終結

こういう場合 第二部 第十七話

作者:でらさん



















司令室・・


「ローレンツ卿から連絡だ、碇。
来るぞ・・・最後の使者が」


「ああ、これで全てが終わる」








「あ〜あ、勢いに乗って散財しちゃったわね・・
貯金も残り少なくなったわ。旦那には怒られるしさ」


仕事の合間、リツコの執務室でお茶するミサトは、先日の戦闘後に行われた飲み会を思い返して愚痴をこぼす。
あくまで愚痴であって後悔ではない。苦労を分かち合った職員達と飲んだ酒を本当に美味いと思ったのは確か。
が、自分が全て奢ると宣言したのは、やはり失敗だったかなと考えるのだ。
居酒屋を借り切って飲んだはいいが、帰り際に提示された請求書を見て酔いが一気に醒めたのを鮮明に覚えている。


「でも、あなたらしいわよ。久しぶりにミサトらしいミサトを見た気がするわ」


「褒めてんの?それ」


「一応ね」


「ありがと」


さして嬉しくもない様子で、ミサトはリツコが出してくれたコーヒーを一口啜った。
と、ミサトが怪訝な顔。


「どうしたの?」


「豆変えた?それに、薄いみたいだし」


「カフェインの摂りすぎだって、マヤがうるさくてね。煙草も制限されてるわ」


「へ〜、リツコが調教されるとはね」


リツコがマヤに主導権を握られているような二人の関係に、ミサトは意外な思いがした。同性愛の世界は詳しくないが、よく言わ
れる男役女役みたいな物は存在しないと聞いていたし。
しかも誘ったのはリツコで、悪く言えばマヤは引きずり込まれたようなもの。マヤがリツコをリードする姿は想像しがたい。
それとも、プライベートでは全く違う様子なのだろうか・・


「SMプレイみたいなこと言うのやめて。ただでさえ私は、そういうイメージで見られてるんだから。
女王様とか何だとか」


「だってあんた、本当に鞭とか革製品が似合いそうだもん。自分で分かんないの?
金髪で厚化粧が輪をかけてるわよ」


「言ってくれるわね」


厚化粧の台詞は、リツコに対して禁句に近い。ミサトの遠慮のない口には慣れているリツコでも流石にカチンとくる。
実際には厚化粧などではないし、化粧自体の時間はマヤより短いくらいだ。イメージが先行してしまっている感が強い。金髪はそろ
そろやめようかと思っているのだが。


「あなたはお酒飲んでばかりいるから、その内お腹が出てきて出産の時に恥かくのよ。
ああ、その前に妊娠しないといけないか。酒浸りの体をリョウちゃんに抱いて貰えるかしら?
人工授精したいんだったら、手配してあげるわよ」


「く・・ま、まだ、体はたるんでないわよ。アスカやレイには負けるけど」


「現実逃避はよくないわ、ミサト。十代と張り合うなんて無謀よ」


「分かってはいるんだけどね・・」


現実は分かっているミサトであった。






お腹はまだそれほど目立たないのでマタニティドレスを着るにはまだ早いが、ゆったりした楽な服なのでアスカは今日、それを着て
お出かけ。
ドイツの継母から贈られてきた服とクラスメート達に贈られた服とあったのだが、とりあえず後者を選んで着てみた。
ドイツから贈られた服に不満があるわけでなく、継母に対して思うものがあるわけでもない。継母がセレクトした服はかなりの高級
品で、シンジと出かけるときにでも着たいと思うのだ。

妊娠に際し、知り合いやら顔も見たことのないネルフ職員からの贈答品はかなりの数に上る。物置にも入りきらないでリビングの一
角を潰しているくらいだ。
まだ中身を確認していない品も多い。


「お返しも大変ね・・
シンジはそういった事に律儀だし、日本人て面倒だわ。でも慣れないと。
・・・どうでもいいけど暑いわね。ちょっと休むか」


少し歩き疲れたので、アスカは街路樹の日陰に入って額に滲んだ汗をハンカチでパタパタと吸い取る。今日は、いつにも増して暑い。

残る使徒は後一体と聞き、気分はすでにその後へ向いている。これはアスカに限った事ではなく、この戦いに携わる人間ほとんどが
同様。
少なくとも、人類存亡の危機といった緊張感はすでにない。エヴァ三機が見せる圧倒的な戦闘力に対する信頼は、揺るぎないものと
言っていいだろう。


