瞬殺 act.2

こういう場合 第二部 第三話

作者:でらさん














朝 第壱高校 写真部部室・・


この日、写真部は異様な熱気と緊張感に包まれていた。

サークル活動にあまり熱心でない部長の代わりに部を仕切る、相田 ケンスケが立案した極秘
プロジェクトを実行する日が来たからだ。

朝早くからこうして部員を集めているのも、各々に割り振られた行動の最終確認をHR前に済ます
ため。
が、女子部員の姿は見えない。
10人ほど所属しているはずなのだが・・


「本当にやるんですか?副部長」


やる!
顧客からの注文はすでに1000件を超えてるんだ。
ここで計画を中止したら、俺の信用に傷が付く」


「顧客って、いつの間に注文なんか取ってたんですか!
これは極秘計画なんですよ!」


「心配するな。
顧客といっても、相手は古くから俺の商品を愛用してくれている上得意ばかり。
万に一つも情報漏れなどあり得ん」


「じょ、上得意・・・ですか」


怪しく眼鏡を光らせ自信に胸を張るケンスケに、居合わせる20人近くの部員達は声も出ない。

高校二年の身空で1000人以上の安定した顧客を抱えるケンスケは、ある意味尊敬に値するのかも
しれない。
ただ、それが真っ当な商売ならの話。


「しかし、大丈夫でしょうか。
相手が相手ですよ」


「確かに、一歩間違えれば命の危険すら考えられる相手だ。
だが、それ故高く売れる。
今回の計画が成功すれば、純利益1000万突破も夢ではない!」


「1000 万!?」


「少ない部の予算に頭を悩ませ、アルバイトで補充するような苦難の時代は今日で終わりを告げる
のだ。
この金を運用すれば、我が写真部は・・・って、鈴木がいないな。
あいつは休みか?」


彼が一番信用する人間である友人の姿が見えない事に、ケンスケはここで気づいた。

今回の計画は、写真部の財政難を何とかできないかというところから始まった。
計画の立案はケンスケだが、その詳細を組み上げたのは鈴木という友人。
その彼がいないと、細部の詰めを誤る恐れがある。


「腹の調子が悪いって言ってましたから、トイレじゃないですか?」


「しょうがないな。
だが、待っている時間はない、作戦の再確認を進める。
三時間目の授業が終わったら、まず」


「こ、困ります!今は重要な会議中で」


「うるさい わね!そこ、どきなさい!?」


ケンスケが話を進めようとしたとき、ドアの外が何やら騒がしい。
誰かが強引に入ろうとしているらしい・・・いや、この声と独特の台詞回しはただ一人しかいない。

現在、ここ第壱高校で綾波 レイと美の覇権を競い、かつ最も危険な女とされている惣流 アスカ
ラングレーその人だ。
彼女がここに来たということは、ケンスケにとって最悪の事態が起こったと思って間違いない。

ケンスケの顔が恐怖で歪められていく。


「さ、最悪だ」


バン!!


通常は手で使用されるドアが、理想的と言われるアスカの美しい足で蹴り飛ばされ、鍵は見事に
壊れて蝶番が一つ吹き飛んだ。
保安部の猛者でも後れを取るという彼女の実力は本物、伊達に10年以上も軍事訓練を受けている
わけではない。
アスカにしてみれば、この場にいる20人全員を制圧するのは容易な仕事である。

その実力をケンスケは勿論、ここにいる全員は知っている。
だからこそ、誰も動けない。


「ど、ど、ど、どうしたんだ?惣流・・大分、ご立腹のようだが」


無駄とは思うものの、ケンスケもとりあえずとぼけてみる。

壊れたドアが近い将来の自分と重なったのは錯覚ではないだろう。
脂汗が一気に吹き出してくる。


「アタシに無断で写真撮ろうとしたわね?アンタ。
しかもスクール水着姿。
舐めたマネしてくれるじゃない」


「な、何のことかな?
惣流とはちゃんと契約してるじゃないか、そんなバカな事を俺がするはずないだろ?」


「あくまでとぼけるつもりね。
でも、これを見てもまだとぼけられるかしら?
ヒカリ!


アスカがドアの外に控えていたヒカリ達数人の女子に声を掛けると、彼女達はある男子生徒を引き
ずるようにして連行してきた。
その男子生徒は、姿の見えなかった鈴木・・何があったのか分からないが、彼が情報漏れの原因
であるらしい。

信頼していた人間だけに、ケンスケの衝撃も大きい。


「鈴木!なぜだ!」


「・・・済みません」


「コイツが彼女に計画とやらを喋ったのが、運の尽きってわけよ。
ヒカリの知り合いだったのよね、その彼女」


「く・・・・・迂闊だぞ、鈴木」


バイト代などをほとんど部活動のために使ってしまい、付き合っている彼女へろくにプレゼントも
できない鈴木は、この機会に何かプレゼントしたいと思って、彼女の希望を聞いてみたのだ。
しかし鈴木が金に苦労している事を知っていた彼女は、何でも買ってあげるという彼の言葉に不審
を持ち、金の出所を問いつめたのである。

