瞬殺

こういう場合 第二部 第二話

作者:でらさん











ネルフ本部 発令所・・


「また二十年近くも待たされるのかな・・
マコトはどう思う?」


「今度は一年くらいで来るんじゃないか?
使徒だって退屈してるはずさ」


待ちこがれていた?使徒の再来からほぼ三週間。
熱気に包まれていた発令所も、現在は元の静けさを取り戻している。

若いながらも、オペレーターの頂点に位置する日向 マコト二尉と青葉 シゲル二尉も暇そうだ。

彼らが真にその能力を発揮するのは演習とか訓練・・そして実戦くらいなものなのだから、仕方ない
と言えば仕方ないか。
MAGIの管理も彼らの仕事だが、最近はほとんどマヤが仕切っていて、この二人に出番はない。
今もマヤが彼らの隣で調整に精を出している。

パイロット達は揃って学校・・訓練は午後から。
それも今日は格闘訓練が主。

ということは・・


「今日も定時でお帰りか。
たまには一緒に飯でもどうだ?マコト、マヤちゃんも誘ってさ」


「俺はいいけど、バンドの方はいいのかよ。
初めてのライブが近いって言ってたじゃないか」


「今日はメンバーが全然集まらないんだ。
だから練習も中止。
さっき、メールで確認したよ」


「それなら」


ヴィィィ! ヴィィィ!


弛緩した空気を瞬時に凍らせる警戒警報。
発令所のあちこちで赤色灯が点滅し、職員に警戒を促す。

マコトは当初、抜き打ちの訓練かと思った。
ネルフにおいてそんな事は珍しくないからだ。

が、自分のコンソールに送られてきた情報を確認した彼の顔からは、すぐに笑顔が消えた。


「第三新東京市市街上空に未確認飛行物体出現!
MAGIは使徒と断定!関係各所への連絡を急げ!」


第三新東京市周辺に張り巡らされたレーダー網を嘲笑うかのような使徒の出現に、マコトは人間の
限界を見る思いがする。

それとも、気を緩めた報いなのか。


「くそ!」






司令室・・


「今度は三週間か・・・予言通りというわけだ。
老人達も歯がゆいだろうよ」


発令所からの報告を聞いた冬月は、事態が裏死海文書に記述された通りであることに感慨を持つ。
もし二年前に予言が的中していたのなら、今頃現世世界は無くなっているはず。
補完計画とは、そのようなものであった。

人類を一つの生命体へ統合しようとしたゼーレの指導者達。

だが、今となっては叶わぬ夢。
現在ゼーレに実権はなく、かつて傘下におさめていた下部組織の全てがネルフの支配下にある。
復権は不可能だ。


「所詮、人は人。
神になど、なれはしませんよ」


「人はそれでいいのだよ。
我々は生き抜く・・兄弟達を打ち倒してな」


「あれを、もう一つの可能性と信じたくはないがな。
我々を創った造物主のセンスを疑うぞ」


「神にも失敗はあるだろうよ、碇」


ゲンドウがセンスを疑い冬月が神の失敗と主張するほど、今回の使徒はその外見は特異さを際だたせ
ている。

イカの出来損ないのような本体に、頭部と見られる部位には巨大な目玉状のものが。
そして頭部と胴体部の接合部にはコアと見られる光球が埋め込まれており、そのコアの両側からは
コアを抱え込むかのように一対の腕が伸びている。
また腕はこの一対の他に、コア近辺に昆虫の足を想起させる四対の小型の腕が・・

