第十一話 疑惑

あぐおさん:作

京都
とある廃ビルの中に加持はいる。ジャケットの中に手を入れていつでも銃を抜けるようにしている。加持は銃を抜いて構えると同時に扉を開けて中へ飛び込む。そこには業務用の机が2つ、机の上にはコードがささっていない電話が置かれているだけの部屋だった。
「ここもハズレ・・・か」
加持は机の上に腰をかけるとタバコを吸い始めた。
(チルドレン候補を選定する機関“マルドゥック機関。108ある企業のうち、ここで103がダミー。残り5つ。さて・・・)
タバコの火を消すと机から降りる。
「遅かったじゃないか」
いきなり声をかけられた加持は直ぐ様声の方向へ銃を向ける。そこにはジーンズにTシャツ、サマージャケットを着た短髪の男が壁にもたれて腕を組んで立っていた。
「誰だ!」
「俺か?俺は廻キョウシロウ。あんた、加持リョウジさんでいいのかい?」
「どうして俺の名前を知っている?」
「あんたに会いたかったからだよ。どうだい?銃を下ろしてくれると嬉しいんだが」
加持の頭の中に警戒のブザーが鳴り響いている。本能が告げている。この男はヤバいと。
「そうしてやりたいんだがね。俺はアンタのことを何も知らないからね」
「まあ、確かにそうだ。まずはあんたに関しての情報を話そうか。ネルフ諜報部加持リョウジ、そして内閣調査室の加持リョウジでもある。間違いないかい?」
「・・・ああ」
「そしてあんたはこれ以外にももうひとつ所属しているところがある」
「・・・・!!」
キョウシロウのこの言葉は確証がない云わばブラフに近いものだったが、加持は見事に引っかかった。加持の体が強ばる。
「図星みたいだな。さすが情報が正確だ。そう力むなよ。俺は丸腰だぞ。身体検査でもするかい?」
「そういう趣味はないから遠慮するよ」
「それは残念だ。さて、本題に入るよ。どうだい?ここはひとつ協力し合わないか?俺たちが知りたいのはネルフの真の目的、そしてエヴァに関する情報だ。こっちは君の知りたい情報を教える。どうだい?」
(この男、どこまで情報を掴んでいる?)
加持はいつでも撃てるようにもう一度引き金に指をかける。返答次第でキョウシロウを殺すつもりでいる。
「返事をする前に君の所属を明らかにしてもらおうか?廻さん、アンタどこに所属している?戦自か?」
「俺はフリーエージェントってやつさ。どこの組織にも属していない」
「嘘をつくな!」
「本当さ、とあるスポンサーから依頼を受けて動いているのさ」
「・・・誰だ」
「・・・加持さん、あんた“ゼーレ”とかいう組織は知っているかい?」
「廻さんと言ったな・・・どこまで知っているんだ?!」
「まずは俺が知っているゼーレのことを話そうか。ゼーレは国際組織の非公開の組織、そして7人の人間で構成されている。人種は主にヨーロッパの欧米諸国だが・・・そのうちの一名に日本人がいた」
加持は驚いた。このことは加持ですら知らなかった情報だ。
「待ってくれ!どこからそんな情報を!」
「最後まで聞けって、言ったろ?日本人が“いた”って、過去形だ。つまり今は居ない。そして現状6人でゼーレは動いている。その日本人とは・・・」
ゴクリと唾を飲み込む加持。
「八角キヨタカだ」
「八角キヨタカって・・・20世紀最高の頭脳を持ったあの科学者のことか!?」
「そう、あの八角キヨタカさ。そして彼はすでに死んでいる。公式では行方不明だけどな」
「なんでそのことを知っているんだ・・・」
「そしてその八角キヨタカには、まだ生きている子供が一人いる。その人が俺達のスポンサーさ」
「なんだって!?待ってくれ!八角キヨタカの子供は大戦後に死んだはずじゃなかったのか!?」
「それは陸軍にいた八角ヒデアキのことだろ。彼は死んだよ。彼とは違うもうひとり、隠し子がいるのさ」
「そうだったのか・・・じゃあその隠し子が廻さんに情報を?」
「そういうことさ」
ニコリと笑うキョウシロウ、彼のスポンサーがどこまで情報を持っているかわからない。しかし、秘密結社でもあるゼーレの幹部でその血族のひとりが後ろ盾にいるというのは加持にとって実に魅力的なものだ。しかも敵対関係ではなく協力関係を結ぼうとしている。全面的に信用こそできないものの悪い話ではない。そこで初めて加持は銃を下ろした。
「どうだい?俺たちと組む気になったかい?」
「ああ、そのほうが得策のようだ。しかし、なんでまた俺のところに?」
「ああ、それは加持さんが“組織のために動いているわけじゃない”からさ」
「すべてお見通しってわけか・・・まいったねこりゃ」
加持は苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。キョウシロウは話を続ける。
「俺たちが欲しいのはネルフの真の目的さ、サードインパクトの阻止とは言っているみたいだが、どうも腑に落ちない。すべてが良く出来た劇のように動いている。なんでか知っているかい?」
「廻さんは・・・“人類補完計画”って聞いたことあるかい?」
「・・・名前だけは」
「ネルフはゼーレのシナリオに沿って動いている。それが人類補完計画ってやつだ。全貌はわからないが、全人類を巻き込んだ恐ろしい計画さ。そして、その先鋒が碇ゲンドウ、ネルフの司令さ。ただ、碇司令はゼーレとは違うシナリオを進めようとしている。それも分からない」
「なるほど・・・それはこちらでも調べてみるとしよう。お互いなにかわかったら連絡しあおう。何か聞きたいことはあるかい?」
「廻さんはセカンドインパクトについて何か知らないかい?」
「セカンドインパクトか・・・あれは南極でなにかの実験を行なった。そしてそれは失敗に終わった。故意によって・・・・そんなところかな?まだまだこちらも把握仕切れてない。その前に不穏な動きをした奴がいるはずだ。そいつが犯人だろ」
「前日に碇司令が帰国している。じゃああれは碇司令の仕業ってことか!」
「可能性は高いな。何をやったのかはこちらでも調べている。もう少し待ってくれ」
「わかった」
キョウシロウは手をヒラヒラと振ると部屋から出ていった。加持はタバコをもう一本吸いはじめる。
(どこの誰だかわからないが、情報はかなり持っていると思う。そしてスポンサーの存在、どこまで信用できるかわからないが・・・)
「悪い話じゃなさそうだな」
加持は独り言を呟いた。


