< 初号機エントリープラグ内 - 前話からのモノローグ >
 

 「私は特務機関ネルフ作戦課の葛城ミサトです。あなたが………
 

 ついに、ともいうべき再会だったはずなのに…。この時、僕を見る
ミサトさんの表情は軍人としての冷酷さに覆われていた。今の状況
下では、それがむしろ当然なのだけど…。

 その反面、初号機とのシンクロは当初心配していた様な拒絶反応
などもなく、意外なほどスムーズに成されたようだった。作戦的には
これでほぼ目的を達成したともいえるが、しかし正直な所、僕の胸中
は複雑だった。『今の僕』が初号機とシンクロしてしまった事で、シン
クロの基準自体がますます曖昧なものになってしまったからである。
 それに…奇妙な罪悪感というかなんというか…『この姿をした僕』が
初号機とシンクロしたことで、かえって僕自身のアイデンティティが
汚されてしまった
ような気が、しないでもなかった。

 ただし、やはり以前のように手足のごとく御すという所まではいかな
かった。ここからでは知る由もないけれど、たぶんあまりシンクロ率が
上がってこないのだろう…。暫くやってみて解ったが、今の僕は手元
の操縦桿を”意図的に”操ってやらないと、初号機を満足に歩かせる
ことすらできなかったのである。

 今後の事態を予測し得る為には、ここも”歴史どおり”に行動しておく
べきなのかもしれない。しかし、今の僕がかつての僕以上に初号機を
操れないことが解った以上、前世の時と同じ行動をとるのは、かつて
以上の危険を背負うことになる。そしてなにより、今の僕は『初号機専
属パイロット』という安穏とした立場にいるわけじゃない。今の所はただ
単に『初号機にシンクロしうる』という可能性を見せただけであって、も
しここで好き勝手な行動にでれば、却って不安分子とみなされてしまう
可能性だってあるだろう…。

 結局僕は、ここで歴史とは違う行動を選択をした。今の初号機は完全に
『綾波仕様』のものだし、再度システムを微調整してもらえれば、もう少し
はやれる算段がついたからだった。それまでの時間を稼いでもらわねば
ならないが、かつてもそういう状況は何度かあったのだし…ミサトさんなら
何とかしてくれるだろう。それに、今の僕の立場を考えれば、ここでいった
んネルフに恩を売っておいたほうが何かと好都合なはずである。
 彼らの命令どおり動き、なおかつ使徒を撃破してみせれば、彼らも僕の
利用価値について考えるだろう…。…結果的に彼らは僕を扱いやすい駒
として取り込もうとするだろうけど、そうなれば逆に僕たちの作戦どおり…
というわけだ。

 …と、そこまで考え至った時点で、僕はようやくと自分の思考回路の異
変に気がついた。自暴自棄になって使徒に突っ掛かっていった前世とは
我ながらえらい違いだと思う。…もっとも当時とは立場が違う事もあるし、
僕自身はかつてに比べ、特に何かが成長したようにも思えなかった。
 ただ、唯一変化があったとすれば、それはついさっき綾波が僕を送り
出す時に言ってくれたあの言葉のせいだろう。あれでずいぶんと気が楽
になったのは確かだし、少なくとも、かつての僕にあんな事を言ってくれ
た人は、何処にもいなかった気がする…。
 

 しかし…やはりというべきか、現実は僕が予想しうる程甘いものでは
なかった。
 

 使徒の復活が予想外に早かったのに加え、僕が初号機を退却させ
ている間、牽制として行っていたのであろう通常兵器による攻撃が、
却って使徒の攻撃本能を煽る結果となってしまったのである。
 それまでの受け身姿勢をかなぐり捨て、突如怒り狂ったような無
差別攻撃を開始した第4使徒。その苛烈さたるや先ほどまでとは比
べものにならず、周囲に配備された通常兵は、瞬く間に壊滅状態へ
と追いやられてしまった。

