NEON GENESIS EVANGELION "K≠S"・・・第二話「対峙_B」
 ※このお話は"K"君の新たな魅力を模索するためのものであり、決して彼を奈落の底に突き落とすための
ものではありません。ご了承ください。
 

筆者:淡乃祐騎さん


 「え〜…その時私は家に遊びに来た彼女に目薬入りのコーラを飲ませまして…」

 

 …つつがなく進む授業。相変わらず老教師は昔話に没頭しており、
多くの生徒は居眠りやおしゃべりに興じている。

 …そんな中で、唯一相田ケンスケ(exシンジ)だけが先程からやけに
そわそわとして周囲を見渡している。何気なく教室全体を見渡している
振りをしているが、その実彼が注視しているのは二人の生徒のみである。

 まず一人目。綾波レイに関してだが、彼女は授業中ずっと窓の外に目
をやっており、幾ら彼が熱い視線を送っても一向に目線が合わなかった。
 そしてもう一人。碇シンジに関しては、逆にあちらから熱い視線を浴び
せられ続けており、彼が必要以上にそわそわしているのは、実はその
せいなのであった。何せ、周囲に視線を配ると、必ず彼と視線が合うのである。

 今彼は、どこかで見覚えのある”肘を立て、顔の前で掌を組む”ポーズ
をとっており、そしてシンジと目が合う度に、彼にしか解らないようニヤリ
とほくそ笑んでみせていた。…その度にいちいちとビクつくシンジの反応を
みて、楽しんでいるらしい。

 それら一連の挙動から、シンジは彼の正体が予想通りであったことを確信した。

 『うぅっ…間違いない。やっぱり”あの僕”はケンスケなんだ…僕があの
姿勢にトラウマがあることを知ってて、わざとやってるに違いないんだ…』

 すっかり青ざめた顔になりそんなことを考えていると、不意に彼の端末に
チャットメッセージ受信のコールサインが示された。…反射的に彼は回線を
開けるが、すると画面上には、何と以下の如きメッセージが送信されてきた。
 

 ※※※相田ぁ!…あんたこないだの水泳の時間、また
女子更衣室を盗撮してたって本当!? [Y/N] ※※※
 

 『ひいぃっ…な、何だこのメッセージはっ』

 咄嗟に周囲を見渡すシンジ。すると教室の後ろの方で、彼を刺すような目つきで
睨んでいる女子の一団が見つかった。彼女らはシンジが自分たちに気づいたのを
悟ると、更にきつい目で彼を睨みつけながら、新たなメッセージを打ち込み始めた。
 

 ※※※ホントなんでしょ!?…嘘つくと血ぃ見るわよっ!? [Y/N] ※※※
 

 『うぅっ…これじゃどっちを選択しても血ぃ見る結果になるんじゃあ…』

 全く身に覚えのない罪を被せられ、プルブルと震え出すシンジ。そんな彼が
[Y/N]のどちらか選択出来よう筈もなかった。…しかし。次の瞬間、彼は何もして
いないのにも関わらず何故か勝手に【Y】が選択され、チャットに送信されてしまった。

 『…え!?…な、なんだよこれっ!?』

 更に戸惑うシンジ。そしてそのメッセージが送信された瞬間、彼は突如教室全体の
雰囲気がガラリと豹変するのを察知した。生存本能とでも言うべき不可思議な勘が働き、
彼は恐る恐る周囲を見渡してみた。…すると、何と彼はいつの間にかクラスの女生徒
全員から、今にも光線を発射しかねない凄まじい目つきで睨みつけらていたのである!
 この瞬間、ようやくと彼は、それまでのやりとりが何故かクラスの女子全員に読まれていた
ことを認識した。

 『ひぃぃぃぃ!…な、何故こんな事にっ!?』

 かつて体験した事のない種の恐怖に、彼の頭は完全にパニック状態である。しかし、
そんな彼をあざ笑うが如く、事態は更に悪化していく。…彼は全くキーボードには触れて
いないのにも関わらず、再び彼の端末が勝手に作動してメッセージを入力し始めたのである。
 

 ※※※ケケケッ…テメーらの貧乳は全てこの相田ケンスケ様
もれなく撮影してやったぜ!…テメーらの人数分、きっちりとダビング
してあるからよぉ…返して欲しけりゃ、一人壱万円用意しな!!※※※
 

