< ネルフ本部作戦課 - 第2分析室 10:05 >

 室内にただ一人居残り、沈痛な趣でカンファレンスデスクに腰を下ろしている
のは、艶やかな黒髪とセクシーなタイトスカートが印象的なネルフの若き作戦
課長『葛城ミサト』であった。

 先程から落ち着かない様相で過ぎゆく時間を持て余していたのだが、次の
瞬間、白衣を身に纏う金髪の女性が入室するやいなや彼女は血相を変えて
立ち上がった。

 「…どうだった?!」

 「…。全身複雑骨折…全治三ヶ月の重傷よ。…とてもじゃないけど、今は
体を動かせる状態じゃないわね…」

 「…。なんてこと…」

 「…どうするの? 葛城作戦課長さん?」

 暫し呆然となるミサトに対し、白衣の女性、『赤木リツコ』はやや冗談めい
た声色で聞いた。…ニューロティックな色香を纏わせた笑みを讃えており、
その表情は、今のこの状況を楽しんでいる様にさえ見えた。

 「………。」

 「…。パーソナルデータの書き換えは完了してるわ」

 「…。いけるの?」

 「今の彼を乗せるよりかは、マシよ…」

 「…。いまはキレイ事を言ってられる場合じゃない、か…。しかし
それにしても全治三ヶ月とは…正直イタイわね」

 「初めての実戦にも関わらず、"あの"使徒を僅か1分弱で撃破…その際の
最高シンクロ率が89.7%を記録…。今のレイは無論のこと、ドイツのセカン
ドチルドレンでさえ彼が見せたパフォーマンスには遠く及ばないでしょうね…。
 彼女にも至急来日して貰う事になったとはいえ…この先しばらくの戦力ダウ
ンは必至よ?」

 「この先があれば、の話ね…。しかし彼の出現はそんな絶望的状況
下における唯一の希望だったのに…」

 「…。そうね。正に救世主といっても過言じゃないかもね。…唯一、
あの性格を除けばだけど」

 「た、たしかに…あの性格はちょっちもんだいよね…」

 それまでの沈痛な趣から一変、ミサトはトホホーっと深く溜息をついた。



 NEON GENESIS EVANGELION "K≠S"・・・第3話「ナツミ」_d 


 

 < ネルフ本部 - 中央作戦司令室 10:08 >

 「目標をレーダーで確認! 領海内に侵入しました!」

 「総員、第一種戦闘配置…!」

 オペレータの報告に呼応し、司令席から令を発したのは、本日不在のネルフ
総司令『碇ゲンドウ』に成り代わり指揮を執る、同副指令『冬月コウゾウ』である。

 彼の令に従い、迎撃準備がオートマチックに進行していく。第三新東京市は
街としての景観を拭い去り、要塞都市としての景観へ変貌を遂げていった。

 逐次入る状況報告を片耳でききつつ、作戦課長、葛城ミサトはメインオペレータ
の一人…通称”ビートマニア”こと『青葉シゲル』に聞いた。

 「民間人及び非・戦闘員の避難状況は?」

 「各区間とも、既に収容完了との報告を受けています」

 「…。とりあえず第壱段階は完了したみたいね」

 

 < 第3新東京市表層 - 小高い丘の中腹 10:09 >

 ここに来るまでの道のり、2〜3キロ程走り続けてきた辺りでついに
体力の限界が訪れたのであろう。…不意に膝が『カックリ』とキてしま
い、その拍子でシンジはドハデにコケた。ずってーん…と派手な音響
を轟かすも街中には既に戒厳令が引かれており、幸いそれを見咎る
人影はなかった。

 「……ったくケンスケの奴もっと体鍛えとけよなっっ」

 …それでもやはり気恥ずかしかったのであろう。俯せのままキョロキョロ
と周囲を見渡し、誰もいない事とを確認すると、捨て台詞を呟き再び立ち上
がろうとした。…しかし次の瞬間、再びひざが『カックリ』となってしまい、彼
はなよなよしく尻餅をついてしまった。…鈍りきった体に無理矢理鞭うってき
た反動が、ここに来てついに鎌首を擡げだしたようである。

 「あうぅ…こんなことしてる場合じゃないのにぃ…」

 

 < ネルフ本部 - 中央作戦司令室 10:12 >

 「碇指令の居ぬ間に第4の使徒襲来…以外と早かったわね」

 モニターに映し出された奇怪な形状の使徒を見据えながら、
シニカルな口調で呟くミサト。するとメインオペレータの一人、
通称”のび太君”こと『日向マコト』が振り返り、似たような口
調で同意した。

