込まれては堪らんと距離をとろうと後ずさりしたシンジ。

・・・と背中にぶつかるものがあった。



「碇・・・この騒ぎ・・・何なんだ?」



それは先日『冴えない』発言でアスカを激怒させ、そしてシンジに助けられて以来、妙に熱い眼差しでシンジを見るようになったクラスメイトの男だった。



「いや・・・その・・・あの・・・」



戸惑うシンジをよそに続けるその男。



「それにその子供・・・赤っぽい金髪・・・ブルーアイ・・・

まさかっ!・・・碇と惣流のっ!?」



子供のことで嘘はつけないシンジ、正直に答える。



「・・・そうなんだ・・・僕とアスカの子供で『ユキ』って言うんだ・・・もうすぐ三歳になる・・・」



がぁあああああ〜んっ!!!



周囲から巨大な擬音。

シンジが見まわすと・・・又もやそこには人・人・人の人だかり。

御用提灯が十重二十重・・・ではなく「2−A」のクラスメイトは言うに及ばず制服姿の者達が遠巻きにしてぐるりと囲っていた。



「い・・・いつからそこにいたの?」


巨大な汗を頬にたらしながら聞くシンジ。



「『もぉ〜一週間の約束でしょ〜』の辺りからかな?」



(それって一番最初からじゃんっ!)


そんなシンジの心の突っ込みはよそにショックを受けるものが多数。

物静かなだと思っていた少年が三年前に子供を作っていたとは誰も思うまい。

悲嘆に暮れるもの・・・

手を取り合って泣きじゃくりながらしゃがみこむもの・・・

そろそろ落ちてきた夕日に向かって走り出すもの多数・・・



そして涙をボロボロ流しながら走り去る『冴えない』発言の男。



「俺の初恋をかえせぇぇぇぇぇぇ〜!!!」



とドップラー効果つきの意味深な叫び声を残して・・・。



(初恋・・・誰に対してだろ?)

世間一般の常識からすれば美少女転校生アスカに対してなのだろうが、この場合考えたくは無いが自分自身に思い当たる節がありすぎるシンジ・・・額から大きな汗を流すのだった。


残った取り巻きの者達が騒ぎ始める。


「聞きました?奥さん?初恋ですってよ?」
「きゃぁ〜やおいが現実で見れるなんてっ!」
「でも碇君、惣流さんって美人の恋人がいるよ?」
「でおまけにあのすっごく可愛い女の子・・・子供なのね」
「いや〜ん・・・子持ち!?でもすっごく素敵っ!ポッ!」
「あの蒼い髪の女の子は?さっき抱き合ってたし」
「そうよね・・・でも惣流さんも黙ってたし・・・公認の愛人かしら?」
「落ち着いた雰囲気からすればあっちが奥さんっぽいけど?」


と勝手に広がる噂話。

1グラムの金箔を畳1畳に広げる金沢の金箔張りもかくや?といった状況

・・・もっともこの場合、子持ちで美人婚約者があり天然美少女から想いを寄せられ、さらに男性からも憎からず思われた日には、地金がトン単位と思うべきだろう。




とっても疲れた顔をして、周囲の状況にもかかわらず相変わらず大暴れする二人の女神に向き直るシンジ。



うりゃっ!おりゃっ!ガシっ!ビシっ!



となかなか賑やかな声と音が聞こえる。



(でも・・・まぁ・・・いいか・・・)


そんな思いを浮かべるシンジ。


一時は憎み罵り相容れない存在だったアスカとレイ・・・でもとてつもなく近い存在・・・自分を写す鏡のような似た存在の二人・・・近親憎悪とでもいうのだろうか?・・・悪い意味での女の戦いを重ねていた二人。

それがどうだろう?今はまるでじゃれあうように拳を交わしている。



(・・・でも拳を交わすってらしい手法はどうかと思う・・・)



と冷静な突っ込みも忘れないが。







「・・・パパ?・・・」



そんな時可愛らしい声がシンジに向かって発せられた。

声の主はシンジが胸に抱いていた愛娘『ユキ』。

母親譲りのつぶらなブルーアイを真っ直ぐにシンジに向かって向けている。



「目が覚めたかい?ユキ」



笑顔と共に自然に言葉を出すシンジ。

端で見物していた級友が気を失ってパタパタと倒れるぐらいさわやかな笑顔。

そんな父親の笑顔に照れたのか、にへへ〜と笑いながら顔をシンジの首筋に埋めてぐりぐりと押し付けるユキ。



「ユキは甘えんぼさんだね〜」



嬉しそうなシンジ。

それでもぐりぐりと額を押し付けることを止めないユキ。


「・・・パパ・・・パパ・・・」


と小さな声で呟きながら。

父親の存在をこれでもかと確かめるような彼女・・・。

再び穏やかな笑顔を浮かべて軽くユキを抱きしめるシンジだった。





・・・・・・親子の感動の再会が数分続いただろうか・・・

真っ赤なほっぺたの顔をはっと上げたユキ。



「パパぁ・・・・ママ達は?」



ぐっ!!!・・・ちょっと言葉に詰まったシンジ。

ユキの言葉に従うように二人の所在を目で追う。



そこにはぼろぼろの姿で汗だくになっている二人の姿・・・アスカとレイ。

艶姿・・・汗で髪が頬と額に張りつき、乱れた服装はそこはかとない色気をかもし出している。

その二人が香港映画もかくや!?と言ったアクションシーンを繰り広げている。



「ママぁ〜レイママぁ〜又喧嘩してるのぉ?」



ピタっ!!!

