新たなる因子

こういう場合 第二部 第九話

作者:でらさん















自分は、ここでやっていけるのだろうか?

なぜ自分が選ばれたのか?


マナが佐藤らと共に発令所へ足を踏み入れ、出迎えてくれたレイを筆頭とする適格者達と顔を合わせた彼女の感想がまずこれ。


青みがかった白髪という特異さはあるが、芸術品のような美しさを魅せる女性。

もう一人の女性は金髪で、やはり美しい上に艶めかしいまでの色気まで感じる。

そして金髪の女性が腕をとる唯一の男性は、強い意志を感じる瞳と美しいと言える顔立ちが魅力的。

更に彼ら三人の前に立つ責任者らしい妙齢の女性は、大人の女性として完成されている。


つまり、まず外見で圧倒されてしまったのだ。
自分も人並み以上であるとの認識はあるが、とてもそんなレベルではない。
彼らの着るネルフの制服が、威圧感を増しているような気もする。

だが、マナとて戦自の威信を背負ってきたとの誇りがある。
萎縮し、不様な醜態を晒すわけにはいかない。
そんな事をしでかしたら、幼年学校のみんなに会わせる顔がない。


「戦略自衛隊幕僚二部所属、緑川三尉であります。こっちは、佐藤三尉。
戦略自衛隊幼年学校高等部二年霧島 マナを、ご用命により同行致しました」


まずは、アヤが一行を代表して挨拶。
佐藤とマナも敬礼。

それに対し、ミサトがネルフを代表して返す。
リツコは、整備班からの緊急の呼び出しでケージに向かってしまいここにはいない。


「ご苦労様です。
私は、ネルフ本部作戦本部長、葛城 ミサト三佐。
ご一行を歓迎します」


お互いが敬礼し、公式行事の一幕は終わった。
これからは、幾分くだけた雰囲気になるはず。

そして、そのようになった。


「じゃあ、霧島さんに自己紹介してもらおうかしら。
元気よくお願いね」


「は、は い!!」


ミサトに促されたマナは一瞬ドキっとするが、すぐに落ち着きを取り戻す。
両隣に立つアヤと佐藤が頼もしい。
自分一人だったら、緊張のしどうしであっただろう。

着任の挨拶は、ここへ来るまでにレクチャーされた。
意味は全く分からないが、とにかくこう言えと教わったのだ。


「本日付で弐号機パイロットに着任する霧島 マナです!よろしくお願いします!」


弐号機だのパイロットだの、マナには何のことだかさっぱり。
しかしそれでも、自分の売りである元気さだけはアピールできたようだ。
金髪の女性が何やら独り言を呟いたのを、マナは見逃さない。

それが良い意味であろうと逆であろうと、どうでもいい・・何の反応が無いよりはいい。


「聞いてた通り、元気いいわね。
その調子で頼むわ。
じゃ、こんどはこっち・・・レイから頼むわよ」


「零号機パイロット、ファーストチルドレンの綾波 レイです。
よろしく」


「・・・それだけ?レイ」


「はい。
他に何か必要ですか?葛城三佐」


「い、いえ、いいわ。
じゃ、次はアスカね」


レイの噂は、マナも断片的ながら先輩から聞いた事がある。
天才的な戦術指揮官で、戦自の若い隊員達の憧れの的。
先輩の話では、親衛隊のようなファンクラブまで存在するらしい。

レイを前にしたマナは、その人気の理由が分かった気がする。

儚げな存在感。
それに反したように強い意志を感じさせる吊り気味の瞳。
どこまでも清楚なイメージ。
女のマナでも憧れてしまいそうだ。


「聞いてる?霧島さん」


「へ?」


「アタシの挨拶は聞きたくないってこと?
着任早々、いい度胸ね」


「アスカ!やめなさい!」


「ミサトは黙ってて!」


レイに見とれていたマナは、アスカの挨拶に気づかなかったようだ。
赤くカスタマイズされた制服を着るアスカの気性は、まさにその色のように激しいとマナは理解する。
レイとは正反対か。


「アスカ、やめるんだ。
霧島さんは、緊張してるだけだよ」


「だって、シンジ・・」


「ほら、挨拶のし直し」


「分かったわよ」


上司であるミサトの言うことは聞かないアスカも、シンジの言うことは聞く。
その様子で、二人の関係をマナは察する。
自分が発令所に入ったとき、アスカはシンジの腕を軽く掴んでいたし。

