第十三話 こいのうた

あぐおさん:作


「はあ~~~~~~」
夜、アスカは思わずため息をついた。明日のことを考えるだけで気が重い。
「な~~~んで、あんな約束しちゃったのかしら・・・」
自分の行動の浅はかさを今更ながらに後悔する。



教室でヒカリに話しかけられた。
「アスカ、昨日メール送ったけど見てくれたの?」
「メール?ごめん。まだ見てない」
「ほら、明日デートでしょ?その待ち合わせ場所とか書いてあるんだから、ちゃんと見てよ」
「デート?誰と?」
キョトンとした顔を浮かべるアスカ、ヒカリは思わず空を仰いだ。
「あのね、明日コダマお姉ちゃんの友人のイケメンとデートでしょ?」
「・・・・あっ・・・・」
「・・・もしかして、忘れてた?」
「あっはははは・・・・・」
「あっきれた。しっかりしてよ。向こうの人楽しみにしてるみたいだから」
アスカはヒカリとしたデートのことなどすっかり頭の中から抜け落ちていた。頭の中はシンジとどこへ行こう?というものだけだった。
アスカはあの日以来シンジに対してデレ気突入している。それはクラスの女子から見れば一目瞭然なのだが、男子、特にシンジは全然わかっていない。アスカ本人はその想いは恥ずかしいので人前ではツンケンしているようにしているが、その中にシンジに対する甘えの部分が滲みでているため恋愛に敏感な女子からしてみればバレバレなのだ。ヒカリはシンジとくっつくなら構わないが、自分が企画したデートを忘れてもらっては困ると釘を刺したつもりが見事に忘れられていた。
アスカとしてはそんなわからない人とは一緒にいたくない。しかし親友との約束を破るのはモラルとして許せない。散々悩んだ末に出した答えが“行くだけ行ってすぐに帰っちゃおう”作戦だった。相手からすれば失礼なことこのうえないのだが、そんなこと知ったことじゃない。アスカはさっさと帰ってきてシンジとどこか出かけようと思うのだった。



当日、アスカはデート(仮)、ミサトは友人の結婚式とおめかしをしてご飯を食べている。
「ミサトさん、今日遅くなりますよね?」
「そうね、友人の結婚式だしね~」
「お呪いにいくのですね。わかります」
「シンちゃ~ん?お呪いじゃなくて!お!い!わ!い!漢字が似てるけど、お祝いよ」
「ミサトも早く結婚したほうがいいんじゃないの~?」
「別に焦ってないから、三十路前だからって焦った奴を笑いに行くだけだから」
「そんなんじゃミサトは結婚は無理よね~家事できないし、ビヤ樽だし」
「お酒と女は熟れたほうがいいって聞いたけど、ミサトさんは・・・ちょっと・・・」
「お前らなんか私に恨みでもあるのか?」
「それよりも!シンジは今日予定ないの?」
アスカは自然にシンジの予定を確認する。ないならそれで速攻で帰宅するつもりだ。
「僕?僕は・・・・一応出かけるよ。夕飯までには帰るけど」
「・・・どこ、行くの?」
「もしかして~~~シンちゃんもデートだったりして!」
「デートではないですけど、一応相手は女性ですね」
「!!!!・・・・誰?・・・」
アスカが豹変する。
「アンタ!誰と会うつもりなのよ!ファースト!?それともこの前ラブレターよこした小娘!?吐きなさい!」
「だから!遊びに行くんじゃないってば!」
「じゃあ何しに行くのよ!」
「べ、別にいいじゃないか!」
「まあまあ、アスカ、シンちゃんもお年頃なんだから!それより大丈夫なの?時間」
時計を見ると待ち合わせまでそんなに余裕はない。アスカ渋々デートに向かった。ミサトもすぐに部屋を出ていく。シンジはひとり部屋に残った。メモが書かれた紙を見る。
(母さんの墓参りなんて・・・ホント、今更だよな・・・)
キョウシロウと過ごしていたときに渡されたその紙には母親の墓の場所が記してある。ずっと彼らから行くように勧められていたのだが、遠いというのと何の情もなかったため避けてきたのだ。シンジは制服ではなく、普段着を着て墓参り行こうとした。