 と、なると必然的に、使徒の攻撃目標は唯一残った初号機へと移
るわけで…次の瞬間、初号機の背後を強襲した使徒の触手攻撃を
咄嗟のタイミングでかわすことができたのは、まさに奇跡とでもいう
べき出来事だった。
 その時、僕は完全に初号機の歩行運動に気を取られており、使徒
がその無防備な背後をねらっていたことなど知る由もない事だった。
 しかし、その一瞬先になって、何故か咄嗟に不可思議な勘のよう
なものが過ぎったのである。後のことは自分自身でも自覚できなか
ったのだが、どうやら初号機が、咄嗟に働いた僕の防衛本能の様
なものに呼応してくれたらしい。それまでの不具合はなんだったのだ
と問いたくなるくらいの、実に鮮やかな反応ぶりであった。

 しかし、ホッと胸をなで下ろしたのもつかの間、その事象を境に、
事態は突如暗転を始めたのだった。
 シンクロ率が上がらないのにも関わらず無理な反応をした影響な
のか…突如初号機の歩行バランスが失われてしまったのである。
 こうなるともはや手元の操作だけでは何ともならず…使徒を前に
して、僕は初号機を転倒させてしまったのである。

 そしてその転倒の際に受けたショックが引き金となり、さらに恐る
べき事が起きた。突如エントリープラグ内の電源が落ち、なにやら
けたたましい、聞いたこともない警報が鳴り始めた。
 かつてなかった事態に困惑していると、やがてプラグ内を満たす
LCLが変質しつつあることに否応なく気づかされた。…生温く、ね
っとりとした感触とともに、強烈な異臭…血の臭いが蔓延し始めた
のである。

 LCLの電化が解けてしまったせいで、肺呼吸にかなりきつい違和
感が生じ始めた。強烈な嘔吐感をもよおすも次第に酸素の摂取自体
が間に合わなくなり、実質的な呼吸困難に陥った。
 初号機の拒絶反応はシステムの根本にまで及んでいるらしく、それ
を伝えようにも、司令室との緊急通話すら適わない状況だった。為す
術を見つけられないまま、やがて僕自身も呼吸困難がもたらす恐慌
状態に陥り始めた。凄絶な苦痛の前に頭の中が次第に暗沌となって
ゆき…視界までもが失われ始めた。
 視界が失われると、不思議な事に、それまでの恐慌状態が徐々に
和らぎはじめた。…静寂が訪れ、浮遊感を纏った奇妙な心地良さに覆
わていく感覚を覚えた。…それが、生命の危機に瀕している事の兆候
であることはなんとなしに理解してはいたが…この時の僕には、もうそ
の心地良さに抗うだけの気力は残されてはいなかった。混沌とする意
識の狭間で、ついに第4使徒が目前に迫ったのを気配で感じたが…こ
の時の僕にとってはもう…それすらも…どうでも良いことにしか感じら
れなかったのだった………。

 


 NEON GENESIS EVANGELION "K≠S"・・・第4話「火蓋」_a(前編) 


 

 

 …、………。

 

 あれからどれ位経ったのか…シンと静まり返った静寂の中で、僕は
再び意識を取り戻した。

 重い瞼をこじ開ける努力をしている間、それまでの記憶がおぼろげ
ながらによみがえってきた。

 …。そうか…やっぱり僕…”あの時”に死んじゃったのかな…。
 …。ごめん綾波…君との約束、結局果たせなかったみたいだ…。

 …。そういえば…ここ、何処だろう…何だか妙に静かだけど…。
 …。もしかして…ここが”死後の世界”ってやつなのかな………。
 …。と、いうことは…もしかして………。

 その時、何故か脳裏に過ぎったのは、以前学校の図書室で読んだ
死後の世界』という本のことだった。…後丹波テツロウとかいう、元
俳優らしい胡散臭いおっさんの著作物だったが、書いてある事が妙
に印象的だったので、脳裏の片隅に残っていたのである。

 そのおっさんは度々臨死体験をしているらしいのだが、その時の体
験談によると、なんと死後の世界とは裸の美女で埋め尽くされた混
浴の露天温泉
だったのらしい。

 読んだ当初は『…ってゆーかそれはおまえの妄想やろ?』と思ったの
だが…当時、エヴァのパイロットとして常に死と隣り合わせの身であっ
た僕にとっては、奇妙に気になる説だったのも確かだった。…もっとも
その本を読んでしまったせいで、その後の僕は死にそうな目に遭う度反
射的についイケナイ想像をしてしまうようになってしまったんだけど。