 「前回のブランクが15年…そして今回が僅か3週間ですからねぇ」

 「こちらの都合はお構いなしって訳か…。女性に嫌われるタイプね」

 モニター上では既に第一次迎撃の光景が映し出されており、通常兵器に
よる無差別な物量攻撃が加えられていた。しかし、相変わらず使徒にダメ
ージを与えている様子は全く伺えない。彼等の後方に位置する指令席では、
副指令の冬月が彼女らと全く同じ口調でぼやいていた。

 「税金の無駄遣いだな…」

 …それから数分後、ネルフ本部に再び上部組織からの『エヴァ出動要請』
が届けられた。

 

 < ネルフ本部第7ケイジ -待機中の初号機エントリープラグ内 10:15 >

 怪我のため通常のものが着られなかったのであろう…幾分か素肌を露出させ
た変型プラグスーツを身に纏いながらも、綾波レイはリラックスした様子で目を
閉じていた。戦闘待機中にもかかわらず、寧ろその表情には普段垣間見せる事
のない穏やかな微笑みさえ浮かんでいる。…自分自身の胸を抱きしめるように
腕を廻し、やがて彼女はほっそりと呟いた。

 「イカリクンの匂いがする…

 司令室のミサトから通信が入ったのはその直後のことであった。

 「レイ、出撃よ。…いいわね?」

 「………。はい」

 いくらかの間を置いた後、そろりと返事を返すレイ。…一見無表情に
見えるが、よくみると額に脇に『怒』マークが浮かんでいた。…せっかく
良い気分に浸っていた所を不意に邪魔されて、些か気分を害した様子
である。

 

 < 第3新東京市表層 - 再び小高い丘の中腹 10:16 >

 そこには相変わらず立ち上がれないまま、悔し涙に暮れている
相田ケンスケ(exシンジ)の姿があった。…想像を遙かに凌駕す
る彼の肉体のポンコツぶりに、思わずいたたまれなくなってしま
ったのであろうか。
 しかしそんな彼の心情を裂くかのように、兵曹ビルの一つから、
不意にけたたましく警報が鳴り始めた。そして次の瞬間…耳を着く
轟音とともに、嘗て見覚えのある『紫色の巨人』が、表層に射出された。

 「エヴァ初号機?!……、やばい急がなきゃっ」

 その姿を確認し、暫し感慨に捕らわれていたものの、彼はいち早く我
に帰り咄嗟に駆け出そうとした。…しかし、やっぱり彼の足腰は言う事
をきかず、再び彼はもんどりをうってドハデにコケた。

 「あうぅぅぅっ…。動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け
動け動け動け動けっ…いま動かなきゃ一生こんなポンコツの体でいなきゃい
けなくなっちゃう! そんなのイヤだよ頼むから動いてよぉ〜う!!!??」

 いよいよ事態が切迫し、どうしたらよいか解らなくなってしまったのであろう。
 錯乱気味に自分の膝をぽかぽかと叩きまくるシンジ。

 しかしそんな彼を余所に、いよいよ使徒は肉眼で捕らえられる範囲にまで
接近しつつあった…。

 

 < ネルフ本部 - 中央作戦司令室 10:17 >

 「飛び出しと同時にパレットによる一斉射撃! いいわねレイ?」

 『はい…。』

 真剣な趣でレイの指示を出すミサトの脇で、技術部長の赤木リツコは
メインオペレータの一人、通称”キグルミマニア”こと『伊吹マヤ』の背後
ににじり寄り、彼女にしか聞こえないような小声で囁きかけた。

 「マヤ…あなたわたしが研究室の冷蔵庫に保管しておいた”ドリンク剤”のサンプル
何処に行ったか知らない?

 「あぁ…あのセンパイが調合した”栄養剤”ですよね? ちっちゃな黒瓶に入ってた…

 「…えぇ。何日か前から見あたらないの…。もしかしたらマヤが飲んじゃったのかしらって
思ったんだけど…

 「まさかぁ…わたしがセンパイの調合したクスリなんて飲むわけないじゃないですか

 「………。マヤ、それってどういう意味?(ギロリ)

 「あっ?! い、いえ別にヘンな意味じゃなくってその(あせあせっ)…と、とにかくわたし
はしらないですぅ…

 「………。そう…

 「そ、そんなに重要なモノだったんですか?

 「…。そうでもないけど、ね…(せっかく『あの人』に飲ませようと思ってたのに…)。

 「…??

 

 < ネルフ保安諜報部 第3隔離室(重要参考人取調室) 10:16 >

 サードチルドレン殺害未遂の容疑をかけられた鈴原トウジは、ネルフ
本部内に連行され、容赦のない苛烈な取り調べを受けていた。

 殺風景な薄暗い部屋の中、安物のスチールデスクの前に座らされているトウジ。
 彼を取り調べているのは二人のブラックメンで、一人は彼と対面に腰かけ実際
に尋問している強面の比較的年若い男。そしてもう一人は、入り口の扉にも垂れ
かけている、異様にがっしりとした体躯の中年男であった。…しかし彼だけは先程
から終始無言であり、扉を背にしたまま微動だにせず、じっと取り調べの様子を
窺っていた。

 「いい加減本当の事を吐けっ!」

 「せやからワシにもワケワカランのやっちゅーとるやないか?!」

 取調官の容赦ない追求に対し、一歩も引かず言い返すトウジ。彼にとって
は本当に訳の分からない出来事だったのだから、当然といえば当然だろう。

 彼のその迫力故か、先程から取調官の視線が妙に浮ついたモノになっていた。
 動揺を隠せない様子で視線を逸らしつつ、取調官の男は言いにくそうに言った。

 「……。まぁ、それはともかく…。さっきから気になって仕方がないんだが……
………君、ソコ状態は何とかならんのかね?」

 「ソコぉ?! ソコってどこや?!!」

 「だから…ソコだよソコ!!」

 絶対にソコへ視線を持っていきたくないのでろう…完全にあさっての方向を
向きながら、トウジの下腹部辺りを指さす取調官。

 怪訝な顔をしながら、その指先が指し示す先を視線で追うトウジ。するとその先
には、到底中学生とは思えぬ程熱膨張が進んだ、己の股間があった。その鋭角
たるや既に”テント”などといった生優しい域を遙かに脱しており、寧ろ獰猛な矛先
とでも言うべき形態変貌を遂げていた。

 「こっ、コレはちゃうんや! コレはワシの意志とは無関係にやな…」

 取調官がナニを指摘していたのかを悟ると、トウジは顔を真っ赤にして
立ちあがり涙目で訴えた。…実はこの部屋に連れ込まれた辺りから既に、
彼のソコはかつてない変調をきたし始めていたのである…。

 それは彼自身にも全く心当たりのない、正しく突然の変体であった。
 しかし、これから取り調べを受けようと言う時にまさかそんな状態
になってしまっていることを公にするわけにもいかず、しばらくの間は
彼もなんとか試行錯誤して、懸命に押し隠くしていた。

 だが、やがてそれはさらに変体を遂げていき、ついにはどうにも
隠しようのないモノへと変貌を遂げてしまったのである。
 その結果、否応なく取締官にも彼の変調が目に入るようになって
しまったのだが、流石に取締官も場所が場所だけに指摘しづらい
らしく、暫くは見て見ぬ振りを続けていた。

 しかしその間にも、かれのソコ更に進化を続け…もはやどうしても
そっちの方向に視線が行ってしまう程迄に成を遂げてしまっていた。
 その結果、やがて二人の間には、もはや隠しがたい程の気不味い
空気が蔓延
し始め…ついにその緊張感に耐えられなくなった取締官
が、たまらず指摘するに至った。…というわけである。

 ついに正面から指摘されてしまい、恥ずかしさから思わず立ち上がって
しまったトウジ。しかし彼が立ち上がったことにより、その鋭利な矛先
顔面に突きつけられる格好となった取調官は、堪らず上体をのけぞらせ、
慌てふためきながら言った。

 「そっ、そんなとんがったモノをひけらかすなっっ」

 顔色を失い、すっかり怯えた様子でそのまま後ずさりしていく取調官。
 …無意識のうちに、両手の掌が自分ののガードに廻っている。

 「なっ?! ご、誤解やっ!! ワシはっ……」

 「う、うるさいっ! わ、私のカラダをそんなモノ欲しそうな目で見るなっ!!」

 何とか誤解を解こうと取調官ににじり寄るトウジ。しかしすっかり誤解した様子の
取締官は、ガタガタ震えながら更に後ずさりしていく。だが次の瞬間、そんな取調官
の背中が、不意にがっしりと押し止められた。すっかりビクついた取締官が恐る恐る
振り返ると、そこには先程まで微動だにしなかった、もう一人のブラックメンが立ち
はだかっていた。

 「川合君…あとは私に任せたまえ」

 すっかり怯えた取調官にかわり、ずいっと前に出る巨漢ブラックメン。
 2メートルはありそうな長身に、レスラー顔負けの鍛え抜かれた体躯。
 …そしてなりより彼の醸し出す圧倒的な威圧感に気圧されて、トウジ
は思わず立ち止まった。

 「なっ、なんやオッサンは…」

 「………。ネルフ保安課長の『鎌田』だ。…取りあえず元の
席につきたまえ」

 巨漢のブラックメン、鎌田は無表情に言った。その野太いしゃがれ声には
無条件に人を従わせる、不思議な魔力のようなモノがあるようだった。その
声色を聞いた瞬間、先程まであれほど動揺していたトウジも落ち着きを取り
戻し、大人しく彼に従った。

 「…。オッチャンなら少しは話通じそうやな」

 「…。あぁ…。私は君のことを理解している」

 先程の取調官に代わり、トウジの対面に腰を下ろす鎌田。そして次の瞬間、
デスク上に投げ出されたトウジの右掌に自分の分厚い掌を重ね、しっとりと
それを握った。彼のその思わぬ行為に、ビクリと反応して顔をあげるトウジ。
 すると鎌田はその厳つい顔をぐっと彼に寄せ、そして彼の耳元へぼそりと
囁いた。

 「………………。君とは、趣味がアいそうだネ

 鎌田の厳つい顔がポポッ桜色に染まるのを見た瞬間、
今度は逆にトウジの顔色が急速に悪化した。

 

 < 第三新東京市表層 - 対使徒近接戦闘地点 10:19 >

 なれない初号機の操縦に、満身創痍の身体…。綾波レイの初陣は、
当然の如く過酷な闘いとなっていた。

 第4使徒の放つ鞭の如き触手攻撃は苛烈さを極め、運悪く最初の
攻撃でパレットガンを破壊された初号機は、完全に防戦一方である。
 そしてその矢面に立たされているレイに対し、何とか状況を変えて
貰おうと、ミサトはモニター越しに指示を送り続けていた。

 『レイ! 右斜め後ろの兵曹ビルに予備のライフルを射出したわ!
…スキをみてとりにいくのよ!』

 「……………」

 『レイ?! …きいてるのレイっ?!』

 「……。さっきからぎゃぎゃあとうるさいわねかってなこといわないでくれるばーさん…

 『…?? …今何か言ったレイ?』

 「…。いえ」

 『…まぁいいわ。それより、予備のライフルは右斜め後ろよ。いいわねレイ?』

 「…。了解」

 …とはいうものの相変わらず使徒の触手攻撃は苛烈を極め、迂闊に身動き
のとれない状況であった。思わず漏れたのであろうレイの密かな呟きも、状況
からすれば無理もない話である。

 もっとも今の発言が公になれば、ネルフ本部が違った意味でパニックに陥る
可能性もあった。しかし幸いな事に、その発言はミサトの耳には届かなかった
ようである。また彼女からの通信をオペレートしていたメインオペレータ3人組
も、互いに顔を見合わせ『今のことは聞かなかった事にしよう』と暗黙の了解に
至ったため、ひとまず事なきを得るに至った。

 しかしかといって、このまま防戦し続けるわけにもいかない。
 タイミングを見計らい、一瞬の隙をついて目標地点へ飛び出
そうとする初号機。

 しかし、使徒の触手はその瞬間のスキを見逃さず、すかさず鋭利な
鞭の一撃が一閃された。レイは驚異的な反射神経を発揮し、辛うじて
それを避ける事に成功した。しかしその際の回避行動によってにバラ
ンスを崩し、初号機を転倒させてしまう。そして更に運悪く、初号機に
かわされ跳ね返っていった触手が、アンビリカルケーブルに接触して
まった。鋭利な刃物と化す使徒の触手によって、アンビリカルケーブル
はあっさりと断線。外部からの電力供給を失った初号機は、内部予備
電源に蓄えられた僅か数分の稼働時間しか見込めぬ、絶体絶命のピ
ンチに追いやられた。

 転がされ完全に無防備の状態となった初号機に対し、容赦のない使徒の
追撃が襲いかかる。レイは懸命に機体を立て直そうとするも、負傷のせい
か思うように全身へ力を及ばすことが出来ずにいた。そしてその結果…
ついに初号機は使徒の触手に捕まってしまった。…触手を初号機の右足
首に絡めた使徒はそのまま力ずくで初号気を引っ張り上げ豪快に宙へ放
った。初号機は成す術なく投げ飛ばされ、後方の小高い丘に背面から激突!

 その瞬間の衝撃を全身に受け、堪らず苦悶する綾波レイ。

 「…ぐっ?!

 『…レイ?!』

 …思わず声を張るミサト。彼女のみならず、そこにいた人間達は彼女が
どんな状態でエヴァに乗り込んでいるのかを否応なく知りつくしている。

 故に、その瞬間の映像はモニター越しの彼等を凍り付かせるに充分
過ぎるほどの衝撃を与えた。


 <Eパートに続く>

 淡乃祐騎さんからの連載投稿、ついについにエヴァに乗り込む一歩手前までいったでしょうか‥‥?

 うむ、今にも乗り込めそうで乗り込めなくって、本編の流れでいくとこれはなんとかいやケンスケBodyだからわからんぞ‥‥みたいな感じですね。

 あまり、つべこべ言うのは止しましょう‥‥続きも楽しみですね。皆さんも是非淡乃祐騎さんに感想メールをお願いしますです。

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