宇宙・・・そらへ

こういう場合 第二部 第十話

作者:でらさん

















初めて着たプラグスーツ。


『何か、嫌らしい服ね。
体の線が丸見えじゃない。
黒ってのも気に入らないわ』


LCLの味。


『うっぷ・・気持ち悪い』


そして、訓練用に用意された量産型エヴァンゲリオン。


『え〜〜〜!?これに乗るんですか?
トカゲみたい』


実に正直な人間である・・霧島 マナという少女は。

お目付として同行した佐藤やアヤも、冷や汗の連続。
笑って済ませてくれる赤木博士以下のスタッフ達に、感謝というところ。


そして今日は、実際に機に搭乗して基本的な動作を覚える訓練。
教官兼監視役として、レイが零号機で付き合う。
場所は、ジオフロント内にある地底湖の湖畔。

基本となる戦闘技術については、問題なかった。
戦自の学校で訓練を続けていたのだから、それは当然。
戦術の知識も備えており、体感機を使用したエヴァのシミュレーションも、マナは無難にこなす。
まだアスカには及ばないが、かなり優秀な交代要員と言えるだろう。

だが実機での訓練は、今までとは緊張の度合いが違う。
訓練用にデチューンされているとはいえ、量産型は元々正式配備を予定していた機体。
実験にも使われたように、ATフィールドも当然展開出来るしS2機関も搭載している。
通常兵器が効かないのは、実戦配備されている三機と変わりはないのだ。
そんな危険な存在を初心者に任せなくてはいけないのだから、自ずと緊張の度合いは高まろうというもの。


ネルフ本部 発令所・・


「マナ、準備はいいかしら?」


<はい!赤木博士!いつでもどうぞ!>


いつの間にか、マナは職員達から名前で呼ばれるようになっていた。
呼びやすいというのが、主な理由。

ちなみにシンジも一度マナと呼んだのだが、瞬時にアスカの制裁を受け訂正・・霧島さんで通している。


「今回は危険防止のためS2機関を使わず、外部電源によって動かします。
でも操縦する上で、特に違いはないはずよ。
シミュレーション通りにやれば、問題ないわ。
レイ・・倒れそうになったら、支えてあげて」


<了解>


「では、フォースチルドレンの実地訓練を始めます。
マナ、まずは歩くのよ。
歩くイメージを頭に浮かべてみて」


<了解であります!
歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く・・・>




マナの意志に従い量産型が第一歩を踏み出したのは、これから数分の後。





同時刻 松代・・


マナが初めての搭乗訓練に挑んでいるその時、ここ松代のネルフ基地では、初号機を使用しての
大気圏外飛行試験が行われようとしていた。
以前からリツコが熱望していた実験であるが、使徒戦突入と共に先延ばしされていたのである。

エヴァ各機が背の突起部に装備する飛行ユニット、通称”ゼロユニット”の性能を確認するために
どうしても必要な実験だというのが、リツコの主張。

が、彼女の一番弟子であり子猫第一号であるマヤは、彼女から別の指示をも受けていた。


「つまり・・
その大砲を宇宙に持っていけるかどうか、確かめたいわけね?
だけど、そんなの私は聞いてないわよ」


「え〜〜〜、もう持って来ちゃったんですう。
これが打ち上げられないと、廃棄処分しなくちゃいけないんですう。
でも司令に黙って作っちゃったから、技術部としてはばれたら困るんですう。
分かって下さあい、葛城さあん」


どんな手段で予算を取ったのかは不明だが、技術部はエヴァの背のたけ程もある大砲をいつの間にか完成させていたようだ。
しかも、地上では絶対使えない兵器であるという。

なぜなら・・
地殻など簡単に貫く程の威力で、発射された時の大気への影響も甚大。
セカンドインパクト時のアダムをも上回るエネルギーを放出するらしい。
へたすると、地球が保たない。

とんでもない物を創ったリツコが恨めしいし、幼児退行したようなマヤの口調もミサトの癇に障る。
これまで何度もリツコの実験に頭を痛めてきたミサトも、今回はだめ押しに近い。


「んとに、技術屋ってのは・・」


「お願いしますう」


「ああもう、分かったわよ!
でも、最初は手ぶらで行ってもらうわ!
大砲持っていくのは二回目!いい!?」


「はい!感謝致します!葛城三佐!
・・・あ、伊吹です。予定通り組み立てて下さい。
ええ大丈夫、葛城三佐の許可が出ましたから」




態度を豹変させ携帯で指示を飛ばすマヤに、リツコに似た物を感じるミサトであった。




初号機内・・


黒い翼を広げ、発射位置に立つ初号機。

ロケットという推進機関を使わずに宇宙へ出る事など可能なのか、シンジにもよく分からない。
翼を使って飛んでいる時の感覚からして、まだまだ推力に余裕があるのは感じていたが地球の引力を
振り切るとなると、あまり自信はない。