根が正直な鈴木は彼女の問いに抗うこともなく全てを告白し、それが知り合いのヒカリに伝えられ
現在の状況になるわけだ。


「こうなったら、言い逃れは不可能よ。
覚悟決めなさい」


右拳を左手の掌にたたきつけながら、アスカがケンスケに歩み寄ってくる

見慣れたアスカの顔は相変わらず美しい。
怒った顔も絵になるほど・・

が、その顔もこれで見納めになるかもしれない。


「わ、分かった、責任は全て俺に」


腹をくくったケンスケが責任の全てを一身に受けようと覚悟したとき、突然アスカの歩みが止まる。
そして携帯を取り出すと、ディスプレイの情報を確認・・マナーモードにしていたらしい。


「・・・非常招集。
続きは後よ、アンタ達もすぐ避難しなさい!」


態度を豹変させたアスカは、全力でその場を立ち去っていく。

彼女の発した残り香がケンスケの鼻をくすぐるが、今はそれどころではない。
アスカが非常招集ということは、ネルフの訓練・・または実戦。
じきに校内放送で、避難の指示があるはず。


「とりあえずは助かったか・・」




ケンスケの安堵は、長いものではなかった。
使徒はいくらの時間も稼いではくれなかったのだ。





ネルフ本部 発令所・・


時を置かずして襲来する使徒にもネルフは慣れたようで、職員達は使徒襲来の報にも落ち着いて
対応し、ここ発令所も整然と事は動いている。

中でも名目上の使徒戦最高指揮官である葛城 ミサト三佐は、笑みまで浮かべている余裕だ。
女性の天敵とも言える夜勤明けだというのに大したもの、彼女を見直した職員も多いだろう。

だが、遅れて入ってきた彼女の親友であるリツコには、その態度が癇に障った。


「これから戦闘という時に不謹慎よ、ミサト。
下へのしめしがつかないわ」


「いいじゃない。
すでに使徒の能力から弱点まで調べ上げたわ。
今回も楽な戦いになりそうね」


「早いのね。
発見から、まだ幾らの時間もないのに」


「私だって、やる時はやるんだから。
レイに助けられてばかりじゃないのよ」


ミサトのこんな生き生きとした姿は、久しぶりに見た感じのするリツコである。
初戦の使徒戦以来か。

ミサトが何かと難しい立場にいることは分かってはいる。
そんな彼女を助けてやりたいが、なかなかうまくいかないのも現実。
そのようなリツコとしてみれば、ミサトの元気な様子はほっとする。
不快感はすぐに消えてしまった。


「日向君、司令は?」


「保安部からの報告によると、まだ本部に着かないそうです」


「副司令は第二に出張中・・・って事は、ここは内規に基づき私が全権を行使します。
エヴァの状況はどう?」


「パイロット三名は、すでにエントリーして待機。
いつでもいけます」


「使徒の動きは?」


「現在、芦ノ湖上を微速にて侵攻中。
戦自と国連軍は射程外から警戒しています」


発令所の巨大なメインモニターに映し出されたモニュメントのような使徒は、生物という概念から
はほど遠い。
ピラミッドを二つ組み合わせたような、ほぼ正八面体の幾何学的形状。
その表面は空を映す程に高い光反射率を持つ平面で構成され、手足、体毛などの動物的特徴は一切
見あたらない。

目鼻などの知覚器官も見当たらないが、数回の偵察攻撃により精度の高い知覚器官を有している事は
確実と見られている。

主な攻撃手段は強力な加粒子砲で、MAGIはそのエネルギーをこの国の総発電量に匹敵すると
弾き出した。
が、二年前なら狼狽えたであろうその報告も、現在では”その程度か”という認識でしかない。

現在では、一番出力の低い零号機でもその二割り増しの出力をS2機関から得ているのだから。


「敵が芦ノ湖上に在る内に片付けるわ。
エヴァ各機は三方向から音速以下で突撃、接近戦でとどめを刺して。
同時に複数方向に攻撃できないのは実証済みだし、ATフィールドの強度はMAGIのお墨付きよ。
安心して」


<了解しました、葛城三佐。
初号機はアクティブソードを使います>


<珍しく指揮官してるじゃない、ミサト。
どうかしたの?>


「軽口たたいてる暇があったら、装備の注文しなさい。
時間がないわ」


<はいはい、弐号機はスマッシュホークね>


<零号機もスマッシュホークでお願いします>


「伊吹二尉、手配をお願い」


「了解です」


懐かしい感じまでする状況に、マヤの動きもどこかぎこちない。
ミサトの指示で動くというのは、久しぶりの事だ。

しかしそこはプロ、手配はすぐに終わる。


「手配終わりました」


「ようし、行くわよ・・・
エヴァンゲリオン、全機発進!




