「あら? あなたは…………」(謎の少女)

 「………(なっ、なんて素敵な笑顔なんだ! …ドキドキ)。」(シンジ)

 「…………ど…」(謎の少女)

 「…………ど?」(シンジ)

 「………。どちら様でしたっけ?」(謎の少女)
 

 「なんでやねーんっ!」(トウジ)
 「おまえもかーいっ!」(アキナ)
 

 …穏やかに笑みを耐えたまま、無邪気に問い返す少女。
 予想外の展開に戸惑うシンジに対し、トウジとアキナは
関西人の性なのか、思わず乗り出してツッコミを入れた。

 「…あらあら

 彼らの困惑を余所に、ただ一人その少女だけが長閑な笑み
を称えていた。



 NEON GENESIS EVANGELION "K≠S"・・・第3話「ナツミ」_C前編 


 
 「あのぅ…状況が今ひとつ見えてこないんですけど…」

 その状況下における唯一の良識派(自称)、洞木ヒカリは周囲を
気にしながら遠慮がちに尋ねてみた。

 彼女と全く同じ状況にある、いわば『俄ケンスケ』のシンジにとって
それ台詞は非常にありがたいものであった。
 かつての相田ケンスケはこの謎の少女とかなり親しかったようであ
るが、実際のシンジ当人と彼女とは全くの初対面だったからである。
 自身のミスによって既にその正体を怪しまれ始めている彼にとって、
迂闊な質問をして更なる疑惑を招かずに済んだのは、唯一不幸中の
幸いであった。

 「…。このネーチャンは『鈴原ナツミ』。ワシのおとんの兄貴の娘…
つまり従姉妹ちゅーやつやな。因みに歳は……ナンボやったっけ?」

 「Sweet19

 「…だ、そうや…。アキの奴が入院したんを聞いて、※芦屋から」
…わざわさ駆けつけてくれたんやけど……」

 説明を始めたトウジであったが、そこで何故かトーンダウンした。
 彼のその態度とあわせ不思議に思ったヒカリは更に聞いた。

 「でも…妹さん、なんだか元気そうに見えるけど…??」

 …あぁ、それやったら…と応じつつ、視線で促すトウジ。その視線を
受けたアキナは、艶やかな黒髪を書き上げておでこの上部を露出させた。
 それまでは黒髪に覆われて気づかなかったが、そこには直径2センチ程
のガーゼが当ててあった。

 ただその際、思わずその様相に見入るシンジに対し、
 その視線に呼応して顔を真っ赤に染めたアキナが

 「何ジロジロ見てんだよっ」

 と、彼の鳩尾に捻りを加えたボディブローを叩き込む…という場面があった。
 耐えきれず膝から崩れ落ちていく彼の背中を見届けながらも、トウジとヒカリ
はリアクションするのが面倒くさいらしく、とりあえずその光景は無視された。

 「………ぐはぁっ

 「…。で、でも、見た目入院するほどの怪我には見えないけど?」

 「…。そ、そりゃそやろ。2〜3針縫っただけやからなぁ。傷跡が
残るとかの心配もないそーや」

 「じゃ、なんで入院したの?」

 「通院すんのと入院すんのんとじゃ、下りる保険金額がちゃうんや。
ここのセンセはおとんの知り合いやし、ちょろっと色のついた診断書
つくってもろてな…」

 「それっていわゆる保険金詐欺なんじゃ…

 「生活の知恵や。…こんなん、大阪行ったら日常茶飯事やで?」ウソです。

 「…。そ、それじゃ何故ここでナツミさんが…?」

 「ナツネェは生まれつき体が弱いんや。見舞いに来てくれたんはええけど
ここまで来た長旅の疲れでダウンしてしもうてなぁ。その日は丁度アキの退
院日やったし、入れ替わりでここに入院しとったっちゅーわけや」

 「な、なるほど…」

 「ふふっ…。わたしってドジで病弱なものだから、何時も周りに迷惑ばかり
かけてしまうんです♪」

 台詞の中身と相反し、悲壮感の欠片すらない満面の笑みを浮かべて
ナツミは言った。

 「ここに来るときも、ホントなら直通リニアで1時間位だったはずでした
のに…。わたしったら3日もかかってしまったんですよ♪」

 「みっ、三日ですか…?(…何故っ!?)