「真空状態で素体は大丈夫なのかな・・
宇宙線とかもあるし」


リツコは、大丈夫だと断言した。ATフィールドさえあれば問題はないと。
それには、アスカも同意見。
しかし、その当人達はここにいない。

リツコは本部でマナの訓練に立ち会っているし、アスカは医療部で検査。


<シンジ君、そろそろ行くわよ>


「分かりました、葛城三佐」


ミサトの声で我に返ったシンジは、初号機を飛び立つ体勢に。

翼を思いっきり広げ、身を屈ませる。
翼の影に入った初号機の頭部に光るのは、二つの目。
それは、まるで地獄の闇に光る悪魔の目のようだ。


ドッ!


大気を振るわせ、初号機は人々の視界から消える。
それを追うのは、レーダー波と各所に備えられたカメラ。
そして、人の世の騒ぎなど無関心のように空を飛び続ける鳥達・・





眼下・・上か?
白と茶を交えた巨大な水色の塊が、ほぼ画面いっぱいに広がっている。

それが、シンジの見た地球。

過去の宇宙飛行士達も見たであろう光景。
図鑑などでもたまに見るが、まさか自分が直に見るとは思わなかった。
確かに美しい。


「宇宙飛行士は、これ見たら人生観変わる人が多いって聞いたけど、僕は変わりそうもないな。
アスカの方が綺麗だ」


シンジは、松代の発令所で聞いている管制官達が確実に舌打ちしそうな台詞を吐く。
アスカが妊娠してから、愛情表現により遠慮が無くなったようだ。


<惚気はいいから、すぐに戻ってらっしゃい。
まだ予定があるのよ>


「え?はは・・聞いてました?」


<いいから、帰ってくるの>


「りょ、了解・・ん?センサーに反応があるな。
人工衛星かな?
三佐、そちらで確認出来ますか?」


<ちょっと待って>


補助的に取り付けられた初号機のセンサーに反応が。
だが、この時間この宙域に人工衛星の類は無いはず。
それはきっちりと計算されている。

だとすれば、過去の宇宙船の残骸やら何やらのゴミか・・


<シンジ 君!それは使徒よ!直ちに戻りなさい!
初号機は今、丸腰よ!>



「分かりました!」


降下を開始した初号機を包むATフィールドと衝突する大気が、凄まじい摩擦によって光と熱を発する。
ほぼ垂直に降下するなど、NASAの科学者達にとっては狂気の沙汰だろう。
しかし、それを現実化するのがエヴァの能力。
常識を超えた力は、まさに神に等しい。




約一時間後 ネルフ本部 発令所・・


宇宙空間に突如出現した使徒の影響で、マナの訓練も中止。
やっとまともに歩けるようになったところなので、マナは少々残念。

しかし、パイロットの一人として簡易的な作戦会議にこうして参加出来たことは感激の一言。
シンジ、アスカ、レイ・・そしてミサトやゲンドウなどの最高幹部と同席するなど、夢みたいだ。


「インド洋上空の衛星軌道で撮影された物です」


日向がコンソールを操作し、メインスクリーンに使徒を映し出す。

偵察衛星数機によって撮影された画像に映るのは、オレンジ色したアメーバのような姿。
中央の本体らしき部位には、人間の目のような模様。
そしてその両脇から人間の手の形に似た部位が張り出す異様な外見・・しかも巨大。
これまでの使徒もかなり異様ではあったが、今回は特別。

日向は説明を続ける。


「偵察衛星は破壊されましたが、破壊されるまでにある程度のデータは取れました。
全長約1キロメートル。
攻撃手段は、ATフィールドの拡大加重と自身身体の分離攻撃・・・ま、爆弾ですね。
N2弾を一発試しに撃ち込みましたが、やはり効果はありませんでした。
これをご覧下さい」


スクリーンの画像は切り替わり、使徒が自分の体の一部を分離させて落下させる様子が映し出される。
それは大気摩擦をATフィールドで凌ぐと、洋上に落下・・爆発した。
爆発を分析したMAGIは、その威力をN2や核と同等と弾き出す。

記録に寄れば、使徒は定期的に攻撃を繰り返している。
まるで・・・


「誤差を修正してる」


「流石は特別顧問、鋭い」


レイは本来、ネルフでの役職は無い。
しかし無役では何かとやりにくいだろうとの冬月の判断で、レイには作戦本部特別顧問の役職が
与えられた。名目上の権限は、これといってない。
戦自から強い要望があった事も、理由の一つ。

