闇の中で

こういう場合 第二部 第十二話

作者:でらさん
















アスカが体調検査のために通うのは、ネルフが誇る医療部。その産婦人科。
ネルフという組織の中では比較的新しい部署で、創設されてからまだ二年も経っていない。

創設前は特務機関に産婦人科なるものが必要かと幹部会議でも疑義が挟まれたのだが、女性職員達の強い要望によって、
産婦人科は設けられた。
この時、女性特有の体調不良や疾患を診る医療部門の必要性を熱心に説いたリツコの株が女性職員の間で上がったのは
当然かもしれない。
以降、彼女の周りにより多くの女性が群がるようになり、マヤの機嫌を損ねたのは余談である。


「異常はないわ。母子共に健康そのもの。
これほど順調なのも珍しいくらいよ」


アスカの検診を終えた女医は彼女にそう説明すると、短めのスカートから覗く綺麗な足を組んでお茶を啜った。
今日は他に処置を待っている患者もなく、客?はアスカ一人だけ。暇な女医はアスカと世間話するため、
ナースにお茶の用意までさせた。
椅子も丸椅子から背もたれの付いた物に変えて、長期戦の構えだ。
アスカも、予備役に廻った今は暇・・いい暇つぶしになる。

薄茶に染めた長い髪の毛をアップに纏め、丸い眼鏡をかけた女医はなかなかの美形。
結婚指輪もしていないし、周囲の男達が彼女を狙っているのは疑いのないところ・・・いや、恋人がいて当然か。


「そうなの?それなら、出産も楽かしら」


「それは、楽観しない方がいいと思うわ。初産だしね」


「やっぱり、そう簡単にはいかないか」


出産の辛さは、各方面からの情報収集でアスカは分かっているつもり。
それでも、ひょっとしたら楽に済むかもしれないと希望を持ったのだが、世の中はそんなに甘くない。


「ちょっと答えづらいこと聞くけど、夜の方はどうしてるの?
シンジ君も若いから、結構頻繁よね?」


これは医者として知っておかなければならない事実であり、決して興味本位で聞いたわけではない・・・のだが、
個人的に興味が無いとは言い切れない。
この美しい少女がどんな痴態をベッドで見せるのか、変な想像をしてしまう。同性愛嗜好はないが、どことなく背徳的
な官能美に惹かれる女医であった。
現在付き合っている男との関係も、ある意味背徳的であるし。


「妊娠前より回数は減らしてるわ。
それでも、ほぼ毎日だけどさ」


「ま、毎日ね・・
まあ、しちゃいけないって事はないんだけど、あんまり激しいプレイはしないでね」


「激しいプレイって・・・具体的にはどんなやつ?」


「え〜と・・・変な体位とか、器具使ったりとか。
・・後は、SMとか」


女医の言葉を聞いたアスカの細い眉が片方だけピクンと吊り上がり、不機嫌の兆候を示す。
自分達が周囲から何と言われているか知っているつもりのアスカではあるが、そこまで言われると面白くない。


「・・・アタシ達をどういう目で見てるわけ?」


「怒らないで。例えばの話よ。そんな事してるなんて思ってないわ」


「先生はどうなのよ」


「え?」


「付き合ってる男くらい、いるんでしょ?
その人とのセックスはどうなの?満足してんの?先生は」


「ま、まあね・・彼、若いし」


「ふ〜ん、年下か・・・まさか、中学生か高校生の坊やを囲ってるとか?」


「囲ってなんかいないわよ!彼とは、きちんとしたお付き合いをしてるんだから!
彼が学校卒業したら結婚する約束も・・あっ!」


さすがに中学生ではなかったようだが、高校生と付き合っているらしい。
世の中には年下を好む女も多いみたいだし、アスカも個人の趣味嗜好に口を出すつもりはない。
ロリコンとかになると話は別だが。あれは犯罪。


「式には呼んでくれなくていいけど、祝電くらい送るわ。
式は挙げるんでしょ?」


「ま、まだそこまで考えてないわ。彼のご両親の許可もいるし・・
私の歳考えると、たぶらかしたと思われても仕方ないから、彼が二十歳になるまで結婚は無理かもね」


「何のためのネルフよ。そういう時にこそ、ネルフの肩書きが物を言うのよ。
息子の結婚相手がネルフ本部医療部に務める女医で不満なはずないわ!
文句言うようなら、アタシが乗り込んでやるわよ!」