ユキの良く透る声に瞬時に停止するアスカとレイ。

ちなみに彼女たちの拳はクロスカウンター寸前で止まっている。

背景は真っ赤な夕日。



そして一時停止から再生ボタンを押したように一気に動き出す彼女達。



「ちっちっちっ・・・違うのよユキ・・・ほら・・・そう・・・ダイエットよっ・・・そうダイエットっ!
ママとレイは運動してたのよ、エアロボクスって奴?
いやぁ〜最近太ってきたかなぁ〜って思ってママやってたのよっ!
そうよねっレイっ?」


猛スピードでまくし立てレイに振る。


「そう・・・エアロボクスなの・・・・・・
実際に打ち合うけど・・・寸止め無しだけど・・・キックも膝蹴りもありだけど
・・・おまけに間接技も締め技もあり・・・」



随分と総合格闘技生々しいエアロボクスもあったもんです。


「馬鹿レイっ・・・ばれるじゃないのよっ」

「アスカ・・・子供に嘘は吐いては駄目・・・」

「アンタ馬鹿ぁ!日本人なら曖昧な表現を使いなさいよっ!」

「・・・その件につきましては・・・大変遺憾に存じます・・・」

「ぐっ!!!なかなかやるわねっ!」


と立たされん坊のように直立不動の姿勢で肘でつつき合うアスカとレイ。

ユキと目が合うと誤魔化ようにわざとらしく笑って手なんか振ってたりする。



「まったく・・・しょうがないママだね」


シンジがユキに向かってしみじみ呟く。


「うん・・・でもいつもの事だしぃ〜・・・」


三歳児ながら親のフォローを考えたのかトーンダウンするユキ。

でもそれはフォローになってないんだよ・・・気遣うようにシンジが問う。



「ユキはママのことが好きかい?」



「うんっ!大好きぃっ!ママもレイママも大好きぃっ!」



にっこりと笑って元気良く答えるユキ。

同じくにっこりと笑みを浮かべるシンジ。



「アスカ!綾波!ユキがこう言ってるんだから喧嘩はもうお終いだね?
そろそろ帰ろう・・・晩御飯遅くなっちゃうよ!」



「「・・・そっ・・・そうね・・・」」



ユキとシンジの笑顔のユニゾンアタックを受けて撃沈されてしまったアスカ綾波の両名。
真っ赤になってもじもじしてたりする。
でも姿はボロボロだ。



「それじゃ帰ろうか?」



ユキの両脇を掴んで持ち上げると肩車するシンジ。

きゃっきゃっと喜びながら父親の漆黒の頭にしがみ付くユキ。

にへら〜っと笑ったアスカは軽快にシンジに走り寄ると左腕に絡みつくように体を密着させる。

一瞬シンジと目を合わせたアスカは照れたように顔を真っ赤にする。




ポツンと一人校庭に残ってしまったレイ。

(・・・私はもう・・・必要無いのね・・・
楽しかった・・・アスカとユキとの生活・・・
でも・・・これで任務は終了・・・もう私は必要無いもの・・・)



そんなレイの考えを打ち消すようなアスカの大声。



「レイっ!何やってんのよっ!帰るわよっ!ほらっ!!!」



シンジとユキ、そしてアスカが手招きをしている。

そしてアスカはここが空いてるわよっ!と言わんばかりにシンジの右側を指差す。



つぅーーー


綾波レイの頬を伝う一筋の涙。


(嬉しい時にも・・・涙は出る・・・碇君の言うとおり・・・私・・・嬉しい・・・)


すぐさま涙をぬぐうと、はにかんだ笑顔を浮かべてアスカの真似をするようにタッタッタッと駆け寄ってシンジの右腕に寄り添う。



「ユキねぇ〜ママは二人がいいのぉっ!」

「まっ!!欲張りねこの子は!
誰に似たのかしら?」

「アナタに決まってるわ、アスカ」

「全くだね、綾波、僕もそう思うよ」

「イイ度胸ね・・・アンタら・・・」



そんな言葉を交わしながら歩き出す4人。

落ちてきた夕日がそんな彼らの影を長く長く作り出している。

影はぴったりと寄り添い離れることはなかった。




つづく

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