 『いっ、いやあぁぁぁぁぁっ………byシンジ)

 どうやら彼の端末は何者かにクラッキングされているようである。
 そこから誰かにリモート操作されているのであろう。
 …心の悲鳴を上げながら、犯人を見いだすためもはや恥も外聞もなく
必死の形相で周囲を見渡す彼。…やがて彼の目に留まったのは、やはり
”あの碇シンジ”であった。

 『碇シンジ』のほうも彼の視線に気づいたようである。『碇シンジ』は
彼に向け明らかにそれと解る嘲笑を浮かべて見せた。その瞬間、彼はそれ
迄のクラッキングが彼の仕業であることを理解した。思わず彼を睨み付ける
も、『碇シンジ』は軽薄な嘲笑を讃えたままそれを受け流し、次いで自らの
端末のリターンキーを押した。
 カチリという小気味よい音が鳴り、そして次の瞬間…シンジの端末に入力
されていたメッセージは、つつがなく女子全員の端末に送信された。

 『……あっ!?』

 …その瞬間…彼を取り巻いていた不穏
な気配は、明確な殺意へと変貌を遂げた。

 その圧倒的な腫気にやられ、たまらず彼が昏倒しかけた次の
瞬間…授業時間終了を告げるチャイムが校舎中に鳴り響いた。

 

 …その直後の事象に関しては、彼自身の混乱もあってか、
かなり不鮮明な情景の記憶しか残されてはいなかった。

 彼は今、何故か『碇シンジ』と二人だけで屋上に来ていた。
 三人目のレイにあれほど接触を避けるよう言われたのに
も関わらず…である。

 ただ、彼は『碇シンジ』に助けられたのであろうことだけは、
何となしに理解していた。
 あれだけのことがあったのだ。あの場に留まっていれば、
彼は恐らく大変な目に遭わされていたはずだったからである。

 …例えそれが、目の前の彼の仕業だったとしても…。

 「二人きりで話をするためには、ああするのが
てっとり早いと思ったんだ。…さっきは悪かったな」

 「…………。」

 …彼に背を向けたままクールな口調で話す『碇シンジ』。それに対し、
シンジは3人目のレイとした約束もあってか、沈黙を保った。…しかし、
隠し切れぬ怒りのせいか、彼の身体は先程からブルブルと震えている。
 …あれだけのことをされれば、当然のことである。

 しかしその一方、『碇シンジ』の言い種は、『出来る限り接触は避ける』
というシンジの姿勢を、『既に見越していた』と暗に臭わすものでもあった。
 …そしてそれを知っていると言うことは、シンジが今後どのような行動に
出るかについても予測している(かもしれない)という事である。
 否応なく警戒を強めた彼は、怒りを胸に沈め、とりあえず様子
を見ることにしたようだ。