「き、気持ちはありがたいんだけど」


アスカなら本当にやりかねない。
とんだ事実をとんだ人物に知られてしまったと後悔する、女医さんであった。






発令所・・


第三新東京市市街上空に突如出現した謎の球体。
黒と白の縞模様で彩られた巨大な球体は、第三新東京市周辺に張り巡らされた緻密なレーダー網に探知されることなく、
いきなり現れた。

その物体は今、ゆっくりと市街上空を浮遊しているだけ。
見た目にはただの気球にも見えるし、ATフィールドの反応もない。しかもMAGIは判断を保留。
が、新種の使徒の可能性もあると判断した作戦本部長のミサトは、特別警戒警報を発令しエヴァ零号機と初号機に出撃を
命じた。
目標を市郊外へ誘導できれば、それに越したことはない。物体が使徒であっても、郊外なら戦闘被害が少なくて済む。


「戦自の親衛隊も、今度ばかりは静観するしかないわね。
市街上空でミサイルぶっ放すわけにもいかないし」


「親衛隊?・・・ああ、レイのファンクラブか。
数は少ないけど、あなたのファンもいるって聞いたわよ、ミサト」


「少ないってのが余計よ、リツコ。
大体、どこからそんな情報仕入れたのよ」


「マナに付いてきた女性士官から聞いたわ。彼女も暇を持て余してるみたいで、色々世間話するの」


「確かに、子供のお守りが任務じゃ暇よね・・同情するわ」


「ミサトが同情なんて・・・変わったわね」


「これでも人妻よ。結婚は人生観を変えるわ」


「あっそ」


この会話に代表されるように、発令所では張りつめた空気というものを感じない。弛緩しているわけでもないのだが、
職員達の表情にはどこか余裕がある。
これまでの使徒を相手にした圧倒的な戦績が、彼らに余裕を与えているようだ。
ちなみにマナは現在、発令所の片隅で護衛の士官と共に戦況の推移を見守っている。

メインスクリーンに映し出される戦場では、初号機がパレットガンを持ちビルを盾にして目標に接近しようと機敏な動
きを見せている。
零号機は、少し離れた位置から大型の陽電子ライフルで狙撃の用意。この二人に慢心はない。


「綾波、どうする?牽制してみるか?」


目標にある程度近づいたシンジは、零号機のレイに通信を入れ対策を協議。
ミサトに指揮を仰ぐのが常道なのだろうが、すでにレイとの打ち合わせが当たり前になっていて、シンジが発令所に連絡
を入れる事自体、あまり無くなっている。


<誘導にも乗ってこないし、反応を見るのもいいかも。
でも気を付けて碇君、敵の能力が分からないわ>


「敵・・・やっぱり、あれは使徒?」


<私には分かる・・あれは使徒よ>


「分かった、パレットガンを一斉射してみる」


シンジは上空を漂う物体にパレットガンの銃口を向けると、初号機にトリガーを一瞬だけ引かせた。
そして軽い反動と共に撃ち出された数発の劣化ウラン弾は、その高密度故の高質量・・更に音速の数倍という速度を持って
目標に突撃。
相手が普通の使徒ならば、この凶暴な砲弾すら光の壁に阻まれ四散するだけ。エヴァも同様に持つ強力な障壁は、あらゆる
攻撃手段を無効化してしまうからだ。
レイが使徒だと断言した目標も当然ATフィールドを展開するものと、シンジは考えていた。それで正体ははっきりすると。

しかし・・・


「消えた!」


球体は忽然と消え、弾はそのままあらぬ方向へ飛んでいった。いずこかの山中に着弾したそれは、戦闘後に捜索される事だろう。
そして目標の影に入っていた初号機は、底なし沼に嵌った巨人のごとく、徐々に身を地面に沈ませていく。
初号機だけではない。影の中に在った車も道路もビルまでも・・全てが影に引き込まれていく。


