「はぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」



深いため息をつく惣流・アスカ・ラングレー。

白いシングルベットの中で目を覚ました彼女、乱れた制服姿の半身をベットより起こし状況を確認して少しだけ後悔する。

既にどっぷりと日が暮れてしまったため部屋の中を暗闇が支配していた。



「・・・感動の再会だった筈なのに・・・」



彼女の視界に同じベットに横たわる黒髪の少年が映る・・・言うまでもなく碇シンジ。



「こいつってば・・・カワイイ顔して結構ケダモノ系よね・・・」



と随分と失礼な批評。

アスカの計画では
『夕食に修行した料理の腕を披露、シンジにアタシの事惚れ直させてぇ〜♪
食後紅茶を入れてじっくりと二人っきりで三年間の事を語り合ってぇ〜♪
・・・その後イイ雰囲気になって・・・
キャー♪キャー♪キャー♪アタシったら何考えてんのかしら!?』

・・・と言う深慮遠謀があったらしい。
それがシンジのマンションに入った途端・・・・・・・・な事になって現在に至る。

既に時計は午後10時を回っている・・・夕食も取らずにベットに居た事になればアスカならずとも反省するであろう・・・おまけにまだ制服も脱いでいないときている。

眠ったままに見えたシンジが目を閉じたまま答える。



「・・・それはお互い様・・・アスカもケダモノ系じゃないか・・・」



「起きてたのっ!?ずるいわよっ!寝たふりしてるなんてっ!!!」



大きな汗を額に浮かべたアスカ、誤魔化すように大声になった。



「シっ・・シっ・・シンジが悪いんだからねっ!
アタシを離してくれないシンジが!
あーーーんなに激しくするなんて!壊れるかと思ったわよっ!!!」



「それもお互い様・・・アスカも激しかったってば・・・」



さらに大きな汗を額に浮かべたアスカ。
少し前の時間のことを思い出し・・・真っ赤になってアタフタしている。



「・・・でも・・・やっと逢えたね・・・アスカ・・・」



閉じていた瞼を開いたシンジ、漆黒の瞳が真っ直ぐにアスカを見つめる。

シンジの言葉にアスカはすぐさま大人しくなってしまった。



「そうね・・・ホント・・・やっと逢えた・・・」



そう言って再びシンジの胸の中にもどるアスカ。



「・・・アスカ・・・もう・・・離さないよ・・・」


「・・・離さないで・・・お願い・・・」



子猫のようにシンジの胸にすがりつくアスカ。

そんなアスカをしっかりと抱きしめるシンジだった。




・・・って思ってたらモゾモゾと動き始める二人。




このまま観察を続けると
ちょっちマズイ感じがするので、舞台を第三新東京市に移す。



・・・第三新東京市・・・

NERVの対使徒偽装迎撃都市

・・・二人が共に戦った場所・・・憎しみ合い傷つけ合い・・・

そして分かり合うことを始めた記念すべき場所

二人の第二の故郷





それが第三新東京市だった。





シアワセノカタチ

第七話「第三新東京市」
CITY OF TOKYO−3rd 


 

ハマチュウさん作






・・・カチャカチャカチャ・・・

玄関から聞こえてくる僅かな音。



ベットに横たわる水色の髪を持つ少女は浅い眠りからすぐさま覚め、何事かと身を固くする。

(・・・何者?・・・葛城三佐は本部で夜勤・・・弐号機パイロットは第2新東京・・・鳥さん?・・それともスイカ男さん?)



ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・

ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・

ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・ミシ・・・



侵入者は玄関から、廊下、リビングと少女の自室に近付いてきた。


全身の毛が逆立ち、体温が一気に下がる感覚・・・同時に血圧があがり心音が自身の耳に直接聞こえてきそうだ。

(こっちに来る・・・まさか・・・泥棒?)



ガタッ!



少女の部屋の襖に手をかける音。



ガタガタ!・・・スゥ〜・・・・・



侵入者は音がしないように神経を使っているのだろう、ゆっくりと襖を開ける。

その動きが余計に部屋の主人・・・綾波レイの神経を逆撫でる。



(イヤ・・・怖い・・・これが恐怖

・・・そう・・・私怯えてるの?・・・

・・・って浸ってる場合じゃないわ・・・

こんな時に
人間凶器二人は居ないし

・・・どうしよう・・・碇君・・・助けて・・・)



開いた襖から表れる黒い影。



ガタンッ!