 …そんなわけで、今回もその類に漏れず奇妙に胸をうずかせながら
僕はそっと目を見開いてみた。

 しかし。次の瞬間僕の視界に広がった光景は、無機質な三角推型の
天井であった。

 だが、その天井には明らかに見覚えがあった。そして僕は自分が何処
にいたのかを悟り、思わず目を見張った。何故ならその天井は、紛れも
なく”あのテント”の物だったからだ。
 この、悪夢のごとき転生の始まりの地である。この天井だけは忘れよう
にも忘れられない光景だった。

 ふと脳裏に、イヤな予感が過ぎった。夢オチという、正に悪夢の如き
顛末を想起してしまったからだ。…ただし、この姿に転生してきた事ま
でも夢オチですまされるならば話は全く逆である。…とにかく僕は状況
を確認しようと、半身を起こしかけた。

 しかし次の瞬間…人の気配など全く感じなかったのに…突如何者かに
背後から両肩を掴まれた僕は、そのまま力づくで再び仰向けに押さえ込
まれてしまった。…咄嗟のことで、訳も解らず反射的に身を固めてしまう
も、その何者かは圧倒的な力で僕の挙動を押さえ込んできた。そして完
全に僕の体の自由を奪うと、今度はなんと、強引に僕の上へのしかかっ
てきたのである!

 すっかり恐慌状態に陥ってしまった僕は反射的に堅く目を閉ざした。
 だが暫くすると、その『僕の上にのしかかってきたモノ』が思ったよりも
華奢で、柔らかく、しかもすべすべしていて、手で触る感触がなんだか
とっても心地よいカンジであることが徐々に解ってきた。実際、その存
在(?)は僕にのしかかってきただけで特に危害を加えてくる様子もなか
ったし、そしてなによりその感触に本能的な安堵感を覚えた僕は、恐れ
ながらもうっすらと目を開いてみた。

 だがしかし、その瞬間、僕の視界にうっすらと浮かび上がってきた物は
ある意味『裸の美女で埋め尽くされた露天温泉』よりも遙かにインパクト
のあるものだった。
 

 「ようやくお目覚めね…バカシンジ!」
 

 僕と視線が合うと、僕の上にのしかかっていた少女は、ニヤリと怪しげな
笑みを浮かべて言った。その風貌にその口調…そして雰囲気は紛れもな
く、かつての同居人『惣龍アスカラングレー』以外の何者でもなかった。

 彼女と目があった瞬間、思わず僕はぽかんと口を開けたまま石化状態
に陥ってしまった。…それが、あまりにも突然の再会だったこともあった。
 だがしかし、それ以上に、なんとその彼女が何も着ていない状態で僕の
お腹の上に乗っていたという現実が、僕の思考を一瞬にして停止させて
しまったのだった。…通常であれば、この時彼女が何の躊躇もなく今の僕
を『シンジ』と呼んだことにも気がついていただろう。しかし、この明らかに
通常でない状況下に晒されては、そんなことを思いつく余裕などあろうは
ずもなかった。

 「なっ……な、な、なんでアスカがここにっ?!」

 「…。”何で”とはなによっ?! このあたしがせっかくこんな所まで出張
てきてやったのに…それが、女王様に仕える下僕の言葉ぁ?

 「げ、下僕って…いつから僕がアスカの下僕に…」

 「そんなの、あんたが生まれた瞬間からに決まってるでしょ! そんなこと
より…ねぇシンジ………」

 その瞬間、突如アスカの様相が一変した。年不相応な色香を纏わせた
妖艶な笑みを浮かべると、その顔をゆっくりと僕の方へ近づけてきたの
である! 彼女の魅惑的な、桜色の唇が近づいてくるにつれ…僕の中の
理性もじわじわと浸食されていった。
 

 <理性>『あのアスカがこんな風に迫ってくるなんて…なんかおかしいと
と思わないか?』→ 0.00 sec

 <欲望>『へっ、なにいってやがんだ! これがこの女の本性なんだよ!
昔っからオマエにこんな事したくて、ウズウズしてて…それでついに我慢で
きなくなりやがったんだよっ!!』→ 0.02 sec