アスカはデートの待ち合わせに向かっているが、気持ちがモヤモヤしている。シンジが会う女というのが気になって仕方がない。シンジと接触しようとした女子の顔を思い浮かべるがどうも違う。では年上か?じゃあ誰だ?自分の知らない女?アスカの足が止まる。ふと携帯電話を取り出して電話をかけた。
「もしもし?ヒカリ?ごめんね~今日なんだけどさ」



シンジはマンションを出ると駅に向かって歩いていく。その後ろ10Mにある電信柱の陰からアスカはひょっこり顔をだした。
「ふっふっふ・・・アンタが会う女がどの程度の女か見てあげるわ・・・・・」
邪悪な笑みを浮かべながらアスカはシンジを尾行し始めた。



駅に向かって歩くシンジ、その後ろを電信柱に隠れながら尾行するアスカ。金髪にグリーンのドレスを着た少女がいるというだけでも目立つというのにその後ろをヒョコヒョコ歩いては電信柱に隠れる光景は実にシュールだ。彼らを見守る諜報部が腹を抱えて大笑いしている。後にその様子はビデオに撮られ“笑ってはいけないネルフ諜報部編”としてネタ扱いされたのは別の話だ。
当然シンジにもバレている。
(バレバレだよ。アスカ・・・)
下手な探偵ドラマを自でいくアスカの尾行があまりにもシュール過ぎて撒く気すら削がれる。シンジはそのままほっておくことに決めた。
(ふっふっふっ・・・・完璧な尾行だわ!さすがアタシ!)
気づいてないのは本人だけである。


シンジは電車に乗ると郊外で降りる。そこは閑静な住宅地だ。アスカも後に続く。尾行はそのまま継続されて周囲から白い目で見られる。
(まだついてくるな~それなら)
シンジの心に悪戯心が沸く。シンジは角を曲がる。アスカは少し待ってからシンジの後について角を曲がると、その先にシンジの姿はなかった。
「あ、あれぇ?どこ行ったのかしら?」
辺りを見回すが店が何軒か並んでいるだけでシンジの姿はない。どうしよう?歩きながらそう思っていると後ろから声をかけられた。
「アスカ」
「ひゃぅん!」
「・・・・何やってるの?」
後ろを振り返るとシンジが花束を持っていた。
「な、なな、何って・・・そう!デートの待ち合わせ場所に向かってたのよ!」
「・・・ここ住宅地だよ?遊ぶ場所なんかないよ?」
「あわわわ!そのつもりだったけど!中止になっちゃって!それで・・・その・・・適当に・・・ぶらついてて・・・」
(ひでえ言い訳だな・・・)
「そっか、残念だったね。・・・もし暇ならアスカも来る?」
「へ?」
「僕の用事に付き合うか?って」
「そ、そうね・・・そうするわ」
アスカの希望としては願ったり叶ったりの状況だ。アスカはシンジの後について来る。
「どこに行くのよ」
「・・・来ればわかるよ」
(女のところだったら・・・ぶっ殺す・・・)