加持と別れたキョウシロウは電話かけた。
「もしもし?オレだ。目標と接触した。一応協力は得られたよ。バビンスキーのことを隠し子と表現したら想像以上に驚いていたよ。どうだ?そっちは」
『こっちはまだまだだ、なにせ量が半端じゃないから手間取っているよ。戻るのはもう少し先になりそうだ』
「そうか、また何かわかったら連絡してくれ」
キョウシロウは電話を切ると遠い家族のことを思い描く。
(シンジ・・・頑張れよ)



ネルフ本部
リツコとマヤはMAGIのメンテナンスをやって、ちょうど終わったところだ。
「マヤ、お疲れ様。腕を上げたわね」
「はい!先輩の直伝ですから!」
笑い合う二人、そこへミサトが入ってきた。
「リツコ~MAGIの診察はどう?」
「問題ないわ。明日のテストは予定通りよ」
「さすがね」
「あ、そうそう、ミサト明日のテストだけど、シンジ君だけ一日ずらすことはできるかしら?」
「いいけど、なんで?」
「ほら、シンジ君も男の子でしょ?それでアスカとレイが嫌がらないかと思ってね。裸体でエントリープラグに入るから」
「それもそうね。いいわ、シンジ君は休みにするわ」
「悪いわね」
「どう?リツコ久しぶりに飲みに行かない?」
「今夜は泊り込みよ。ミサトが提示した使徒のパターンに備えてセキュリティを強化しておきたいの」
「ありゃ・・・仕事増やしちゃったかしら?」
「いいえ、寧ろ感謝しているわ。私なら気が付かなかったもの」
「そう、役に立てて嬉しいわ」
ミサトは気をよくして部屋を出ていく。
「さてと・・・マヤ、もう少し付き合ってね」
「はい!先輩!」
マヤは満面の笑顔で答えた。