 <理性>『アスカはそんな娘じゃないよ! それに…昔、僕とキスした後で
おもいっきしうがいしてたし…』→ 0.05 sec

 <欲望>『そんなのテレ隠しに決まってんだろ! その証拠に、何を隠そう
その晩あの女はベッドに入った後、オマエとのキスを思い出しながら火照
った体を慰めるためそのしなやかな指先を下腹部に這わせ○×△を…』→ 0.08 sec

 <理性>『ま、まさか…アスカがそんな…』→ 0.15 sec

 <欲望>『それだけじゃないぜ! あの女、オマエが留守の間にオマエの
愛用してるチェロの弓を使って♂♪♀を……』→ 0.20 sec

 <理性>『…………』→ 0.74 sec

 <欲望>『フッ…ようやく解ってきたようだな。…ま、とにかくそういう訳だ
から、オマエももう少し素直に…』→ 0.80 sec

 <理性>『…。クックックッ………』→ 0.95 sec

 <欲望>『お、おい…オマエ、急にどーしたんだ?!』→ 1.03 sec

 <理性>『そーかい…そーかい…そーだったのかい!…そうとわかりゃもう遠慮
なんかしねぇ! やってやる…徹底的にヤってやるぜっ!!→ 1.54 sec

 <欲望>『そ、そうか…。しかしあんまりムチャなマネは…』→ 2.00 sec

 <理性改め本能>『うるせぇ! テメーはすっこんでろっ!!→ 2.05 sec
 

 …というわけで、じわじわってゆーかほぼ一瞬のうちに理性を吹き
飛ばされた僕は、それまでの状況を全部忘れ”きっす”の体制に入ろ
うとした。…しかし次の瞬間…彼女がぽつりともらした一言は、唇を
”タコさん型”にまでしていた僕を一瞬にして目覚めさせた。

 「アンタ……脇役にならない…?」

 「……、え?」

 思いも寄らぬその台詞に思わず目を見開くも、彼女はじっと僕を見据え、
そして改めて呟いた。

 「あたしといっしょに脇役にならない…?」
 「…ア、アスカ…?!」

 「ココロカラダ脇役にならない…?」
 「い、いきなり何を…」

 「それはとてもとても気楽なものなのよ…?」
 「急にそんな事いわれても…」

 「このあたしがいってんのよ…ほら…さっさとアンタも墜ちなさいよ…」
 「………。」
 

 それら意味不明な台詞に暫し困惑したものの、しかし僕はすぐに悟った。
 …今の僕自身の意識も含め、おそらくここのに存在する全ては、現実
の物ではない、ということを。…何故なら僕の知っている現実のアスカは、
例え何が起ころうとも「脇役でいい」なんて殊勝なことを言う人種ではない
からだ。…良くも悪くもそれが彼女の特徴だし、第一そうでなければ、前世
においてあんな悲劇は生まれなかったはずである。

 現状を”単なる夢”として区切るには、あまりにも周囲の事象がリアルす
ぎるような気もするが…しかし彼女のその台詞に何物にも代え難い確信
を得た僕は、しっかと彼女の瞳を見つめ、そして言った。

 「やめてよ! アスカがどう言おうと、僕は脇役なんかに落ちぶれる
つもりはないんだっ!」

 現実の彼女に対しては到底できぬであろう強気な態度も、今自分が夢の
中にいるのだと思えば、何も怖いことはなかった。そしてそのまま、僕は
僕のお腹の上で馬乗りになっている彼女を押しのけようと手を伸ばした。

 しかし…。つい勢い余ってしまい、何故かその手は彼女のふくよかな胸
元をイレギュラー気味に強襲ヒット

 その瞬間、とても夢とは思えぬ何とも心地よい感覚を覚えつつも、僕の
背筋にゾクリと悪寒が走った。…何故ならこれが現実であれば、次の瞬間
僕は確実に生死の境を彷徨うハメになるであろうからだ。