シンジ達は住宅街を抜けると小高い丘に向かう。そこには小さなモニュメントが並んでいた。
「ここって・・・」
「うん、墓地だよ」
中に入り目的の場所にいくと、そこにはゲンドウが立っていた。
シンジは隣に座り花を手向けると手を合わせる。アスカは墓標の名前を確認した。
(碇ユイ・・・これって!シンジのお母さん?)
シンジは立ち上がるとアスカのところへ向かう。ゲンドウが口を開いた。
「シンジ」
「・・・なんですか?司令」
「なぜここにセカンドチルドレンがいる」
「なんででしょうね?他界した母に紹介させるためというのはどうですか?」
「ちょっと!シンジ!?」
「そうか、お前の好きにしろ」
(え?これって公認?そうこと?)
顔を赤らめてモジモジしはじめるアスカ、シンジとゲンドウは視線を合わせることもしない。
「それでは失礼します」
「待て。シンジ。質問に答えろ」
「なんでしょうか?」
「お前が叔父の家を飛び出していったのは先日わかった。だがそのときお前は4歳。子供が生活できるわけがない、にも関わらず消息すらこちらは掴めていない。貴様、今までどこにいた」
「叔父に聞けばいいじゃないですか」
「彼らはもうこの世にはいない。5年前に一家心中している」
「はははっ先物やって大損したってのは本当だったのかな?自業自得ですよ」
「そんなことはどうでもいい。もう一度聞く。今までどこにいた?」
「・・・家族のところですよ」
「家族?家族とは誰のことだ?」
「司令じゃないことは確かですね。もういいですか?」
シンジはアスカの手を引いてその場から離れた。ゲンドウは墓標見たまま動かなかった。
「家族・・・か・・・」



シンジ達が歩いていると、出口にひとりの少女が立っている。
「綾波・・・」
「こんにちわ、碇君。それと、セカンド」
「・・・随分と差をつけた呼び方するのね」
「碇君、少し席を外して。セカンドと話がしたいの」
「わかったよ。アスカ、門を出たところで待ってるよ」
シンジがいなくなるのを確認すると視線を二人はぶつけあった。
「それで?話ってなにかしら」
「碇君から、手を引いて」
「・・・・はあ?」
「あなたじゃ無理。碇君を支えられない。私が碇君を支える」
「へ~面白いこと言うじゃない。司令の人形と思ってたけど、そんな台詞も言えるようになったのね」
「私、人形じゃない」
「そうね、お人形じゃそんなこと言えないものね。でも、シンジはアタシのものよ。絶対にアンタなんかにあげないわ」
「無理、あなたは違う。私だけが、碇君を支えられる」
「・・・・根拠を教えてもらおうかしら?」
「私と同じ匂いがするから、垢にまみれて薄汚れた犬の臭いよ。あなたは違う」
「犬の臭いね・・・ま、アタシには関係のない話ね。シンジだけがアタシの心に触れた。シンジだけがアタシの心の氷を溶かしてくれた。アタシにはシンジ以上の男なんていない。だから、あげない」
「そう、後悔、するわ」
「アンタがね。でも正面から喧嘩を売ったのは評価してあげるわ。レイ、今度からアスカって呼んでいいわよ」
「命令なら、そうするわ。セカンド」
二人はそれ以上なにも言わずにすれ違った。
「シンジ、お待たせ」
「うん、何話したの?」
「別に、話をしてお互い認め合っただけよ。レイも」
「・・・名前で呼ぶようになったんだ。仲良くなったんだね」
「違うわ。寧ろ決裂ね。で相手のことを認めたのよ。ライバルとしてね」
アスカはシンジに近づいてその匂いを嗅ぐ。その匂いは微かに血の臭いがした。



二人は並んで来た道を戻る。丁度時刻は正午だ。
「ご飯どうするかな~」
「街まで戻って食べに行こうよ」
「時間かかるけどいいの?」
「この際仕方がないわよ」
街まで戻れば何かと理由を付けてシンジを連れ回そうとアスカは考えている。彼らの姿を観察する視線がある。そしてその人は近づいてきた。
「なに食べようかな?今のうちに店決めちゃおうよ」
「そうね、でもアンタのオゴリだからね」
「そりゃないよアス・・・」
「シ~ンジ!」
「うわっぷ!」
呼ばれると同時にシンジは後ろから抱きつかれた。後頭部に柔らかい感触がする。
「な!なななななな!なんなのよ!アンタ!」
「うん?デートしてたの?シンジ君」
「って・・・・マイカさんじゃないですか!お久しぶりです!」
「え・・・?知り合い?」
「うん、ほら!前会った白鳥さんの奥さんだよ」
「初めまして、白鳥マイカです」
そう名乗る女性は白人で金髪のショート、服の上からでもわかるくらいグラマーな体つきをして顔もかなりの美人だ。
(ま、負けた・・・・)
アスカは激しく落ち込んだ。
「シンジ君デートしてた?こんな可愛い子と」
「いや、そういうわけじゃないでごぶあ!」
シンジの脇腹にフックが突き刺さる。
「余計なこと言うな・・・」
(アスカ!恐ろしい子・・・!)
マイカは二人を見て思わず笑い出してしまった。
「良かったらうちにこない?お昼ご馳走するわ」