「こんにちは、お嬢さん」


と、木陰で涼をとるアスカに声をかける少年(青年?)が。
白いワイシャツに地味な普通のパンツ。そこそこの長身で完全な白髪。そして瞳は赤、肌も白い。
後ろから声をかけられ振り返ったアスカは、そんな彼を見て、レイの熱狂的なファンがコスプレしていると瞬時に判断した。
第三新東京市にレイのファンは多いし、同じような恰好した人間は何回か見たことがあるから。


「ちょっとネルフ本部への道を聞きたいんだ。ドイツから観光旅行に来たんだけど、迷ってしまってね。
ミス ラングレー・・いや、アスカさんとお呼びしようか?」


「気安いやつね。アンタ、誰よ。
それより、何でアタシの名前知ってんの?ドイツにアンタみたいな知り合い、いなかったわよ」


「僕は渚カヲル。至高の神から遣わされた最後の使者さ。
君の名はドイツでよく聞いたよ。向こうでも有名人だからね、君は」


「・・・ああ、事情は分かったわ。付いてらっしゃい」


渚カヲルと名乗った青年の台詞を聞いたアスカは何かを悟ったようで、ネルフ本部の方向に足を踏み出した。
顔には幾ばくかの緊張が浮かび、何かに警戒しているような様子。対しカヲルは、リラックスした感じでアスカの後を付いていく。


「説明もしないのに僕の真意を理解するとは流石だ。
やはり君は天才だよ。好意に値するね」


「見ず知らずの男に好かれても嬉しくないわ。
大体その髪の毛と目のコンタクト、恥ずかしくない?レイのファンなのは分かるけど、そこまでする?」


「コスプレじゃないよ、これは。リリス・・いや、綾波レイと一緒さ」


「・・・重傷ね。顔は良いのに、不幸な奴」


「何か言ったかい?」


「独り言よ。気にしないで。はぐれるんじゃないわよ」


「任せたまえ。
君の後なら、地獄の底まで付いていくさ」


アスカは軽い笑みを浮かべて言葉を返すカヲルから目を逸らし、歩みを早める。一刻も早くこの場から逃げ出したいかのように。
彼女の顔に緊張の色が濃くなっていく。





発令所・・


お茶していたミサトがドイツ支部からの緊急電で発令所に呼び出され、すでに情報をやり取りした日向から緊急電の内容を知らされた
とき、ミサトはその意味する所を悟って身が震えた。
歓喜の震えではない。恐怖の震え。


「人間型の使徒?それがドイツ支部を抜け出して本部に迫ってるって言うの?
どういう事よ、それ・・
人間型した使徒だけなら話は分からない事もないけど、それを何でドイツ支部が管理してたのよ」


外見が人間と変わらない人間型の使徒がどれほど危険か、ミサトには分かりすぎるほど分かる。
もし使徒が一般市民に紛れて戦闘を仕掛けてきたら、こちらの攻撃手段はほとんど無い。エヴァでは巨大過ぎて小回りが利かないし、
攻撃力も過大。
どうしようもないとなれば一般市民の犠牲覚悟の上で攻撃をかけるしかなく、自分が全責任を負う覚悟もあるが、それはあくまで最後
の手段。
何より、パイロットが精神的に堪えられるかが問題でもある。完全デジタル型のダミープラグも研究されてはいるけども、まだ研究の
段階を出ていない。パイロットが操るしかないのだ。


「自分の推測ですが、委員会が管理遂行していた補完計画の最高機密に関係するのかもしれません。
司令や副司令・・或いはE計画責任者の赤木博士なら詳細を知っているかも」


「リツコか・・・
分かったわ。私はリツコにかけあってみる。
日向君は、その人間型した使徒の足取りを追ってちょうだい。顔写真とかも送ってきたんでしょ?」


「それが、警備員二人を気絶させた後に向こうのMAGIにハックして暫くMAGIを使用不能にした上
自分に関するデータを全て消してしまったみたいなんです。そのせいで、こちらへの連絡も遅れたとか。
ただ、名前と年恰好は分かっています。渚カヲルという名で、外見は高校生くらいの少年だそうです」