二人がどのような経緯でそういう関係になったのか、知りたい。
ドラマのような出会いとか葛藤があったのだろうか。


「元弐号機パイロットのセカンドチルドレン、惣流 アスカ ラングレーよ。
あなたの先任という事になるわね」


「先ほどは失礼しました!
よろしくご指導の程を、お願い致します!」


「アタシは予備役に廻るから、あなたを指導する事はまず無いわ。
シンジと、向こうのレイに色々教わるのね」


「は、はい!」


アスカという人物は切り替えが早いようで、どう言い訳しようかと考えていたマナもほっとする。
予備役ということで直接的な接触は少ない事にも感謝だ。
マナは、アスカのような尖った人間が苦手。

現実志向のマナは一応どんな人間とも合わせるが、好みは当然ある。

その意味でアスカは苦手の部類に入るし、上司になるミサトには好感を感じる。
レイにも同じく好感を。
シンジは、見た目では巧く付き合えそうなのだが・・


「そして僕が、初号機パイロットのサードチルドレン碇 シンジ。
よろしく、霧島さん」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


微笑みを交わす二人が、アスカには何となく面白くない。

マナの容姿も標準以上ではあるが、とびっきりという程ではない。
客観的に見て、自分やレイに及ばないと思う。

しかし、色や恋は外見でどうなる物ではないのだ。
シンジと自分が今のような関係になったのは、この容姿のせいではない。
心と心が惹かれ合った結果。
自信を持ってそう言える。

だからこそ、新たなる因子とも言うべき目の前の女が気に入らない。


「要チェックね・・・」


「なに言ってんの?アスカ」


「何でもないわ、シンジ。
ところで、アタシ達に何か質問でもあったらどうぞ、霧島さん。
いいでしょ?ミサト」


「手短にね。
こっちにも予定があるから」


「分かってるわ」


ミサトはこの後、佐藤とアヤ・・マナを引き連れてゲンドウへの挨拶がある。
マナが正式にネルフへ組み入れられ、フォースチルドレンとなるのはその時。
そして更にその後には、主要な部署への挨拶回りが。

使徒はいつ来襲してもおかしくはないし、暇な時間など無いのだ。


「ミサトの許しが出たわよ。
さあ、何かない?」


聞きたいことは山ほどある。
ネルフという組織、零号機とか弐号機とかいう兵器、しかもパイロットは異常に若い。
普通、戦闘機パイロットといえば軍の中でもエリートに属し、当然それなりのキャリアがなくてはならない。
しかも自分は、その後任に選ばれた・・まだ幼年学校高等部でしかない16歳の自分がだ。

だが、一番聞きたい事は・・・


「では、失礼覚悟でお聞きします。
私は弐号機パイロットという事ですが、先任の惣流さんはなぜ予備役に廻るのですか?
見たところ、お体が悪いとは思えないのですが」


アスカの後任だというのはここで初めて知ったが、彼女がなぜパイロットを降りたのかが分からない。
大怪我をしたというようには見えないし、病気を患らわっているようにも見えない。
不適格との烙印を押されたのならば、予備役どころかここにいないはず。
特殊な理由があるとしか思えない。


「そ、それはね、霧島さん」


「霧島、調子に乗るな。
三佐殿も困っておられるではないか。
部外者が首を突っ込む問題ではない」


返答に窮したミサトに何かを感じた佐藤は、聞いてはいけない事だと直感しマナを諫める。
アヤも、同じ理由から視線でマナに翻意を促した。
しかし・・


「お気遣いは無用です、三尉殿。
私自ら説明致します・・いいわよね?ミサト」


「好きにしなさい」


これから共に戦うのだし、いつかはばれる事。
隠しても仕方ないと覚悟を決めたミサトは、アスカの好きにさせる。
常識ハズレの事実にマナがどの程度のショックを受けるかは、未知数だが。


「アタシがパイロットを降りた理由は・・
妊娠したからよ」


「は?ご結婚なされてたんですか?
そのようなお歳とは知りませんでした。
私と同じか少し上くらいだと」


「アタシは、今16歳。第壱高等学校二年生よ」


「・・・・・・え?」


「お腹の子の父親は、この碇 シンジ。
同じく第壱高校の二年」


「こ、こ、ここ、高校生?・・・で妊娠?父親?
ご、ご冗談を」


「冗談で人をからかう趣味は無いわ。
ついでに言っとくけど、アタシ達同棲してて婚約もしてるの」


「「「・・・・・」」」


一般常識を超えた事実に、マナはおろか佐藤とアヤまで言葉を無くした瞬間である。

アヤやマナは、戦略自衛隊という軍に身を置く者として現実的思考を身に着けていると自負しているつもり。
世の中が綺麗事だけで動く物ではないし、命のやり取りや汚い取引も時には必要であると割り切っている。
かつて最前線にいた佐藤などは、それを一番良く知る人間でもある。

しかし、それはあくまで社会の闇の部分であり普通は決して表には出ない・・いや、出てはいけないのだ。

アスカとシンジの例で言うならば・・
ネルフが付き合いを認めたのは良しとする。
特務機関に所属するパイロットとはいえ、色恋沙汰までには干渉できないだろう。
だが公式に同棲まで認め且つ妊娠まで許したのは、理解に苦しむ。
パイロットにここまで好き勝手させるとは・・・


「葛城三佐」


「何かしら?佐藤三尉」


「ネルフは、少々パイロットに対し甘いのではないと。
戦自の将来を担うべき人材を預けるには、正直申し上げてかなりの不安を感じます」


「妊娠の件は、確かに私の監督責任を問われても仕方ありません。
ですが、セカンドはすでに大卒のキャリアを持ち実戦でも相当の戦果を挙げた立派な軍人です。
ファーストとサードも大学こそ出ていないものの、実戦でのキャリアを積んでいます。
不幸な事にまだ正式な任官はされておりませんが、私達は彼らを一人前の人間として扱っているのです。
同棲くらい、どうと言うことはありませんよ」


「しかし」


「それにね、三尉」


府 中総括総隊司令部総合警戒管制室より入電!
旧熱海沖で奇怪な物体をレーダーが捉えられました!
現在、データを解析中!」



納得しない佐藤が更に反論しようとし、ミサトがそれを抑えて口を開いた時、日向の報告で発令所が一気に
臨戦態勢に入る。
警報音が鳴り響き、穏やかな空気は瞬く間に消え去る。

シンジとレイは、誰からの指示も受けずに全力で駆けていった。

その全体の動きは、まるで一つの生命体のようだ。
ミサトの命令も必要ない。
戦自の規律に慣れた佐藤から見ても、それは見事と言うしかない。


「お話の続きは後で、三尉。
良い機会です・・彼らの戦いぶりを、ここで共に見ましょう。
恐らく・・・いえ、確実に私も傍観者でしょうから」


「三佐殿、それは一体・・」


「見ていれば、分かりますわ」


「解析終了!
パターン青!
使 徒です!!




発令所の巨大スクリーンに、黒い長大な四本の足を持った使徒がゆっくりと動いているのが見える。
マナは、それが何かの冗談だと本気で思った。






<無人偵察機からのデータによると、敵の武器は強力な溶解液です。
しかし、それほど遠距離には飛ばせないようです>


<到達距離は?>


<正確なデータは掴んでおりませんが、偵察機のデータを転送致します>


<ありがとう。
それ以外に武器はないのね?>


<はっ!断定はできかねますが、今のところは!>


<分かったわ、ご苦労様。
そのまま目標の足止めをお願い>


<了解であります!>


戦自の部隊が零号機に搭乗するレイに指示を仰ぎ、嬉々として命令に従っている光景が佐藤には信じがたい。
ネルフとの合同作戦に参加する戦自部隊での噂は聞いていたが、こう目の当たりにすると時代が変わった
というか、自分の知っていた常識に疑いを持たざるを得ない。
それは、職業軍人たるアヤも同じ。

ただマナは、軍を思いのままに操るレイに羨望を感じた。
自分の夢見ていた光景がそこにあったのだ。


<ATフィールド中和!碇君、今よ!>


<了解!>


四本足の付け根にある円形の胴体部中央に、数百メートル上空から急降下した初号機がアクティブソードを突き立てると
それは瞬時に胴体を突き抜け、地面まで到達。
内部のコアまでをも直撃したようで、使徒はあっけなく沈黙した。


「さっすが、シンジ!今回も見事だわ!」


「そうね。
現場はレイに任せて、私は国連との打ち合わせに入るわ。
アスカは、霧島さん達の相手してて」


「はいはい。
了解しました、三佐殿」


「じゃ、任せたわよ」


ミサトは事後処理に忙しい発令所の喧噪に紛れ込み、アスカは立ちつくす戦自の一行に近づいた。
マナは興奮しているのか、顔が紅潮気味。
佐藤とアヤは複雑だ。


「これがアタシ達の戦い。
霧島 マナ・・・あなたにできるかしら?」


「出来る出来ないではなくて、私はやります。
そのために呼ばれたのですから」


「頼んだわよ、新人さん」





アスカにただ敬礼で応えたマナは、彼女の蒼い瞳に引き込まそうな自分を感じた。
恋とか愛とか単純な言葉では言い表せない不思議な感覚。

それが真の友情と彼女が気づくのは、まだ先の事である。





つづく

次回、「宇宙・・・そらへ






でらさんから『こういう場合』第二部第九話をいただきました。

アスカの妊娠、確かに吃驚しますよね普通の人は。

マナとアスカは天敵になるのかと思ったら‥‥友情が生まれるのでしょうか?

3人が相思相愛という爛れたほのぼのとした関係になるといいですね。

みなさんにも是非、でらさんへの読後の感想メールをお願いします。

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