白鳥家の家にお邪魔した二人はマイカの料理を楽しんだ。お茶を飲んで一服する二人。
「ふ~焙じ茶はいいわね~日本の文化の極みだわ」
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「ふふふっお粗末様でした」
「いいわ~マイカさんあの白鳥さんが旦那さんだなんて、羨ましいわ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
マイカは実に嬉しそうに笑う。
「そういえばマイカさんって子供はいないんですか?」
アスカの質問にマイカとシンジの動きが止まった。
「アスカ・・・それは・・・」
「あ、ご、ごめんなさい。聞いちゃまずかった?」
マイカは首を横に振り、アスカの顔を見る。
「シンジ君はもう知っていることだけど、私はデザインヒューマン、人間じゃないのよ」
「え?どういうことですか?」
「人の遺伝子によって作られた云わば人造人間みたいなものね。私は・・・ダッチワイフだったわ。好き勝手弄られて、そして捨てられたの。そんな私を拾ってくれたのが、主人よ」
「そうだったんですか・・・ごめんなさい。気軽に聞いちゃって」
「いいのよ。昔のことだし、それに・・・こんな人生じゃなかったら主人に出会えてなかったんですもの・・・寧ろよかったとも思うわ。アスカちゃんは外国から日本に一人で来たんでしょ?大変よね。ご両親と連絡はしてるの?」
「ママは亡くなりました。パパはいません。私生児ですから」
「そう、ごめんなさいね」
「いいんです。もう昔のことですから。ふふふっなんか似ていますね。私達」
「そうね、なんだか妹ができた気分だわ」
笑い合う二人、シンジも釣られて笑った。
「マイカさん、お手洗い借りてもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
シンジは席を外す。マイカとアスカは向か合う。
「アスカちゃん、あなた、シンジ君のことどう思っている?」
「ど、どうって・・・その・・・」
思わず顔が赤くなる。マイカはその反応を見て微笑んだ。
「シンジ君はね、欲しいものは壊され、大人の都合で心を汚され、そんな過酷な人生を送ってきたの。キョウシロウさんに会うまで・・・あの子強い子ってイメージあるでしょ?」
「は、はい・・・違うんですか?」
「違うわ。あの子は・・・シンジ君は守りたい人のためなら手段を選ばず守ろうとするわ。でも、それは諸刃の強さ。その“守るべきもの”の中に自分の命は含まれていないの。一歩間違えれば奈落の底に落ちる。例えるなら、全てを切り裂く抜身の刀。このままだと必ず自分も周りも全て切りつけて死ぬわ。そうなる前に、彼を・・・彼の鞘になってほしいの」
「そんな・・・自信ありません。アタシはシンジに甘えっぱなしで・・・そんなに強くないです」
「そんなことないわ、今は弱くてもあなたはこれからどんどん強くなるわ。だって、恋をしているんですもの・・・女は恋をして殿方を想いそして強くなるわ。自信を持ちなさい」
「はい!ありがとうございます。あの・・・またここに遊びに来てもいいですか?」
「いつでもいらっしゃい。歓迎するわ」



結婚式二次会会場
「あの子達大丈夫かしら?」
ビールを片手にミサトが呟く。加持がそれに答える。
「シンジ君とアスカがか?大丈夫さ。二人仲良くやっているだろ?」
「仲はいいけどさ~あの失敗以来デレ期突入しちゃって、やけにシンちゃんに甘えた態度とったりするのよね~何吹き込まれたか知らないけどさ」
「心配しすぎだよ。ま、あの年頃は難しいからな」
「あの年頃だから心配じゃない!」
「ふふふっまるで我が子を心配する母親と父親ね」
「おっ!リっちゃん良いこと言うね!」
「・・・やめてよ・・・」
揶揄うリツコ、加持はまんざらでもなさそうに笑い、ミサトは本気で嫌そうな顔をした。