影が発する絶対零度のオーラに当てられ、ベットの中で後ずさりするレイ。

しかし・・・その影は見慣れた影だった。



「レイ・・・起きているのか?・・・」



黒いはずだ、声の主は常に黒い軍服を身に纏い、黒髪そして髭とサングラス、対比する白い手袋がとてつもなく凶悪な印象を受ける。

言わずと知れたネルフ総司令にして碇シンジの父親、碇ゲンドウ・・・。



「・・・碇司令・・・」



綾波レイの相変わらず感情を感じさせない素朴な声。



ゆっくりとレイの部屋に入ってき・・・


プチッ


軍服のボタンを外し、上着を肌蹴させるゲンドウ。



「・・・レイ・・・今日こそは抱かせてもらうぞ・・・」



こちらも感情を感じさせない・・・しかし凶悪な声・・・そして恐ろしい言葉の意味。



「拒否します・・・碇司令・・・この体は碇君のもの・・・」



毅然とした声でしっかりと拒否するレイ、頬を赤らめているのが印象的。

先ほどまでの無感情無表情が嘘のよう、『凛』とした態度をとっている。



「問題無い・・・私はシンジの父親だ・・・

シンジのものは私のもの・・・私のものは・・・私のもの・・・

さあ・・・抱かせてもらうぞ」



どっかで聞いた台詞丸出しで迫る碇ゲンドウ・・・外道と言われる所以であろう。

そして、ゲンドウが1歩レイに向って足を踏み出したときだった。






ガイィィィィィィィーン!






ゲンドウの目の前に八角形をしたオレンジ色の色の光が現われた。








ここは第三新東京市地下にジオフロントに作られたネルフ本部。

使徒との戦い・・・サードインパクトを乗りきりった今でもその組織は継続されている。

そして現われるはずの無い使徒に対しての警戒も24時間態勢で続けられていた。

そんなネルフ司令部に、突然けたたましい警報が鳴り響いた。



「何事だ!」



司令塔の冬月副指令が厳しい口調で誰何する。



「ATフィールドの発生を確認!!」



答えるのはオペレータの一人、青葉シゲル。



「なんですってぇ?解析急いで!」



こういった「非常時」には頼り甲斐の在る女性、作戦部長葛城ミサト。



「パターン・・・青・・・使徒です!」



眼鏡に多数の情報が鏡の様に映っているオペレーター、日向マコト。



「総員第一種警戒態勢!それで場所は?」



「・・・サーチまで5秒・・・3・・・2・・・1・・・出ました!

あれ?・・・この場所は・・・」



良く透る声、ショートカットが愛らしい伊吹マヤ。



「だから何処?」



「あの・・・コンフォート17・・・葛城さんのマンションです・・・」



あっちゃ〜!!!発令所に居並ぶ全員が右手を額に当てて天を仰いだ。

どうやら思い当たる節があるららしい。



「マヤちゃん・・・一応確認してくれる?」



「了解・・・正面モニターに映像でます!」



司令部の巨大なスクリーンに映し出された映像。

コンフォート17、葛城ミサトの所有の一室、元碇シンジの部屋にして現綾波レイが住まう部屋。

そこに対峙する二人の人影。

水色の髪の少女の発するオレンジ色のATフィールドが黒い影・・・碇ゲンドウを押しつぶそうとしている映像だった。


盗聴機より流れてくる音声。



「レイ!私を拒絶する気か!?」



バリバリバリバリ!



「ぬぉぉぉぉぉぉ!」



オレンジ色の光が発する圧力に押されるゲンドウ。

退化したヒトの身ではATフィールドは中和できない。


だが、綾波レイは『容赦』と言う単語を知らないらしかった。



「ATフィールド・・・全開・・・」





キュイィィィィィィーン!




「ATフィールド出力上昇中!・・・ゲンドウ圧壊限度まであと100・・・60・・・30・・・」



オペレーターの叫び声が空しく響く。



「駄目ですっ!もうもちませんっ!!!」






グシャ!!!

ゲンドウ圧壊!!!