二本の槍と一本の巨大な太刀で同時にコアを貫かれた正八面体が芦ノ湖に没したのは、この号令から
五分も経たない後の事であった。

初めて自分の指揮で使徒を殲滅したミサトが感激の涙を流したのは、おまけ。





同日 夕方 第壱高校・・


通常、戦闘があった場合は色々な事後処理を抱えたパイロットが当日に学校に復帰することはない
のだが、今日はあまりに時間が早かったのとアスカ自身の都合で再び学校に舞い戻った。

いつもと違う点は、シンジを伴っていない事。
彼はネルフで事後処理に付き合っている。

何をするにもシンジと一緒でないと気が済まない彼女にしてみれば、異常とも言える事態だ。
代わりにレイが同伴しているのも、また異常と言えるかもしれない。

そのレイと1−Aの女子生徒全てを従えて、アスカはケンスケを目前にしている。
床に正座した彼は、まるで裁きを待つ罪人のようだ。


「事情は鈴木ってヤツから大体聞いたわ。
アタシ達のスクール水着姿を隠し撮りして売りさばくつもりだったらしいわね。
やってくれるじゃない」


「わ、悪いとは思ってるが、写真部の予算は本当に少ないんだ。
そこは分かってくれよ」


「ふざけん じゃないわよ!
そんなの、そっちの勝手な都合じゃない!」



「す、済み ません!!」


一応の反論を試みたケンスケだが、すぐに失敗と分かり土下座して謝罪する。
アスカに同情を求めたのは完全な間違い。
彼女が優しさを見せる対象は、かなり限られている。
シンジに対しては、ほぼ無条件なのだが。

ところが土下座までするケンスケに憐れみを感じたのか、ヒカリが間に入った。

ケンスケは昔からの友人だし、事情を考えればあまり責めるのも酷との考え。
それにスクール水着くらいなら、ヒカリとしてはどうという事もない。
というより自分の写真が売られるというのは、何となく自尊心をくすぐられる。


「まあ、今回は未遂だったんだしさ。
相田も土下座までしてるんだから、アスカも許してあげたら?」


「うう・・洞木、君はなんて優しいんだ。
俺はいい友人を持ったよ」


涙まで流すケンスケの姿は、とても演技とは思えない。
他の女子達もそれほど怒ってはいないようだし、間が空いたせいか自分の怒気も薄らいでいる。
ここは自分が引いた方がいいと、アスカは判断した。


「こんな幸運は二度とないわよ。
シンジにも黙っといてあげる・・・意味、分かるわね?」


「は、は い!!ありがとうございます!!」


真面目な話、シンジに事が知れたら命が危ない。
彼の危険性はアスカ以上だ。
何だかんだ言ってもアスカは加減というものを知っており、素人に本気出す事はほとんどない。
が、シンジは相手が誰であろうと見境なく全力を出す。

よく野外キャンプに訪ねてくる加持も、シンジに恐怖を感じると言っているほどだ。
まがりなりにも訓練を受けた本職が恐怖を覚えるなど、尋常ではない。


「そんなに部の予算が厳しいなら、レイとかヒカリの写真も売れば?
いいわよね?レイ、ヒカリ」


「わ、私は、別に構わないわよ。
普通の写真ならね。
綾波さんは?」


「私もいいけど、相田君に質問が一つあるわ」


「な、何かな」


「何でスクール水着なの?」





とても女の子達の前で説明できる内容でないため、ケンスケが説明に窮したのは言うまでもない。
終いには聞いている方が恥ずかしくなり、アスカとヒカリが後で説明する事にしたという。





つづく

次回、「機械人形」





おまけ


「だから、世の中には普通の水着よりああいった水着に興奮する男もいるの。
アンタにも男が出来れば分かるわ」


「おかしいわ、学校で着る水着の方が明らかに表面積が大きいもの。
男の人は、裸か裸に近い方を好むってリツコさんも言ってた」


「あら、そうでもないわよ綾波さん。
制服が好きな人とか、色々いるんだから」


「そうよ、シンジなんて最近はアタシにいろんな恰好させて・・・って、
なに言わせんのよ!


「そういえば、アスカはよくプラグスーツを新調するわね・・
使い古しは持ち帰ってるみたいだけど」


「プラグスーツって、あのウェットスーツみたいなやつでしょ?
アスカったら、そんな趣味まであったの?」


「アタシじゃなくて、シンジが着てくれって言うから・・
あっ!!
今のは無 し!間違い!


「自爆・・無様ね」




最近はシチュエーションに凝っているらしい、高校生バカップルであった。

でらさんから『こういう場合』の第二部第三話をいただきました。

相田もこりないですね。しかしスクール水着写真の販売‥‥まだ着替え写真で無いだけマシというべきなのか、淫靡な変態趣味が最悪というべきなのか。

と、写真の話のインパクトで影が薄くなっていますが使徒との戦いは滅茶苦茶順調なようですね。

電源は確保出来ているだろうと思っていましたが、ATフィールドも対応出来ていたのですか。3方向から長距離射撃とかやるかと思っていましたがもっ とあっさりでした。

2年も用意する時間があればこんなものかもしれませんね(笑)

淫靡な変態の世界を垣間見せてくれた(爆)でらさんに是非感想メールを送りましょう!

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