背中 ver.Asuka





ツマンナイ。
シンジは宿題を始めてしまってアタシはする事がなくなってしまった。
何となく、リビングに正座して机に向かっているシンジの背中を見始める。
ちょっと顔が熱くなった。
ひょろひょろしてるだけかと思ってたけど、ちょっとだけ線が固い感じがしていた。
こんな奴でもやっぱり『オトコ』何だなって思った。
ちょっと、加持さんの背中に似てるかも。
そう思ったアタシは何となくシンジの背中に額を押し付けていた。
ぎしり、と音を立ててシンジの身体が固まった。
おもしろ〜い♪
暇潰し、見っけ。
楽しくなったアタシはそのままぐりぐりとシンジの背中に額を擦り付けた。
柔軟剤の匂いにほんのちょっと混ざるシンジの匂い。
タバコの匂いのする加持さんの匂いに、少しだけ似てるかも知れない匂い。
でも、凄く薄いけど、シンジだけしか持ってない匂い。
意識すると胸が苦しくなった。
アタシ何してるんだろう。
馬鹿みたい。
急に醒めたアタシが離れようとした時、緊張しきったシンジの声が話かけてきた。
「ね、アスカ?」
「何よ?」
「…………」
何で黙るのよ。
話しかけて来たのアンタじゃないのよ。
用がないならいちいち呼ばないでよね!
反応してやってるアタシが馬鹿みたいじゃないの!
ムカついて来たアタシは今度こそ離れようと顔を動かした。
すると、またシンジが声をかけてきた。
「あの……アスカ?」
だから、何だって言うのよ!
苛ついたアタシは思った事をそのまま言う。
「言いたい事があるならはっきり言いなさいよ。鬱陶しいわねぇ」
一瞬、シンジの背中が怒った気がしてびっくりした。
コイツでも怒る事ってあるのね。
何だか新しい発見をしたアタシの心は浮かれ始めた。
もう少しこうしているのも悪く無い気がした。
指でシンジの背中をなぞってみる。
擽ったかったのか、シンジの背中が震えた。
楽しい。
「あのさ、僕、宿題してるんだけど」
「知ってるわよ。さっき聞いたから」
困りきったシンジの声に答えながら、アタシはシンジの背中から顔をあげた。
そしてシンジの耳が真っ赤になっている事に気付く。
あれ?
何でコイツ耳赤くしてるの?
しばらく考え込んだアタシはその答えを見つける。
にやりと笑みが浮かんだ。
アタシは宿題を再開し始めたシンジに、意図的にくっついてやった。
今度は頬っぺた。
びくってシンジが飛び上がって固まった。
凄く、楽しい。
こうしてみると、シンジの背中って、結構広いのね。
ちょっとドキドキする。
「あのさ…」
シンジが宿題の手を止めてアタシに話しかける。
動いたり喋ったりすると、シンジの動きがアタシに伝わってくる。
「何よ」
それを感じながら、アタシが喋ってる動きも伝わってるのか疑問に思った。
「アスカ」
シンジがアタシの名前を呼ぶ。
背中を通して聞こえた声がちょっと低めに聞こえて心臓が跳ねた。
顔が熱い。
「だから何なのよ!」
恥ずかしくてぶっきらぼうな言い方になってしまった。
シンジ、萎縮しちゃってないかしら?
別にアタシはシンジを脅してるつもりないんだけど、シンジはいつもアタシに脅迫されてるみたいに縮こまる。
アタシが悪者にされてるみたいで、すごくムカつく。
コイツは本当に男なのか?と疑問も良く持つ。
でも、男…よね。
何となく、シンジの背中に耳をつけながら、シンジの背中に○を書いてみる。
ぴくぴくとシンジの背中が震える。
面白い。
「……何、してるの?」
怯えてるみたいなシンジの声が、もっと面白く感じさせてくれた。
ふふふ。
「別に何もしてないわよ?何で?」
シンジが何を聞いてるのか分かっていたけど問い返してあげた。
「な、何でって……」
あははは!
困ってる困ってる!
コイツ、すっごく面白い!
「何か気になる事でもあるの?」
もっともっとくっついて、もっと困らせてみたい。
アタシは自分の欲求に従って、シンジの肩に両手をかけてちょっとだけ体重をかけてのし掛かってみた。
「き、き、気になる事!?」
案の定、シンジの声が思いっきり裏返った。
あっはっはっは!
首筋も真っ赤っかね!