「使徒が敵地で本名使うほど馬鹿とは思えないけど、参考にはなるわね。
とにかく、保安部と協力して探してみて」


「了解です」


日向が青葉やマヤと協力して各方面に連絡を取り世界中にカヲル探索の網を広げたと同時刻、ミサトの言うそのお馬鹿さんが本名を
堂々と名乗り、事もあろうにアスカに先導されてネルフ本部に向かっていた。
アスカ担当のガードが保安部司令センターからカヲルの情報を知らされたとき、彼は腰をぬかさんばかりに驚愕してただちに本部へ
連絡したが、カヲルはすでにネルフ本部の中。

使徒が本部内にいると聞き、顔面蒼白のミサトがありったけの人員を動員して身柄を拘束しようとしたカヲルは、直前まで医療部心
理課で心理学者の手厚い歓迎の中にいた。






「・・と、言う訳で、ちょっと重い精神障害患ってるみたいなんです。後はよろしくお願いします」


本部に着いたアスカはカヲルを後ろに従えて医療部に向かい、医療部の中でも人の心を扱う心理課を訪れ
カヲルを受付の近くに立たせ、そこから幾分離れた所で医師に小声で相談した。
アスカは、カヲルをそういった人と考えたみたいだ。レイのコスプレして至高の神だのリリスだのと口走れば、そう考えるのも無理はない。


「成る程、事情は分かりました。身元確認もこちらで何とかしましょう。
心理学の専門家である我々にお任せ下さい」


「よろしくお願いします。では、アタシはこれで」


「お気を付けて」


アスカは医師に軽く会釈すると、ぼーっと立つカヲルには見向きもしないでその場からそそくさと立ち去っていった。
角張った眼鏡をかける少々やせ気味の医師は、久しぶりに興味の沸く患者を得てやる気が出てきたようだ。
足取りも軽くカヲルに近づいていく。


「さっ、渚君、ちょっとこっちで話を聞かせてくれないか?
私は前からドイツに旅行したいと思ってたんだよ。ガイドブックに載ってない隠れた観光名所なんか教えてくれると嬉しいなあ」


「アスカさんはどこに行ったんだい?一緒に来ないのかい?」


「彼女は見た通り妊娠中でね。気分が悪くなったみたいだから、産婦人科に行ってもらったよ」


「そうか、仕方ないね」


「さあ、こっちだ」


「ふっ、リリンと戯れに興ずるのも悪くないか」


(こりゃいかん。症状は重いぞ。
それだけに治療の甲斐があるというものだ。ひょっとすると、博士号論文のテーマになるかも・・)
「飲み物は何がいい?何でも希望の物を用意するよ」




最後の戦いの序曲は、ゆっくりと・・誰もそれと分からないままに始まっていた。






今まで感じた事のない程の共振。
使徒に近い存在のレイは、使徒と魂の共振とも言うべき感覚を有する。その言葉に表せない感覚が異様な程に強く感じられる。

方向はネルフ本部。
でもネルフからの呼び出しは無く、市内に警報も鳴らない。何かおかしい。
気のせいかもしれない。でもレイは、自分の感覚を信じて行動を起こしていた・・・授業中にもかかわらず。


「綾波!どこへ行く!?授業中だぞ!」


「先生!ネルフからの緊急の呼び出しです!僕も行きます!」


「お、おい!碇!」


いきなり席を立ったレイを見て何かあったと直感したシンジが、彼女の後を追う。
クラスメート達は暫くざわめいたが、数分経つと教師の制止で元の静かな状態に戻っていた。教師も生徒達もこのような異常には慣
れている。
いつものことと割り切ったようだ。






突きつけられる無数の銃に恐れる事無く、椅子からすっと立ち上がって少年は言った。


『乱暴だね、リリンは。
僕みたいな無害な使徒まで殲滅すると言うのかい?』


その返答は、硝煙と、数える事も困難な数の鉛の弾。
が、それらは光の壁に阻まれ、目的を達しないまま全て床に転がる。
そして更に顕現する力は、人の無力を思い知らせてくれる。