 あまりにも常軌を逸したその台詞に、思わず顔を引きつらせるヒカリ。
 しかし、それでもナツミはお気楽極楽な笑みのまま答えた。

 「…はい♪ わたしったらどうやら乗る電車を間違えてしまったみたいで…
気がついた時にはもう鹿児島でした♪」

 「で、でしたといわれても…(…方向じゃん?!)

 「…それで、慌てて乗り換えしたんですけどぉ、今度は寝過ごしてしまった
みたいで…起きたときにはもう網走でした♪」

 「…は、はぁ……(…ってゆーか乗り換えなしでそんな所までいけたっけっ?!)

 「…はい♪ そんなわけなので、新横須賀まで折り返した所で旅費が完全に
尽きてしまったんです。仕方なしに、そこから歩いて第3新東京(こちら)迄は
何とか来たんですが………ついに力尽きてしまって…………(T_T)」

 そこまで告白すると、流石(ようやく)に自分で自分が情けなくなってきたようである。
 トホホ…と溜息を漏らす彼女を見かね、その続きはトウジが繋いだ。

 「…。ナツネェが倒れとったんは、偶々この病院の真ん前だったんや。
せかやらそのままここに担ぎ込まれて、今現在にいたるっちゅーわけや。
しかしそれにしても、新横須賀からここまで歩くゆーたら、そら並大抵の
ことやないで? ホンマ、身体強いんか弱いんかもうワケわからんわ。
…何で誰かに連絡せーへんかったんや?」

 「…。そういえばそうね。…何で気づかなかったのかしら

 「………。」

 彼女のその無邪気な台詞に、思わず絶句する一同。彼女はそんな彼らを
嬉しそうに見据えながら続けて言った。

 「…でもわたし、結果的に運が良かったのかもしれません。そのおかげで、
こうしていろんな方々とお会いできましたし…」

 そう言って周囲に微笑み掛けるナツミ。彼女の視線を受けてそ意味を察知
したヒカリは、やや慌てた風に自己紹介を始めた。

 「あっ、あのあたしは洞木ヒカリっていいます。鈴原…君とは、クラスメイト
でしてぇ…」

 「ふふっ…可愛い娘ね♪ あなたもしかして、トウジ君の彼女?」

 「なっ?!…ち、違いますっっ
 「そっ、そうや!…突然何ワケわからんことを…っ!

 顔を真っ赤にしてユニゾンする二人に対し、ナツミは少しだけ
悪戯っぽい顔つきになって、更に言った。

 「あらあら …お姉さんはお似合いだと思うけどなぁ♪」

 「そっ、そんなことっ………」

 反射的に否定しかけるも、ヒカリはそれに続く言葉を言うことが出来なかった。
 無意識のうちに、その後の言葉を発することを憚ってしまったようである。
 言葉を失った彼女は苦し紛れにトウジを見やるも、彼はヒカリの視線を察知した
瞬間、顔を真っ赤にしたまま逃げるように顔を背けた。

 「あらまぁ…やっぱり二人は…

 「そっ、そーゆーナツネェはどーなんや? こないだおーた時も、ケンスケの事
ごっつ気に入ったとかってゆーとったやないか?!」

 「…えぇ。わたしケンスケ君のこと、好きよ

 …苦し紛れにに他ならないトウジの台詞だったが、ナツミはなんの臆面もなく
それを認めた。…その瞬間、アキナとシンジの顔が強ばったのとは実に対照的
に、彼女は満面の笑みを讃えている。
 その意外な反応にすっかり気圧されたトウジは、些かやけくそ気味な口調で
返した。

 「な、なら…そのケンスケが、わざわざナツネェに会いに来とるんやで?
…なんかゆーたることないんか?!」

 「あらまぁ…。そうなの?」

 少しだけ目を細めながら、穏やかな笑みを讃えてシンジを見据えるナツミ。
 その眼差しを受けた瞬間、シンジの心臓がビクリと撥ねた。
 彼女のその何か遠くの存在を見据えているかのような瞳が、相田ケンスケ
の風貌を繰り抜けシンジ本人に問いかけているような気がしたのである。

 「…!?(こっ、この人もしかして…)

 「…。ふふっ

 その衝撃故に彼女から目が離せなくなってしまったシンジと、そして
それを包み込むような笑みで迎えている彼女。二人は暫く無言で見つめ
あっていたが、丁度二人の間にいたトウジは、ついにその奇妙な雰囲気
に耐えられなくなったようである。