葛城家
家に帰ってきた二人は夕食を食べている。アスカのリクエストでハンバーグだ。
「どう?アスカ」
恐る恐る感想を聞くシンジ、アスカはウンウンと頷く。
「まあまあね」
「そっか」
「・・・・ごめん。今のウソ。美味しい・・・」
「・・・・うん、ありがとう・・・」
「アンタ本当に料理だけは上手よね~」
「向こうで教えてもらったからね」
「向こうって、お世話になったって人のところ?」
「うん、シノさんって言うんだけど、その人から家事は一通り教わったんだよ」
「ふ~ん・・・アンタそこで何やってたのよ?」
「・・・なんでそんなこと聞くの?」
不思議そうな顔を浮かべるシンジ、アスカは顔を真っ赤にしながら目を背けた。
「べ、別にいいじゃない。興味よ。興味」
シンジは箸を置くとゆっくりと話し始める。
「僕がお世話になった人は廻キョウシロウさんという人でね。シノさんは奥さんなんだ。そこにバビンスキーもいて、自給自足の生活をしてたんだよ。農業半分、マタギ半分って感じかな?」
「リアルモンスターハンターかい」
シンジはアスカに事細かに当時の生活を話した。アスカにとって原始的な生活をしてきた話は実に興味を注がれた。アスカはシンジの話を面白おかしく聞いていた。



結婚式三次会会場
ミサトは夜遅くなることを伝えるために席を外している。リツコと加持は二人で飲んでいる。
「久しぶりだな。三人で飲むのも・・・」
加持は懐かしむように呟く。リツコは静かに頷いた。
「ミサト、少し飲み過ぎじゃない?なんだかはしゃいでるみたい」
「浮ついた自分を抑えるために、また飲んでいる・・・今日は逆か・・・」
「流石ね、一緒に暮らしていた人の言葉は重みが違うわね」
「同棲してたって・・・あんなのガキのおままごとさ。現実は甘くないさ。あ、そうそうこれ“お土産”気に入ると思うよ」
加持はそう言ってリツコにディスクを渡した。
「結論から言うと学部としては所属してた形跡がまるでない。誰かに教わったんだろうな。交友関係の中に一人心理学を専攻していた人物がいる。名前は八角サクラ、旧姓花園サクラで元女優だ。中に詳しい情報が入っている」
「仕事が早いのね。どこから仕入れたの?」
「驚くべきところから協力者が出来たのさ。今は彼らと協力関係にある」
「大丈夫なの?そこは」
「ああ、信頼できる。それでだ・・・もう少ししたらゼーレとは手を切るよ。そして彼らと手を組むつもりだ」
「あまり無茶しないで、彼女を泣かせたら・・・ダメよ」
「・・・わかってるさ。しかし、遅いな葛城のやつ。化粧直しでもしてるのか?」


「もしもし?シンちゃん?私よ。今三次会でね~」



葛城家
「はい、はい、わかりました。気を付けて」
「なんだって?ミサト」
「帰るのおそくなるってさ」
アスカはニヤリとした。
「これは、お持ち帰りされる気満々ね!」
「さすがにそれは・・・」
「じゃあ賭けてみる?駅前のケーキ屋のチーズケーキ賭けて」
「いいね~僕は帰るほうで」
「それじゃ、アタシはお持ち帰りで・・・」
まるで加持のことを気にしていないアスカにシンジは疑問を抱いた。前は加持さん加持さうるさいほどだったからだ。
「アスカさ・・・加持さんのこと好きじゃなかったの?随分吹っ切れているというか・・・」
「・・・そうね、加持さんは好きだけど、恋愛感情じゃないって分かったから、パパの理想像を合わせていただけね・・・」
「そっか・・・」
「それより、シンジは全部終わったら本当に帰るつもりなの?」
「うん、そのつもりだよ」
「じゃあ・・・アタシも連れてってよ!そのキョウシロウさんって家に」
「いいけど・・・なんでまた?」
「なんか聞いてたら、そういう生活もいいかなって。教授もいるから勉強も出来るし」
「・・・・そんなに甘くないよ?」
「なによ?馬鹿にする気?」
「そうじゃなくて、解体とかできる?あれやれなきゃ話にならないよ?」
「・・・・ちょっと考えを改めるわ・・・それより・・・話してたらさ・・・したくなっちゃった。いいでしょ?」
「・・・・わかったよ」



