ミサトの制止で、会話は中断。
早々に対応策が尽きかけ、脂汗までかいていたシンジは、ホッとする。この場は、ミサトに感謝だ。
あとで、アスカに文句の一つでも言わねば。
「そこまでにして、お二人さん。はじき飛ばされた男の子二人が、いじけてるわよ。
後で時間作ってあげるから、とりあえずは私に付き合ってくれる?
予定時間に遅れると、艦隊司令がへそ曲げるわ」
「別に、そんなんじゃないわよ。
変な誤解しないで、ミサト」
「はいはい。
分かったから、付いてきなさい」
「全然、分かってないわよ。
ちょっと、聞いてんの、ミサト!」
シンジへ、その秀麗な顔を一瞬しかめて見せたアスカは、踵を返してミサトを追いかける。
それをトウジとケンスケに冷やかされると、シンジは困ったような笑みを返して、アスカの後を追う。
追いながら、シンジが何気なく加持の様子を窺うと、加持もニヤニヤしながらこちらに顔を向け、親
指を立てて見せた。先ほどのやり取りを、アスカの好意の現れと解釈したのだろう。
どうやら、この作戦は巧くいったらしい。
シンジは、とりあえずの成功を喜びながら、打ち合わせは綿密にしようと誓うのだった。
時間を作ると言ったミサトの言葉に嘘はなく、艦隊司令への挨拶が終わった後、アスカとシンジは、
弐号機が格納されている輸送船にヘリで送られ、警備の人間も付けられなかった。
シンジに自慢の弐号機を見せたいとアスカが強く迫ったせいもあるが、アスカとシンジにラブコメ要
素を見出したらしいミサトは、玩具を見つけた子供のような笑顔で許可を出してくれた。そのミサトは
今頃、加持と虚実取り混ぜた駆け引きでもしていることだろう。
ミサトの真意はともかく、警備まで除かれた二人きりの状況は好ましい。盗聴も、おそらくないと思う。
一応は声を潜め、用心するつもりだが。
「ああいうことは、一度きりにしようよ。
基本的に、僕はアドリブ苦手なんだからさ」
「ああいうことって?」
「惚けるつもりかい?」
「何かイベントがないと、互いに印象なんて残らないわ。
ミサトの愉しそうな顔、見たでしょ?
ミサトは、アタシ達を、からかいがいのある対象として認知したわ。
つかみは、OKってやつね」
「分かるけど、いきなり振られると困るよ」
「それがいいんじゃない。
アンタのキャラクターらしくてさ」
アスカは意地悪そうな笑みを浮かべ、次に我慢しきれないように軽く笑った。
その笑いは、かつての彼女のように高飛車ではなく、真に大人びた笑い。不快よりは、笑顔に見と
れてしまうような、そんな笑い。
仰臥する弐号機の頭部付近で付かず離れずの距離に相対した二人は、甘い言葉も、抱擁も、キス
もなく、実務的な会話が進む。
甘い時は、既に飽きるほど過ごした二人。
それに、やるべきことは山ほどある。しかも時間がない。これから、幾らの間も経たずに使徒が襲来
するからだ。
とりあえず、最小限の打ち合わせくらいはしておかないと。
「怒らないで。ただの冗談よ。
それより、数ヶ月ぶりに会った妻に対して最初の台詞がそれなんて、呆れるわ。
他に、言うことないの?」
「まあ、その・・・
寂しかったよ」
「心?それとも、体?」
「両方さ。
若い体は、刺激に対して敏感だからね」
心と体の乖離には、未だ戸惑うことが多い。
恥ずかしい話、性欲の制御には苦労しているシンジである。当時、このようなことで悩んだ記憶は
あまりないのだが。
そしてそれは、アスカも似たようなもの。男女の生理の違いからシンジと全く同じではないものの、
過敏に反応する体を疎ましく感じることがある。
「アタシも同感だけど、今は時間がないわ。
詳しい話は、エントリープラグの中でしましょ。起動前なら、ボイスレコーダーも動かないし」
「分かった」
と、そこでシンジは、プラグスーツに着替えるため物陰に向かったアスカの背に一言。
「今回も、僕に君のプラグスーツ着せる気かい?」
「まさか。
そんな子供じみたこと、するわけないじゃない」
振り返ってニコッと笑ったアスカ。それを見たシンジの額に、冷や汗が滲む。
絶対に何か企んでいる。あれは、そういう顔だ。
そして数分後、シンジの危惧は現実となった。
彼は、全裸での搭乗を強制されたのである。
アスカの出した条件、シンジの立場から考えると、強制という言葉が妥当かどうかは、甚だ疑問な
のだが。
何が甚だ疑問なのか・・・
その答えは、二人だけが知っている。
act.3
でらさんから「秘密」のact.2をいただきました。
今回はアスカとシンジの再会の模様。
二人の演技もなかなか気合入ってますね。
えーと、アドリブに咄嗟に対応できたシンジが立派です。14歳のままのシンジでは負荷に耐えられなかったのではないでしょうか(笑
でらさんに感想メールを送って続きをお願いしましょう。