人型からはかなりかけ離れた形態。

遺伝子上の差違が人間と僅か0.01%であるなど、とても信じられない。


「私は発令所に降りる。
冬月も付き合うか?」


「当然だ、人を年寄り扱いするな」


「ふっ」


「貴様、ろくな死に方をせんぞ」


「お互い様です」


「・・・確かにな」




二人が発令所に降りたとき、戦闘はすでに終わっていた。




約10分前 発令所・・


「偵察の結果、使徒の主兵器は手腕から伸びる光の鞭と判明したわ。
陸と空からの、距離を取った立体攻撃が有効ね。
レイは、その線で指揮して」


まともに市街地であるため、今回は戦自も国連軍も待機中。
住民は全てシェルターに避難したが、街の被害は最小限に留めたい。

ミサトは難しい指揮を任された恰好となった。


<兵装ビルにポジトロンライフルを用意してください。
実体弾では街に損害を与えます。
まさか、偵察でミサイルなんか使ってませんよね?葛城三佐>


「ポ、ポジトロンライフルを用意すればいいのね、了解したわ」


<・・・使ったんですね>


「た、た、大した被害は出てないはずよ。
鞭で簡単に撃破されたから。
民間のビルがちょこっと傷ついたくらいかな、はははははははは」


実際はちょこっとどころではなく、中規模のビル二棟が崩壊している。
勿論こちらが放ったミサイルが原因ではなく、使徒の鞭に襲われた結果ではあるのだが。
ミサイルを薙ぎ払う際にビルまで巻き込んだというのが事実だ。


<何でもいいから、早く作戦決めて出撃命令出して!
のんびりしてる暇はないはずよ!>


<弐号機は地上に出たらすぐスマッシュフォークを装備し、上空にて待機。
初号機は鞭の攻撃範囲を見極めつつ、使徒の注意を引きつけて。
私はポジトロンライフルで牽制するわ>


<分かったわ、行くわよシンジ!>


<了解!>


シンジの返事が合図のようにオペレーター達の動きが活発になり、全てが動いていく。
もはや、ミサトの出撃命令も必要ない。


<葛城三佐、お話は戦闘後にゆっくりと。
伊吹二尉、出してください>


「了解、零号機射出します
出口は?」


<N−11>


「了解しました。
零号機はN−11から射出、関係部署は付近の安全を確認してください。
先行した初号機と弐号機は・・・」




どんどん状況が悪化していくミサトであった。





ブン!


「ちぃ!」


襲いくる二本の鞭は遙かに音速を超え、衝撃波も伴って初号機を襲う。
だがシンジは紙一重でそれをかわす。
幸いにも衝撃波はそれほどのものではなく、通常より強固に造られたビルに被害が出ることはなかった。

零号機の放つ粒子ビームも、使徒の注意を引きつけているようだ。
そして頃合いを見たレイが上空に待機しているアスカに支持を。


「アスカ、今よ」


「出番てわけね・・・
突撃!


先端が高周波振動する槍を携えた弐号機は、上空から使徒めがけて一直線に降下する。
狙いはコアのみ、ミスは許されない。
一瞬で決着をつけなければ、街はとんでもない被害を受ける。

その動きに連動して初号機が鞭をかいくぐり使徒に肉薄、ATフィールドを中和。
そして・・


ドン!!


スマッシュフォークが使徒の背面からコアを貫き地面に突き立てられ・・使徒はその活動を停止した。
今回も圧倒的と言える勝利。
が、こうなると別の問題も浮上する。


発令所・・


「完璧ね、今回も。
私の出番は無かったけど、結果オーライってやつね。
どうしたの?リツコ」


「確かに手際は見事だし、街の被害も最小限に留められたわ。
だけど・・」


「だけど?」


「あの使徒の死体、どうやって処分するの?
前のやつもまだ残ってるのよ。
データももういらないわ」


「・・・どうしようか」




完璧な勝利と引き替えに抱え込んだ大問題。
ネルフは、以降も同様の問題で頭を悩ませることになるのだ。

常夏の熱気は、容赦なく使徒の体を腐らせる。




翌日 第壱高校 2−A教室・・


「どうしたんだよ、二人とも・・元気無いじゃないか」


「今日から一ヶ月、ケンスケと一緒に便所掃除や。
元気も出えへんわい」


「ケンスケとトイレ掃除?
何やったんだよ」


またいつもと変わらない平和な学園生活に戻ったと思ったら、何やらトウジとケンスケがふて
くされている。
成績優秀とはいかないが、入学してこれまで二人は問題など起こした事はなかったはず。

とすれば、昨日の避難時に何かやらかしたのか。


「お前らの活躍を直接見たくてさ、シェルターを抜けだそうと思ったんだ。
そしたら戦自の警備兵に見つかっちまって、担任共々怒られたよ。
あんなに怒られたの、久しぶりだぜ」