 もっとも先ほどの事からも解るように、これは夢の中の出来事なはずで
ある。…そんなわけでホット胸をなで下ろしながら再び彼女の様子をうか
がうも、しかし彼女は先ほどまでの妖艶な表情から一変、完全なる”素”の
ままの表情になっていた。

 彼女の、如何にも現実味あふれる豹変ぶりに思わず凍りつく僕に対し、
彼女本人はポカンとした表情をしたまま、徐々に視線を下ろしていった。
 そしてついに、僕の右手のひらにむんずと鷲掴みされている己の胸元
が目にはいると…その次の瞬間、まるで火でもついたかの如く、彼女の
全身が真っ赤に染め上げられていった。
 …羞恥に耐えきれず、顔を俯けにしてプルプルと震え出すアスカ。この
状況下におけるその仕草は、紛れもなく僕の知る現実のアスカそのもの
のようにみえた。しかも、その驚き様から察するに…どうやら彼女は、僕
に胸を掴まれている事はおろか、自分が今の今まで全裸だったことにす
ら気がついていなかったらしい…!!

 そんなばかな…と考えている猶予もなく、本能的な恐怖に駆られた僕は
咄嗟に逃げだす体制に入った。しかしそのあまりの恐怖故か体が言うこと
ず、しかもよりにもよって、何故か彼女の胸を鷲掴みしている右掌だけが
鋭敏に反応してしまった。………僕の意志とは何の関わりもなく、2〜3度
ムニュムニュ』してしまった後…僕はようやくとそこから手を離すことに成
功した。だがしかし…時は、既に遅かったようである。

 ふと見ると、彼女の額にびっくりする位大きな『怒』マークが浮かび上が
っていた。そして……殺気を帯びた蒼い瞳がギラリと光を放つのを見た瞬
間から次に目覚める瞬間に至るまで、僕の記憶は忘却の彼方へぶっ飛
ばされるハメとなった。

 「〜っ、何してんのよあんたわぁ〜っ!!!(バキッ)
 「グエッ?!」
 「エッチチカンバカヘンタイもー信じらんない!!!(バキッ! バキッ!)
 「…。じ、自分から裸で出てきといてそれはないんじゃない……
 「き〜っ!! …何よその言いぐさはっ?! もー許せないわあんたなんか
こうしてこうしてこうしてやる〜ぅ(バキッ! バキッ! バキッ!)
 「…。り、理不尽すぎる…これもこの呪われた身体のせいなのか…(ガクッ)
 「シンジのくせにシンジのくせにシンジのくせに〜っ(バキッ! バキッ! バキッ!)
 「………(無言)。」


 

 

 …、………。

 

 あれからどれ位経ったのか…シンと静まり返った静寂の中で、僕は
再び意識を取り戻した。

 重い瞼をこじ開ける努力をしている間、それまでの記憶がおぼろげ
ながらによみがえってきた。

 …。そうか…やっぱり僕…あの時に死んじゃったのかな…。
 …。ちくしょう…アスカの奴…何もあそこまですることないじゃないか…。

 …。そういえば…ここ、何処だろう…何だか妙に静かだけど…。
 …。もしかして…ここが”死後の世界”ってやつなのかな………。
 …。と、いうことは…もしかして………。

 その瞬間、脳裏に”かなりイヤな予感”が過ぎった僕は、思わず反射的に
目を見開いた。すると、僕の目の前に広がった光景は、ある意味予想通りな
がらも、俄には信じがたいモノであった。
 

 「ようやくお目覚めね…バカ碇君…」
 

 蒼い髪をサラリと揺らし、優しげに微笑む赤い瞳の少女。それは紛れも
なく、現在の同居人『綾波レイ』以外の何者でもなかった。しかも先程同
様に彼女は何も着ておらず、更にお約束かの如く、既に僕のお腹の上へ
馬乗りになっていた。彼女はそのまますっと僕の顔を近づけてくると、優し
く諭すような口調で囁きかけてきた。

