実験 act.1

こういう場合 第二十二話
作者:でらさん













ネルフ本部 発令所・・


「ATフィールド強度実験?
エヴァにミサイルでも撃ち込もうっての?
旧式抱えた国連軍が喜びそうね・・大手振って廃棄処分出来るもの」


「大型ミサイルくらいじゃ実験にならないわ。
私が申請したのはN
兵器よ」


「・・・・・正気?リツコ」


「多少疲れはあるものの、私は至って正常。
ミサトこそ大丈夫かしら?作戦本部の全面的な協力が必要なんだから」


「また追加予算申請しなきゃいけないじゃない・・」




周囲の我慢は要するが、アスカとシンジの関係は順調。
レイも含めたパイロット達は、問題もなく中学生生活最後の年を楽しんでいる。

昨年中止された修学旅行も行き先を京都に変更してやり直しとなった。
沖縄行きが消えた事で当初アスカはあまり気が乗らなかったのだが、京都がシンジの両親ゆかりの地
と知るや全く気分が変わり、シンジと共にはしゃぎまくっていた。

覇権を握ったネルフも順調・・とは言い難いかもしれない。

予算を握った経理課を中心とする事務系グループが、実務を担当する部署へ何かと口を出すのである。
やれ無駄が多いだとか、こんな金は出せないとか・・・

口を出された方も大方は嫌々ながら話を聞くが、中にはそうでない者もいる。
事実、興奮しすぎて殴り合いになった事もある。
冬月もよく仲裁に駆り出されるが、事務と実務の間は日増しに悪くなっているのが現状だ。

実は今回の実験も、リツコが計画案を提出した時点で一回拒否された。
そんな金はないと・・

計画書をリツコから渡され、それを読むミサトも拒否された理由が分かるような気がした。


「経理がクレームつけるのも分かるわね、何よこれ・・
場所は太平洋上の公海、そこに引退した空母浮かべて量産型エヴァを乗せる。
そして100キロトンクラスのN
爆雷投下。
それを遠隔シンクロでATフィールドフルパワー状態で受け止めるですって?
シンクロに使う光ケーブルの敷設とか、周辺に展開させる艦隊とか、N
爆雷とか、
エヴァの移送とか・・
一体、いくらかかると思ってんのよ」


「これでもかなり無駄を省いてあるのよ、戦自の全面的な協力も得てるし。
量産型エヴァだって、廃棄処分されるはずだったものを再利用するだけだもの」


ゼーレがネルフ各支部に命じていた量産型エヴァの建造であるが、対使徒戦においては本部の
三機だけで戦力は充分と判断され、大方は廃棄処分とされていた。
一機だけ残されたのは各種実験に使用したいと、リツコが強く要望したためである。

今回もこれだけのために急遽S
機関が搭載され、実験の準備が進められている。


「再利用ったって、実験に使えるまでにするにはかなりかかるでしょ?お金。
今回ばかりは私も経理に味方したくなるわ。
これほどの手間暇かけてまでやる意味があるの?この実験」


「あるわね。
理論上は物理攻撃を受け付けないATフィールドだけど、理論のどこかに穴でもあったら大変よ。
やっぱり実地で確認しないとね。
それも、持ち得る最大の力で試さないと意味はないわ。
使徒の攻撃力なんて予想不可能なんだから」


「それにしても、いきなりN
使う?
もっと小さい爆弾とかからにすればいいと思うけど」


「それこそ費用がかさむわね。
ミサトらしくないじゃない?前のあなたなら進んで協力してくれたはずよ。
婚約して守りに入ったのかしら?」


ミサトは最近、加持と婚約。
アスカ達の中学卒業を待って挙式の予定だ。
結婚してからの住居をどうするかで、アスカやシンジ・・そして加持と揉めている最中でもある。

険悪な雰囲気ではないので、楽しい悩みといったところか。


「そんなわけないでしょ?
私はパイロットの身の安全も心配してるのよ。
いくら遠隔シンクロといったって、フィードバックはあるじゃない?
万が一実験が失敗してエヴァがダメージ受けた時、精神的な影響が出ないか心配よ」