次の日、アスカとレイはオートパイロットのテストのためエントリープラグに裸体で乗り込んでいる。
『データ収集、順調です』
「問題ないわね。MAGIを通常に戻して」
テストが進む中、日向が異常なシミを見つけた。
「なんだ?このシミみたいのは?」
「第87蛋白壁か」
「侵蝕だろ?よくあるじゃないか・・・無菌室の劣化は」
「工事が60日ぐらい短縮されたんだから仕方ないだろ。気泡でも入ったんじゃないのか?」
「明日までに処理しておけよ。碇の奴がうるさいからな」
「はい、副司令」


リツコはテストを進行しながらも不具合に頭を悩ませている。
「また水漏れ?」
「はい、侵蝕だそうです。その上は蛋白壁」
「参ったわね。テストに影響は?」
「問題ありません」
「じゃあ続けるわよ。中止したら碇司令がうるさいわ」
「先輩、第87蛋白壁が異常に発熱してます・・・」
『第6パイプにも異常発生!侵蝕部分が増殖しています!異常なスピードです!』
「なんですって!?実験中止!第6パイプを緊急閉鎖!」
想定外のことが起こり実験は直ぐ様中止させられた。侵蝕は壁伝いに広がりを見せている。
「ポリソーム用意!侵蝕と同時に出力最大でレーザー照射!最悪パイロットに影響がでるわ!エントリープラグを強制射出!」
リツコの指示が飛ぶとすぐにエントリープラグが外へ放り出される。侵蝕した部分にレーザーが照射されると、それはATフィールドで防がれた。
「これは・・・ATフィールド?」
「ええ、間違いなく使徒ね。ミサトがまた呼んだのね」
「また私のせいかい」
「でもミサトのおかげで既に対策はされているわ」
「さっすがリツコ、それでどうするの?シンジ君は呼んでいるからもう少しで着くと思うけど」
「大丈夫、エヴァの出番はないわ」
「じゃあどうするのよ?」
「使徒は進化をしている。だから物理的に攻撃をしてもすぐに効かなくなるのがオチね。それは以前MAGIで調べてみたら可能性は高いと結論がでたわ。だから、こちらから進化を促進させるの」
「ちょっとリツコ!そんなことしたら勢いがついてMAGIが乗っ取られるんじゃ・・・」
「いいえ、進化の終着点は死よ。使徒にはMAGIの中で死んでもらうわ」
「大丈夫なの?」
「ええ、もうプログラムは出来上がっているの、よろしいですか?冬月副司令」
「構わん。思う存分やりたまえ」
リツコは不敵に笑うと進化促進プログラムをインストールする。使徒はそのプログラムによって爆発的に侵蝕スピードを早めたが、結果的にMAGIの中で最後を遂げた。前日にいくつものセキュリティを強化しておいたため侵蝕はある程度の余裕を残して止まった。
(ホント、ミサトには感謝が尽きないわ。あれがなかったら・・・MAGIは乗っ取られていたかもしれない。もしくは物理的に壊す以外方法がなかったかもしれない。ゾッとする話ね)
リツコは冷めたコーヒーを乾杯するようにカップを上げると、一気に飲み込んだ。