帰り道、加持はミサトをおんぶしながらミサトの家に向かっている。途中嘔吐したためミサトはおんぶをされたままだった。
「いい年して吐くなよ・・・」
「悪かったわね・・・いい年で・・・」
「ははっいい年はお互い様か・・・」
(おんぶ・・・か・・・)
ミサトは体を起こすと加持の背中から降りた。
「ありがとう。ここから歩くわ」
「ああ」
付かず離れず微妙な距離を保つ二人、ミサトが呟く。
「ねえ、私・・・変わったかな?」
「そうだな、綺麗になった」
「ねえ・・・あの時一方的に別れちゃってごめんね。好きな人ができたって・・・あれ嘘。気づいてた?」
「いや?」
ミサトは加持を見ないで話を続ける。
「気づいちゃったのよ。加持君、私の父に似てるって・・・ずっとわからなかった・・・父を憎んでいたのに、同じ人を好きになる。ただ、たまらなく怖かった・・・敵討ちなのか、復讐なのか。自分でもわからないままネルフに入って、それも父のいたところで・・・」
「葛城が選んだ道だ。俺がどうこう言うものじゃないさ」
「うん・・・でも、それすら逃げていたかもしれなくて、そしたらね、彼が言ったの。“大事なのは前を見て歩くこと”って」
「・・・彼?」
「シンジ君、こう言ってくれたわ・・・“許せないなら、僕が許します。だから幸せになってください”って・・・」
「・・・いい男だな・・・シンジ君は」
「ねえ・・・私・・・幸せになれるかな?こんな私でも幸せになっていいのかな!?」
ミサトは振り返って加持を見た。その目には涙がうっすらと浮かんでいる。
「葛城・・・」
「みんなの犠牲の上で生きているのよ!?薄汚い女なのよ!そんな私が幸せになっていいと思う!?」
「葛城」
「・・・欲しいよ・・・私だって人並みの幸せが欲しいよ!許されないわよ!私は!私は!」
加持はミサトの口を自らの口で塞いだ。ゆっくりと力が抜けて加持にもたれかかる。加持は真っ直ぐミサトの目を見た。
「葛城、俺が、俺がお前を幸せにしてやる!俺が葛城を許してやる!」
「加持くん・・・」
「葛城・・・いま、ここで、8年前に言えなかった言葉を言うよ」
「加持・・・くん・・・」
「葛城・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」