「…何でアンタが聞き返すのよ。アンタに聞いてるのはアタシでしょう?」
わざと怒ったような声をあげてみたら、シンジは固まって汗だくになり始めた。
どうしよう。
コイツ、面白すぎる。
「ふふ♪」
面白すぎて、笑い声が漏れちゃった。
楽しいから、ま、いっか。
ぴとんとシンジの背中にもう一度耳をつけてみた。
「あ、あの、アスカ?」
戸惑ったようなシンジの声が楽しくて仕方ない。
「な〜に〜?シンジ♪うふふっ♪」
あー、シンジをからかってるのバレちゃったかしら?
バレたらやっぱりコイツも怒るわよね。
結構陰険な仕返しして来る奴だし。
「ちょっと、離れてくれない?」
シンジの拒絶の声に、ご機嫌だったアタシは不機嫌になった。
「や!」
離れてなんかやらないわよ。
わりとこれ気に入ったんだから。
「や…って、アスカ。な、何で?」
「やだから嫌なの!」
アタシったら、何言ってんのかしら。
こんなガキくさい事言っちゃってちょっと恥ずかしいかも。
でも、ちょっとだけ快感。
「シンジは嫌なの?」
アタシは楽しいし、コイツも男だから、きっと嫌じゃないと思うんだけど…。
「い、嫌じゃ、ない、よ?」
シンジが裏返りまくった声でアタシの読みを肯定した。
ふふん、やっぱりね。
コイツ、結構変な目でアタシの事見てる時あるしね。
妥当な結果ね。
「ふふ。じゃあ別に良いじゃない♪」
読みが当たって嬉しくて、ちょっとシンジに抱き着いてみた。
む、コイツ、本当に細いわね。
アタシより細いんじゃないの?
こんなんでやっていけるのかしら?
「あ、あ、あ、アスカ!?」
「何よ」
裏返り捲ったシンジの声がアタシを呼ぶ。
そう言えば、アタシ、シンジの奴に抱き着いちゃったわね。
刺激が強すぎたかしら?
でも……。
「シンジの背中、温かい♪」
なんか、これ、癖になりそうね〜。
温かくって何だか落ち着く。
思わずすりすりと顔を背中に擦り付けちゃった。
アタシ、どうしちゃったんだろう。
「あ、あうあうあう……」
シンジが何か喋っていた。
どうせ止めろとか何とかそんな事何だろうけど、言いたい事があるなら本当にはっきり聞こえるように言いなさいよね!
「シンジ、今何か言った?」
「な、何も言ってないよ!?」
シンジがびくり、と飛び上がって否定した。
コイツ。
嘘付く気ね!
「そう?」
「う、うん」
アタシのブラフにシンジはあっさり引っ掛かる。
「ふ〜ん」
さて。
これからどうやってコイツの嘘を暴いてやろうかしら?
このアタシの前で嘘を付くなんていい度胸してるわよね。
そのくせ、嘘を隠し通すのは下手だし、意気地ないし、本当に何考えてるのかしら?
行動に一貫性や主義、主張ってものが欠如してるのよ!
たま〜にアタシにくってかかって来る事が有ると思えば、アタシに怯えてびくびくしてるしさ。
男らしく無いわよ。
もっとしゃきっとしててくれたら、アタシだって……。
…………ん?
何?
何なの?
今の考え。
『アタシだって』?
え、嘘。
何で?
だって、アタシ、加持さんが……。
シンジの背中にぴったりくっついて混乱していたアタシの手に、シンジの奴がそっと手を重ねてきた。
って、え!
え!
えぇぇぇぇ!?
「シ、シンジ!?」
びっくりして裏返った声でシンジの事を呼んじゃった。
「何?」
シンジの声は凄く落ち着いている。
何でコイツ、こんなに落ち着いてるのよ!
さっきまで散々動揺しまくってたのに!
「な、な、な、何してんのよ!?」
慌ててシンジから離れようとしたけど、アタシの両手はシンジにがっちり捕まれちゃってて逃げ出せない。
「別に何もしてないよ?」
コイツ、まさか、最初からこれが目的だったんじゃないでしょうね!?
騙されたわ!!
いつもののほほんとしてる顔はブラフだったのね!?
「嘘つきなさいよ!良いから離しなさい!」
「何を?」
シンジの声に笑みが混ざっている気がする。
ムカつく〜!!
「あ、あんた、わざとやってるわねぇ〜〜!!」
結構、コイツの握力強くて中々抜け出せないし!
腹立つわ!
後で覚えてなさいよ、シンジ!!
十倍にして返してあげるわ!
アタシがそう心に誓った時。
シンジがアタシの右手を持ち上げて、そっと優しく口付けた。
え。
ちょっと。
何よ。
何してんのよ!?