リツコはMAGIのシステムをチェックするためMAGI本体の中に入って作業をしている。マヤはその中を見て興奮している。
「すごい!これ全部裏コードじゃないですか!」
「開発者のいたずら書きよ。でも、そのおかげで自殺プログラムができたようなものだから、さしずめ裏コード大全集ってとこね」
リツコはカスパーの心臓に手を触れると愛おしそうに撫でた。
「ありがとう母さん」
ふとコードの奥に黄色い付箋を見つける。リツコは何気なくその付箋を手にとった。
「これは・・・どういう事?」



次の日、シンジが裸体でのテストが終わるとリツコの部屋に呼ばれた。
「なんですか?リツコさん」
「疲れているところごめんなさいね。少し精神鑑定をしようかと思って」
「精神鑑定ですか?別に僕は心の病気抱えていませんよ?」
「ちょっとした心のメンテナンスよ。シンジ君達には過酷なことをさせているから、その安定を図ろうというわけ、さ、この薬を飲んだらそこのベッドに寝てリラックスして」
シンジは薬を飲むとベッドに横たわる。効果はすぐに表れ頭がボーッとし始めた。心のメンテナンスというのは全くのデタラメで、リツコはシンジに退行催眠をかけて過去を暴こうとしているだ。もちろんこのことは彼女の独断でやっているためバレたらとんでもないことになる。シンジはリツコの催眠に完全にかかった。
「あなたの名前と年齢を教えて」
「い、かり・・・しんじ・・・よん、さい」
「碇シンジ君、4歳。合ってる?」
「・・・うん・・・」
退行催眠によってシンジの口調は幼い子供になる。
「シンジ君の家族は誰がいるの?」
「・・・おとうさん・・・と、おかあ・・さん」
「お父さんとお母さんがいるのね?」
「・・・うん・・・」
「お父さんのお名前は?」
「いかり・・・げんどう・・・」
「お父さんはどういう人かしら?」
「おとう、さんは・・・やさしい・・・いつも・・・ぼくとあそんで・・・くれて・・・いつも・・・わらって・・・いる」
(優しい?あの人が?どういう事?今のあの人と全然違うじゃない)
「そう、お父さんは優しくていつも笑った人なのね」
「・・・うん・・・」
「じゃあお母さんの名前は?」
「いか、り・・・ゆい・・・」
「お母さんはどんな人?」
「おかあ・・・さん・・・は・・・ううぅ・・・」
「どうしたの?」
「やめてよ・・・やめてよ。おかあさん・・・おとうさんを・・・いじめないで・・・」
「ええ?」
「やめてよ・・・やめてよ・・・いいこにしてるから・・・おとうさんをいじめないで」
「ちょっと!?シンジ君!?」
「やめて・・・よ」





『愛してます!』
『もっと!大きな声で!』





「おかあさん!・・・やめて!」





『もっと』
『ユイのことを愛してます!』






「おとうさんをいじめないで!」





『もっとよ。私を、なに?』
『愛してます!俺は妻のユイを愛してますぅ!』





(なに?なんなの!?これは!これは!)
「なに?なにがあったの?・・・・」
リツコの声が恐怖で震える。ゲンドウのためならどんな外道なこともリツコはやった。しかし、その指示をしてきたのは一体誰なのか?それはゲンドウ本人の意思によるものなのか?
(私は・・・一体誰のために今までやってきたの言うの?)
リツコは見えない恐怖に足が震える。シンジは泣きながら許しを乞うていた。




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あとがき
ミサト「ミサトの前にだされる2つの金色の缶。それは彼女にとって人生最大の選択だった」
ミサト「えびちゅにするか?プレミアムモツチュにするか?彼女の選択は!?」
ミサト「次回EVA2015『ビールの選択を』次回もサービス、サービス♪」
シンジ「全っ然違うんですけどぉ!?」



色々とすいません・・・・Byあぐお

あぐおさんから「EVA 2015」本日は二話同時更新です。
EVA本編の物語とはまた大きく違う何かが出てきましたね。
キョウシロウ要素というのとも違う……どんな裏が隠されているのでしょうか。続きも刮目して待ちましょう。

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