『おやおや、みんな立ち上がれないみたいだね。
痛いかい?悪いね。恨むなら、君達に出動命令出した上司を恨んでくれたまえ』





「で?その渚君は今どこにいるわけ?」


ミサトは苛ただしそうに、各方面と必死に連絡を取り合う日向に問いただす。

カヲルの身柄確保に向かった部隊からの連絡が途絶え、現場を映していた監視カメラも破壊されて、発令所ではカヲルの所在を見失
ってしまった。
最後の映像は、彼を取り囲んだ人間全てが光の壁に吹き飛ばされた場面を生々しく映し出している。
その後、重傷者はいるものの全員が命に別状は無いと現場から報告があり、発令所にホッとした空気が一瞬
だけ流れた。
ドイツ支部からの報告でも、彼は何故か人を殺してはいない。彼が博愛主義者とも思えないが。

リツコもカヲルについては口が重く、彼が人工的に生み出された存在である事だけは認めた。
それ以外は、全てが終わった後にゲンドウと冬月を同席させた上で説明するという。とにかく今は勘弁してくれとの事だ。


「強力なATフィールドが原因でセンサー類が効かず確認できませんが、セントラルドグマに向かっていると思われます。
最終目的地は、ターミナルドグマかと」


「使徒なら、あそこを目指すのは当然ね。
だけど、どうしろってのよ!自爆でもしろっての!?」


「MAGIは、それも選択肢の一つとして推奨してます。
後は、損害を顧みないエヴァによる殲滅。ここはよくて半壊・・いえ、全壊する可能性の方が高いですが」


「どちらにしろ、サードインパクトよりはマシか・・
職員全員の避難に掛かる時間は?」


「それは何とも・・何しろ、想定外ですので」


ネルフ本部の施設は、それ全体がシェルターと言うべき頑丈な造りになっていて、自爆でもしない限りここ
を放棄する事態など想定されていない。そのため、退避訓練も行われた事がない。
自爆は絶望的状況下における究極の選択であって、その時には職員の退避も意味がないと考えられていたのだ。


「想定外でもやるしかないわ。所内に」


「何だって?特別顧問とサードが目標に近づいてる?何で阻止しなかった!?・・・気づきませんでしたで済むか!!
館内放送でも何でも二人に何とか連絡は取れないのか。故障だと!?」


「レイとシンジ君が?」


ミサトと日向は、レイとシンジがカヲルに近づいているらしいとの報告を受け、事態が最悪の方向へ向かっていると感じて背筋に冷
たい物が奔った。
学校に行っていないマナはすでに弐号機で待機している・・・が、最悪の場合、レイとシンジ諸共使徒に攻撃を仕掛ける判断を下さ
なければならない。


「とにかく、退避命令出すわ。事務方から退避開始よ」


「りょ、了解」





生身で使うことはないと思っていた超常の力。それは最後の時に解放されるのだと、レイは本能で知っていた。
今この時が、定められていたその時なのだろうか・・
自分と同じ白髪と赤い目を持つ青年と対峙したレイは、興奮ともとれる魂の共振が収まった事で彼の本質と
役割を知った。

セントラルドグマに足を踏み入れようとしたカヲルは二人の存在に気づき、体の向きを変えて笑みを浮かべながら話しかけてくる。


「やあ、リリスの片割れ。それにシンジ君。会えて嬉しいよ」


「君は誰だ?何で僕の名を知ってる?
綾波、彼は誰なんだ?」


「教えてやりたまえリリス。僕が最後の敵である事を」


「敵?彼は使徒なのか!?」


「そうよ・・・最後の使者」


目前に立つレイを真似たような外見の青年が使徒と言われても、シンジにはピンと来ない。どこからどう見ても人間で、それ以外の
存在とは思えないのだ。
白い髪の毛と赤い瞳ガレイに似てはいるが、今時そのように髪の毛を染めたりする人間は少なくない。
しかし隣のレイは、彼を敵と認識している。それに、今日の彼女はどこか変だ。