おぉぉぉぉぉ〜と司令部中がどよめく。



オペレーターが呟く



「いつ聞いてもイヤな音ですね・・・」




「ホント・・・無様ね・・・」



結婚した相手を間違ったかな?と後悔する女性・・・相変わらず白衣の赤木リツコ。






「うむ・・・警報を止めろ・・・委員会と日本政府には誤報と伝えろ・・・以上だ」



冬月の溜息が聞こえる。
そして呟く独り言。



「碇め・・・毎日毎日・・・飽きないものだ・・・孫をそんなに抱きたいか・・・」








人影が一つになった部屋。



「・・・じーさんは用済み・・・」



それがレイの勝利の宣言だった。

立ち竦み勝利の余韻に浸るレイを、可愛らしい泣き声が呼び止めた。




あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!

あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!

あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!あ〜ん!




声の発生場所はレイのベットの隣に置かれた小さなベット。

そしてそのベットの主・・・小さな女の子がその体の何処にそんな大きな声が出せるのか不思議なほど大声をあげて泣いていた。




厳しい顔していたレイが一転、『母親』・・・と言っても良い慈愛に満ちた表情で顔を満たしベットに駆け寄る。




「ゴメン・・・ユキ・・・夜中に騒いで・・・怖い夢でも見た?

・・・大丈夫・・・怖いおじいちゃんは今殲滅したから・・・」




ぐすぐすっと今だ涙混じりの幼女。

幼女の髪は赤みがかった金髪・・・そしてマリンブルーの瞳。

暗がりに光って見えるような白い肌。

そしてやさしげな顔つき。




「・・・レイママ・・・」




幼女は両手を伸ばして『だっこ』を要求する。

甘えん坊な所は父親と母親・・・どちらの遺伝子の影響だろうか?

そんな彼女を抱きしめる綾波レイ。




「ママは?」




「第二新東京よ・・・寂しい?ユキ?」




プルプルと首を横に振るユキと呼ばれた幼女。




「・・・そう・・・偉いのね・・・」




「あのね、レイママ!

ママがイイ子にしてたらユキに妹プレゼントしてくれるって言ったの

だからユキ、頑張ってイイ子にしてお留守番してるの」




「・・・そう・・・良かったわね・・・」




といつも通りクールに言葉を発するも頬に汗を流す綾波レイ。



(弐号機パイロット・・・ずるい・・・
ホントに製作する気ね・・・碇君・・・)





と愛しい人の名を呼ぶ。

しかし新しい絆を見つけたレイ・・・それは碇シンジと惣流アスカラングレーの子供『ユキ』。

こだわる絆が、碇司令→碇シンジときて次はその子供『ユキ』・・・いささか安易ではあるがレイは幸せだった。

シンジが人質として第二新東京に旅立ち既に三年、アスカが出産育児と耐えられたのも彼女のお陰と言えるだろう。

多くの母親がその息もつく間も無い重労働『育児』との戦いにズタボロになるが、アスカはレイとほぼ折半で乗り越えたのだ。




レイの『ユキ』への執着は並ではなかった。

ある時はアスカ以上の力を持ってユキを守るレイ。

今日の様にATフィールドを使ってまでも。




だが割を食った人間が一人。

言うまでも無く現在床で沈黙する碇ゲンドウ。

すっかり嫌われたゲンドウは、初孫をその手に触れることすらレイに許されていなかった。

本日も密かに葛城邸に侵入、孫娘ユキへの一次的接触を図るも、レイに殲滅されてしまった。




まっ・・・これも天罰、因果応報、泣きっ面に蜂?・・・と言う物であろう。

今日も第3新東京市は平和だった。






「私は・・・要らない祖父なのだ・・・」


シクシクと泣く中年髭男を除いて。




















あ、もう一人いた

「ワタシなんて・・・三十路過ぎてやっと結婚したと思ったらもう
ばぁーさん・・・

あぁ・・・これが今までアノ子達へ行った事への仕打ちなのね・・・」



一時期虐めたチルドレンに見事なまでに最も効果的でなおかつ非常に平和的でありながらクリティカルヒット級の大ダメージを与える方法で復讐された赤木リツコ。

日々幸せで嬉しそうなのだが、すこしだけ白衣の背中に哀愁が漂っていた。





つづく

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