 「なんやぁ? 二人して妙な雰囲気醸し出しよって。そーゆーんは二人
だけの時にしといてんか!」

 「…。え??」
 「あらあら。…それもそうね

 しかし彼女は、トウジの冷やかしに対してもまるで動じた様子もなかった。
 にっこりと微笑みながら意味深な視線を送り続ける彼女に対し、シンジは
すっかり困惑しながらも相変わらず視線をそらせずにいた。そんな二人を
見てトウジはすっかりあきらめた様子の溜息をつき、その後ろではアキナが
あからさまにムッとした顔つきで二人を見据えていた。
 一人蚊帳の外にいたせいで、その不穏な気配をいち早く察知したヒカリは、
トウジ達の間に入って焦り気味に言った。

 「だっ、大夫時間も遅くなってきたし…あたし達そろそろ失礼しますねっ」

 ヒカリの台詞を予想していなかったシンジは意外そうな顔で彼女を振り
かえったが、その瞬間ヒカリの一睨みに返り討ちされ、慌てて頷いた。

 「…。そーかぁ。今日はわざわざすまんかったな」

 「い、いーのよ。…それより、明日は学校に来れるんでしょ?」

 「おう。ナツネェも今晩で退院やしな」

 「そう。…それじゃ、ちゃんと遅刻せずに来なさいよ?」

 「わーっとるわい。…ったく、何時もうるさいやっちゃのぉ…
 

 「…、なんですって!?」
 「………なんやぁ!?」
 

 …売り言葉に買い言葉で、所かまわずいつもの言い合いを始める二人。
 ここが教室であれば、二人の言い合いは少なくとも数分続いたであろう。
 しかし。今回は少し様子が違ったようである。
 

 「痴話喧嘩やな…
 「愛し合う二人は、熱いパトスをぶつけ合わさずにはいられないのね
 

 二人の背後から漏れてくるヒソヒソ話によって、取りあえずその言い合いは
打ち切りとなった。顔を真っ赤にしたヒカリに引き吊られながらシンジも退室し、
同じく顔をまっかにしたトウジも二人を下まで見送りに出ていった。…ナツミに
からかわれるのが、余程イヤだったのであろう。
 そして室内に二人きりとなったところで、アキナはそろりと隣のナツミに話し
かけた。

 「なっちゃん…一つきーていい?」

 「…。なぁに?」

 「さっき言ってたことさ…あれって本気?」

 「さっきって?」

 「だっ、だからぁ…そのぉ………バカケンスケのこと、好きだって…

 「…ああ、そのことね♪」

 「…。どーなんだよ??」

 「ふふっ…。もちろん、マジよ

 「…っ!? あ、あんな奴の何処がいーんだよっ?!」

 「そうねぇ。いろいろあるけど…一番のポイントは、やっぱりエキセントリック
なところかしら

 「………。『ものはいいよう』だな。それってようするに『変人』ってことだろ?
なっちゃんってば、そーゆー趣味なヒトだったわけ?」

 「ふふっ…それはどうかしらねぇ。…それよりも、アキナちゃんこそどうなの?
ケンスケ君の、どんなトコに”らぶらぶ”しちゃったのかしら♪」

 「あっ、あたしは別にあんな奴………」
 「あらあら♪ ダメよそんな事言ってちゃ。恋は、先に素直になった方の勝ちなんだ
から…特に、女の子はね。…ぐずぐずしてると、お姉さんが先に食べちゃうわよ

 「たっ、たべちゃうって………」

 ナツミのその台詞にポッと顔を真っ赤に染めるアキナ。小学生にしてその意味
を悟るとは相当なマセガキである。しかし、その知識を何処から得ているかとい
えば、それは先述の台詞から見てとれる通りなのであった。
 しかしその元凶たる彼女はそんなことなど気に留めることもなく、相変わらず
穏やかな笑みを讃え、窓の外のどこか遠くを見据えていた。

 