「それは大丈夫、MAGIが完全サポートするから。
万が一の時は、パイロットにフィードバックが伝わる前に回路を自動切断するわ」


「リツコが言うんだから信用はするけど・・
で、パイロットは誰にするの?」


「セオリーとしてシンクロ率の一番高いパイロットね。
つまりサードチルドレン・・・シンジ君よ」





同日 リツコ執務室・・


いつもの通り学校が終わり、パイロット三人は仲良く?ネルフへ。
そしてこれまたいつもの訓練に入ろうとしたところ、館内放送でリツコに呼ばれた。

レイはともかく、アスカとシンジがリツコに呼ばれるのは珍しい。
二人ともどこか緊張していた。
が・・・


「エヴァにN
爆雷ぶつける?・・・正気なの?リツコ」


「ミサトと同じ事言うのね。
同居してると似てくるのかしら・・」


「失礼ね!あんなだらしない女と同じに見て欲しくないわ!」


「はいはい・・分かったから、私の話も聞いてくれる?」


「・・・言ってみなさいよ」


かなりくだけた人当たりにアスカもどこか拍子抜け。
ミサトとあまり変わらないように思える。
シンジから見ても、彼が当初リツコと話した時のような冷たさが感じられなかった。
意外だが二人とも悪い気分ではない。

話の内容はまた別。


「今回の実験は、予想される使徒との戦いに備えてデータを揃えるために必須とも言っていい
実験なの。
でも考えられる限りの安全性は確保しました。
安心して参加してちょうだい」


「安心して参加しろったって、シンクロはシンジだけじゃない。
アタシとレイは何をするわけ?」


「アスカとレイはそれぞれの乗機で、上空で待機しててもらうわ。
万が一の時のためにね」


「最近降下訓練やってないのに、うまく出来るかしら」


エヴァ専用の大型輸送機から降下する訓練は、最近行っていない。
飛行ユニットに完成の目処が付いたということもあり、すでにその必要はないと考えられたため
である。


「出番はないはずだから、その心配はしなくていいわ。
実験のミーティングは明日から行います。
学校も休みが多くなると思うけど、その辺は勘弁してね」


「え?休みが多くなるんですか?
参ったな、この時期に・・」


「都合でも悪いの?シンジ君」


「いえ、受験に備えての補習授業に僕もそろそろ出ようかと思ってたから・・」


高校受験に関しては、チルドレンに特別な配慮というものはない。
あくまでも個人の努力次第。
そういうわけで、アスカに尻叩かれるシンジとしては、あまり学校を休みたくない。

アスカとレイは余裕が有り余っているので問題はないのだ。


「大丈夫よ、シンジ。
その分はアタシが補ってあげる。
可愛い恋人が教えてあげるんだから、効果倍増よ!」


「そ、そう・・ありがと」
(気持ちは嬉しいんだけど、それが問題なんだよな・・)


アスカと二人で勉強・・

一見誰もが羨むシチュエーションだが、当のシンジにしてみればそれどころではない。
すでにペッティングまで進んでいる仲が更に状況を悪くしている。
つまり、アスカが気になって勉強どころではなくなるのだ。

しかも一時間も一緒にいると、アスカが我慢しきれなくなりキスをせがんでくる。
シンジもアスカに迫られれば断れない・・というか進んで応じる。
そしてお互いの手が・・・

これが今までのパターンで、まともに勉強するのは最初の一時間でしかない。
恐ろしく効率が悪い。

だが、アスカが教えてくれるというのに断るわけにはいかない。


「碇君、言いたいことは正直に言った方がいいわ」


「な、何言ってるんだよ、綾波」


「そうよ、レイは関係ないじゃない。
これはアタシとシンジの問題なのよ」


「私は指揮官として、部下のメンタル面も考えなければならないの。
今の碇君は明らかに精神的な負荷を抱えてるわ」


「アタシに問題があるとでも言うの!?」


「分かってるなら話は早いわ・・そうよ」


「言わせておけば〜〜〜!!」


「ア、アスカ!落ち着いてよ!」


途中から脱線し、すでにリツコの執務室であることも忘れて騒ぐ三人。
だが、レイの顔が楽しそうに綻んでいるのをリツコは見た。

最近笑顔を見せるようになったとはいえ、こんな風に楽しそうにするレイはリツコも滅多に
見ることはない。
シンジのことも、すでに振り切れたようだ。


「あなたは今、幸せなのね・・・レイ」






実験当日 小笠原沖 公海上・・


実験の準備が全て整った現地周辺の海上では、データ収集の為の観測船と警備に駆り出された
戦自の艦隊が多数航行。
上空には一機の戦略爆撃機と二機の大型輸送機が旋回を繰り返している。