「ATフィールドは私が中和するから、あの人を捕まえるか殺して」


「ATフィールドを綾波が?どういう事だ?」


「今説明してる暇はないの。いいから、言ったとおりにして」


レイがATフィールドを中和する・・と言うことは、レイもATフィールドを展開出来るということ。
その意味するところはシンジも分かる。レイは・・・


「レイは僕と同じなんだ、シンジ君。僕を殺したら、次は彼女を殺すんだね」


「綾波は使徒なんかじゃない、僕達の大切な仲間だ。何も知らない癖にいい加減な事を言うな」


レイが普通の人間でないとしても、彼女の本質に変わりはないとシンジは思う。
この三年間に彼女と共有した時間はアスカほどではないし、素性について知らないことも多い。だけども
大切な友人で、ある意味トウジやケンスケよりも身近な存在。
言い古された言葉を使えば、友達以上恋人未満・・そんな存在なのだ。いきなり現れた見ず知らずの人間に
レイの何が分かるというのか。

しかし目前の彼は、シンジの台詞を一笑に付した。


「僕が何も知らないだって?ははははははは!」


「何が可笑しい?」


「僕は何でも知ってる。シンジ君や、君の愛しい恋人のアスカさん。綾波レイ。処分されてしまった兄弟達・・・世界の全て。
そして、この世界で存在意義を失った事もね。因果律が歪められてしまったこの世界では、サードインパクトの礎にもきっかけになれ
ない、ただの邪魔者なんだよ僕は。だったら、生きていても仕方ない。
死ぬなら道連れは多い方がいい。アダムとリリス、エヴァ三機・・それに僕とレイがいれば、この星くらいは吹き飛ばせるからね」


カヲルは、目覚めた時点でこの世の全てを理解していた。と同時に、自分がこの世界で不必要な存在と成り下がった事も理解していた
のだ。

至高の神が気まぐれを起こした結果、三年の時間が無為に流れ、世界は本来あるべき形ではなくなっている。
世に閉塞感は無く多くの人々は希望に溢れ、サードインパクトによる更なる進化と魂の救済など、誰も望んでいない。
自分に救いを求めるはずだったシンジはアスカというパートナーを得て安定し、アスカは過去の哀しみをシンジの存在で払拭した。
自分と同じ仕組まれた存在のレイは、皆から信頼され慕われて、人間として生きている。

カヲルは身の置き場のない自分に絶望し、自ら命を絶つ道を選択したのだ。
エヴァのパイロット達が安定している以上、サードインパクトは起こせないし、まともに戦っても勝ち目はない。
今は施設の損害と職員の避難を考えて攻撃を手控えているだけだ。


「アダムだのリリスだのサードインパクトだの、君が何を言っているか、僕にはさっぱりだ」


「強いね、君は・・
その強さ故に、この世界は僕を拒否した。弱い君となら、分かち合える事もあっただろうに」


「意味のない話はやめろ。
君の哲学を長々と聞くつもりはない。すぐに決着をつけるぞ」


「決着?生身の人間である君が僕を、ぐふ!」


余裕の姿勢を崩さないカヲルが挑発するようにシンジに向かって足を一歩踏み出したその時、カヲルは腹部に衝撃を感じて、腹を両手
で押さえ床に膝を突いた。
苦しい息を整え顔を上げていくと、そこにはシンジが・・


「ATフィールドは綾波が中和してる事を忘れてるようだな。
今の君は、ただの人間だ」


「ば、馬鹿な・・ATフィールドを封じたとしても、肉体能力は並の人間より遙かに上のはず。
たかが人間に」


「人間を舐めるな」


「あぐぁ!」


シンジはカヲルの延髄に一撃を加えて気を失わせた。

カヲルは、自分の体から使徒としての力が抜け出ていくのを、薄れ行く意識の中でもはっきりと感じ取っていた。
至高存在が設定した予定調和が終わり行く証拠。
それは呪縛から解き放たれるような開放感と、至高の神との絆を断ち切られる不安が入り交じった複雑な感情でもある。
いずれにしろカヲルは使徒としての役割を終え、およそ三年前から始まったシンジの戦いに終止符が打たれることとなったのだ。

シンジはその事実を確かめるように、気絶して横たわるカヲルを、レイと並んでただ見つめ続けた。





つづく

次回、「エピローグ



でらさんから『こういう場合』第二部いよいよ終局、というお話をいただきました。

・・・なんか少し可哀想になりましたなカヲルが(笑)完全におかしなヤツ扱いで・・・(笑)

まぁ殺さなくて良かったです。

皆様是非読後はでらさんに感想メールをば送りましょう!