<碇君!影が!>


「影?・・うわ!」


レイのひと言で我に返ったシンジは初号機の飛行ユニットを瞬時に展開、上空に退避した。
そのレイは、別の場所に再び出現した球体へ攻撃を開始。だが光速に近い加粒子砲の攻撃でさえ、球体には当たらない。
またしても消えた。
そして影は本体である球体の動きにもかかわらず存在を続け、領域までも広げていくそれに触れた物は、何であろうと呑み込ま
れていく。

次々と影に沈んでいくビル群を見下ろすように、零号機の攻撃をかわした縞模様の球体は気球の如く空を漂よう。
シンジは、使徒戦始まって以来の焦燥感に駆られていた。


「全てを呑み込む影・・・あれが、今度の使徒の攻撃手段なのか」




発令所・・


「シンジ君が攻撃した瞬間に反応が青になったわ。
だけど本体はATフィールドを展開しない・・・どういう使徒なの?あれ。」


再び様子見に転じたエヴァ両機をスクリーンに見つつ、ミサトは傍らに立つリツコに分析を頼む。自分には訳分からないが、
彼女ならある程度の推測はできるだろう。


「まだ推測でしかないけど、使徒の本体は地面に広がる方ね。上空に浮かんでる気球みたいな方が影よ」


「影?だってあれは、レーダーにも反応する実体よ」


「言い方がまずいかしら。
つまり、内的要因から発生した擬態みたいなものよ。空間的に繋がってるはずね」


「・・・分かりやすく言ってくれない?」


「攻撃を回避するため、或いは本体から目をそらすための囮・・・分かった?」


「最初から、そう言ってちょうだい。
じゃあ本体があっちの方だとして、有効な攻撃手段はあるの?」


「その前に、私の推論を検証しなくちゃいけないわ。一度エヴァを撤退させて」


「分かったわ」


いつもと違う様子に、発令所にも重い空気が立ちこめる。
が、高見からいつものポーズで発令所を見下ろす司令のゲンドウは微動だにしない。
そんなゲンドウを見て安堵する職員も多く、大きな胆力を持ったゲンドウを見直す職員も多かった。リツコでさえ、
見直したほどだ。
それは、隣に直立する冬月でさえも同様。


「見直したぞ、碇。初めてと言ってもいい危機だというのに、その動じない態度。
流石は司令だ・・・碇?」


いつもなら憎まれ口が返ってくるのに、ゲンドウからは何の反応もない。
おかしいと思った冬月がゲンドウに顔を向けると・・・


「居眠りか・・やはり大したやつだよ、お前は」


こんな時に居眠りする男を一瞬でも見直した自分を恥じる、冬月であった。





数時間後 ブリーフィングルーム・・


エヴァ両機を一時撤退させた後、リツコはケーブル付きの観測機器を影に投入させた。
それは数分で反応しなくなったが影内部のデータは取れたようで、すぐさまMAGIの分析に掛けられ、リツコは自分の
推測が正しい事を立証。
そして対処方も立案し、パイロットを始めとする関係者を集めてレクチャーする事となった。

関係者の中には、なぜかアスカまでも含まれている。現役パイロットであるマナを呼ばないのに自分を呼んだ所に、
アスカはどことなく不安を感じていた。


「使徒は現在、直系680メートル、厚さ3ナノメートルの円筒形。その極薄の空間を内向きのATフィールドで支えているわ。
この大きさも固定的な物ではなくて、自由に変化するものと思われます。今は、何らかの理由でこの大きさにとどまっていると
考えていいでしょう。
その内部は、”ディラックの海”と言われる虚数空間・・おそらく別の宇宙に繋がってるはずよ。
呑み込まれた車やビルは、どこかに放り出されてるかもしれないわね」


「ちょっと待って、リツコ」


「何?アスカ」


「”ディラックの海”って、前世紀末に否定されたんじゃなかった?」


「目の前に現実があるわ。観測したデータもある・・机上の理論より現実よ」


「でも」


「学術的な議論は後にしてくれない、二人とも。
今はとにかく、あれを何とかすることよ」


ミサトはリツコとアスカの議論に興味などないし、学術的な意味にも興味はない。それより、使徒殲滅の方が重要。
それはレイも同じだったようで、彼女もリツコとアスカに非難じみた視線を向けている。
同席していた一人、マヤは興味津々だったらしく、議論が中断された事に残念なそうな顔。


「分かったわミサト。では、対策に移ります。
ATフィールドが体を構成する元なら、それを消してしまえばいい・・簡単な事ね。
エヴァに命綱を着けて投入し、内部からATフィールドを中和するわ。
で、使用する機体なんだけど・・・初号機が適当ね」


ここでアスカの顔が一瞬強ばるが、すぐに元の彼女に戻る。
虚数空間にダイブする危険な任務にシンジが赴かならければならないのは婚約者として辛いが、誰かがやらなければ
いけないこと。
マナはまだ実戦に使えないし、シンジを行かせなければレイが行く事になる。危険を他人に押しつける卑怯者には
なりたくない。


「それでアタシが呼ばれたわけか・・アタシが取り乱すか喚き散らすとでも思ったの?見くびられたものね。
ダンナの出撃くらい、笑って見送ってやるわよ」


「初号機を指名した理由は聞かないの?アスカ」


「エヴァを一番知ってるアンタが指名したんだから、それがベストなんでしょ?アタシが口出しする問題じゃないわ。
零号機の出力じゃ不安があるとか、そんな問題だとは思うけど」


「まあ、そんなところね。悪いけど、シンジ君を一時借りるわ」


「だから、気遣わなくていいって・・ね?シンジ」


「ははは、そうだね」


シンジとて、任務が危険だからといって拒否するつもりなどさらさら無い。英雄願望などないが、ここで拒否して後々まで
後ろ指を指される人生などまっぴらだ。

そして、アスカと彼女のお腹にいる子供のためにも、必ず生きて帰る。
父親に捨てられた自分が立派な親になれるのかとの不安もある。しかし、なってみせるとの強い決意もあるのだ。
何が何でも今回の任務は成功させなくてはならない。


「それで赤木博士・・命綱って、何を使うんです?ワイヤーですか?」


「ふっ、いい質問ね、シンジ君」




虚数空間と通常空間の間を繋ぐ物。
それは、S2機関の採用で使用済みになった電源ソケット・・アンビリカルケーブルと呼ばれた物であった。




更に数時間後 発令所・・


廃棄する予算が付かず、倉庫の奥で埃を被っていたアンビリカルケーブルが急遽引っ張り出され、念のためワイヤーで
補強されたそれは、スクリーンで見る限り立派に役に立っているようだ。
黒い底なし沼に沈んでいく初号機と現実世界を繋ぐ命綱としての役割を、破綻無くこなしている。
かつてはエヴァの重要なパーツであったケーブルの再登場に、リツコも複雑みたいだ。


「また、あれを使うなんてね・・」


「予算不足に感謝ってとこかしら。民間への補償額もかさんでるし、余裕のあった頃が懐かしいわ。
それより、よく司令が初号機の使用を許可したわね。初号機を大事にする司令が・・」


「司令も昔の司令じゃないって事よ。人は変わるわ・・あの子達が良い例でしょ?
あなたもよく分かるはずよ、ミサト」


「そうね・・・変わるのよね、人は」




初号機 エントリープラグ内・・


モニターに在るのは、完全な闇。
宇宙のように星もなく、ただ黒い闇が果てしなく周囲を覆い尽くしている。
その闇の中を、初号機は降下していく。
シンジに恐怖がないと言えば嘘になる。ケーブルで繋がれていなければ、かなりの精神的負担を感じただろう。


「センサーのレーダー波が返ってこない。何も無いんだな。
空気なんか当然無いし光も無い、完全な闇・・・虚数空間て、何なんだ?」


虚数空間についてアスカから基本概念を教えてもらったが、シンジにはさっぱり。相対論的な波動方程式とかディラック方
程式とか言われても、頭が混乱するだけだった。

光学機器さえ機能しないかもしれないと言われたのだが、それは大丈夫のようだ。初号機のメインカメラはただの闇とはいえ、
立派に外の状況を映し出してくれている。
これが本当に外の状況を映し出した物だとすれば・・・の話だが。