「オレ、オマエ好キ。オマエ、オレノコト、好キカ?」
「雰囲気ぶち壊しよ!!!」




葛城家
シンジとアスカはシンジの部屋で二人きりでいる。
「アスカ・・・いい?」
「さっさとやりなさいよ・・・・」
「いくよ?」
「・・・・あっ!硬い・・・」
「アスカ」
「うっ!痛っ!」
「アスカ!大丈夫?」
「大丈夫よ・・・」
「やっぱ無理だよ・・・やめようよ」
「ダメ、最後までやるの・・・」
「・・・わかったよ」
「キャッ!」
「シンジ・・・シンジィ・・・」
「アスカ!」
「ああああああああ~~~~~!」
「アスカ~~~~~~~~!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「アンタ本っ当に援護下手ね!よくそれで上位までこれたわね!」
「だから無理だって言ったじゃないか!リオレウス希少種に勝てるわけないよ!」
「あ~~~ヒカリとやればよかった」
(委員長、アスカにモンハンなんて教えないでよ!毎日ハンター生活だよ!)
最近アスカはヒカリの家に遊びに行った時に遊んだモンスターハンターにハマっている。シンジは興味がなかったのだが、アスカに脅されるがままゲームをしている。
「さあ!もう一回よ!」
「またかよ・・・」
ウンザリした表情を浮かべながらも準備を始めると、呼び鈴が鳴った。
「・・・僕の勝ちだね。アスカ・・・加持さんがミサトさんを送ってきたんだよ。きっと」
「げっ!マジで?」
二人が玄関のドアを開けるとバビンスキーがいた。
「バビンスキー!」
「教授!おかえり!」
「深夜に悪かったな。手間取って帰るのが遅くなっちまった。あ、アスカ、これ言われてた本だ。ドイツ語で書かれているから見やすいと思う」
「ありがとう!教授」
「バビンスキー、なにか食べる?」
「いや、いい。それより二人に話がある。今までシンジにだけ話をしてきたが・・・アスカも知っておいたほうがいいだろう。これは機密にあたるものだからな。他言無用だ」
「司令がリツコさんとデキてる話?」
「うわっ!それきついわ・・・トラウマよ・・・」
「いや・・・そっちもある意味機密だけどな・・・そうじゃない」
バビンスキーは二人に話をした。その内容は彼らに衝撃を与えるのには十分な内容だった。明日、アスカは賭けに買ったことすらも忘れるほどだった。
「なんだよ・・・なんなんだよ!」
「そんな・・・アタシ達・・・なんてモノに乗っていたの!?」





ネルフ某所
加持は壁に背をあずけて立っている。そこへミサトがやってきた。
「よう!二日酔いは大丈夫かい?」
「ええ、お陰様で。ところでこんなところに何の用があるの?」
「ネルフの秘密さ」
「加持さん、待たせたね」
いきなり後ろから声がした。
「誰!?」
銃を構えて後ろを振り向くと、そこにはキョウシロウがいた。
「あなたは・・・誰?」
「この人は廻キョウシロウ。昨日言っていた協力者さ」
加持はミサトに全てを話した。スパイをやっていること、そして協力者がいること。
「加持君!?あなた部外者を!・・・ったく問題ありすぎよ!」
「ははっ俺は不良職員だからな。廻さん、この女性が・・・」
「葛城ミサトさんだろ?知っているよ。ウチのシンジが世話になっているって」
「え?あなたがシンジ君の育ての親!?」
「そうさ」
「おいおい・・・聞いてないぜ・・・そんなこと」
「悪い悪い。シンジになにかあると困るからな。それよりこの奥には何が?」
「ネルフの秘密って奴さ・・・このことは葛城ですら知らされていない情報がある。それが・・・これさ!」
加持はIDカードを使ってドアを開けると中に白い巨人が十字架に貼り付けにされていた。
「なっ・・・なんだこの化け物は!」
「なに・・これ・・・まさか・・・」
「これが第二使徒リリス。ちなみにアダムは・・・司令が持っている」
「・・・これが・・・八角博士が書き残したやつか・・・」
「こんな近くに・・・確かに、ネルフは私が考えているより、甘くないわね」
白い巨人を睨みつける3人。真相はまだまだ遠いところにあると感じざるを得なかった。




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あとがき
あぐおです。この話を書いているときにたまたまBGMでGO!GO!7188のこいのうたが流れていたので、そのまま付けた感じになりました。個人的にすごく好きな曲です。「きっと今の私には あなた以上はいないでしょう」というフレーズが私的には実に“アスカっぽい”印象が浮かんでしまいますが皆様は如何でしょうか?
次回は2話連続で本編から少し外れて鋼鉄のガールフレンド編にいきます。お楽しみいただければ嬉しい限りです。

あぐおさんからの連載いただきもの週末2話更新です!!
今回はシンジとアスカの距離がまた縮まりました……。それと、加持が告白の続きを。なんだそれはwww
あと、なんだかリリスとかいろいろ重要な発見?もあったみたいだけどそれはいいですね。
次回二話は鋼鉄編になるもよう。期待して待ちましょう。

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