 …しかし。そんな彼を振り返り、『碇シンジ』はそんな彼の心情すら
見透かしているかの如く、優越感を纏わせた笑みを浮かべて、言った。

 「…。それはそうと、ずいぶん久しぶりだな……シンジ

 …そのままズバリである。彼には様子見の間すら与えないと
いう意思の表れか、『碇シンジ』はいきなり核心を突いてきた。

 「こういう状況になって、もうどれ位経ったのか…。俺の身体
にも、そろそろ慣れてきた頃なんじゃないか?」

 「(…!?)い、碇君…君が何を言ってるのか、よく解らないんだけど…」

 「…。ふ〜ん…やっぱりそうくるわけか…」

 …彼を振り返り、ニヤリとほくそ笑む『碇シンジ』。…何かを含んだ
物言いであることを隠そうともしない、あからさまな含み笑いである。

 「それじゃこれから俺が言うことは、ただの独り言
だと思って聞き流してくれよ。相田ケンスケ君…」

 「…………。」

 「…。おれは、誰が何と言おうとも、サードチルドレンの座はおりないぜ」

 「………!」

 「何でこうなったかなんて、俺にはわからないけどさ…。
 でも、おまえにゃ悪いが、今の生活は俺がかつて夢にまで
見た生活そのものなんだ。…譲る気は毛頭ない」

 「…。怖くないの…エヴァに乗ることが…

 「ふっ…ようやく認めたか…。…怖い事なんて何もないさ。おまえ
だって、もう知ってるんじゃないのか?…おれが、全部知ってるって事」

 「…………。」

 「既に攻略したゲームを、やり直してるみたいなもんだからな…。
ま、その意味じゃ前任者のおまえにも、感謝しているよ」

 …それはあまりにも軽薄な口調であった。…その態度に、思わずムッとなるシンジ。

 「まっ、今後地球の平和は俺に任しといて、おまえはのんびりと
パンピーライフをエンジョイしてくれよ…って、その顔じゃそれも難しいか…」

 …そのあまりの言い種に、思わずムムッとなるシンジ。

 「…まっそんな心配するなよ。3次元の世界で全くモテないのが辛かったら、
2次元の世界に逃避すれば良いんだよ。かつての俺みたいにな。…そのかわり、
ハマり過ぎには気をつけろよ。社会復帰できなくなるからな…」

 『そこまでかつての自分をけなして、空しくないのかな』…と思いつつも、
今は紛れもなく自分を指してのことなので、更にムムムッとなるシンジ。

 「俺はこれから、3次元の女性達と存分に楽しませて貰うからさ…アスカレイ
ヒカリマナマユミミサトさんマヤさんリツコさんも…って、これだけいると
一日一人を週間ローテーションでマワしたとしても一人余っちゃうなぁ〜〜〜♪
…これってまさに、イヤーンな感じ?

 …恐らく、あらゆる属性の方々を敵に回したであろうその言語
道断な台詞を吐いた瞬間、ついにシンジの理性が事切れた。

 「こっ…このやろう…ふざけんじゃねーぞてめ〜!!!…僕の顔して、
その脇役臭い台詞をゆ〜な〜ああぁぁっっ!!!」

 …ついに壊れたシンジ。もはや前後の見境を失い、
猪突猛進するその様は正に鬼神の如きである。
 しかし。次の瞬間、彼は何か『柔らかい壁』に弾かれ、
もんどりをうって倒れた。

 「……何!?」

 …咄嗟のことで何が起きたのか理解できなかったシンジは、
何事かと顔を上げた。…するとそこには、いつの間にか第壱中学
の女子生徒が十数名立ちはだかっていた。みな一様に『シンちゃん命♪』
とかかれた白鉢巻を掛けており、それぞれほうきやモップなどを手にしている。

 …そう。彼女たちは皆、第壱中学の女子生徒によって
構成された『碇シンジ親衛隊』の隊員達であった。

 シンジ本来の中性的な可愛らしい顔立ちと、相田ケンスケの巧みな話術。
 そしてエヴァのエースパイロットというステイタスをも得た『碇シンジ』は、
この世界に於いて彼女たちのような『親衛隊』をも組織させてしまう程の
スーパーアイドルと化していたのである!

 「相田ぁ!…あんた、自分のしたことを棚に上げて
碇君に手をあげようたぁ、良い度胸してるじゃない…」

 …彼女らの中の一人、リーダーらしき少女が一歩前に
出て言った。問答無用の、徹底的な敵意の目つきである。

 『……????』

 そんな組織が存在することなど知る由もないシンジは
キョトンとした顔になって彼女らを見上げていた。しかし、
その彼の罪を意識させない無垢な顔つきが、却って火に
油を注ぐ結果となった。
 

 「……。かまいませんね?」

 …胸裏に滾る狂おしい程の怒りを抑えながら、静かに問いかけるリーダー格の少女。
 それを聞いた『碇シンジ』は、口元を歪め凄みのある嘲笑を浮かべて、命じた。

 「問題ない…。ぞんぶんりやりたまえ…親衛隊の諸君」

 …彼のその言葉を聞いた瞬間、少女達の目がギラリと光った。

 「シンジ様のお許しが出た。…あんた達、この盗撮魔をヤッておしまい!