 「碇君…わたしといっしょに脇役にならない…?」
 「…あ、綾波…?!」

 「ココロカラダ脇役にならない…?」
 「き、君がそんなこというなんて…」

 「それはとてもとても気楽なものなのよ…?」
 「おかしいじゃないか…約束したのに…」

 「さぁ碇君…わたしといっしょに墜ちましょう(ポッ
 「………(なんでそこで赤くなるんだ綾波…)。

 最後に何故顔が赤くなったのかはともかく…僕は今ここにいる彼女が現実
の存在でないことを確信した。何故なら僕が元の姿に戻れるように協力を申
し出たのは、他でもない彼女だったからである。そうでなければ、あらゆる
意味で今頃こんな目に遭ってはいなかったはずだ。

   そんなわけで、僕は僕自身が生んだのであろう疑惑の念を否定する
意味を込めて、彼女を押しのけようとした。

 しかし…。つい勢い余ってしまい、何故かその手は彼女のふくよかな胸
元をピンポイント爆撃

 その瞬間、とても夢とは思えぬ何とも心地よい感覚を覚えつつも…先程
のこともあって、ついポツリと本音を漏らしてしまったのだった。

 「(ボソッ)あ、さっきより小さいや…

 「(ピクッ)…碇君…それ、どういう意味…?

 「いやあ、実はついさっきアスカのも……って、はっ?!

 その時、綾波の目つきが突如豹変したのを見て、僕はようやくと
己の失言に気がついた。

 「…。ふぅん…つまり碇君は既に二号機パイロットのを確認したうえで…
尚かつわたしの方が小さかったと…、そう言いいたいわけね?(ギロリ)

 「い、いやそのっ…あわわわわ…

 「…。碇君…わたし、こんな時どんな顔すればいいのかしら?! (ギロリンッ)」

 「(ヒィッ)わ、笑って済ませてくれるとありがたいんですけど…

 「…。ふぅん…じゃ、こんなカンジでどう?」

 そういって笑顔を浮かべて見せた彼女。しかし当然ながらその笑顔は
かつて彼女を助け出した時に見せてくれた『あの微笑み』ではなく、いつ
かどこかで見た妖怪チック世にもおぞましい醜笑であったのは言う
までもない。そしてその凄まじい笑顔を一目見た瞬間…あまりのショッ
ク故に、僕はその場で昏倒した。

 「うっ、うわああああぁぁぁぁっ………………(ガクッ)

 「…。あら、どうしたの碇君? …わたしのこんな顔、見たかったんでしょう? …クスクス……


 

 

 …、………。

 

 あれからどれ位経ったのか…シンと静まり返った静寂の中で、僕は
再び意識を取り戻した。

 重い瞼をこじ開ける努力をしている間、それまでの記憶がおぼろげ
ながらによみがえってきた。

 …。そうか…やっぱり僕…あの時に死んじゃったのかな…。
 …。うぅっ…ひどいよ綾波…だって本当のことじゃないか…。

 …。そういえば…ここ、何処だろう…何だか妙に静かだけど…。
 …。もしかして…ここが”死後の世界”ってやつなのかな………。
 …。と、いうことは…もしかして………。

 その瞬間、脳裏に”かなりイヤな予感”が過ぎった僕は、思わず反射的に
目を見開いた。すると、僕の目の前に広がった光景は、ある意味予想通りな
がらも、俄には信じがたいモノであった。
 

 「ようやくお目覚めね…バカシンちゃん
 

 推定Eカップの胸許をバイーンと揺らし、ほろ酔いモードで妖艶に微笑む
セクシーな大人の女性。それは紛れもなく、かつての上司兼同居人『葛城
ミサト』以外の何者でもなかった。しかも先程同様に彼女は何も着ておら
、更にお約束かの如く、既に僕のお腹の上へ馬乗りになっていた。彼女
はそのまますっと僕の顔を近づけてきたのだが…その際、なんと彼女自慢
の豊満な胸許がバイーンと僕の顔にのしかかってきたのである!

 健全な男子ならば誰しもが羨むであろう、正に至高のシチュエーション
である。それに歓喜しない訳はなかったが、しかしそれは一瞬であった。

 次の瞬間、僕は凄絶な苦痛にもがき苦しむハメとなってしまった。何故
なら…彼女の胸が大きすぎるために僕の顔全体が圧迫されてしまい、
全く息ができなくなってしまったから
である!

 全く予想外の事態にパニックへ陥るも、しかし彼女はそんな僕の様子に
全く気づいてしない様子であった。

 「ねぇシンジ君…わたしといっしょに脇役にならない…?」
 「…………。(いっ、息ができない?!)

 「ココロカラダ脇役にならない…?」
 「…………。(むぐぐぐぐくっ…)

 「それはとてもとても気楽なものなのよ…?」
 「…………。(もっ…もうだめ……)

 「怖がらなくていいのよ…全部お姉さんが教えてあげるから
 「…………。(…………、…ガクッ)
 

 「さぁ…まずは【初級編】からよ……って、ちょっとシンジ君?!」

 そしてようやく事態に気づいたミサトがあわてて顔を上げるも、時既に遅し…。
 既に躯と化した少年を見据え、そして状況を悟ると、彼女は不満げに呟いた。

 「…。せっかく久しぶりにサービスしてあげようと思ったのに…」


 

 

 …、………。

 

 あれからどれ位経ったのか…シンと静まり返った静寂の中で、僕は
再び意識を取り戻した。

 重い瞼をこじ開ける努力をしている間、それまでの記憶がおぼろげ
ながらによみがえってきた。

 …。そうか…やっぱり僕…あの時に死んじゃったのかな…。
 …。ミサトさんの胸にあんな恐ろしいが仕掛けられていたなんて…
やっぱり、大人の女性はひと味違うよね…

 …。そういえば…ここ、何処だろう…何だかに静かだけど…。
 …。もしかして…ここが”死後の世界”ってやつなのかな………。
 …。と、いうことは…もしかして………。

 その瞬間、脳裏に”かなりイヤな予感”が過ぎった僕は、思わず反射的に
目を見開いた。しかし、次に広がった光景は、僕の全く予想外な物だった。

 …そこは不思議な空間であった。景観上、かつてネルフへ行く時によく乗
った環状リニアの車内であるということは解った。けど、窓からは強烈な
斜陽が差しており、外の景色は全く見えなかった。僕のいる車両には僕し
かのっておらず、他の車両からも、全く人の気配を感じなかった。

 ふと不安に駆られた僕は、座席を立ち上がりかけた。しかし次の瞬間、
車両の入口扉が不意に開き、車掌さんらしき制服を着た人が僕のいる
車両に入ってきた。その人は車両の入り口で立ち止まると、唖然とする
僕など目に入っていないかの如く、真正面を向いたままピシッと敬礼し…
そして言った。

 「え〜、次の停車駅は『ガフの部屋前』…『ガフの部屋前』に止まりまーす♪

 そのピシッとした身なりからはちょっと想像できないような、何とも可愛
らしい口調であった。僕のいる所からは正確に確認できなかったが、し
かし声質から察するに、どうやら車掌さんは、若い女性だったようだ。

 やがてその車掌らしき人物は、奇妙に響く足音を弾ませながら僕の方
へ近づいてきた。僕は浮きかけていた腰を再び沈め、その人物が目の
前に来るのを待った。…彼女が何者かはともかく、今は状況を知るのが
先決だと考えたからである。そしてそれを彼女に問おうとしたのだが、し
かし、僕が声をかけるよりも早く、その人は僕の目の前で立ち止まった。

「…。久しぶりね」

 訥々に、その人物はそういった。はっとして顔を上げる僕に対し、その
人は僕の方へ向き直った。そして穏やかな笑みを浮かべると、それまで
その表情を覆っていた制帽を、スッと外して見せた。

 …それは不思議な『再会』であった。僕はその人の“姿”を、現実では
一度も見たことがないはずだったが…しかし一目見ただけで、僕には
彼女が誰であるのかが理解できてしまったのである。

「…。母さん…」


 後編(_b)へ続く


 今回、ついに初号機に乗ってそしてレイやアスカやミサトなんかとも出会ったわけですね‥‥。

 女性陣の言動が大笑いです。いや〜いい仕事されますなぁ(^^)

 そしてついにユイさんが登場‥‥ユイさんはシンジに何を告げるのでしょうか?

 続きも楽しみですね。皆様淡乃祐騎様に感想メールをばお送りください〜。

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