と、発令所のミサトから通信。
ケーブルを通じての有線での通信で、音声も明瞭。


<そっちの様子はどう?シンジ君>


「順調です。問題はありません」


<こっちは問題発生よ。
ケーブルにかなりの負荷がかかって、すぐにも切れそうなの。予定より少し早いけど、出力最大でATフィールドを展開して。
遠慮すること無いから、思いっきりやってちょうだい>


<ちょ、 ちょっとミサト!>


<なによ。久々の仕事なんだから邪魔しないで、リツコ>


「了解です、葛城三佐。直ちに最大出力でATフィールドを展開します」


<シンジ 君!待っ>


シンジはリツコとミサトの掛け合いをいつもの事として気にする様子もなく、力を振り絞るイメージを頭に描いて初号機の
出力を爆発的に上げていく。

S2機関を搭載してから後、初号機はフルパワーを出したことなど無い。初号機だけではなく、零号機も弐号機も未経験。
実験用にデチューンされた量産型がATフィールド強度実験でフルパワーを発揮した一例だけ。
技術部で三機を使った最大出力実験が検討された事もあるのだが、技術部を統轄するリツコが危険過ぎるとして反対してい
たのだ・・・あのリツコがである。
月の半分を吹き飛ばすと豪語する大砲を作るような人間が腰を引くほどの危険性とは・・・


グゥオオオ オオオオオオ!!


「ひっ!」


発令所全体を振るわせる獣の咆吼に、マヤは思わず悲鳴を上げてしまった。
それは、初号機が上げた雄叫び。力を解放された喜びなのか・・

が、それは物理的にあり得ない現象。
空気も何もない所から音が伝わってくるはずがない。
そんな異常な状況の中でも、マヤの同僚である日向と青葉は、オペレーターである己の仕事を全うする。


「初号機、顎部ジョイントを引きちぎりました!エネルギーゲージ、振り切れてしまって計測不能!」


「地上の影に異常発生!全体が波打ってひび割れが走っています!上空の球体にも異常です!割れ目から血と思われる物が!」


青葉が状況報告する通り、上空に浮かんだ球体に幾筋もの切れ目が走り、そこから血潮と光が同時に漏れだした。

本体と擬態を繋ぐ虚数回路に異常が生じたのだろう。影にダイブした初号機が上空の擬態から出現したのである。
あまりの圧倒的エネルギーによる影響か、初号機のATフィールドによる負荷が原因かもしれない。

吹き出す血と共に初号機の腕が外殻を切り裂いて出現。
初号機は更に外殻を切り裂くと、面倒とでも言いたいように光の奔流を放ち球体を吹き飛ばす。
光の正体は、初号機の背から伸びる12枚の光の翼・・飛行ユニットの翼とは別物。

広範囲に渡って降り注ぐ血のシャワーと、小間切れになった擬態の肉片。
自らも全身に血を纏い背に12枚の光翼を輝かせて空に浮かぶそれに、発令所のある者は神に反逆し堕天使となった魔王を重ね
恐怖した。


「光り輝く12枚の翼を持つ者、輝ける明けの明星・・・ルシフェル」


そしてその初号機に、ミサトはセカンドインパクトで目撃した光の柱を重ねた。
あれは、空に向かって伸びる二本の巨大な光の柱だった・・初号機とは似ても似つかない。
しかし背から広がる光翼は、どことなくあれと似ている。


「あの光・・・リツコ、あんたは何を隠してるの?
こうなること、知ってたわね?」


「何も隠してないわ。あれがエヴァよ」


更にアスカは・・


「アタシは、あんな物に乗ってたの?」




この日、アスカはエヴァというものに初めて恐れを抱いた。





つづく

次回、「トロイの木馬

でらさんから『こういう場合』の新作をいただきました。

原作ではこのへんから殺伐とやりきれない世界が徐々に展開されるのですが、このお話ではそうはならないでしょうねぇ。

刺々しい雰囲気に耐え切れずアスカが流産なんて展開、烏賊ホウムに読みに来る人誰も望みませんものね。

そういうわけで(どういうわけだ)でらさんに是非強く明るく楽しいLASを求めて感想メールを出しましょう!

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