その中心部と思われる付近に、それは静かに浮かんでいた。

旧アメリカ海軍の威信と力を担った存在の一つ。
時代が時代であれば、未だ現役でいただろう原子力空母のなれの果て。

だがそれはすでに一切の装備を外され、原子炉さえ取り外されて自走すら出来ない鉄の棺桶。
この実験の後、例え船体が無事であっても自沈させられる予定になっている。

そして更に、異様を誇るがごとくその甲板に屹立するエヴァ量産型。

初号機などのように無骨な装甲もない滑らかな白い機体。
それだけを見れば、美しいとさえ評価出来る。

ところが人間の頭部に当たる部分に目を移すと、そんな感慨は吹き飛ばされてしまう。
そこには、は虫類を思わせる醜悪な造形が存在するのだから。


「何回見ても嫌なデザインね、あれ。
配備されなくて幸いだったわ。
あんなもの公開されたら、ただでさえイメージの悪いネルフが更にイメージ落としちゃうじゃない」


大型のメインモニターに映る量産型を見たミサトの正直な感想である。
100キロ先の光景である故、モニターでしか見ることができない。

が、見れば見るほど醜悪。


「科学が求めた様式美よ、馬鹿にするのはよくないわ」


「あれが、様式美・・・」


「進んだ科学は芸術と違わないわ。
あれも前衛芸術みたいなものね」


「リツコには、あれが美しいものに見えるの?」


「・・・・・ま、まあね」


「無理しちゃってさ・・」


日本が半世紀以上のブランクを乗り越え建造した本格的な原子力空母「赤城」。
ネルフはその第二発令所を借り切って、臨時のオペレーションルームを設けた。

最新鋭の空母・・しかも発令所を借り切るという無茶が効くのも、戦自との関係がうまくいっている
証左と言えるだろう。
普通は立ち入りさえ困難だ。


「しっかし、すごい装備じゃないこの艦。
流石、最新のアーキテクチャつぎ込んだだけあるわ」


「知らなかったの?ミサト。
この艦改装されたばかりでね、その際にネルフが技術協力してるのよ。
電装系なんかはほとんどネルフ製。
今設計してる次世代空母はS
機関搭載型になる予定よ」


電子機器で埋め尽くされた室内であるが、ミサトはどこかで見たことがあると思っていた。
が、ネルフが協力して改装されたのなら納得がいく。
MAGIに慣れたネルフのオペレーター達の不満があまり聞こえてこないのも同様だ。
全く同じとはいかないだろうが、戦自が一般的に採用しているコンピューターよりは余程使える
だろうから。


「そういえば、射出カタパルトから白煙が出ないわね・・
もしかして電磁カタパルト?」


「正解、ミサトにしては上出来よ。
エヴァの重量に比べれば、戦闘機なんかプラモデルみたいなものね」


エヴァをジオフロント深くから地上に打ち出す射出カタパルトを空母用に設計し、従来のカタパルト
と換装している。
他にも対空レーザーやら何やら何でもござれの艦となっている事実は、ネルフ技術陣の実験艦と
化している感さえあるのだ。

事実そうなのだろう。
艦首に大出力粒子ビーム砲まで装備されていては笑うしかない。


「何でもいいけど・・オタクが多いのね、ネルフにも」


「戦自は喜んでるわ。
私達としても面白い仕事だし」


「面白いね・・」


「実際に使われなければ、それに越したことはないけど。
あなただってそうでしょ?ミサト。
あなたは軍人だけど戦争をしたいわけじゃない・・違う?」


「・・・そうね、そうだわ。
実験、始めましょうか」




赤城 第一倉庫・・


通常は戦闘機や攻撃機が整然と並べられている巨大な倉庫。
今日はその一角に細く白い円筒型をした見慣れない物体が斜めに鎮座し、その周りをネルフの職員
と電子機器の塊が囲んでいる。