 号令とともに、歓喜の声を上げて一斉に彼へ襲いかかる少女達。
 …その表情は酷虐の悦びに歪んでいる。

 『あわわわわわ…

 訳の分からぬまま生命の危機を察知した彼は、本能的に逃げだそう
と試みた。…しかし。結局彼は一瞬にして囲まれてしまい……………

 数分後には、掃除用具攻撃によって徹底的にシバキあげられ『ズタズタな
ポロ雑巾』と化した彼の肢体だけが、ポツリとそこに取り残されていた。

 一見、もはやその意識はないものと推定された彼だったが…唯一、彼の
その目は、未だ死んではいなかった。…いや、寧ろ爛々とした意志の輝き
すら放っていたのである。

 それまでの彼は、幾ら身体を取り戻すためとはいえ、かつての親友を欺く
事に幾ばくかの罪悪感を覚えていた。…しかし。今日、そのかつての親友に
ここまでされたことにより、ついに彼は心の底から決意したのである。

 『サードチルドレンの座は、あんな野郎に決して渡さない!』…と、いうことを。

 「オロしてやる…オロしてやる…オロしてやる…オロしてやる…オロしてやる…

 何やら呪詛めいたことを呟きながら、もはや気力のみでその場を這い出したシンジ。

 しかし、彼がようやくと屋上階段を下りたところで、その不幸な出来事は起きた。

 「オロしてやる…オロしてやる…オロしてやる…って、ふぎゃっ!?」

 まるでしっぽを踏まれた猫のような声色を突如叫んだ彼。…何とその
通り、懸命に這っていた彼の背中を、誰かが踏んづけていったのである。

 「………あら。ごめんなさい」

 …そして次の瞬間…彼の耳をかすめたのは、聞き覚えのある少女の声色であった。
 まるで用意された台詞を棒読みしているかの如く、抑揚のないその冷淡な口調…。
 まさかと思いつつも彼が顔を上げると、そこには蒼い髪をした、あの少女がいた。

 「…あっ…あやなみぃ…

 「…そこにいたの、きづかなかったわ。…だってあなた、存在感が薄すぎるもの…」

 その無垢な表情からは到底想像できない、悪意に満ちた台詞を綴る
二人目の綾波レイ。彼女は、その言葉を浴びて呆然としているシンジに
一瞥をくれると、さっさとその場を後にしていった。
 

 「サヨナラ……」

 かつてもう二度といわないと約束したはずのその台詞を残し、去っていく彼女。
 しかしシンジは見逃さなかった。…その台詞を言う瞬間、彼女が口元を歪め嘲笑
を浮かべていた事実を…。今のは、彼女が明らかに故意でやった、巧妙な復讐だった
のである。

 どうやら彼女は、一見無関心そうな顔をしておきながら、先程のチャットを
しっかりと読んでいたようである。本来、彼女自身は他の女子生徒と違って裸を
見られること自体にはさほどの感慨もなかったはずであった。しかし、彼が打った
(と、彼女も思っている)メッセージの中で、『2−A』の女子に偶々共通する
身体的特徴について指摘されていることが、彼女の逆鱗に触れてしまった
のであった。…彼女の中でそこは、かなり気になるウィークポイントとして
認識されていたようである。

 「…む、惨すぎる…これが、脇役の扱いというものなのか…うぅっ…

 仲良くなるどころか、すっかり嫌われてしまったらしいシンジ。溢れ出る涙によって
もはや何も見えなくなってしまった彼は、ついにその場から一歩も動けなくなった。

 …しかし。彼の闘いは、まだ始まったばかりである…。

 


 <次回予告>

 堂々と「主役乗っ取り」宣言をされてしまったシンジ。
 しかし元の身体を取り戻すため、何としてもサードチルドレンの座を奪回しな
くてはならない彼は、またしてもレイ(三人目)に唆されて、ある奸計を企てた。

 『鈴原のダンナ…やっちゃってください!

 [EVA K≠S] 次回…『ナツミ』
 この次も、イヤーンな感じ!

第三話へ


 

 淡乃祐騎さんからまたまた続きをいただきました。

 

 う‥‥Aパートの冒頭で少しは元シンジにもいい目がありそうだなと思ったら‥‥。  
 やはり、ケンスケが絡むと‥‥碌なことにならんですね‥‥。

 

 妙にシンジが脇役臭くなってきたような気もしますです。  
 このシンジって、なんだか元々ケンスケと中身が似てましたですし‥‥腹黒さとか性格の悪さとかでは一歩も二歩も劣るだけで‥‥。  

 ‥‥‥‥。

 

 なんだか希望がもてなくなってきましたねぇ(^^;;  
 しかし、まだ諦めてはいけないでしょう(たぶん)  
 続きに期待していきましょう‥‥。

 

 なかなか高度な電波小説でした。  
 読後にぜひ山下さんへの感想をお願いします〜。

     

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