「ちょっ!ちょっとシンジ!あんた、何してるのよ!!」
思わず叫んじゃったけど、アタシの体はアタシの物じゃなくなったみたいに動かない。
心臓が壊れちゃいそうなくらい高鳴っている。
何で?
何でコイツ、アタシの手にあんなに優しいキスしたの?
訳が解らなくなっていたアタシは、何かぬるっとした物がアタシの指に這い回り始めた感触に更に混乱した。
何!?
何されてるの?
れろ、とアタシの指に這ってるのがシンジの舌だと気付いたアタシは、シンジの行動に完全に固まった。
凄く熱心にシンジはアタシの手に舌を這わせている。
丁寧に、まるでアタシの手を味わうみたいに。
ぞくり、と背中に何かが走った。
「い、嫌!!!!やめて!!!!」
堪えられなくなったアタシの口から思わず悲鳴が漏れる。
理解出来ない行動に出てきたシンジに恐怖を感じた。
シンジが怖いと思った。
「ご、ごめん!アスカ!」
シンジはびくっと震えて正気に戻り、アタシの手を慌てて解放してくれた。
アタシはシンジの背中から身を離す。
心臓が破裂してしまいそうだった。
何で、コイツ、いきなりこんな事したのかしら?
アタシはシンジの行動が理解出来なくて、シンジの背中を見詰めてしまった。
リビングに、アタシとシンジの沈黙が落ちる。
もしかして。
もしかして、アタシのせい?
コイツだって、男何だから、もしかしてその気にさせちゃったの?
ぐるぐると悩んでいたアタシは、右手を左手で握り締めていた。
シンジが、ゆっくりとアタシを振り返る。
何故かアタシは息を詰めて身を固くしてしまった。
どうしよう。
コイツはシンジなのに。
怖い。
「アスカ?」
シンジがアタシを見詰めてアタシを呼んだ。
シンジの気配がいつもと違う。
何だろう。
怒ってるの?
アタシ、そんなに悪いことしたの?
シンジが少しずつアタシに近づいて来る。
怖くて、アタシはシンジから逃げようとした。
のに。
逃げれなかった。
いつの間にかアタシの腰が抜けていた。
嫌だ。
どうしよう。
こんなのは嫌!
アタシに迫って来るシンジを見詰めていた視界が潤んむ。
もう一度アタシを驚愕が襲う。
嘘!?
アタシ、泣いてるの!?
予想外な事に気を取られた瞬間、アタシはシンジに捕まっていた。
物凄く驚いて、思わず身を震わせてしまった。
アタシを掴んだシンジの手も震えた。
思わずシンジの顔を見詰めてしまう。
凄く真っ赤で真剣な顔だった。
何となく、シンジだって思った。
そう思ったら、何だか少し安心して身体から力が抜けた。
シンジが、そっと控えめにアタシを引き寄せる。
アタシはシンジに身を任せてしまっていた。
信じられない!
アタシ、何やってるの!?
でも、シンジの胸は広かった。
温かくって、大きくて、何だか凄く安心した。
あんなに怖がってたのがバカみたいに思えた。
そうよね。
だって、コイツはシンジなんだもの。
怖がる必要なんかどこにも無いじゃない!
納得して、アタシを驚かせた罰に声を張り上げようとした瞬間、アタシはシンジに抱き締められてしまった。
せっかく落ち着いたのに、アタシはまた混乱し始めていた。
コイツ、やっぱり男なのね!
油断ならないわ!
コイツなんかの腕の中で安心なんかしちゃったのが悔しくて、アタシはもがいて抜け出そうとした所で、壁にかけられていたカレンダーを目にした。
そして思い出す。
今日って、確かコイツの誕生日よね。
プレゼントなんかアタシ、用意してなかった。
ま、いいか。
これだけサービスしてあげれば十分プレゼント代わりになるわよね?
多分。
アタシはシンジの耳元に唇を寄せた。
「HappyBirthday!シンジ…」
シンジは耳を真っ赤にして、アタシをきつく抱き締めてきた。
それはちょっと男っぽくて、何だか凄くドキドキした。
アタシ、シンジ、嫌いじゃないかも……。





あとがき
背中のアスカver.です。
ちょっとアスカが乙女しすぎてしまったかもしれないです。
まだ式波さんにはお目にかかってないのですけど、このアスカさんは式波さんよりかもしれないですね。
目を通してくださいまして、ありがとうございました。m(__)m

「背中」アスカverです。アスカverから読まれた方はシンジverもどうぞ。

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