そして更にその周りには、完全武装した戦自とネルフの保安部隊が周囲を威圧するように警戒に
あたっていた。

白い物体はエントリープラグ、中にはシンジがいる。
このプラグで100キロ以上離れた量産型とシンクロするのだ。


「量産型か・・」


一週間ほど前から試験的にシンクロ実験は繰り返しているが、感覚的に初号機と大差はない。
敢えて言えば、より機械的な感じがするというだけ。
シンジに意味は分からないが、コアに新機軸を導入したとかマヤが言っていた。


<そろそろ時間よ、準備はいい?シンジ君>


「はい!いつでもいいです・・アスカと交信出来ませんか?
ちょっと声が聞きたくて」


<繋げてあげたいけど無理ね。今は無線封鎖してるから>


「そうですか、無理言って済みません」


<悪いわね・・じゃ、実験開始するわよ>


ミサトからの通信が切れると同時に、モニターにカウントが映し出される。
すでにN
爆雷は目標に向かって投下されたようだ。

実際に搭乗しているわけではないが、やはり緊張する。
それに、実験とはいえ頭上に爆弾を落とされるというのは良い気分ではない。
いくら理論上は大丈夫と言われてもだ。


「最大出力・・」




臨時発令所・・


「目標、ATフィールド展開しました」


「位相空間が肉眼で確認できるほど強力なフィールドです」


ミサトが凝視するモニターの中、量産型の周囲に何かが広がるのが見える。
その障壁は、初号機などで見慣れた色とは違う。
エヴァの個性だろうか。


「フィールド、広がります!半径100メートルを突破!」


「・・・すごい」


実際、S
機関でフルパワー出すのは今回が初めて。
しかし実験用でも外部電力の比ではない。

ミサトの口から思わず感嘆の声が漏れる。


「更に拡大、艦が完全に覆われました!・・半径200メートル突破!」


「N2爆雷爆発まで後10、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・」








数日後・・


「すごいわね、ATフィールドって。
予定より小型使ったけど、あの爆発で傷一つないなんて・・」


「まさに絶対防御。
例え使徒に同様の能力があっても、これで中和できるわ」


「シンジ君にも何一つ影響無かったし、実験は大成功・・・よね?リツコ」


「最後のアレがなければね・・」


「アレか・・」


量産型の上空200メートルで爆発したN2爆雷であるが、その強大なエネルギーを持ってしても
ATフィールドを突破する事は不可能だったようで、大気を震わし洋上を賑わせただけでその役目
を終えた。

量産型は艦もろとも無事。
というか熱線の影響すら皆無で、あらためてその脅威を知らしめたのであった。

が、問題はこの後だった。

シンジの身を心配したアスカが輸送機のパイロットを脅迫、機体を「赤城」上空にまで飛行させた
上、ミサトの制止を無視して弐号機ごと降下。
赤城の甲板上に無許可で着艦してしまったのである。

降下装備をしていたので「赤城」にも弐号機にも目立った損害は出なかったが、それでも弐号機の
着艦時には猛烈な揺れが艦を襲い、数機の戦闘機がワイヤー一本で甲板から宙づりになってしまった。

死人が出なかったのは幸運であったろう。
だが当の本人は・・


『シンジはどこよ!出さないと、この艦沈めるわよ!』


と外部スピーカーで叫び続け、シンジが駆けつけるや否やエントリープラグから飛び出し
彼に抱きつく始末。
シンジの事となると見境がなくなるらしい。

何があってもネルフとの友好関係を維持するよう厳命を受けていた艦長は怒るに怒れず、顔の
筋肉を痙攣させるのみであったという。


「次の実験の時はしっかり監督してよ、ミサト」


「ま、まだやるの?今度は何?」


「そうね、たくさんあるんだけど・・・とりあえず最大速度実験でもやろうかしら」


「最大速度実験?何よそれ」


「エヴァの地上での運動性を極限にまで追求する実験よ。
予測によれば音速は突破しそうね」


「ち、地上で、音速?・・・」





頭痛どころか目眩を感じるミサトであった。



つづく

次回「実験act.2
 

でらさんから『こういう場合』の第22話をいただきました。

派手な実験ですねぇ。

リツコさん、どこかいきいきしてます(笑)やはりこういうのが好きな人ですから‥‥

エヴァの新たな可能性を描くでらさんに是非感想メールをお願いします!

寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる