機械人形

こういう場合 第二部 第四話

作者:でらさん














戦自とネルフの蜜月は続いている。

ネルフから提供される最新のアーキテクチャを導入した戦自は、陸海空全ての分野で世界の先端を行く
装備を誇り、幹部を始めとする人的交流も活発。

が、そのような状況を苦々しい思いで見る組織・・人間も現実にいる。
古くからこの国の軍事産業に関わっていた企業や資本家達。
そして、ネルフに対抗心を燃やす官僚や科学者達だ。

そのような人間が集まって組織されたのが日本重化学工業共同体。

活動は二年ほど前から始まり、エヴァに対抗するロボット兵器も一度試作にまで辿り着いた。
しかし、使徒襲来の遅延とその後のゴタゴタが続いたせいで、基本骨格も組上がらない内に廃棄処分
となったのだ。

ところが・・




ネルフ本部・・


「エヴァに対抗する決戦兵器?」


「前に一度作りかけた物を復活させるらしいわ。
大幅に設計変更してね。
戦自が前の簡略設計図を送ってきたわよ。
これがそう・・ミサトも見てみなさい」


「どこのバカがそんな無駄な事するのよ。
使徒に通常兵器が効かないのは常識でしょうが」


「頭に立ってるのは、時田って人ね。
学会で何度か面識があるわ。
優秀なお坊ちゃんて感じかしら」


リツコの差し出した図面を見て、ミサトは固まった。

そのあまりにセンスのない外見と、原子炉内蔵というスペック。
活動時間は確かに長大だが、使徒との戦闘で格闘戦になったら危険この上ない。
原子炉周りはかなり頑健に設計されているものの、使徒の攻撃力はそんな物など簡単に破壊するだろう。
これでは、歩く原子爆弾みたいなものだ。


「とんでもない物を作ろうとしてたのね・・
無知って恐ろしいわ」


「そこは連中も分かってたみたいね。
今回、昔ながらの原子炉は積まれてないわよ」


「じゃあ、何を動力に?
S2機関の技術はうちんとこが独占してるし」


「常温核融合炉よ」


「常温核融合炉?そらまた、怪しげな代物ね」


前世紀末の一時期、世界中の物理学者を巻き込んだ一大事件。

超高温が絶対条件の一つとされていた核融合が常温で可能に・・と、ある研究グループが発表したのだ。
しかしその説は数々の検証で否定され、いつの間にか消えていった。

ミサトも専門ではないが、核融合についての基礎知識くらいはある。
常温で核融合反応をコントロール出来るのならば、それは画期的・・いや、まさにノーベル賞物。
実用化されたものの、まだ幾つかの問題を抱えるS2機関より普及するかもしれない。

あくまで、本当ならば・・・の話だ。


「学会での発表もないし、真偽のほどは分からないわ。
戦自から流れてきた情報だから、そんなにいい加減でもないと思うけど」


「戦自も、あれこれとマメね。
そんなにこっちのご機嫌取らなくてもいいのに・・」


「私やミサトに対してゴマすってるわけじゃないわよ。
レイを喜ばせたいみたい。
若い隊員が中心になった親衛隊みたいなものもあるらしいから」


「・・・それが現実か」


「それはそうと、どうする?」


「何が?」


「当の日本重化学工業共同体から、完成披露パーティへの招待状が来てるの。
正式なルートを通じてね。
私とミサト・・エヴァのパイロット達にも是非出席してもらいたいそうよ」


「私は来いと言われれば行くけど、パイロットは無理ね。
使徒に備えないと」


「エヴァも持っていけばいいじゃない。
会場は旧東京だし、エヴァならひとっ飛びよ。
使徒の来襲にも対応出来るわ」


妙に乗り気なリツコの顔を見ると、なぜか興奮気味。
科学者としての対抗心に燃えているようだ。
向こうの開発したロボット兵器にも興味があるのだろう。

冷静に考えても、現在のエヴァの機動力ならば旧東京と第三新東京市の距離くらいどうという事もない。


「アスカ達もパーティなら喜びそうね。
いいわ、司令には私から許可取るから」


「ふっ・・エヴァに対抗する愚かさを連中に教えてあげるわ」


「問題起こさないでね、リツコ」




いつもとは逆の立場になった二人である。





完成披露パーティ当日 旧東京・・


セカンドインパクト直前までは、政治経済・・文化をも含めたこの国の中心であり、ミサトもリツコも
憧れを抱いていた街。
それが今は廃墟となり、海岸線が後退し始めた現在でも再開発の目処は立っていない。

そんな廃墟の一角が整備され、近代的な設備が幻のように点在している。

その中の一つのビルに、着飾った紳士淑女達が群れ集っていた。
明らかに愛人と分かる女性を同伴した老人や、すでに酔いが回り何やら騒いでいる官僚らしい中年男性。
そして、パーティの目的を知っているのかと聞きたくなるほど若い学生風の男女。

アスカに腕を預けるシンジは、とりとめもなくそんな会場内を俯瞰している。

ミサトとリツコは、企業の重役やら政府関係者に囲まれ挨拶に忙しい。
レイは食欲の虜・・テーブルの豪華な料理から目を離さない。


「ネルフと仲が悪いらしいけど、そうでもないじゃないか」


「甘いわね、シンジ。
あからさまに敵対心出すはずないじゃない。
政治闘争って、そういうものよ」


「腹の中では何を考えているか分からないってやつか・・
苦手だな、そういうの」


「そっちの方はアタシに任せてくれればいいわ。
アンタが駆け引きとか苦手なのは、前から知ってたもんね」


「任せろって、どういう事だよ」


「将来的な事よ。
死ぬまで使徒と戦うわけじゃないんだし、後の事も考えとかないと。
アタシとアンタの将来設計って事」


正直、今のところはアスカとの生活や使徒戦に頭がいっぱいで、将来の事などシンジは全然考えて
いない。
アスカとは当然結婚する考えだが、それもただ漠然とした考えでしかないのだ。


「将来設計って言われても、僕はまだ」


「失礼、ちょっといいかな?」


シンジの台詞を遮るように、一人の男が割って入ってきた。
胸の身分証明を見ると、日本国内務省の高官らしい。
歳は20代後半くらいでミサトと同年代か。

シンジと並ぶくらいの長身で、パリッとした身なりに整ったマスク。
さりげない所作から、このような場には慣れている様子。

が、話を邪魔された二人・・特にアスカは、その無礼に怒りを隠さない。
任せろと言った割には直情的だ。


「僕達に何のご用ですか?」


「君が碇 シンジ君・・悪いが、私が話をしたいのは惣流さんだけでね。
しばらく席を外してくれないか」


「ちょっとアンタ!」


いきり立つアスカを手で制し、シンジはその男の胸ぐらをいきなり掴むと自分の眼前に引き寄せる。
シンジは座ったままなので、男は思わずよろめきやっと姿勢を保った。
身をかがませたその姿は滑稽。


「な、何をするんだ君。
私にこんな事をしてただで済むと」


「あなたこそ、自分の立場を理解してない。
ネルフは超法規の特務機関・・エヴァのパイロットも様々な特権を有してる。
たとえ衆人環視の中で殺人を犯したとしても、罪に問われる事はない。
あなたも内務省の人間なら、そのくらい知っているはずだが」


「わ、私は内務省の高官だぞ。
その私を殺すというのか」


「世の中には、死んでもいい人間はいる。
命の価値は平等じゃない。
あんたのような下衆は、世にとって害悪だ」


人の変わったようなシンジの台詞と冷たい顔。
傍らのアスカにも、その変化は異常に見えた。
今のシンジならば素手で人を殺すなど造作もない。

アスカに緊張が奔る。


「ま、待ってくれ、私が悪かった。
ただ、噂に聞く惣流さんと二人で話がしたかっただけなんだ」


「もう、遅い」


パコ〜ン


「ひ!」


小気味よい音が男の後頭部から炸裂・・と、そこに立っていたのは、配布されたパンフレットを丸めて
男の頭を叩いたミサトであった。

当然、シンジは何もしていない。
男を掴んでいた手も、いつの間にか離している。


「ったく、内務省の規律はどうなってんのよ。
戦自を見習って欲しいわ・・・って、あんた安田?」


「・・・え?か、葛城先輩!
先輩もいらっしゃってたんですか?」


「いらっしゃってって・・客の名前もチェックしてないの?あんた。
それでよく内務省に入れたわね」


「いえ、その・・今日は付き合いで出席したもので、あまり詳しい事は。
惣流さんの名前しか目に入らなくて・・」


「加持のパシリやってたくらいだから、趣味まで似たのね。
変な事覚えちゃって・・」


「わ、私は別に」


この男、安田はミサトの大学時代の後輩で加持とも親しかった。
と言えば聞こえは良いが・・早い話、子分のようなものであったのだ。

そんなわけで、彼はミサトに頭が上がらない。
さっきまでの横柄さはすっかり消え、ただひたすらに頭を下げる哀れな醜態を晒し続ける。
アスカとシンジはそんな二人から距離を取って、テーブルの反対側に廻る。


「ミサトの後輩だったとはね・・
それにしてもシンジ、さっきはちょっと心配したわ。
ホントにアイツを殺すかと思ったわよ」


「あれは、加持さんに教わったはったりだよ。
戦わずして勝つ方法もあるって、教えてくれたんだ」


「はったり?・・・あれがはったりなら、アンタ俳優になれるわ」


「そう?
初めて使った手だけど、アスカがそう言うなら使えそうだな」


「アンタの器用さには、頭が下がるわ」


一見、加持の好意と受け取れるが、現実は少し違う。
シンジの実力に恐怖を抱く加持が、何かの間違いで自分に災禍が及ばないようにするための策なのだ。
何かの拍子で抑えの効かなくなったシンジの傍にいたら、それだけで危険だ。

アスカとしてはこっちの方が安心できるので、加持に感謝してもいいだろう。


「あんまり自慢にならないよ。
それより、綾波はどこ行ったんだろ」


「ああ、レイならあそこよ」


「あそこ?・・・戦自の制服しか見えないけど」


アスカの指さした先には、礼装で身を固めた戦自隊員達しかいない。
そこだけ妙な雰囲気が漂っているようにも思える・・熱気か?


「あの中心でひたすら食べてるのよ。
他人のふりした方がいいわ」


「・・・・」




戦自のテーブル・・


「感激であります!
レイさんとこうしてご一緒できるとは!」


「あれ取って」


「はっ!自分が!」


「貴様は さっき取っただろうが!
順番はきちんと守れよ!」



「うるさ い!早い物勝ちだ!」


「なんだ と!」


「さ、レイさん、どうぞ」


「ありがとう」


「あ〜〜〜!! 抜け駆けしたな貴様!」




いい歳した大人達がバカ騒ぎをしている。
アスカが他人のふりをしろと言った理由がこれだ。




約一時間後・・


客同士の挨拶も大方終わったようなので、頃合いを見計らった時田はそろそろいいかと壇上に上がる。

壇上に上がった時田は、思わず感涙にむせびそうになる。
ここまで来るのは長かった。

約二年前の挫折。

ジェットアローンと名付けたプロトタイプは、完成もせずに解体された。
協力者だった戦自はネルフに転び、そのネルフは今や世界の覇者。
漏れ伝わってくる、エヴァの常識を外れた高性能も時田のプライドを傷つける。

チャンスさえあれば、自分はもっと高性能なロボットを創り出せると各方面に訴え続けた。

その努力の結晶が、この日公開される汎用戦術兵器”スサノオ”。

動力源には、画期的な常温核融合炉を内蔵。
万が一機体が破壊されても、放射能がまき散らされる事はない。

外見のデザインも一新された。
機能だけを優先させた前作とは、何から何まで違う。
まだ一度も起動させていないのが、唯一の不安ではあるが・・


(大丈夫だ、理論的な破綻はない・・必ず動く)
「お待たせ致しました、みなさん。
人類の切り札に、今日から新たな一機が加わります。
ご覧下さい・・これがスサノオです」


時田の合図と共に、パーティ会場から約百メートル離れた建物が横へ二つに割れていく。
注目する客達が目にしたそれは、白銀の鎧に身を固めた古代の戦士のよう。
前機のような、目を覆いたくなるほどの不格好さはない。

外見だけなら、エヴァと張り合えるだろう。


「へ〜、意外に恰好はいいわね」


「ふ、ふん・・問題は中身よ」


ミサトは好反応、リツコは少々の焦りか。
アスカとシンジは・・


「結婚式じゃ、こんな豪華な料理いらないわね。
ほどほどでいいわ」


「それじゃ、来てくれる人に悪いよ」


見てもいない。
会場の様子が自分達の将来にだぶったようで、結婚式の話で盛り上がっている。

そしてレイは・・


「もう、無いの?」


「い、いえ、少々お待ちを。
調達してまいります!
みんな、行くぞ!」


戦自のテーブルを制覇して尚、まだ足りないらしい。
隊員達は、他のテーブルから料理を調達し始めた。
この人達も、スサノオはどうでもいいようだ。


「では、起動といきますか。
本日は遠隔操作ですが、実戦ではパイロットが搭乗します。
パイロット保護にも万全を期しており、数種の脱出装置で万が一の事態にも対応可能です。
よし、起動だ」


<了解。
安全装置解除、反応炉異常なし>


<ジェネレーター異常なし、中性子変換も安定しています>


<出力正常・・システム全て異常なし>


オペレーションルームから異常の声は聞かれない。
一番心配していた反応炉も順調・・そっちの方でも、S2機関を有するネルフに対抗できそうだ。

時田の自信は確定された。


(ふははは はは!
ジェットアローンとは違うのだよ!ジェットアローンとは!)
「よし!スサノオ発進!」



ドォォォ ン!!


時田のかけ声と共に前進を始めるはずだった白銀の巨大戦士は、一歩も動かないままに自らの体を
四散させてしまった。

後に残ったのは・・
爆発から免れた二本の巨大な脚と、唖然として声も出ない来賓達。
そして、壇上で立ったまま気を失った時田、その人である。




数日後 ネルフ本部・・


「結局、何だったの?あれ。
諜報部も何もしてないって話よ。
作戦本部は、当然何もしてないし」


「常温核融合炉がまだ完全じゃなかったみたいね。
まだ理論が公表されてないから、何とも言えないけど」


「仮に万全だったとしても、使徒を倒せるわけないわ。
ATフィールドも無しじゃね」


「会場で少し時田博士とお話ししたけど、ATフィールドももうすぐ解析できるって、胸を張ってたわ。
何か勘違いしてたみたい」


「無駄なお金使って・・
詰め腹だけで済むかしら、あの人」


「さあね」




ミサトの言う通り、今回ネルフは何の動きもしていない。
それは戦自も同様で、時田やその組織などは相手にもしていなかったというのが正しい。
エヴァの実力を目の当たりにしている人間にすれば、当然の判断だろう。

そして、この御仁は・・


第二新東京市 とある病院・・


「これで私が終わると思ったら大きな間違いだ。
私はやるぞ!
打倒、ネル フ!


「時田さん!他の患者さん達に迷惑です!
静かにしてください!」


「す、済みません・・」


心労で入院した時田も早々に快復し、決意も新たに次なる目標に挑むようだ。

だが、彼を取り巻く環境は更に厳しくなった。
資産家で財界に発言力を持つ実家から勘当されては、まず生活を考えなくてはならない。
前途多難どころではない。


「常温核融 合がダメなら、○ノフスキー粒子を利用した熱核融合だ!!」




出来る物ならやってもらたいな、時田。




つづく

次回、「

でらさんから『こういう場合』のJA編(変?)をいただきました。

なんだか時田、アニメ本編に輪をかけて変な人になっていますが(笑)

怪作的には時田はそんなに悪いヤツじゃないと思っているので、もう少し活躍してもらってもいいと思いますが‥‥。

この時田はアスカにちょっかいをかける変な男をパーティに呼んだ罪があるので、もうすこし反省してもらったほうがいいですね(爆)

JA編を軽くすませて、次からはまた使徒戦でしょうか‥‥続きが楽しみですね。
みなさんもぜひ、でらさんに感想メールと続き要望メールをさしあげてください。

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