が、ミサトが面白かろうはずがない。
レイについては割り切ってるつもりでも、彼女に役職が付くとなると話は別。
自分の蔭が益々薄くなる。


「特別顧問の仰る通り、この使徒は落下の誤差を修正しながらこの本部に向かっております。
恐らく、本部には自身を落下させてくるものと」


「あの大きさで爆発されたら・・」


マナの口から、絶望にも思える台詞が・・

全長一キロの爆弾の威力など、想像の域を超えている。
ジオフロントなど、一瞬で消し飛ぶだろう。


「本州が二つの島になる・・・くらいでは、済まないでしょうね。
如何致します?葛城三佐」


「初号機によって、エヴァが宇宙空間でも動ける事が証明されたわ。
いきなり実戦で悪いけど、レイと出撃よ。
先制攻撃で殲滅するわ」


「武器はどうするの?ミサト。
宇宙用の装備なんて、エヴァにあったかしら?
ポジトロンライフルは理論的に問題ないけど、あの使徒に通用するか疑問ね。
それとも、得意の接近攻撃?
宇宙での機動性なんてまだ実験もしてないのに、出来るの?」


アスカの理論的な反証に、ミサトは沈黙。
これはこれで仕方がない。
ミサトが知る限り、エヴァに宇宙用の装備はない。
しかし・・


「武器ならあるわ」


「リツコ・・・ま、まさか、アレを」


「ふっ、察しが良いわミサト、マヤから聞いたのね。
知っているのなら、話が早いわ。
私がこの日を予想し密かに開発していた、一八式長距離砲の出番よ!!」


「あ、赤木博士、何だそれは。
私は、そんな物を創れと命じた覚えは」


「さあ、シ ンジ君!これを持って宇宙に上がるのよ!
あの、そらへ!」





ゲンドウをも無視して異様に盛り上がるリツコに、誰も突っ込めない。





更に一時間後 初号機内・・


「こんな物持って、宇宙に上がれるのかよ・・」


シンジがぼやくのも無理はない。
初号機がいま右手で支えている代物は、アクティブソードとかスマッシュフォークとかの比ではない。
太さは初号機の腰回りほどもあり、全長はほぼ同じ。
全体的に角張った形状で砲の先端も変形した六角形・・大砲という概念からは程遠い。
眩いばかりの銀に塗装されたそれは、いかにも重そう。
リツコが言うには見た目ほど重くないそうだが、どうも信じられない。


<初号機を信じなさい、MAGIの計算もね。
先に上がったレイが使徒の注意を引いてるから、上がったらすぐに発射よ。
手順は、忘れてないわね?>


独り言は聞かれていたようで、リツコからフォローが入る。
先ほどまでの興奮は、落ち着いたようだ。


「大丈夫です、赤木博士」


<こちらからもサポートするけど、くれぐれも射線には気を付けて。
万が一、地上へ当たったら・・・>


「・・・どうなるんです?」


<知らない方が、あなたのためよ。
とにかく、気を付けて>


「りょ、了解しました。
初号機、出ます」




大きな荷物など関係なく、初号機は一度目と同じように虚空へ羽ばたいた。
リツコの大いなる期待と共に。





無駄と分かる行為ほど、虚しい物はない。
今、レイの乗った零号機が巨大な使徒に向かってポジトロンライフルを撃つ行為が、まさにそれ。
地上と違い、大気の無い分ライフルの威力は増しているが、それでも使徒のATフィールドを突破
するのは不可能。

しかし、レイが虚しさを感じる事はない。
彼女は自分の役割を知っている。


「目標、捉えたわ・・・発射」


派手な音もなく、一筋の光が使徒に吸い込まれていく・・が、それは光で構成された八角形の壁に遮られ
消えた。
そしてそのお返しのように、使徒は片方の巨大な手を一振りしてオレンジ色のボールみたいな物を一つ放つ。
慣性運動により推力を与えられたそれは、零号機に真っ直ぐ向かってくる・・映像で観た爆弾だろう。
その危険性を知るレイは、直ちに物体を狙撃。

ATフィールドが初弾を弾くが、間髪入れずに撃ち込まれた二射目がフィールドを突破・・物体は爆発。
閃光が一瞬視界を遮る。
本体よりフィールドの強度は落ちるようだ。


「乱射されたら、かなり厳しくなるわ。
地表への影響を考えれば、N2弾は気軽に使えない。
だから、国連軍へ援護は要請出来ない。
碇君を待つしかない」


レイにしては珍しく、少しの焦りを感じていた。
今の爆弾を乱射されたら、零号機の装備では対処しきれない。
避けるのは簡単だが、失速した爆弾は地表に降り注ぎ多大な被害をもたらすだろう。
初号機の到着が待ち遠しい。