「・・・何だって?」


「おお、中学ん時以来やな。
あん時も絞られたもんやが、今回もやられたで。
まあ、ネルフに連行されんかったのは幸いやったな」


「二人と も、またやったのか!!」


突然のシンジの怒声に、朝の気怠い雰囲気で包まれていた教室が一瞬で緊張する。
ヒカリ達と雑談していたアスカは話を止め、何事かとシンジに近寄ってきた。

シンジがこれほど激昂するのは、入学式以来。


「どうしたのよ、シンジ」


「どうしたもこうしたも、トウジとケンスケがまたシェルターを抜け出したっていうんだ。
今回は戦自の警備が見つけてくれたみたいだけど」


「だ、だから未遂や、未遂。
出てはおらへんで・・そやな?ケンスケ」


「そ、そうさ、そんなに怒る事ないじゃないか。
今回も楽勝だったんだろ?」


高校生にもなって、まだこの二人には社会のルールというものが分かっていないらしい。
前回、同様の事件を起こしネルフでさんざん絞られた事を完全に忘れている。
誰にも迷惑をかけなかったから良かったとか、そういう問題ではないのだ。

アスカも怒りがこみ上げてくる。


「ホントに懲りない連中ね。
自分達が何をやったかまるで分かってないわ」


「たかがシェルター抜け出すくらいで死刑になるとでも言うのかよ。
それこそ人権侵害」


「なるよ、ケンスケ」


「え?」


「使徒との戦闘に関しては、通常のあらゆる法律は適用されないんだ。
市民が作戦を妨害しようとした時の強制排除も許されてる。
しかも排除の手段に規制はない」


「・・・と言うことは」


「そうだ、あの時君達は殺されてもおかしくなかった。
警備兵に感謝した方がいい」


「ウソやろ・・」


これはネルフの秘守義務に違反するが、この二人に現実を教えるためには仕方ない。
現実問題、人類の存亡にかかわる戦闘でこれまでの戦時法など適用している余裕はない。
とにかく勝たなければならないからだ。

いくらネルフが法的保護を受けた特務機関と言っても、こんな無茶が公式に発表できるはずもなく
国連や各国政府との裏条約みたいなものである。


「よく聞くんだ、二人とも。
もし戦闘中に君達が僕の前に現れたとしても、僕は決して戦闘を止めない。
君達と人類を天秤に掛けるつもりはないよ。
それでもシェルターから出たいと言うなら、これからもそうするがいい。
僕は止めない」


「これまでは確かに余裕のある戦闘だったけど、これから先もそうであるとは限らないわ。
この街全てを巻き込む戦闘だってあり得るのよ。
そんな時に、アンタ達を気遣ってる暇なんかないの」


クラスメート達も、これまでの認識がいかに甘かったかという事実をシンジの台詞によって理解
した。
ネルフや戦自は人類の砦であって、第三新東京市市民の砦ではない。

いざともなれば切り捨てる覚悟まで持っているのだと・・
その時には、目の前にいるこの二人が非情な決断をする事もあり得るのだと分かった。

だがそれは彼らが非情だからではない。
彼らに背負わされた任務なのだ。


「勿論、なるべくそんな事はしたくない。
君達は大切な友達だ・・・分かってくれよ」


「すまん、俺が甘かったよ。
もう二度と、こんなことはしない」


ワイも や、目が覚めたで!
ワイはほんまに大バカや!
この通り、許してくれ!」



ケンスケは頭を下げただけだが、トウジは土下座までする始末。
感情の起伏が激しい彼らしいと言えば彼らしいが、シンジにとってはバツが悪い。
何か、かつ揚げでもしてるような気分になる。


「ト、トウジ、そこまでしなくていいからさ」


「いや、ワ イの気が済まんのや!
土下座でも甘いくらいや!」



「ダメだこりゃ・・
アスカからも何とか言ってくれよ」


「じゃ、五体投地して」


「アス カ!!」


「ケンスケ、五体投地てなんや?」


「さあ・・」




この騒動は、朝のHRが始まるまで続いた。
そしてこれ以降、戦闘時にシェルターを抜けだそうとする不心得者は全くいなくなったという。




つづく

次回、「瞬殺 act.2

でらさんから『こういう場合』第二部の第二話をいただきました‥‥トウジとケンスケ、相変わらずの馬鹿ですね‥‥。

別に警備云々が無くても、交戦状態にあるところにわざわざ出てくるなんて馬鹿げていると思うのですが‥‥高校生になっているのにねぇ。

次回から二馬鹿は邪魔しないでもらいたいものです。戦闘とか人の恋路(これはないか)の邪魔とか。

なかなか面白い話でありました。読後に是非感想メールを送って五体投地の意味を教えてもらいましょう!

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