 「…ったく、ナツネェには困ったもんやで!」

 正面玄関までおりてきたところで、トウジは誰と無く吐き捨てた。
 その言い種から察するに、既に幾度と無く彼女にはからかわれ
続けていたようである。

 「あれで天下のトーダイ生ちゅーんやからな!」

 「へぇ…。それじゃ芦屋から第2東京まで通ってるの?」

 「いや。もともと春からはわしらの家に下宿する予定やったんや。
ロボット騒ぎのせいで、多少予定が狂ってしもたけどな……って、
どないしたんやイインチョ?」

 自分の台詞を聞いて不意に複雑そうな表情になったヒカリを見つけ、
彼は言った。ヒカリは一旦躊躇したが、次の瞬間には再び顔を上げて
言った。

 「何れ解ることだから先に言っておくけど…実はね、そのロボットの
パイロットだった子が、あたし達のクラスに転校してきているの…」

 「…なんやて?!」

 それを聞いた瞬間、トウジの顔色が一変した。明らかにこれまでと違う
憤怒の色を浮かべている。そしてその一方、二人の背後にいたシンジも
ハッとした顔つきになっていた。…どうやら彼はこの瞬間まで、本来の目
的である『地獄のパチキ』作戦をすっかり忘れていたようである。

 「鈴原…君。アキナちゃんのことで頭に来てるんでしょうけど、乱暴な
ことしちゃだめよ!?」

 「………。」

 「碇君だって…って、ああ、その転校生碇君ってゆーんだけどね…命がけで
あんなのに乗せられて、いろいろ大変だったみたいだし…」

 「…。幾ら命がけやったとしても、許せる事と許されへん事があるんや」

 「…鈴原君!?」

 「そないな顔せんでも、イインチョに迷惑掛けるよーなマネせーへんわぃ。
…、ほなな…」

 …それだけ言うと、トウジは一人で院内に帰っていってしまった。いつもは
明らかに違うその様相を不安げに見送るヒカリに対し、一方のシンジはホッ
とした顔つきになっていた。…トウジの妹、アキナが一応無事だった現世に
おいて、彼が何に対し憤怒しているのかは全くの謎である。しかし結果とし
て彼は現世の碇シンジに対し相当な恨みを持ったようであり、彼が手を下す
までも無く、作戦は順調な滑り出しを見せたことになったようだ。

 

 

 その後ヒカリと一緒に商店街で夕飯の買い物を済ませたシンジが、
相田家に帰って来たのは結局18時過ぎであった。

 「ごめんね遅くなって…直ぐ、夕飯の準備するから…」

 スーパーの袋をがさがさと揺らしながら、玄関を潜るシンジ。いつも
ならこのあたりでレイが迎えに出てくれるのだが、今日は何故か物音
一つ起きなかった。

 「…あれぇ? 綾波、いないのー??」

 キョロキョロと各部屋を見渡しながら、不安げに問いかけるシンジ。
 その中で唯一電気がついていたリビングを恐る恐る覗いてみると、
やはり彼女はそこにいた。…ただ、少し様子がおかしいようである。
 何故かお洒落な私服に着替えいるのだが、その姿をリビングの姿
見にうつしたまま、放心状態になっているようである。シンジが帰って
きたことにも、まるで気づいた気配はない。

 「あ、あのぅ…綾波、どうしたの??」
 「…っ!? い、碇くんっ?!」

 背後から突如声をかけられ、ビクリと反応するレイ。咄嗟に振り返り
そこにいたのがシンジだと認識すると、彼女は血相を変えてシンジに
詰め寄ってきた。

 「…な、なになに?!」
 「碇君っ、わたし、どう?!」

 突如間近に詰め寄られたシンジは顔を真っ赤にして動揺した。
 かつて見たこともないほどお洒落したレイが、それこそ口づけ
さえ交わせるほどの距離にいるのである。彼が慌てふためかな
いわけは無いのだが、残念ながら一方のレイにはその種の感覚
は全くないようである。ただ、何かを酷く危惧しているような、不安
げな顔つきに見える。
 

 「…ど、どうって…?」

 「だからっ! 今のわたしを見て、どう感じる?!」

 その言い種を聞いて、シンジはなにかピンと来るものがあったようである。
 次の瞬間、彼は自らの思いつきに赤面しながらも、勇気を出していった。

 「かっ、かか、かわいいよ…」

 「…あっ!?…あ、あ、ありがと…」

 一瞬意味が分からずポカンとした顔つきになるも、次第に状況が呑めてきた
ようで、レイの顔が一気に赤く染まった。それまでの勢いはどこへやら、二人の
間に奇妙な雰囲気が形成されるに至った。

 「…………」(シンジ)

 「…………」(レ イ)

 「…………」(シンジ)

 「………… って、そうじゃないのよっっ」(レ イ)

 「…。じゃあ何?」(シンジ)

 次の瞬間、突如我に返ったレイに対し、不機嫌そうに聞き返すシンジ。
 しかしそんなことは気にも留めず、レイは更に勢いを増していった。

 「だからっ…今朝と比べてわたし……ふっ…ふふ、太ってないっ?!」

 「…。え??」

 予想外の台詞にポカンとなるも、鬼気迫る表情のレイに気圧されて、彼は
言われるままにレイの肢体を上なら下まで眺めてみた。

 「…どうなの?!」

 「…。う〜ん…そんなこといわれても、わかんないよ…」

 相変わらず朴念人な彼は、見たままの感想をいった。今朝と変わらない
様に見えるなら否定してあげればよいものを、彼は極めてまじめに観察し、
そして極めてまじめな顔をしてそう答えたのだった。

 「………。そ、そう…。よ、よかったわ、ね…」

 彼のその態度から結果を察したのであろう。その途端、一気に顔色を悪化
させたレイは、フラフラとリビングを出て行こうとした。

 「…あ、綾波? 急にどーしたのさ?」

 「なんでも、ないわ………」

 「…そう。直ぐに夕飯の準備するから、ちょっと待っててね」

 「………。わたし、夕飯いらないから」

 「…えぇ!?」

 「ごめんなさい…あんまり、食欲ないから……」

 「大丈夫? …ここんとこ毎日そうみたいだけど…」

 「…えぇ。問題、無いわ……」

 「…。そう。わかったよ。綾波が最近食欲無いみたいだから、今日は
綾波の大好きな『ニンニクたっぷりのペペロンチーノスパゲッティ』にしよ
うと思ったんだけど……」

 「碇君…」

 …シンジの、自分に対する思慮の深さを知って、思わず涙ぐむレイ。
 肩が震えていることから、何か葛藤を抱えているご様子であったが、
しかし結局彼女がシンジを振り返ることはなかった。

 「あ、あの…綾波…?」

 「…。ごめんなさい碇君! わたしがわたしでいる為には、ここで振り
返るわけにはいけないのよ! …ああっ、わたしって、なんて業の深い
女なのかしら…シクシク」

 突如訳の分からないことを酔った様子で叫びながら、結局彼女は何処
か他の部屋に引き込もってしまった。

 そして一時間後。

 彼女の意味不明な行動と言動に戸惑いながらも、結局自分の腹がへって
いるシンジはパスタを一人前だけつくって食べていた。

 そして更に十分後。

 その香りにつられてきたのであろう。気まずそうな顔をしながら、部屋を
出たレイがそろりとダイニングに現れた。

 「あっ、あまいものは別腹だから…も、問題ないわ…」

 「………??」

 

 

※芦屋…兵庫県芦屋市。関西屈指の高級住宅街。ここの奥サマは概ね関西弁を喋らない…という噂が。


 <Cパート後編に続く>


 淡乃祐騎さんから連載作品の続きを頂いてしまいました。

 芦屋のお嬢様‥‥なんだかすっとんだ性格のようですな‥‥。
 リニアで日本の反対側に出かけたり、果ては新横須賀から歩いてきたり‥‥と。

 並のヒトではありません。ケンスケのことをエキセントリックと呼称していますが、彼女も相当なモノです‥‥(笑)

 並じゃないといえば‥‥彼女、元シンジの正体を見抜いたのでしょうか?
 ‥‥なにやら妖しい視線を向けてましたし‥‥
 まぁそんなことはないと思いますが〜

 それにしてもケンスケって結構恵まれていたのですね‥‥ちょっとロリだけど美少女のアキナとかトウジの従姉妹でボケ美人のナツミさんとか‥‥。
 性格や行動に難があることを除けばかなりいいと思ったのですが、これでシンジと立場を交換したいと思うとは‥‥。わかりませんねケンスケの考えることは!

 なかなか素敵なお話でありました。

 次回、ついにシンジ(元ケンスケ)に鉄拳が!?
 もういただいているので早めに公開できると思います。しばしお待ちください‥‥。

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