サードインパクトの発動。そしてその結果全てが一つに束ねられ
た世界の狭間で、碇シンジは綾波レイと躰を重ね合わせていた。

 「碇君。あなたは何を願うの…?」

 全てを癒すかのよう、穏やかな微笑みを浮かべて彼女は問う。

 「……。やり直したい…」

 「ここはあなたの心が作り出した世界。あなたが望めば、ヒトは再び
心の壁によって引き裂かれるわ…。また、他人の恐怖が始まるのよ…」

 「…。いいんだ…」

 彼は穏やかに微笑んだ。…静かに、力強く。

 「全て幻想だったんだ…ヒト同士が完全に分かり合える事なんてあり
えないんだ…いつか裏切られる脆弱な心の祈りでしかないんだ…でも…
もう一度会いたいというこのきもちだけは、真実だと思うから…」

 「…。わかったわ…あなたの望むように、あなたを”あの時”に
還してあげる」

 「…。ありがとう…綾波…」

 「……。さぁ、イメージして…全てが始まる、あの時のことを…」

 慈愛に満ちた彼女の微笑みに委ねられるまま、碇シンジはゆっくり
と目を閉じた。そして、薄れゆく意識の中で思った。

 『…もう一度やりなおすんだ…今度こそ、全てを受け止めるために…』

 


 NEON GENESIS EVANGERION "K≠S"・・・序章  

筆者:淡乃祐騎さん


 

 ……カァ……カァ……カァ……

 『………』

 浅い仮眠から覚めたように、少年はけだるさを残しゆっくりと目を開けた。
 周囲の情景を見渡しながら、脳裏の残された微かな記憶の糸を辿ってゆく。
 まず咄嗟に浮かんだのは、神秘的な静寂に包まれた、赤い海。そして、幻
想的な青い髪の少女と、その穏やかな微笑みであった。

 『…a…ya…na…mi…??

 微かな記憶の断片を辿り、脳裏に浮かんだ言葉を綴ってみる。するとその瞬
間突如記憶のフラッシュバックが生じ、そして彼は全てを思いだしたのであった。

 「…。そうか。戻ってきたんだ…本当に…。でも…」

 …ここは何処だろう。と、もう一度彼は周囲に気を配る。そしてまず彼が認識
したのは、自分がどこかのベットではなく、狭苦しい寝袋の中で横になっていた
ことであった。そしてその状況に見合うべく、彼がいたのは、どうやら室内でなく、
野外用のテントらしき中であったことを理解した。

 「……思い出せない。ここは一体…って、こ、この格好はなに??」

 状況をいまいち理解出来ないまま、少年は寝袋から這い出そうとした。しかし、
その刹那目に入った自分の服装をみて、思わず固まってしまう。…何故か彼は
何となく、微かに見覚えのある迷彩色の軍服らしきモノを着込んでいたのである。

 「何で僕はこんな格好を…って、こ、この物体はなに??」

 次いで自分の枕元にあった厳つい黒い物体を発見し、彼は更に驚愕した。
 それは、本物そっくりにつくられた、小銃タイプのモデルガンだったのである。

 屋外テント。迷彩服。モデルガン。自分を取り巻くこれらのキーワード
から今の彼が導き出したのは、彼のかつての親友であった。

 「…。これって多分…みんなあいつの…だよね。…と、いうことは……」

 彼は飛び起きて、テントの外に出てみた。するとそこは、夕暮れの斜陽
に照らされた、広大な草原の只中であった。他に人影はなく、唯一どこか
らか届けられる風の音と、カラスの鳴き声以外は何もない場所…。

 「…。見覚えがある。これって多分…ミサトさんから逃げ出して…偶然
あいつに会った場所だ…。でも……あいつはどこにいるんだろう……」

 彼は再度周囲を見渡した。しかし、彼以外の人影は何処にも見あたらない。

 『…。なんか、へんだな…』

 暫しその場で思案にくれていたが、結局外には現状を知る手がかりになるよ
うなモノは出てこなかったようである。程なくして、彼は再びテントの中に戻った。

 テントの中で、他の装備品らしきモノが詰まったリュックを見つけた彼は、
それを漁ってみた。次から次へと出てくる怪しげなサバイバルグッズに思
わず冷や汗を流しながらも、彼はその中に学校の生徒手帳を発見した。

 何下に手に取り、開いてみる。すると、やはりそこには、かつての親友
の顔写真と彼の身元を証明する記述があった。それにより自分の検証
がある程度合っていたことを悟り少年はほっとするが、ふと表紙カバー
の部分に不自然な出っ張りがある事に気がついた。…何だろうと彼がそ
こをめくってみると、そこには掌サイズの小さな手鏡が収納されていた。

 「鏡?…なんか、あいつらしくないアイテムだな…」

 本人が聞いたら恐らく憤慨するであろう事を呟きつつ、彼は鏡を覗い
てみた。すると………。

 「………っ!?」

 鏡に映ったモノを見た瞬間、少年は驚愕に目を見開き思わず鏡を裏側
に向けてしまった。次いでものすごい勢いで自分の背後を振り返り、周囲
を見渡してみる。…しかし、幾ら見渡そうともそこには”自分”しかおらず、
それを認識すると少年の身体はガタガタと震えだした。

 「…い、今のはまっまさか…で、でもそんなこと、あるわけが…」

 異様に高ぶり始める動悸。全身から血の気がひき思わず気を失いかけ
るも、辛うじて踏みとどまり、再び手鏡を捲ろうとする。しかし、余程先程の
事象が恐ろしかったのか、どうしても四肢の震えが止まらず、思うように手
が動かないようだった。

 『にっ…逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ………』

 図らずも飛び出す恒例のまじないを念じながら、少年は恐る恐る手
鏡を捲ってゆく。そして、再び写しだされた紛れもない”自分の姿”を
認識した瞬間、あまりのショック故か彼の瞳の瞳孔がキュッと縮まった。

 「…うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!! …ケ、ケンスケになってるぅぅぅぅ!!!

 そして彼の手元から滑り落ちた、生徒手帳と手鏡。手帳に張られた顔写真と、
違う角度から鏡に映し出された、絶叫する少年。表情こそ違えど、二つの顔は
明らかに同一人物のモノであった…。

 

つづく


 <次回予告>

 何の手違いか…よりにもよって、エヴァ史上最悪のキャラに転生してしまったシンジ。
 絶望し、生きる気力さえ失ってしまう彼の元に、一人の少女が手をさしのべる……。
 [EVA K≠S] 次回…『再会』
 この次も、イヤーンな感じ!

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 淡乃祐騎さんからエヴァ小説をいただきました。

 EoE後のストーリは数多くありましたが‥‥。かつて、これほどまでにシンジに重い十字架を負わせた物語があったでしょうか?(爆)

 よりにもよってケンスケに転生するシンジとは‥‥

 続きも‥‥楽しみですね‥‥(汗)

 と、とにかくお待ちしてます。‥‥いやほんとに凄い作品です。

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