と、先ほどより幾分近づいた使徒が、今度は両手を使い爆弾を投げつけてきた。
その数は、視認出来るだけで十個以上。
センサーは大小三十個近くの物体を捉えている。

恐れていた事態に、レイの緊張は高まる。


「零号機、堪えて。
ATフィールド・・全開」


ポジトロンライフルを可能な限り連射するが、数はなかなか減らない。
フィールドの強度が前回より上がっているようで、誘爆もしないのだ。

レイは、残る全ての爆弾を零号機で受け止めようと零号機の出力を極限にまで上げATフィールドを展開。
が、数が数だけに堪えきれる保証はない。

その時・・

後方から巨大な一条の光が伸び、全ての爆弾を呑み込んで使徒をかすめた。
ATフィールドも問題としなかったようで、三分の一くらいが引きちぎられたように消えている。
爆弾は、爆発もせず蒸発してしまった。

レイは零号機を回頭させ、初号機を確認。
次射を撃とうとする初号機の邪魔にならないよう、後退する。




「出力を絞ってこれか。
反動を抑えるのが大変だ・・威力は確かに凄いけど」


シンジは上がってすぐに零号機の危機を知り、すぐさま発射態勢に入り・・間に合った。
そして、初号機を二射目の体勢に持っていく。

MAGIから送られてくる情報とエヴァの体、そして自分の意志が連動して使徒に照準を定める。
一射目で威力は充分と分かった。
当たれば、使徒を殲滅出来る。

しかし、初号機が両手で持っても押さえ込む事に苦労するほどの反動。
それが照準を狂わせる最大の理由。
レーザーや加粒子砲では反動は生じない。
ということは、この大砲はレーザーとかの類ではないということ。


「今度は当てるぞ。
出力は、少し上げておくか」


確実に殲滅するため、シンジは砲の出力を上げる。
今度は零号機もいないので、射線に問題はない。
後は、エネルギーのチャージを待つだけ。
数十秒で、それも終わる。

使徒は、怯まずに進んでくる。
避けようとか、逃げるとかいう意志は感じない。

もしくは・・
自殺願望でもあるのか。

自分自身を爆発させようとする使徒だ。
そんな意志を持っていても不思議ではない。


「発射!」




エネルギーチャージが終了した事を知らせる警報音の直後、シンジは発射の意志を初号機に伝え・・
初号機がそれに応えて、使徒は跡形もなく消滅した。





翌日 ネルフ本部・・


「で、結局処分は始末書だけ?
リツコには甘いわね、司令も。
昔のよしみかしら・・」


リツコが秘密裏に創った大砲は使徒を見事殲滅したのだが、不正経理も発覚。
ゲンドウは、彼女に始末書の提出を命じた。
処分としては、破格に近い甘さ。
普通、クビでも済まない。


「使徒を殲滅したのよ。
私としては、ちゃらにして欲しかったわ。
ミサトは、何が面白くないの?
レイに役職が付いたからって、私に当たらなくてもいいじゃない」


「それとこれは、話が別。
あの大砲って、宇宙でしか使えないんでしょ?
この先、そう都合良く宇宙に使徒が出てきてくれると思う?
今回一回限りだったら、お金の無駄遣いじゃないかって言いたいの」


「あり得ないとは、言い切れないわ。
備えあれば憂いなしよ」


「ったく、ああ言えばこう言う・・
大体なによ、あの怪しい大砲は。
加粒子砲じゃないみたいだけど」


「最初の設計では加粒子砲だったんだけど、途中から設計変更したの。
威力も倍増したわ。
月の半分くらいは、吹き飛ばせるんじゃない?」


「・・・あんた、馬鹿?」




とんでもない事をさらっと言いのけるリツコと、頭を抱えるミサト。
ミサトの苦難は、終わらない。




つづく

次回、「サイバーパンク

でらさんから「こういう場合」第二部第10話をいただきました。

マナもNERVに馴染んできたようでなによりです。シンジと距離を縮めるのはアスカの妨害のあっているようですが(笑)

ただ使徒戦とかはやはりシンジ達がまだメインですね。

それにしてもリツコさんのつくった大砲は反動があって妙に威力が馬鹿でかくて謎。
アスカとシンジのらぶらぶパワーでも発射しているのでしょうか?(爆)

素敵なお話を送って下さったでらさんに是非感想メールをお願いします。

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